インチアップインチアップ (inch up) とは、自動車に装着された車輪(タイヤ+ホイール)の外径を変えずにホイールのリム径をより大きなものに交換することである[1][2]。 この項目では、外径を変えずにリム径を小さくするインチダウンと、ロードホイール全体の大径化・小径化についても記述する。 概要インチアップの本来の目的は、より大型のブレーキを搭載するための空間確保である。自動車の高性能化とともにブレーキへの要求も高まったが、特にスポーツタイプの車両にとってブレーキの性能向上は必須であったため、インチアップによってブレーキを大型化することとなった。ボディー、サスペンションとの兼ね合いもあり、タイヤの外径まで大きくはできないため、装着できるタイヤは元よりも偏平率の低い(より平らな)ものとなる。 とはいえ、この本来の目的とは別に流行しているのが実態である。
これらが現在の主流であるが、ブレーキの大径化を伴わないインチアップは利点だけでは無く、欠点も存在する。 なお、インチアップの一手法として、純正オプション若しくは上級グレード、フルモデルチェンジ後の同一車種、共通車台を使ったスポーツ系車種等に設定されている純正大径ホイールとタイヤをそのまま下位グレードに流用する、もしくはこれらの純正大径サイズと同一のホイールとタイヤを社外品から選定する方法もある。厳密にはエンジン出力、ブレーキ径、ショックアブソーバー減衰力、スプリングレートが上級グレードと異なる場合がほとんどのため、車体本来の性能を発揮しきれるわけではないが、純正で全く使用実績がないサイズのホイールに変更するよりはタイヤのフェンダーはみ出しや走行性能の著しい悪化などのリスクが小さい、比較的安全な手法と言える。 日本で普及した背景かつては、スポーツカー、ラグジュアリーカーのオーナーなど一部の特殊なカスタマイズを指向するカーマニアが行っていた手法であった。目的は、大きなホイールを目立たせるといった、ごく他愛のないものであった。しかし、ロープロファイルタイヤの利益率はアフターマーケットビジネスの中では大きいことから、ブリヂストン、ヨコハマタイヤなどのタイヤメーカーが「大人のインチアップ」と称して堂々とアピールを開始、カー用品店などでも、高価なアルミホイールがタイヤとセットで販売できるとあって一般客にも積極的に売り込みを行い始めた。この結果、2000年代以降の日本では、ごく一般的にタイヤ交換の際の選択肢となっている。 極端なインチアップ近年のショーモデルやデモカーなどでは、極端なインチアップを好む傾向がある。ホイールのデザインをよく見せるために採用されているもので、実際にそのサイズや強度のままで販売される製品は少ない。なかでもスポーツ・ユーティリティ・ビークル(SUV)はもともとのタイヤ外径と車体のホイールアーチが大きく、物理的に大きなサイズのホイールが装着可能なため、ハリアー、ムラーノ、ハマーなどのクロスオーバーSUV(CUV)やSUVを中心に、22 - 26インチのホイールを装着する例がある。また、軽自動車であっても、通常の12 - 14インチに対し、17 - 18インチなどが選択される。このようなホイールに組み合わされるタイヤの偏平率は25 - 35になる。 このような車両になると分母となるタイヤ幅も太く取られているため、パーセンテージは低くてもそれ相応の厚み(空気量、エアボリューム)は確保される。例えば日産・GT-R(R35 Pure edition)のフロント純正サイズである「255/40ZRF20」[4]の場合、タイヤの厚みは計算上102 mmであるが、これは軽自動車の主流である「155/65R14」(計算上100.75 mm) やトヨタ・カローラ(E210型)の中級グレードに使用される「205/55R16」[5](計算上112.75 mm)と同等の寸法が確保されるサイズである。 一般市販車の純正サイズとして採用実績がなく、旧来規格上のみの存在だった275/25R26や165/35R18といった超偏平サイズは実際にも実用性に乏しく、日本や欧米のタイヤメーカーが新規に製品化する事はほとんどなく、ナンカンなどアジアなどのタイヤメーカーから供給されている。中にはリムガードを備えていないドレスアップ専用とも言える製品すら存在する。 ショーモデルなどに見られる極端なインチアップは、快適性はもとより、安全性や走行性能など、本来自動車に必要とされる条件をあえて無視して行われているため、デモカーに採用されたロードホイールの組み合わせをそのまま一般公道で使用することには危険が伴う[注釈 1]。公道走行用のホイールやタイヤは、さまざまな条件の元で過酷な走行実験を重ねて装着サイズが検討され、車両側も充分な操縦安定性とクッション性を持った扁平率のタイヤを装着することを前提に設計されている。 タイヤが極端に扁平な場合、
タイヤサイズ変更の基本
※ ホイールが先に決まっている場合などは順序が異なるが、ホイール選びは基本的にタイヤとセットで実施する。また、ホイールにはインセット/アウトセットの問題などもある。 インチアップによる利点インチアップによる欠点
リム幅インチアップとは、あくまでもタイヤ内径(インチ)を上げる事であり、タイヤを太くするという意味はない。「インチアップ」と「幅広タイヤ」は全く別の事柄であり、以下、太くならないインチアップの例を示す。 [タイヤ幅225の例](ミシュラン/パイロットプレセダPP2より一部)
ただし、市場では以下のような理由から太いタイヤが用意されることが多い。
干渉と計算方法タイヤおよびホイールを太くする、またオフセットの変更を伴う場合、タイヤ・ホイールの内側・外側の端の位置が移動する。その結果、
といった問題が起きる場合もある。リム幅およびタイヤ幅、オフセットを中心に、以下計算方法の一例。
このサイズ変更にて、タイヤ195/55 R15 85V の断面幅が201 mm、標準リム幅が6.0 inch である事(ミシュラン Pilot Preceda PP2 のカタログデータ)から、タイヤ幅の変化は無く 201÷2=100.5 mm 100.5+45=145.5 mm、内側 100.5-45=55.5 mm、外側 となる。つまり基準となる位置は、ホイール取り付け面から見て、内側は145.5 mm の距離、外側は55.5 mm の距離となる。 同じくカタログデータから、タイヤ205/40 ZR17 84W XL の断面幅が212 mm であり、標準リム幅が7.5 inch である事から、用いるホイールのリム幅が0.5 inch 狭くなる分を考慮し、タイヤ幅を5 mm 減の207 mm と修正。 207÷2=103.5 mm 103.5+37=140.5 mm、内側 103.5-37=66.5 mm、外側 よって最初の基準位置に対し、内側は5 mm 外へ、外側も11 mm 外へ出る。車体内側の干渉はなし。(URL参照) http://kura2.photozou.jp/bin/photo/179053069/org.v1370161993.bin ここでの注意点は二つ。 一つ目は選ぶタイヤごとにカタログデータを見ること。サイズ表記が同じでも、銘柄が違えば寸法データは多少違う場合がある。 二つ目はホイールだけを見て計算した場合とは、計算結果が異なる点である。ホイールだけを見ると、広がったリム幅に対してインセットの変化が少なく、ホイール内側フランジ部はより内へと移動、外側フランジ部はより外へと移動する。今回のケースは、内側干渉の心配があるように誤解しやすいパターン。しかし、この場合ホイールよりタイヤが太いため、図のように実は内側干渉の心配はむしろ低減している。
変更前。リム幅が6.0 inch(1.0 inchは25.4 mm)、フランジ形状がJ(フランジ部の幅13 mm)より、 (6×25.4)+(2×13)=178.4 mm 178.4÷2=89.2 mm 89.2+45=134.2 mm、内側 89.2-45=44.2 mm、外側 変更後。リム幅が7.0 inch、フランジ形状がJ より、 (7×25.4)+(2×13)=203.8 mm 203.8÷2=101.9 mm 101.9+37=138.9 mm、内側 101.9-37=64.9 mm、外側 タイヤ自体の大径化オフロードを走行する大型4WD車などでは、斜面への対地障害角の改善や最低地上高の確保などの目的でタイヤ自体を大径化する場合がある。ハイフローテーションタイヤでは、サイズ表記にタイヤの直径が含まれることが多い。そのため、直径30インチの30×9.50R15を、32インチの32×11.50R15にすることを、「インチアップ」と表現するが、この場合は、ホイール直径の変更を伴っていない。混用を避けるために、「タイヤのインチアップ」と限定的に表現することもある。 タイヤ自体が大径化されるとスピードメーターの表示は実際の走行速度とずれてしまうため、日本の車検制度上はこの状態では不適合となるため、オフロード走行の際にのみ限定的に用いるか、スピードメーターのギア比を適切なものに変更するなどの手法をとっている。また多くの場合、タイヤが車体やフェンダーに干渉してしまうため、サスペンションスプリングでのリフトアップ(車高上昇)やボディーリフトが併う。 インチダウンインチダウン (inch down) とは、インチアップとは逆に自動車に装着しているホイールのリム径をより小さなものに交換することである。タイヤの偏平率をより高めることで、路面追従性能及び乗り心地の改善、維持費の低減などを目的にこのような手法が用いられる。 中古車として購入した車両に装備されている社外大径ホイールを純正ホイール若しくは純正相当サイズのホイールに戻すことが一般的に最も多い事例であるが、下記のようなさまざまな理由によってインチダウンが行われることもある。
いずれの事例においても、インチダウンの場合にはタイヤ外径の選定のみならず、その車両に装備されているブレーキローターやブレーキキャリパーなどの外径によって最小ホイールサイズに大きな制約を受けることが、インチアップとの最大の相違点である。場合によってはブレーキローターやキャリパーを下位グレードの物と丸ごと交換してホイールとのクリアランスを確保することも行われる。 リム幅とタイヤの関係タイヤには、それぞれのサイズに対して適用リム幅の範囲が決められている。一部のマニアの間では「引っ張り」と称して、この適用範囲を超える幅広リムを無理に装着することがある。展示用の車両などにもこの手法が使われることは珍しくない。 しかしこれはタイヤの機能を著しく阻害し、且つ一般公道では事故に直結する不安要素だと言える[10]。ビード部を押し付けるために過剰な空気圧での使用を余儀なくされるが、逆に適正空気圧ではビード部がずれて、最悪は外れてしまう。 関連項目脚注注釈
出典
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