MiG-31 (航空機)MiG-31(ミグ31、ロシア語:МиГ-31 ミーク・トリーッツァチ・アヂーン)は、ソビエト連邦のミグ設計局が開発した大型戦闘機。当初はソ連防空軍向けの迎撃戦闘機として開発された機体だが、ソ連崩壊後にマルチロール機として改修された機体も存在している[1]。 ソ連初の第4世代戦闘機で、MiG-25をベースに大幅な改良を行った機体である。原型機のMiG-25は高高度・高速の航空機の迎撃に特化し、低空進入する巡航ミサイルや爆撃機への対応能力には劣っていたが、本機は各種改良によってそれを改善している。NATOコードネームはフォックスハウンド (Foxhound)。 開発経緯MiG-25はXB-70爆撃機(開発中止)やSR-71偵察機のような、高高度をマッハ2を大きく超える速度で飛行する超音速機の迎撃に特化した迎撃機であった。しかし大陸間核弾道弾の大幅な進歩もあって、高高度を超音速で侵入する爆撃機・攻撃機による核攻撃は時代遅れとなり、代わって核を搭載した巡航ミサイルや戦闘機の護衛を伴った爆撃機がレーダー覆域の下を地面すれすれの低高度で侵入する方法が取られるようになっていった。低空・亜音速での燃費が悪いエンジンを搭載し、自機より低高度で地面を背景にした目標を探知・攻撃する能力(ルックダウン・シュートダウン能力)の良くないレーダーを搭載したMiG-25はこのような目標の迎撃には不向きであり、改良が望まれていた(皮肉にも、低高度侵入の有効性とルックダウン能力に劣る戦闘機の問題点を浮き彫りにしたのは、当のMiG-25による1976年の「ベレンコ中尉亡命事件」であった)。低空飛行する目標への攻撃能力を持つ戦闘機の開発が求められるようになり、MiG-29やSu-27といった機体の開発が始められたが、これら新型機の実用化には時間を要するため、実用化までの穴埋めをする戦闘機が必要となった。この新型機を低リスクで開発するため、MiG-25をベースに大幅に改良されて誕生したのがMiG-31である。しかし実際は単なる繋ぎではなく、北部シベリアなど地上レーダーからの管制を受けられない地域でも単独で迎撃を行える、全く別の長距離迎撃機として開発された。 開発は1968年に着手され、原型機のYe-155MPは1975年9月16日に初飛行を果たしている。機体構成はMiG-25とほぼ同様であったが、操縦席は単座から複座となり、主翼前縁付け根部分が前方に延長され、MiG-25に取り付けられていた主翼端の対フラッタ用マスバランスは外されていた。その後の開発試験を経て、1979年には生産が開始された。1982年には国土防空軍に配備され、従来のSu-15およびTu-128の置き換えを開始した。1983年9月に極東サハリンに配備された。1995年までに、500機を超えるMiG-31/Bが生産された。 超高速を実現するため、チタン合金を採用していると西側では予測していたが、実際のところ鋼材とのハイブリッド使用によって超高速時の機体の耐熱限界温度の向上に成功している。翼面荷重は同じ第4世代戦闘機の大型機で同様の任務を持つF-14よりも大きく、世界最大の旋回半径を持つ戦闘機とも呼ばれる。 特徴MiG-31の基本的な外形はMiG-25と似ているが、改良点は多岐に渡っている。主なものは以下の通りである。
また、MiG-31は操縦が複雑で扱いの困難な機体であり、同機を運用するカザフスタン軍の操縦士によれば、僅かな過失や判断の遅れが致命的な事故を齎すという[4]。同軍では訓練生がL-39練習機を経てすぐにMiG-31の操縦士に割り当てられることはなく、Su-27やMiG-29、Su-25といった他機種で飛行経験を積んだ後で、機種転換のための再訓練を受ける流れになっている[4]。機体の空力特性と戦闘行動の習得、КТЭ-31というMiG-31で起こりうるあらゆる状況を再現するシミュレータでの訓練を完了した後、実機の慣熟飛行を完了した上でパイロットとして勤務することになる[4]。このためかMiG-31の操縦士は階級の高い者が多い[注 2]。なお、兵装システム士官の訓練プログラムはよりシンプルで、こちらは飛行学校を卒業したばかりの訓練生も配備されるという[4]。 設計機体MiG-25に近い外形を持つMiG-31であるが、構造的な変更も多い。使用材料の見直しを図り、MiG-25の構造重量で80%あったニッケル鋼を50%まで減らした。一方でチタンは8%から16%、アルミニウムは11%から33%に増やし、速度面である程度妥協して機体を軽量化している。胴体の大型化と、垂直尾翼内へ燃料タンクを設けたことなどにより燃料搭載量は15%ほど増して16,350kgになっている。主翼は構造が強化され、前縁フラップを新たに設けるとともに後縁フラップも自動制御となり、機動性能の向上に貢献している。主翼付け根前縁にはストレーキがあり、MiG-31M/F型では円弧を描く形状に変更されている。 機動性が良くなったとはいえ満載での超音速機動は5Gに、燃料等半減時でも7Gに制限されている。 降着装置については、前輪は後ろ引き込み式に変更、主脚はダブルタイヤのボギー式となり40tを超す重量を支える。滑走路への影響を考えて主脚輪は轍が重ならないようになっている。 エンジンMiG-31はアビアドビガーテル (旧ソロヴィヨフ) D-30F-6ターボファンエンジンを搭載する。ドライ時で93.0kN(9493kg)、アフターバーナー時で151.9kN(15,500kg)の出力を発揮しており、MiG-25のR-15に比べて4,000kgほど向上している。大型化したエンジンに合わせノズル形状も変更されている。初期型ではノズルは可動式だったが、1984年の生産型から非可動になっている。胴体の幅が広げられたので2つのノズルは接触していない。MiG-31Mでは機体重量の増加に合わせて、エンジンも出力向上を施されたD-30F-6Mを搭載している。 電子機器レーダーはチホミーロフNIIP「ザスロン」パッシブフェーズドアレイレーダー(NATOコード:フラッシュダンス)を搭載する。探知距離は200km、追尾距離は120kmに及ぶ。10目標同時追跡が可能で、R-33の搭載能力によるが4目標同時交戦も可能である。捜索範囲は左右各70度(モードによっては各120度)、上方70度、下方60度とかなり広い。また、攻撃目標の選択においては、ミッション・コンピュータの脅威度優先順位判断により自動的に行われる。 MiG-31Mの搭載する「ザスロンM」はRCSが0.95m2 程のAWACS機などの目標なら400kmの距離で探知できる能力を有し、24目標同時追尾、6目標同時交戦が可能。素子面直径は1.4mと「ザスロン」よりさらに大きい。 MiG-25になかった赤外線捜索追尾装置(IRST)を機首下に収納装備しており、使用時のみ機体の外にせり出して作動する。また、レーダーとの併用が可能である。MiG-31Mでは同様の場所に固定装備され、能力が向上しているとされる。 MiG-31MではECMポッドの搭載も検討されており、MiG-31Mの7号機が、Ye-155P3…11がつけていたような三角のフィンを持つECMポッドを翼端に装備した。 電子機器全般については、MiG-25のような真空管などは用いられておらず、完全にソリッドステート化されている。 MiG-31はAK-RLDNとAPD-518という2種類のデジタルデータリンクシステムを備えており、これは4機のMiG-31による連携運用を前提とするものである。前者は4機中のリーダー機が地上の管制所にあるレーダーの自動誘導ネットワークに組込むためのシステムであり、ソ連の防空戦闘機は地上からの誘導に従って行動するのを原則としていたので、交戦指示などを受けるためにこの能力を持っている。後者は残る3機のMiG-31との情報交換用のもので、4機を横に並んで飛行させ、個々の機上レーダーで得た情報をデータリンクで共有することで、水平方向に140度の範囲で800-1000kmの幅による機上レーダーでの哨戒が可能となっており、探知した目標に対しては、リーダー機が残る3機のMiG-31に任意に攻撃を指示することができる。また、MiG-25のような旧式機でもMiG-31側のサポートで情報共有を可能にしている。さらに、平行に並んだ4機のレーダーの情報をデータリンクを介して後方の制空戦闘機である1機のSu-27で統合して、これを基に最適な攻撃を行う新たな戦法が開発されている。
コックピットMiG-31はタンデム式に前後席を配し、前席にパイロット、後席にWSO (Weapon System Officer; 兵装システム士官) が乗る。前席には3色カラー表示のHUDが装備され、後席には大型のレーダースコープやIRST用の角型ディスプレイが装備されている。レーダーの操作は後席でのみ行えるようになっている。後席にも操縦装置が備えられており、前席が操縦不能となった場合には後席が前方を見るためのペリスコープを使用して代わりに操縦することが可能である。これは緊急時への配慮というより、練習機としての使用目的があったものと思われる。 MiG-31Mでは後席にCRT多機能ディスプレイ(MFD)3基が装備され、前席もHUD下にレーダースコープ(MFDではない)がついた。キャノピーのふくらみが増され枠も減ったため視界はかなり向上している。後席のCRTについてはMiG-31Fでも同様であるが、MiG-31BMではスコープが無くなり、液晶多機能ディスプレイが2つ追加されている。多くの対地兵装を扱うために改良が加えられ、レーダーモードの追加や、HOTAS概念の導入もなされている。 兵装固定兵装としてGSh-6-23 23mm ガトリング砲を右胴体下に装備している。弾倉などは胴体内に収めているが、砲身のみを機外に取りつける形をとっている。MiG-31Mでは取り外されている。Su-24での事故を受けてロシア空軍は現在この機関砲の実用を禁止しているので、搭載している機でも弾薬は積んでいない。 MiG-31は胴体下に4発のR-33を搭載でき、胴体下面の形状もこれに合わされている。前の2発は半埋め込み式で搭載される。このミサイルはアメリカ軍のAIM-54 フェニックスと似た運用思想を持つ。誘導方式はセミアクティブレーダー誘導か、慣性誘導ののち終末誘導でセミアクティブレーダー誘導に切り替わるモードを選択できる。射程は160km、飛翔速度はM4.5。MiG-31Bの製作に合わせてR-33Sに改良され、射程が228kmに延長された。さらにMiG-31Mは6発のR-37を半埋め込み式で搭載できる。こちらは制御翼面を折り畳むことができ、R-33と同様にAWACSなど大型の目標を狙うためのもので、射程は300kmを超える。1994年4月に行われたMiG-31Mの試験飛行では実際に300km先の標的を撃墜した。 MiG-31は翼下のパイロンにR-40、R-60、R-73を搭載できる。短射程ミサイルについては軽量なため専用のアタッチメントをパイロンに取りつけることで各2発装備できる。MiG-31MではR-77を4ヶ所の翼下パイロンに各1発ずつ装備できる。これはMiG-31BMでも同様である。 MiG-31BMはマルチロール機として計画されたため、各種対地兵装を装備できる。Kh-31P対レーダーミサイルを始め、Kh-25MP対レーダーミサイル、Kh-29Tテレビ誘導ミサイル、Kh-59画像・データリンク誘導ミサイルなどを運用でき、爆弾ならKAB-1500を3発まで、KAB-500を6発まで装備できた。 性能の変化MiG-31は、搭載レーダーの情報がスパイによって西側に漏れたため[5]、各種の変更・改良を行ったMiG-31Bが開発された。 1990年代には大幅な能力向上型のMiG-31Mが完成された。「ザスロン-A」より大型のチホミーロフNIIP「ザスロン-M」を大型化したレドームに搭載し、R-33の代わりに発展型のR-37長距離ミサイルを胴体下に6発、R-77中距離ミサイルを主翼下パイロンに4発搭載できるようになった。アビオニクスも能力向上が図られ、コクピット後席はCRTを3基備えグラスコックピット化されている。キャノピーも枠が減り大型化、視界が改善されている。機首プローブは右側へ移り、胴体右の機関砲は廃されている。主翼付け根のストレーキ形状が他の型と異なる。7号機には、翼端にはECM/ECCMの大型ポッドを装備して、その後部に大型の三角型の安定板が上下に延びている。これらの機体重量増加に合わせて、エンジンはパワーアップ型のD-30F-6Mが搭載されている。既存のMiG-31に前部胴体を移植した機を含め7機が完成したのみで、当時財政難であったロシアには採用されなかった。 この機体のアビオニクスをMiG-31Bに搭載したMiG-31BMは多目的戦闘機として開発された。外見上MiG-31Bとの大きな差異は見られないが、コクピット後席は2つの多機能ディスプレイ(MFD)が備わり、前席にもHUDの右側に従来の操作パネルを置き換える形で1基装備されている。そのほかにも、新型のHUD(ヘッドアップディスプレイ)、MFDにより拡張された戦術状況の表示機能、さらに対地攻撃能力を付与され、Kh-31対艦/対レーダーミサイル、Kh-59対レーダーミサイルなどを運用可能となっている。新造機としては製造されてはいないが、さらにレーダーなどを改良した型が、2011年の契約で60機が改修されている。 ミグでは対地攻撃性能を持たせる等したいくつかの輸出型を提案しているが、現在のところ輸出には成功していない。通常の輸出型のMiG-31Eは完成され長らく飛行状態にあるが、やはり機体が性能に比例して高価であるため発注は取れていない。一時期イランや中華人民共和国が関心を寄せていたが、経済性や政治的な問題から売買契約は締結されなかった。 派生型試作機
量産機
計画のみ
運用状況MiG-31は特殊かつ高度な性能を持った迎撃機であるため、ソ連防空軍にのみ配備された。ソビエト連邦の崩壊後、それらのMiG-31はロシア防空軍とカザフスタン防空軍に引き継がれ、現在でも迎撃能力のかなりの部分を担っている。ロシア防空軍機は、同軍の廃止、再編に伴い空軍と海軍航空隊へ移管された。前者は2015年に空軍と航空宇宙防衛軍が統合され、航空宇宙軍の機体となっている。ロシアに関しては「ロシアの空はMiG-31とSu-27が半分ずつ守っている」(前線戦闘機であり要撃任務には用いられないMiG-29を「守っている」数には含めていない)と喩えられることもあるほど重要な位置にある。極東方面では、沿海地方やカムチャッカ地方に配備されている[18]。 2011年時点で約170機[19]、2013年には122機と配備機数は減少しているが、既に改修された60機に加えてさらに50機のBM型への改修を国防省では要求している[20]。 ロシア航空宇宙軍では2026年頃までMiG-31を運用する予定で[21]、後継機としてはMiG-41を開発中で2028年から配備予定である[22]。 カザフスタンでの運用は長らく情報が公開されていなかったが2006年には運用機が一般に公開され、運用が継続されている。 ロシアがウクライナ紛争において併合したクリミア半島にあったセヴァストポリ国際空港は、ロシア航空宇宙軍のベルベク空軍基地として使用されており、MiG-31BMが配備されている。MiG-31BMは超高空から200マイル(約321キロ)の射程を持つ長距離空対空ミサイルR-37Mで攻撃できるため、50マイル(約80キロ)の射程しかないR-27ミサイル搭載のウクライナ空軍のSu-27にとって脅威となっていると報道された[23]。 2023年4月27日、ロシアのムルマンスク地方のモンチェゴルスクでロシア航空宇宙軍のMiG-31BMがエンジン火災により墜落した。なおパイロットは2人共脱出に成功し無事である。7月4日には飛行訓練中の機体がアバチャ湾付近で墜落し、乗員2名が死亡した[24]。 防空軍(1991-) - ソ連崩壊後、カザフスタン北東部のジャナ・セメイ基地に所在していた、旧ソ連軍トルキスタン軍管区防空軍第12軍第356戦闘航空連隊の機体を引き継いだ[4]。2019年時点では、稼働全機がカザフスタン中央部の第610基地(軍民共用であるサリーアルカ空港の中にある)に所在する2個飛行隊に集中配備されている[4]。なお、衛星写真では第607基地(旧ジャナ・セメイ基地)にも10機の駐機が確認されているが、移動の形跡が見られず冬季の除雪も最小限であるため、部品取り用などの非稼働機とみられている[4]。サブタイプはMiG-31B/BSと、近代化改修型のMiG-31BM/BSMとされる[4]。保有機数は資料によって諸説あり、IISSの「The Military Balance 2023」では31機[25]、イカロス出版の「世界の名機シリーズ MiG-31 フォックスハウンド」では2018年6月の現地取材時点で実動25機としている[4]。 スペック
登場作品アニメ・漫画
ゲーム
脚注注釈
出典
参考文献
外部リンク
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