クキ・チン諸語
クキ・チン諸語(クキ・チンしょご、Kuki-Chin)は、シナ・チベット語族 (トランス・ヒマラヤ語族) チベット・ビルマ語派に属する言語群である。北東インド (アッサム州、ミゾラム州、マニプル州等)、ミャンマー (チン州、ラカイン州、ザガイン地方域、マグウェ地方域)、及びバングラデシュ (チッタゴン管区) で用いられている[1]。ミゾ・クキ・チン諸語(Mizo-Kuki-Chin)やクキッシュ(Kukish)とも呼ばれる。話者には「クキ」「チン」いずれにも属さない民族集団も含まれるため[2]、南部中央トランス・ヒマラヤ語族 (South-Central Trans-Himalayan) と呼ばれることもある[2][3]。 クキ・チン諸族の大部分はインドのアッサム州で暮らすクキ族か、ミャンマーで暮らすチン族として知られている。なお、クキ・チン諸族の一部は、ナガ族としても分類されている。さらに、クキ・チン諸族はミゾ族(ルシャイ族)とは民族学的に異なる。 カルビ語がクキ・チン諸語と関連する言語であるか、あるいはクキ・チン諸語の1派であることには一般的同意が得られている。しかしながら、Thurgood の著作(2003)では、カルビ語はチベット・ビルマ語派に分類されていない。なお、ムル語はかつてクキ・チン諸語へ分類されていたが、現在はロロ・ビルマ諸語と関連の深い言語であると考えられている。 下位分類クキ族やチン族が暮らす地域は、基本的に険しい丘陵や山岳に囲まれており、政情も不安定である。このため、クキ・チン諸語の分布状況は、他のチベット・ビルマ諸語と比べてもはっきりとしない部分が多い[4]。従来提唱されてきたクキ・チン諸語の下位区分は、いずれも暫定的なものに過ぎない[5]。 Peterson (2017) は、クキ・チン諸語を北西語群(Northwestern)、北東語群(Northeastern)、中央語群(Central)、マラ語群(Maraic)、南西語群(Southwestern)、南東語群(Southeastern)の6つに分類している[6]。
より古い文献においては、古態クキ語(Old Kuki)、北部チン語群[7]、中央チン語群、南部チン語群という4分類も見られる[8][9]。「古態クキ語」はPeterson (2017)の「北西語群」、「北部チン語群」は「北東語群」に概ね相当する[10]。 Bradley (1997) は、マニプリ語(メイテイ語)もクキ・チン諸語に含めている[11]。 祖語VanBik (2009) は、比較方法を用いてクキ・チン諸語の祖語の再建を試みている[12]。 類型論的特徴他のチベット・ビルマ諸語と同様に、クキ・チン諸語は声調言語であり[13]、SOV型を基本語順とする[14]。名詞は後置修飾を受ける[14]。 クキ・チン諸語は代名詞化言語(pronominalized language)であり、動詞には人称を表す接辞が付加される[14][15]。同様の特徴は、ギャロン諸語やキランティ諸語、ヌン諸語やジンポー語等にも存在する。ただし、クキ・チン諸語における人称一致の体系は、これら他のチベット・ビルマ諸語とは独立に発達したものである[9]。 多くのクキ・チン諸語において、動詞は2つの異なる語幹を持つ[14][16]。両者は一定の文法的条件に応じて使い分けられる。以下の例文では、文の極性が語幹の区別に関与している。
チベット・ビルマ諸語にはしばしば、動詞に付いて動作の方向や様態を表す方向接辞が見られるが、これはクキ・チン諸語にも備わっている[17][18]。 →「ミゾ語 § 方向接辞」も参照
関連項目出典
参考文献
外部リンク
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