アイオリス山 (アイオリスさん、Aeolis Mons)あるいはシャープ山 (シャープさん、Mount Sharp)は、火星 の山である。ゲール・クレーター の中央にあり、南緯5.08°、東経137.85°に位置する。谷底からの高さは5.5kmである。国際天文学連合 (IAU) による地形IDは15000番である[ 3] 。「アイオリス山」の名は国際天文学連合により命名されたものだが、アメリカ航空宇宙局 や欧州宇宙機関 はIAUの決定以前から用いられていた「シャープ山」の名を用いることがある。
NASA の探査車キュリオシティ は、2012年8月6日に山の北麓の低地アイオリス・パルス の[ 4] "Yellowknife" Quad 51 に着陸した[ 5] [ 6] [ 7] [ 8] 。NASAは8月22日にこの着陸地点をレイ・ブラッドベリ にちなんで「ブラッドベリ・ランディング 」と命名した[ 9] 。アイオリス山は、探査の目的地である[ 10] 。
形成
アイオリス山は、浸食された沈殿物の層の山のように見える。北の麓から5.5km、南の麓から4.5kmの高さになり、クレーターの南の縁よりも高い。沈殿物は、20億年以上も堆積し[ 11] 、かつてはクレーターを覆っていたと考えられる。下部のいくつかの層は、もともと湖底に堆積したものと考えられ[ 11] 、斜層理を持つため風成作用 を受けたものと考えられている[ 12] 。しかし、これについては議論があり[ 13] [ 14] 、下部の地層の起源についてははっきりと分かっていない[ 12] 。
既知のサイズ
地球の高山(エベレスト 、マッキンリー 、レーニア山 )とアイオリス山の比較
アイオリス山の高さは5.5kmと、月で最も高いホイヘンス山 とほぼ同じであり、アポロ15号 が訪れたハドリー山 よりも高い。
エベレスト は、海抜高度が8.8kmであるが、麓から頂上まではわずか4.6kmである[ 15] 。アフリカのキリマンジャロ は、海抜5.9kmで、麓から頂上までは4.6kmである[ 16] 。アメリカのマッキンリー の麓から頂上までの高さは5.5kmである[ 17] 。
名前
ゲール・クレーター、アイオリス山(中央)、キュリオシティ着陸予定地(白丸)、アイオリス・パルス(白丸周辺)、アイオリス卓状台地(右上隅に端が見える)
発見された1970年代から約40年の間、この山には名前が付けられなかったが、この場所がキュリオシティの着陸場所に選ばれると、様々な名前で呼ばれるようになった。例えば、NASAは2010年に写真のキャプションで、この山を「ゲール・クレーター丘 (Gale Crater Mound)」と呼んだ[ 18] 。2012年 3月に、NASAは非公式に、アメリカの地質学者ロバート・シャープ (英語版 ) にちなんで「シャープ山 (Mount Sharp)」と名付けた[ 19] [ 20] 。
しかし国際天文学連合 は、クレーター・谷・小さな地形を除き火星の地名には新しい名称をつけず、近くのアルベド地形の名称 (火星探査 以前、地球からでも見える濃淡模様に名づけられた地名)から名づけると定めており[ 21]
、わずかな例外もギリシア神話などで人名は使われていなかった。そこで2012年 5月16日 [ 3] 、国際天文学連合は、アルベド地形アイオリス (Aeolis) から、この山を「アイオリス山 (Aeolis Mons)」、山の北のキュリオシティ着陸が計画されていた低地を「アイオリス・パルス (Aeolis Palus)」(パルスは沼という意味だが、小さな平地に使われる)と名付けた[ 20] [ 22] [ 23] [ 24] 。なお、同じくアイオリスから、1976年 にはクレーターの東の「アイオリス卓状台地 (英語版 ) (Aeolis Mensae)」が、2006年 にはさらに東の「アイオリス高原 (Aeolis Planum)」が命名されている。本来のアイオリスはアイオリス卓状台地東部を中心としており[ 1] 、アイオリス山は西の外れに位置する[ 25] 。
一方、火星の50km以上のクレーターには故人の人名を付けることになっている[ 21] ため、国際天文学連合は同日2012年5月16日、NASAとロバート・シャープを称え、ゲール・クレーターから西に260km離れた位置にある直径152kmの大きなクレーターを「ロバート・シャープ (英語版 ) 」と名付けた。姓を使う慣例にもかかわらずフルネームとなったのは、イギリスの天文学者エイブラハム・シャープ に因んだクレーター「シャープ (英語版 ) 」がすでに月に存在する ためである。
NASAとESA は、記者会見やプレスリリースでは、今でもこの山を「シャープ山」と呼び続けている[ 26] 。これは、マーズ・エクスプロレーション・ローバー が着陸した付近のコロンビア・ヒルズ のような非公式な名前と似た状況である。スカイ&テレスコープ 誌は、2012年8月に2つの名前の根拠を読者に示し、投票を行った。2700を超える票が集まり、アイオリス山とシャープ山のそれぞれの得票は57%と43%だった[ 19] 。アメリカ地質調査所 にはアイオリス山という公式な名前が登録されている[ 23] [ 3] が、これは積極的な採用というわけではなく、データを提供しているのが国際天文学連合だからである。
アルベド地形のアイオリスは、ギリシア神話の浮き島アイオリア島 (Aeolia) から名づけられ[ 1]
、それはさらに島を統べる風神アイオロス に由来する。なお、トルコ 西部のイズミル の古い名前アイオリス とは関係ない。こちらもさかのぼればテッサリア 王アイオロス に由来するが、通説では同名の別人である。
出典
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^ 直接の由来はアルベド地形アイオリス。アイオリスの由来を記す。
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^ ESA - Mars Express marks the spot for Curiosity landing
関連文献
Jurgen Blunck - Mars and its Satellites, A Detailed Commentary on the Nomenclature, 2nd edition. 1982.
外部リンク
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