ガスマスクガスマスク(英: gas mask)とは、人体を有害物質から守るためにつける器具の一種である。 概要毒ガス・粉塵・微生物・毒素などの有害なものや、強烈な臭いを発するものから保護するために顔面に着用するマスクで、目など傷つきやすい組織のほか、鼻・口を覆うことで呼吸器を守る。日本語では防毒面と表記し、日本陸軍では「被服甲」を略した被甲という呼称も用いられた。これは防毒面の管理区分が1932年に変更され、従来の「兵器」から「被服」へ移されたことに由来する。 歴史初期の物は軍用ではなく民生用だった。
第一次世界大戦で化学兵器が大規模に使用されたことに対する防御手段として軍に採用された。 アメリカ軍におけるガスマスクの歴史第二次世界大戦中は分離式のM4ガスマスクが使用されていた。1960年代にM17ガスマスクが採用されるとこれがベストセラーとなり以後30年にわたってM17A1、M17A2と改良されながら使用された。 しかし、1991年の湾岸戦争で砂漠での使用に不向きであることがわかると、新型機の開発と配備が急速に進められ、 M40 Field Protective Maskが採用された。2009年からM50ガスマスクへの更新が進められている。 イギリス軍におけるガスマスクの歴史イギリス軍ではS10ガスマスクが正式採用となり、現在も使用されている。その後の改良型でドリンクチューブが付いている物やAR10,FM12,SF10などがある。近年、英軍では新型のFM12に更新しつつある。 構造と部品
種類濾過式防毒マスク少量の有毒ガスに汚染された空気をその有毒ガスを除去するフィルター(吸収缶)を通すことによって無害化するタイプのガスマスクである。汚染している有毒ガスに応じて適切な吸収缶を用いる必要がある。吸収缶には寿命があるため、使用前未開封時の有効期限、そして開封後の累積使用時間を適切に管理する必要がある。吸収缶が除毒能力を喪失するまでの時間は破過時間と呼ばれる。吸収缶の残存能力を推測するには「破過曲線図[注釈 2]」や「相対破過比[注釈 3]」が用いられる。 マスクとフィルターの接続位置の関係により、直結式と隔離式に分類できる。マスクに直接吸収缶が付いている形式のものを直結式、マスクと吸収缶が分離しホースでつながっている形式のものが隔離式である。隔離式は直結式に比べ吸収缶を大きくすることが出来るため、より高い濃度の有毒ガスに対応できる。隔離式を使う際には、吸収缶はガスマスクケースに入れたまま肩や首に掛けるか、専用のハーネスで胸ないし背中に装着される。しかし隔離式はホースが嵩張り運用がやや不便であることと、フィルターの改良によって直結式の性能が向上したことにより、第二次世界大戦後の携行式ガスマスクでは直結式が主流となっている。使用者がガスマスクを常時携帯する必要がなく、施設や乗り物などに備え付けておけばよい場合には、性能に余裕がある隔離式にはなお一定の需要がある。 吸収しきれないほど高い濃度の有毒ガスに汚染された環境や酸欠(酸素濃度が18%以下)の環境においては使用することができない。このような場合には供給式マスクを使用する必要がある。吸収缶が大型であるほど着用者の疲労は大きくなるので、作業雰囲気に合わせて適切に選ばなければならない。 吸収缶の種類には、有機ガス、ハロゲン、青酸、硫化水素、アンモニアなどの種類があり、吸収缶だけを取り替えることもできる。種類の合わないガスには効果が無いので、あらかじめ作業場所の雰囲気を確認しておかなければならない。 一般的には他の呼吸用保護具よりも軽量・安価であるため、広く用いられており入手容易である。 防塵マスク固体の微粒子が浮遊している空気を粒子フィルターを通すことによって微粒子を除去して無害化するガスマスクである。防毒マスクに粉塵用フィルターを組み合わせて両方の役目を同時に果たすタイプのものもある。 医療用マスクとして流通しているマスクは、細菌やウイルスによって汚染された空気をフィルターを通すことによって無害化することを狙った、一種の防塵マスクである。医療用マスクは、SARSの流行がマスメディアの注目を集めたことから、近年需要が高まっている。特に一般でも手に入りやすいN95マスクは人気があるが、実質的にはDS2規格相当品であり、性能は産業用の防塵マスク(半面マスク)と同等である。 供給式自給式空気ボンベがなく、酸素発生缶(化学反応により酸素を発生させる器具)によって清浄な空気をマスクに供給する装備である。酸欠雰囲気や高い濃度のガス中でも使用でき、行動範囲に制限が無いが、装備が重く、空気供給源が有限なので作業時間に制限があるなど欠点も多い。ガスを通さない材質の全身気密スーツにボンベを組み合わせた自給式加圧服というものもある。またこれらは生物兵器の防護にも使用される。 送気式コンプレッサーで発生させた圧縮空気を、チューブを通してマスクに送る方式である。作業時間に制限が無いが、行動範囲はチューブの取りまわせる範囲に限られる。ガスを通さない材質の全身気密スーツにチューブを組み合わせたものもあり、これをエアラインスーツと言う。軽量な上、涼しいので着用感も良好で、スーツの内側が陽圧になっているために万一スーツにリークがあっても外気の侵入を防ぐことができ、激しく動かなければ汚染されることは無い。 機能検査産業でガスマスクを使用する場合、JISに定める方法によって定期的に機能を検査し合格したもの以外使用してはならない。防塵マスクにあっては、マスク着用者を塩化ナトリウムの粒子を放出した雰囲気中に一定時間置き、面体の内部と外部の塩化ナトリウム濃度を比較する方法による。昭和63年労働省告示第19号に定める防塵マスクの規格は次の通り:
その他第二次世界大戦中には大規模な化学兵器戦が行われなかったが、各個人ないし部隊にかならず装備されていたため、本来の用途とは違う使い方もされた。
ドイツ軍において対戦車ロケット火器パンツァーシュレック発射時に射手がロケットの排気による顔面火傷を防ぐ為にガスマスクを装着していたという。後に、防御用の防楯が追加されてガスマスク装着の必要は無くなった。アメリカ軍でも同様に、携行式対戦車ロケット発射筒、いわゆる「バズーカ」の初期モデル発射時において、射手はガスマスクを着用していた。こちらも、その後の型より砲口に吹き返しがつけられたため、ガスマスクの着用は必須ではなくなった。 戦後になると、旧ソ連軍の自動車化狙撃兵(機械化歩兵)がガスマスクを呼吸器として流用していた。演習で戦闘状況に入ると装甲兵員輸送車のハッチがすべて閉められるため、ベンチレーターの有無にかかわらず、車内の換気が極端に悪くなる。そこで乗車した兵士たちは隔離式のガスマスクを装着し、吸収缶を外すとホースの先端を銃眼から外に突き出して、少しでも新鮮な外気を吸おうとしていた。 このほか、現代戦や近未来戦を描いたコミックやアニメ、ゲーム[注釈 4]には、一種の「記号」としてガスマスクを装着した兵士が登場する作品も多い。これは大勢が同じ装備を装着することによる軍事的統一感やマスク装着時の非人間的な不気味さなどを演出するためでもあるが、モブキャラクターの顔つきや表情の簡略化という作画上の意味もあるとされる。 脚注注釈出典関連項目国内ガスマスクメーカー自衛隊の装備 |
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