TYC 8241 2652 1 は、ケンタウルス座 の方角、地球 から約400光年 [ 4] 離れた位置にある若い恒星 である。この星系 は、中間赤外線 の観測から、星周円盤 に囲まれていて、しかもその円盤がごく短期間で消失した可能性があるとされる。
特徴
TYC 8241 2652 1は、太陽 に似た恒星といわれるが、スペクトル型 はK2で、表面温度と光度 は太陽を下回っている[ 3] 。年齢は大体1000万年程とされる、若い恒星であるので、星形成 の際に核 を取り巻いていた原始惑星系円盤 が、散逸しきっておらず、残骸円盤 (英語版 ) が星周領域に存在するのは、珍しいことではない。
その距離と年齢からして、TYC 8241 2652 1は、下部ケンタウルス座 -みなみじゅうじ座 アソシエーション 又はうみへび座TWアソシエーション の一員ではないかと考えられる[ 3] 。
星周円盤
塵の多い原始惑星系円盤 の想像図。TYC 8241 2652 1の消えた星周円盤 も、これに似たものと考えられる。出典: NASA /JPL -Caltech [ 11]
星周円盤が存在する証拠となるのが、1983年 のIRAS による観測で、強い中間赤外線の放射が観測された[ 8] 。20年後、あかり によっても確認されたこの放射は、恒星の光球 から放射される中間赤外線の、およそ30倍の強度があった[ 9] [ 3] 。これ程大きい中間赤外線の赤外超過 は、星周領域に温かい塵粒子 が大量に存在するためであると考えられ、TYC 8241 2652 1は星周円盤を持つとされた[ 3] 。地上の大望遠鏡 による空間分解能 の高い観測から、赤外線源がたまたまTYC 8241 2652 1の近くにみえたものでもなく、TYC 8241 2652 1に関係した構造とされる[ 12] 。
IRASより高性能のハーシェル宇宙望遠鏡 でも、遠赤外線の放射は検出されていないので、低温の塵粒子はそう多くないとみられる上、水素 のバルマー線 が輝線でないので、中心星への活発な質量降着も起こっていないことから、TYC 8241 2652 1の星周円盤は、塵が形成中の岩石天体の衝突によってもたらされた、進化の進んだ円盤と考えられる[ 3] 。
可視光 及び近赤外線の観測結果を基に推定される温度の恒星の光球と、星周円盤を合成した理論的なスペクトル を、黒体放射 であると仮定して、中間赤外線での観測結果に合うように計算すると、円盤の塵粒子の温度は450K 、中心星からの距離はおよそ0.4AU と求められた[ 3] 。また、恒星の光度の11% に及ぶエネルギーが星周物質に吸収され、赤外線として再放射されていることもわかった。これだけ大幅な吸収を引き起こすことから、円盤は薄くて平坦なものではないと考えられ、惑星 によって塵粒子が巻き上げられたり、円盤が捻じ曲げられたりしている可能性もある[ 3] 。
円盤消失
IRASによる発見から2008年 まで、中間赤外線では、恒星の光球からの放射として予測される強度のおよそ30倍に及ぶ赤外超過が検出され、星周円盤の温かい塵がそれを放射していると考えられた。2008年5月にジェミニ南望遠鏡 で観測された際も、赤外超過の大きさは変わらなかった[ 3] 。しかし、2009年 1月にジェミニ南望遠鏡で観測された時には、それが13倍程度にまで減少し、翌2010年 1月に広域赤外線探査衛星 WISEで観測された時には、恒星の中間赤外線放射と殆ど差がない程度まで弱くなった[ 3] [ 10] 。2012年 5月に再度ジェミニ南望遠鏡で観測した際にも、中間赤外線が殆ど超過していないという結果は変わらなかった。結局、2009年から2010年にかけて、中間赤外線源は殆どなくなったものと考えられる[ 3] 。
2010年以降のWISEとハーシェルの観測結果から、星周塵の状態を推定すると、塵の温度は120-250K程度、中心星からの距離はおよそ2AU、恒星の光を吸収して赤外線で再放射する強度は恒星光度のおよそ0.1%と、2008年までとは全く異なる結果となった[ 3] 。
WISEの短い波長での観測結果や、全天自動サーベイ による監視の結果からすると、この間に恒星の明るさが変わったわけではなく、円盤が何かに掩蔽されたとは考えられない[ 3] 。そのため、円盤は実際に消失してしまった可能性が高いが、円盤が消える仕組みについては、以下に述べるように幾つか仮説が立てられているものの、十分な説明はなされていない。
衝突雪崩
衝突雪崩理論の基礎となる塵粒子雪崩の模式図。これを繰り返して、塵粒子は微細化する。
岩石天体の衝突によって、新たにもたらされた塵粒子が、元々存在した塵粒子を巻き込んだ連鎖的な衝突を誘発する、「衝突雪崩(collisional avalanche)」とでも呼ぶべき現象が起きたとする説[ 13] [ 3] 。大規模な衝突で塵粒子は細かく砕かれ、中心星の放射圧 によって吹き散らされた。この仕組みでは、観測されたように、2年以内に塵の殆どがなくなるのは難しいが、元の塵粒子の分布のしかたによっては実現の可能性がある[ 12] 。
しかし、衝突雪崩の理論を提唱した天文学者 らは、通常の衝突雪崩では30倍もの赤外超過をなくすことは難しく、また、可視光・近赤外で明るさが殆ど変わっていないことから、もっと大規模な衝突雪崩を起こしたとも考えにくいとして、この説は棄却されると主張している[ 14] 。
暴走的降着
円盤中に存在するガス の、流体力学 的な抵抗によって、塵粒子が急速に中心星へ降着する、「暴走的降着(runaway accretion)」とでも呼ぶべき現象が起きたとする説[ 15] [ 3] 。この仕組みでも、塵がなくなる時間の短さは問題になる[ 16] 。また、この現象が起きるには、ガスの量が塵以上にある必要があるが、TYC 8241 2652 1星系のような進化の進んだ円盤に、それ程のガスが存在するかは疑問である[ 12] 。
X線による光蒸発
時間的な制約を克服する仮説として、爆発的なX線 の放射による塵の気化も考えられている。しかし、中心星の光度が低いので、塵を気化させるのに必要と予想されるX線の増光量は、類似の恒星ではみられない大きなもので、しかも、X線は塵粒子を気化させるのには効率が悪いので、この説も可能性は低いとみられる[ 3] 。
X線での観測については、ROSAT の全天掃天観測 でまず検出され、XMM-Newton でも観測されており、赤外超過がなくなった後にはチャンドラ による観測が行われたが、X線の爆発的な放射を示すような変化はみつかっていない[ 6] [ 16] 。
コロナ質量放出
コロナ質量放出 の例(太陽 の場合)
より効率的に塵粒子を消滅させる仕組みとして、コロナ質量放出 が提唱されている[ 17] 。うまくすれば、2年と言わず日単位で赤外超過を大きく変えることが可能になるが、太陽で観測されているコロナ質量放出は、放出方向が限られており、都合よく円盤を消すことができるかどうかわからない[ 16] 。そして、太陽以外の恒星では、コロナ質量放出が(まだ)直接観測されていない。
脚注
注釈
^ 距離(光年 )は、距離(パーセク )× 3.261564 により計算。
^ 視等級 + 5 + 5×log(年周視差(秒))より計算。小数第1位まで表記
出典
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関連項目
外部リンク
座標 : 12h 09m 02.2550s , −51° 20′ 40.972″