スジゲンゴロウ (Hydaticus satoi [ 8] または Prodaticus satoi )は、コウチュウ目 ゲンゴロウ科 ゲンゴロウ亜科 シマゲンゴロウ属 の水生昆虫 。
インド から東南アジア [ 10] 、中国 などに生息している。かつては日本 でも本州 (関東地方 )以西の平野部で普通に見られる種だったが、高度経済成長 に伴う生息環境破壊により日本国内からは急速に姿を消し、2012年の第4次環境省レッドリスト 改訂で絶滅 種 に選定されている[ 注 2] 。
形態
体型はやや長めの卵型で体長12 - 14.5 mm 、もしくは12 - 15 mm。背面はやや盛り上がり、大部分が光沢を伴う黒色だが、頭部前半・前胸背両側は黄色く[ 注 3] 、一様に小さい点刻がある。上翅両側には前胸背両側から連続して黄色 - 黄褐色の縦条(筋)2本があり、中央よりやや後方で2本が合流して後翅端付近まで伸びている[ 注 4] 。腹面・脚は赤褐色。
本種が属するシマゲンゴロウ属 Hydaticus Leach, 1817 は世界中にて約100種(うち日本産は本種を含め8種)が記録されており、同属のシマゲンゴロウ H. bowringii Clark, 1864 は前胸背のほぼ全体が黄色く(後縁は黒色)、上翅基部に1対の黄褐色紋がある。また屋久島 以南の南西諸島 に分布するオキナワスジゲンゴロウ H. vittatus (Fabricius , 1775) は上翅両側の2縦条が中央前方[ 注 5] で合一する点で区別できる。
分類
本種はITIS では Hydaticus satoi Wewalka, 1975 として掲載されており[ 8] 、森・北山 (2002) および中島・林・石田・北野 (2020) でもそれぞれ Hydaticus 属として掲載されているが、2009年には遺伝子の解析結果から Hydaticus 属を含むシマゲンゴロウ族 Hydaticini を Hydaticus 属と Prodaticus 属の2属へ再編成する学説が提唱されている[ 14] 。一方でNilsson & Hájek (2020) では Hydaticini 族を Hydaticus 属のみとし、Prodaticus は亜属とされている。
環境省 では本種を絶滅種として掲載した第4次レッドリスト(2012年)より本種の学名を Hydaticus satoi から Prodaticus satoi に変更しており、2020年版レッドリストでも本種を Prodaticus satoi 、同属のオキナワスジゲンゴロウ(絶滅危惧II類)およびシマゲンゴロウ(準絶滅危惧)に関してもそれぞれ Prodaticus vittatus 、Prodaticus bowringii として掲載している。
分布
南方系の種で、日本 では主に関東地方以西の太平洋 側に生息していた。国内では本州(関東以西)[ 注 6] ・四国 ・九州 ・南西諸島 (トカラ列島 中之島 )で記録されていた。基準標本の産地は雲仙岳 。
日本国外では朝鮮半島 ・中国 ・台湾 ・東南アジア [ 注 7] ・インド 北東部に分布する。また別亜種 H. satoi dhofarensis Pederzani, 2003[ 21] はアラビア半島 オマーン から新たに記載された[ 22] 。
生態
平野部 - 丘陵地の池沼 ・湿地 ・水田 ・休耕田 に生息していた。生息に適した水域は比較的浅く、1年じゅう水が涸れず、水生植物が豊富で大型魚類・アメリカザリガニ がいない環境とされる[ 24] 。
生態は解明が不十分だが、成虫 ・幼虫 とも小動物を捕食する[ 24] 。成虫は水中で生活する肉食性昆虫で、灯火にも飛来し1年じゅう見られる。野生個体は5月上旬ごろから交尾 を行うが、9月上旬にも交尾した記録がある。交尾時間は約1分間で、オス成虫はメス成虫の背中に前脚吸盤で貼り付いて交尾する。交尾後、メス成虫は6月中旬 - 7月中旬にかけて水生植物・固形物の表面[ 注 8] に産卵 する。メス成虫1頭が1シーズンに産卵する数は12 - 17個と考えられているが、これは1シーズンにメス1頭が約50個産卵するとされる同属のオオイチモンジシマゲンゴロウ Hydaticus pacificus conspersus Regimbart, 1899 に比べてかなり少ない。
卵は5 - 6日程度で孵化する。幼虫も成虫と同じく水中で生活する肉食性昆虫で、ユスリカ の幼虫(アカムシ)やカゲロウ ・カワゲラ の幼虫、ワラジムシ目 のミズムシ など、成長に応じて自身の体長に見合った水生小動物を捕食する。幼虫は2回脱皮し[ 注 9] 、終齢幼虫(3齢幼虫)は夏季に上陸[ 注 10] して岸辺の土中で蛹化する。蛹 は土中の蛹室内で羽化し[ 注 11] 、産卵 - 新成虫の蛹室脱出までに要する期間は約35 - 36日である。
日本での保全状況
かつては平野部で普通に見られる種だったとされ、1950年代以前に採集された標本 が多数残っているが[ 注 12] 、高度経済成長 期の生息環境破壊で姿を消し、1970年代以降は明確な記録がない[ 注 13] 。環境省レッドリスト では2000年・2007年の改訂にて絶滅危惧I類(CR+EN)に選定され、2012年の改訂(第4次レッドリスト)[ 注 14] で絶滅種として選定された [ 注 2] 。
急激な絶滅の要因には不明点が多いが、平野部に偏って分布する種だったため、生息地の消失・改変(宅地開発・水田の圃場整備 ・農法変化など)や1960年代の強力な農薬 の大量散布、街灯設置などによる影響を強く受けたことが考えられる。特に農薬に対する感受性が非常に高かった可能性[ 注 15] やメタ個体群 構造の崩壊が急激な絶滅の要因として指摘されている。
石川県ふれあい昆虫館 (石川県 白山市 )は海外産の本種個体を用いた人工繁殖に成功し[ 注 16] 、2017年11月11日から日本国内初となる生体展示を実施している[ 37] 。
脚注
注釈
出典
参考文献
関連項目
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