スイユ出版社 (スイユしゅっぱんしゃ、フランス語 : Éditions du Seuil )は、1935年 に創設されたフランス の出版社 。主に文学 書、人文科学 書、社会科学 書を出版している。『エスプリ 』誌、『テル・ケル 』誌や永遠の作家叢書、地中海叢書などを刊行するほか、フランシス・ジャンソン 、カテブ・ヤシーン 、レオポール・セダール・サンゴール 、ジェルメーヌ・ティヨン 、ジャック・ラカン 、ピエール・ブルデュー らの著書は、そのほとんどがスイユ社から出版された。
歴史
創設 - 戦間期のカトリック知識人の拠点
スイユ出版社は、1935年11月、パリ 14区 パルク・ド・モンスーリ通り (フランス語版 ) (モンスーリ公園通り)23番地の自宅で広告代理店 を営んでいたスウェーデン 出身のアンリ・シェーベリ(Henri Sjöberg)によって創設された[ 1] [ 2] [ 注 1] 。シェーベリがこのとき刊行したのは自作の詩集『輪舞曲』と戦間期 に活躍したカトリック 知識人 プラクヴァン神父 (フランス語版 ) の『子どものためのキリスト教 生活の手引き』の2冊であった[ 6] [ 7] 。
シャルル・マルヴィル (フランス語版 ) によるポワトヴァン通りの写真(1853-70年頃)
フランス語 で「敷居 」を意味する « seuil » を社名にしたのは、まだ作品を発表したことのない若手の作家が著名な作家との間にある「敷居を跨ぐ」ことができるように、彼らの作品を積極的に紹介しようという意図であった[ 2] 。
シェーベリは創設2年後の1937年に病に倒れ、プラクヴァン神父に紹介された2人のカトリック教徒に出版社の経営を委ねた。宝石 商のポール・フラマン (フランス語版 ) と陶器 商のジャン・バルデ (フランス語版 ) であり、2人は合資会社 を設立し、パリ6区 ポワトヴァン通り (フランス語版 ) 1番地のアパートに編集部を置いて、同じカトリックの知識人の書籍を年に数冊刊行する程度の小規模な活動を行った[ 1] [ 2] 。
第二次大戦 中は2人とも出征し、出版活動は中断された。再開の契機は、1943年に、ボーイスカウト 運動の指導者ギィ・ド・ラリゴーディ (フランス語版 ) (1940年に戦死)の思想を『はるか沖合の星(Étoile au grand large )』として出版し、スイユ社初のベストセラー になったことであった[ 8] 。
戦後の主な出版活動
エスプリ誌
本格的に活動を再開したのは1945年1月、カトリックの哲学者 エマニュエル・ムーニエ が1932年に人格主義 の運動の機関誌 として創刊した『エスプリ 』誌[ 9] [ 10] の刊行を引き受けたときからである。フラマンはパリ6区ジャコブ通り (フランス語版 ) 27番地(サン=ジェルマン=デ=プレ )のグリーユ館を購入し[ 1] [ 11] 、1945年10月1日にここに移転した[ 2] 。グリーユ館はかつて多くの画家 や作家 が住んだ建物で、壁 には画家アングル の素描 が残っていた[ 1] 。ウジェーヌ・アジェ が撮影した写真 も残されているが(カルナヴァレ博物館 蔵)[ 12] 、こぢんまりした建物で、小さい中庭にはイチイ の木が1本あった。スイユ社のロゴ はこの古い建物をデザインしたものである[ 1] [ 13] 。
最初の重要な刊行物は、シュルレアリスム の歴史を戦間期の芸術的、政治的、社会的な背景の中に位置づけ、ファシズム の台頭、反ファシズム 統一戦線としての人民戦線 の結成などとの関連における知識人 の運動として再検討したモーリス・ナドー (フランス語版 ) の『シュルレアリスムの歴史』(1945年)[ 注 2] 、サド 再評価の契機となったピエール・クロソウスキー の『わが隣人サド』(1947年)、英仏翻訳 家ピエール・レリス (フランス語版 ) による1947年のT・S・エリオット (翌1948年、ノーベル文学賞 受賞)の詩の翻訳[ 14] などであった。
永遠の作家叢書
バーゼル大学 教授のアルベール・ベガン (フランス語版 ) は、戦時中の1942年にスイス で「ローヌ手帖」叢書を創刊し(「ローヌ」はスイスとフランスをつなぐローヌ川 の意)、地元のバコニエール社から刊行。対独レジスタンス の詩人の作品を刊行して支援し、戦後、大学を辞任して渡仏し、スイユ社から「ローヌ手帖」叢書を再刊し、編集責任者に就任した[ 15] 。彼は1950年に急死したムーニエの後任として『エスプリ』誌の編集長に就任し、1957年に死去するまで務めることになるが、1951年にスイユ社初のペーパーバック 版「永遠の作家(Ecrivains de toujours )」叢書を創刊し、ジャン=ポール・サルトル 主宰の『レ・タン・モデルヌ 』誌に寄稿していた哲学者のフランシス・ジャンソン が編集長に就任した[ 16] 。この叢書は、「作家自身による作家」という一貫した書名で、「他の作家が紹介するイマージュとテクスト」という副題である。たとえば第1号は「ヴィクトル・ユーゴー 自身によるヴィクトル・ユーゴー(Victor Hugo par lui-même )」という書名で、アンリ・ギィユマン (フランス語版 ) が執筆し、「アンリ・ギィユマンが紹介するイマージュとテクスト」としている[ 16] 。1951年にはこの他、クロード・ロワ によるスタンダール 、フランシス・ジャンソンによるモンテーニュ 、ジャン・ド・ラ・ヴァランド (フランス語版 ) によるフローベール 、アンドレ・パリノー (フランス語版 ) によるコレット 、アルベール・ベガンによるパスカル の5号まで刊行された[ 16] 。これらの「永遠の作家」叢書の一部は、人文書院 の「永遠の作家叢書」として刊行されている[ 注 3] 。
ベガンとともにスイユ社初期に重要な役割を担ったのは作家ジャン・ケロール (フランス語版 ) である。1947年にスイユ社から刊行された小説『他人の愛を生きん』が同年のルノードー賞 を受賞したほか[ 17] [ 注 4] 、マウトハウゼン強制収容所 での体験に基づいて短編映画 『夜と霧 』(アラン・レネ 監督、1955年制作、1956年上映)の脚本 を書いたことでも知られる彼は、1950年代初頭にスイユ社の編集委員になり、1970年代末まで、フィリップ・ソレルス 、ディディエ・ドゥコワン (フランス語版 ) 、ロラン・バルト 、エリック・オルセナ (フランス語版 ) 、ベルトラン・ヴィザージュ (フランス語版 ) 、マルスラン・プレネ (フランス語版 ) 、ドゥニ・ロッシュ (フランス語版 ) 、カテブ・ヤシーン らの作家を紹介した(これらの作家はその作品の多くがスイユ社から刊行されている)[ 17] 。
地中海叢書
1951年に刊行したイタリア の作家ジョバンニ・グァレスキ の『ドン・カミロの小さな世界』[ 注 5] が売上部数120万部に達したのを機に営業部を設立して販売促進活動を開始し、併せて外国文学や前衛文学の紹介に取り組み始めた。最初の試みは、1953年、アルベール・カミュ の友人で同じアルジェリア 出身の作家エマニュエル・ロブレス (フランス語版 ) [ 注 6] による「地中海」叢書の創刊であった[ 18] 。これは「地中海的な概念を持つ友情の場所」として1936年にアルジェで「真の富(Les Vraies richesses )」書店を創設してカミュらのアルジェリアの作家を世に送り出したことで知られるエドモン・シャルロ (フランス語版 ) [ 19] の活動を受け継ぐものであり、フランスで初めて専らマグレブ 圏のフランス語作家を紹介する叢書として、アルジェリア独立戦争 中も活動を継続し[ 18] [ 20] 、ムハンマド・ディブ [ 21] (1952年の処女作から1980年までの15作品をすべてスイユ社から刊行)[ 22] 、ムールード・フェラウン (1953年から1972年の没後出版までほとんどの作品をスイユ社から刊行)[ 23] 、カテブ・ヤシーン(1956年の代表作『ネジュマ』[ 注 7] から2003年の没後出版まで主な作品8作をスイユ社から刊行)[ 24] らの作品を紹介した。
エクリール叢書
宗教 関連書籍の出版社として出発したスイユ社は、1950年代からフランス文学 、外国文学、文学理論 を積極的に紹介した。「地中海」叢書のほか、ジャン・ケロールが1956年に『エクリール(書く)』誌および「エクリール」叢書を創刊し、1966年まで編集長を務めた(終刊となる1969年まではクロード・デュラン (フランス語版 ) 編集長)。「エクリール」叢書からは、この20年ほどの間に59人の作家の著書が刊行された[ 25] 。1950年代にスイユ社から刊行され、高い評価を得た著書に、哲学者ロラン・バルトの『零度のエクリチュール 』(1953年)[ 26] 、フィリップ・ソレルスの小説『挑戦』(1957年)[ 27] と『情事』(1958年)[ 28] 、フランス領マルティニーク 出身の作家エドゥアール・グリッサン の『レザルド川』(1958年ルノードー賞受賞)[ 29] 、アンドレ・シュヴァルツ=バルト (フランス語版 ) の反ユダヤ主義 の記録小説『最後の正しき人(Le Dernier des Justes )』(1959年)[ 30] などがある[ 注 8] 。
反植民地主義・アルジェリア独立戦争
また、脱植民地化 を支持する立場から、フランス領マルティニーク出身の精神科医 フランツ・ファノン の『黒い皮膚・白い仮面』(1952年)[ 31] [ 注 9] 、同じくマルティニーク出身のエメ・セゼール の1960年代以降の作品[ 32] 、フランス領西アフリカ (セネガル )出身のレオポール・セダール・サンゴール の1945年の処女詩集から晩年に至るまでのほとんどの詩集[ 33] がスイユ社から刊行された。
「永遠の作家」叢書編集長のフランシス・ジャンソンは、1957年にアルジェリア独立戦争中に民族解放戦線 (FLN)を支持し、フランス軍の脱走兵をかくまうために地下組織「ジャンソン機関」を結成した[ 34] 。また、同年にスイユ社から刊行された(後のアカデミー・フランセーズ 会員の)ピエール=アンリ・シモン (フランス語版 ) の『拷問反対(Contre la torture )』(1957年)は文字通り、FLNのテロリスト に対するフランス軍の拷問 に抗議する書であり[ 35] 、スイユ社経営者のフラマンへの献辞には、「ポール・フラマンに捧げる、共に牢獄に入るために」と書かれていた[ 1] 。スイユ社はFLNを支持するこうした活動のために、3度、プラスチック爆弾 による秘密軍事組織 (OAS)の攻撃を受けた[ 1] 。
なお、アルジェリア関連の書籍としては、北東部のオーレス (フランス語版 ) 山地で民族学 ・人類学 の調査を行い、さらに民族解放戦線地下組織の指導者ヤセフ・サーディ (フランス語版 ) との交渉 にあたったジェルメーヌ・ティヨン の『イトコたちの共和国』をはじめとするほとんどの著書(深夜叢書 刊行の数冊を除く)を出版している[ 36] [ 注 10] 。
反植民地主義・辛辣なアメリカ 批判で知られるジャン・ラクチュール は[ 37] 、1961年に現代史または時事問題の叢書「リストワール・イメディアット(直近の歴史・差し迫った問題)」を創刊した[ 38] 。エマニュエル・トッド の『新ヨーロッパ大全』(1990年)、『移民の運命』(1994年)、『世界の多様性』(1999年)[ 注 11] などはこの叢書として刊行された[ 39] 。
外国文学
一方、外国文学作品も多数刊行された。特にハインリヒ・ベル 、インゲボルク・バッハマン 、ギュンター・グラス 、ウーヴェ・ヨーンゾン ら47年グループ の作品、ロベルト・ムージル (オーストリア )とライナー・マリア・リルケ (オーストリア)のほとんどの作品のほか[ 40] [ 41] 、ジュゼッペ・トマージ・ディ・ランペドゥーサ 、イタロ・カルヴィーノ 、カルロ・エミーリオ・ガッダ (イタリア語版 ) (以上、イタリア)、ジョン・アップダイク 、ジョン・アーヴィング 、ロバート・クーヴァー 、トマス・ピンチョン (以上、アメリカ)、ウィリアム・ボイド 、ヴァージニア・ウルフ (以上、イギリス )、ディラン・トマス (ウェールズ )、エルネスト・サバト (アルゼンチン )、カミーロ・ホセ・セラ (スペイン )、ガブリエル・ガルシア=マルケス (コロンビア )、ジョゼ・サラマーゴ (ポルトガル )、ヨーゼフ・ロート (オーストリア)、アレクサンドル・ソルジェニーツィン (ロシア )などであり、これらの作家のほとんどがアンヌ・フレイエ(Anne Freyer)が編集長を務めた「言語の賜物(Le don des langues )」叢書として刊行された[ 42] 。
テル・ケル誌・叢書
1960年に若手作家のジャン=エデルン・アリエ (フランス語版 ) 、フィリップ・ソレルス、ルノー・マティニョン (フランス語版 ) 、フェルナン・ド・ジャクロ・デュ・ボワルーヴレ (フランス語版 ) 、ジャック・クードル(Jacques Coudol)、ジャン=ルネ・ユグナン (フランス語版 ) により、前衛文学雑誌『テル・ケル (あるがままに)』が創刊され、スイユ社から刊行された[ 43] 。翌1961年に『公園』[ 注 12] によりメディシス賞 を受賞したソレルスが、以後、主導的な役割を担い、「テル・ケル」叢書を創刊し、ヌーヴォー・ロマン の作家の作品や、ジャン・リカルドゥー [ 注 13] 、ジェラール・ジュネット 、ジュリア・クリステヴァ の新しい文学理論 を次々と紹介した[ 44] 。
だが、まもなく内部対立が生じ、1963年にソレルスに誘われて『テル・ケル』の編集委員会に参加したジャン=ピエール・ファイユ (翌1964年ルノードー賞 受賞)がソレルスとの意見の不一致により1967年に編集委員を辞任し、翌1968年に雑誌『シャンジュ(変化)』を創設した[ 45] [ 46] 。主な寄稿者はジャン=クロード・モンテル (フランス語版 ) 、ジャン・パリ (フランス語版 ) 、モーリス・ロッシュ (フランス語版 ) 、ジャック・ルーボー らで、1971年までスイユ社から、翌年から終刊となる1983年まではセゲルス出版社 (フランス語版 ) (ロベール・ラフォン出版社 (フランス語版 ) の一部門)から刊行された[ 47] 。
政治思想
政治思想の分野では、五月革命 前年の1967年に刊行した『毛主席語録 』(原著は1966年刊行)がスイユ社のベストセラーの1つであった。フランス語版の書名は、文字通りの « Citations du président Mao Tse-toung » だが、スイユ社版の « Petit Livre rouge »(赤い小さな本)として知られており[ 48] 、パリでは1967年のマオイスム の流行で、『毛主席語録』が売り切れるほどであった[ 49] 。
主に1960年代以降、レジス・ドゥブレ の『国境』(1967年)、『革命の中の革命』(1967年)、『ゲバラ 最後の闘い』(1974年)[ 50] [ 注 14] 、ヘルベルト・マルクーゼ のフランス語訳『ユートピアの終焉 - 過剰 抑圧 暴力』(1968年)、『一次元的人間 - 先進産業社会におけるイデオロギーの研究』(初版深夜叢書、スイユ版「ポワン」叢書1970年)、『エロス的文明』(同1971年)[ 51] [ 注 15] 、アンドレイ・サハロフ の『回想録』[ 52] [ 注 16] 、アンドレ・グリュックスマン の国家論[ 53] などが刊行され、その一部はジャック・ジュイヤール (フランス語版 ) が1966年に創設した「政治(Politique )」叢書[ 54] 、1968年に『エクリール』誌の編集長クロード・デュランが創刊した「闘争(Combat)」叢書[ 55] として刊行された。
人文科学・社会科学
人文科学・社会科学研究部門の責任者はフランソワ・ヴァール (フランス語版 ) で、ピエール・ブルデュー の1990年代以降の著書のほとんどがスイユ社から刊行され、うち、1996年以降は(『パスカル的省察』1997年、『男性支配』1998年など)ピエール・ブルデュー自身が創刊した「リベール(Liber)」叢書として刊行された[ 56] [ 注 17] 。また、ジャック・ラカン の『セミネール』[ 57] 、『エクリ』[ 58] などもすべてスイユ社から刊行されている。
文学理論・研究では1970年にジェラール・ジュネットとツヴェタン・トドロフ が『ポエティック』誌および叢書[ 59] [ 60] 、スーフィズム (イスラム 神秘主義 )専門の哲学者ミシェル・ショドキーウィチ(Michel Chodkiewicz )が『研究(La Recherche )』誌を創刊した[ 61] 。ショドキーウィチは1978年に西欧中世史専門のミシェル・ヴィノック とともに歴史学の発展・大衆化に寄与することになる歴史雑誌『リストワール』を創刊することになるが[ 62] 、ヴィノックは一方で、1971年にスイユ社ペーパーバック 版の歴史書 として「ポワン・イストワール」を創刊した[ 63] 。ペーパーバック版であるため初版ではないが、ミシェル・ペロー (女性史 )、トマ・ピケティ (経済史 )、ジゼル・フロイント (写真 史)、ジョルジュ・ヴィガレロ (フランス語版 ) 、アラン・コルバン (身体の歴史)、ジョルジュ・デュビー (中世美術史)などアナール学派 を中心に紹介している[ 64] 。
文学書
すでにスイユ社創設当初から作品を発表していたドゥニ・ロッシュは1974年に「フィクション株式会社(Fiction & Cie )」叢書を創刊し、「テル・ケル」叢書に代わる文学叢書となった[ 65] 。「フィクション株式会社」叢書からは2014年までの40年間に約500冊が刊行された[ 65] 。
刊行した作品が権威ある文学賞(ゴンクール賞 、ルノードー賞、アカデミー・フランセーズ小説大賞 、フェミナ賞 、アンテラリエ賞 、メディシス賞)を受賞すると、たとえば、ルノードー賞の場合、売上が平均22万部に達するとされるが[ 66] 、スイユ社から刊行された小説では、邦訳が刊行されているものだけでも、カミーユ・ブールニケル (フランス語版 ) の『女帝の罠』(1970年メディシス賞)、ルネ=ヴィクトル・ピーユ (フランス語版 ) の『呪い師』(1974年フェミナ賞)、パトリック・グランヴィル の『火炎樹』(1976年ゴンクール賞)、ジャン=マルク・ロベール (フランス語版 ) の『奇妙な季節』(1979年ルノードー賞)、ディディエ・ドゥコワン (フランス語版 ) 『愛よ、ニューヨークよ』(1977年ゴンクール賞)、タハール・ベン=ジェルーン の『聖なる夜』(1987年ゴンクール賞)、ダン・フランク (フランス語版 ) の『別れるということ』(1991年ルノードー賞)、アマドゥ・クルマ の『アラーの神にもいわれはない』(2000年ルノードー賞)、ユベール・マンガレリ の『四人の兵士』(2003年メディシス賞)などがある[ 注 18] 。『ル・モンド 』紙の調査によると、フランスの出版社のうち、これらの文学賞の受賞作品を最も多く刊行しているのはガリマール社 、次いでグラッセ社 (フランス語版 ) 、3位がスイユ社である[ 67] 。スイユ社は、デビューしたばかりの作家、まだ才能に見合った評価を得ていない作家、「比類ない」作家の小説や短編集に対して与えられるメディシス賞[ 68] [ 69] 受賞作品が最も多く、ガリマール社とほぼ同数、逆に、審査員がすべて男性によって構成されるアンテラリエ賞は[ 70] [ 71] 、ごくわずかである[ 67] 。
経営
現在スイユ社の本社があるパリ19区ガストン・テシエ通り57番地の建物
1979年、40年以上にわたってスイユ社を率いてきたフラマンとバルデが辞任し、ショドキーウィチが経営責任者(P.-D.G.)に就任した[ 72] [ 73] 。1989年にクロード・シェルキ (フランス語版 ) が引き継ぎ、2004年にラ・マルティニエール・グループ (フランス語版 ) がスイユ社を買収した[ 74] [ 75] 。2010年に75年にわたって拠点としていた6区ジャコブ通り27番地から移転[ 13] [ 76] 。現在はラ・マルティニエール・グループの本社があるパリ19区 ガストン・テシエ通り (フランス語版 ) 57番地が本社となっている[ 77] 。2018年4月からユーグ・ジャロン (フランス語版 ) が経営責任者を務めている[ 78] 。
脚注
注釈
^ シェーベリが制作した広告 は現在も残されており[ 3] 、1945年の著書『ヴィシー政権 下の季節外れ - 1940年9月15日 - 1941年5月15日』が電子書籍 として閲覧できるほか[ 4] 、1985年にはスイユ社から回想録 『ガヴァルニー邸 - 子ども時代の幸福』が刊行された[ 5] 。
^ モーリス・ナドー『シュールレアリスムの歴史』稲田三吉 ・大沢寛三 訳、思潮社 、1966年、新版1995年。
^ パスカル・ピア (フランス語版 ) 『ボードレール』福永武彦 訳、1957年; クロード・ロワ『スタンダール』生島遼一 訳、1957年; クロード・モーリアック 『プルースト 』井上究一郎 訳、1957年; ジャン・ド・ラ・ヴァランド『フローベール』山田爵 訳、1957年; フランシス・ジャンソン『サルトル』伊吹武彦 訳、1957年; サミュエル・シルヴェストル・ド・サスイ (フランス語版 ) 『デカルト』三宅徳嘉 ・小松元訳、1961年; イヴ・ボヌフォワ 『ランボー 』阿部良雄 訳、1967年; モルヴァン・ルベック (フランス語版 ) 『カミュ 』高畠正明 訳、1967年。
^ 「他人の愛を生きん」上総英郎 訳、主婦の友社 『キリスト教文学の世界5』(1979年)所収。
^ 『世界ユーモア文学全集 第7巻 - ドン・カミロの小さな世界』岡田真吉 訳、筑摩書房 、1961年。
^ エマニュエル・ロブレス『カミュ - 太陽の兄弟』大久保敏彦 ・柳沢淑枝訳、国文社 、1999年。
^ カテブ・ヤシーン『ネジュマ』島田尚一訳、現代企画室 (越境の文学・文学の越境)1994年。
^ 1965年刊行のロラン・バルト『零度の文学』(森本和夫 訳、現代思潮社 )から2008年刊行の『零度のエクリチュール』(石川美子 訳、みすず書房 )まで版を重ねた。フィリップ・ソレルス『挑戦』岩崎力 訳、第三書房、1966年; フィリップ・ソレルス『情事』安東次男 訳、六興出版 、1959年; エドゥアール・グリッサン『レザルド川』恒川邦夫 訳、現代企画室 、2003年。
^ 『黒い皮膚・白い仮面』海老坂武 ・加藤晴久 訳、みすず書房、1970年、新版「みすずライブラリー」1998年。
^ ジェルメーヌ・ティヨン『イトコたちの共和国 ― 地中海社会の親族関係と女性の抑圧』宮治美江子訳、みすず書房、2012年。
^ 『新ヨーロッパ大全』石崎晴己 ・東松秀雄訳、藤原書店 、1992年; 『移民の運命 - 同化か隔離か』石崎晴己・東松秀雄訳、藤原書店、1999年; 『世界の多様性 - 家族構造と近代性』荻野文隆訳、藤原書店、2008年。
^ フィリップ・ソレルス『公園』岩崎力訳、新潮社 、1966年。
^ 『小説のテクスト ― ヌーヴォー・ロマンの理論のために』野村英夫訳、紀伊國屋書店 (現代文芸評論叢書)1974年。
^ 『国境』浦野衣子訳、晶文社、1968年; 『革命の中の革命』谷口侑訳、晶文社(晶文選書)、1967年; 『ゲバラ最後の闘い - ボリビア革命 の日々』安部住雄・広川忍・田村毅 訳、新泉社、1977年。
^ 『ユートピアの終焉 - 過剰 抑圧 暴力』清水多吉 訳、合同出版 、1968年; 『一次元的人間 - 先進産業社会におけるイデオロギーの研究』生松敬三 ・三沢謙一訳、河出書房新社、1974年; 『エロス的文明』南博 訳、紀伊国屋書店、1958年。
^ 『サハロフ回想録(上)水爆開発の秘密』、『サハロフ回想録(下)ペレストロイカの父として』金光不二夫 ・木村晃三訳、読売新聞社 、1990年(再版)中央公論新社 (中公文庫 )2002年。
^ 『パスカル的省察』加藤晴久、藤原書店、2009年; 『男性支配』坂本さやか・坂本浩也訳、藤原書店、2017年。
^ カミーユ・ブールニケル『女帝の罠』阿部良雄訳、河出書房新社(今日の海外小説)1972年; ルネ=ヴィクトル・ピーユ『呪い師』三輪秀彦 訳、早川書房 、1976年; パトリック・グランヴィル『火炎樹』篠田知和基 訳、国書刊行会 、1998年; ディディエ・ドゥコワン『愛よ、ニューヨークよ』長島良三 訳、読売新聞社、1981年; タハール・ベン=ジェルーン『聖なる夜』菊地有子訳、紀伊国屋書店、1996年; ジャン=マルク・ロベール『奇妙な季節』平岡敦 訳、東京創元社 、1996年; ダン・フランク『別れるということ』榊原晃三 訳、中央公論社、1994年; アマドゥ・クルマ『アラーの神にもいわれはない ― ある西アフリカ少年兵の物語』真島一郎 、人文書院、2003年; ユベール・マンガレリ『四人の兵士』田久保麻理訳、白水社 、2008年。
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関連項目
外部リンク