HR 6819は、太陽系から見てぼうえんきょう座の方向約1,120光年の位置にある恒星系で5等星。2020年5月、「HR 6819星系にブラックホールが存在する」とする研究結果が発表され、太陽系に最も近いブラックホールの発見として話題となった。しかし、提唱者を含む研究チームから2022年3月にブラックホールの存在を否定する研究結果が発表されたことにより、2022年3月現在この星系にはブラックホールは存在していないものと考えられている。
特徴
B型のスペクトルを持つ巨星による連星系で、ガイア計画で観測された年周視差によると地球から約1,120光年の位置にある[注 1]。この連星系は従来さそり-ケンタウルスOBアソシエーション (Sco-Cen, Sco OB2) のメンバーと考えられていたが、2010年代の研究では、現在たまたま近くに位置するだけで、Sco OB2の星々よりも古い星系であるとされている[4]。
ブラックホールの存在の可能性
2020年5月、この連星系にブラックホールが存在するというヨーロッパ南天天文台 (ESO) の研究結果が発表された[4][5]。このブラックホールが実在すれば、既知のブラックホールで最も太陽系に近いとされていたいっかくじゅう座X-1(約3,500光年)よりもさらに太陽系に近く[4][5]、また肉眼で観ることができる、すなわち視等級が6等より明るい恒星系で発見された初めてのブラックホールとなる[4]ため、話題となった。
この連星系は、B型巨星とブラックホールの連星の周囲を、古典的Be星が一定でない周期で公転するという、階層的な三重連星を成していると考えられた[4]。中心の連星系は40日の周期で互いの共通重心を周っており、主星の質量は太陽の6.3倍、ブラックホールの質量は5.0倍と推定された[4]。この連星系からは強いX線が観測されていないため、ブラックホールと主星との相互作用はほとんどなく、既知のブラックホールのような降着円盤が存在しないと考えられた[4]。
しかしこの説に対しては、Be星と白色矮星の連星系[6]、またはB型巨星とBe星の連星系[7]など、ブラックホールの存在を仮定しなくても説明できるとする反論も出された。
名称
HR 6819 は、輝星星表での名称で、ヘンリー・ドレイパー・カタログではHD 167128、変光星としてはぼうえんきょう座QV星と命名されている。
脚注
注釈
- ^ a b c パーセクは1 ÷ 年周視差(秒)より計算、光年は1÷年周視差(秒)×3.2615638より計算
- ^ 視等級 + 5 + 5×log(年周視差(秒))より計算。小数第1位まで表記
出典
- ^ a b c d Hoffleit, D.; Warren, W. H., Jr. (1995-11). “Bright Star Catalogue, 5th Revised Ed.”. VizieR On-line Data Catalog: V/50. Bibcode: 1995yCat.5050....0H. https://vizier.cds.unistra.fr/viz-bin/VizieR-5?-ref=VIZ5a76628e9487&-out.add=.&-source=V/50/catalog&recno=6819.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r “HD 167128”. SIMBAD Astronomical Database. CDS. 2020年5月6日閲覧。
- ^ a b c Samus’, N. N.; Kazarovets, E. V.; Durlevich, O. V.; Kireeva, N. N.; Pastukhova, E. N. (2017). “General catalogue of variable stars: Version GCVS 5.1”. Astronomy Reports 61 (1): 80–88. Bibcode: 2017ARep...61...80S. doi:10.1134/S1063772917010085. ISSN 1063-7729. https://vizier.cds.unistra.fr/viz-bin/VizieR-5?-ref=VIZ600b557ab5e6&-out.add=.&-source=B/gcvs/gcvs_cat&recno=53982.
- ^ a b c d e f g h i Rivinius, Th. et al. (2020). “A naked-eye triple system with a nonaccreting black hole in the inner binary”. Astronomy & Astrophysics 637: L3. arXiv:2005.02541. Bibcode: 2020A&A...637L...3R. doi:10.1051/0004-6361/202038020. ISSN 0004-6361.
- ^ a b "ESO Instrument Finds Closest Black Hole to Earth" (Press release). ESO. 6 May 2020. 2020年5月6日閲覧。
- ^ Gies, Douglas R.; Wang, Luqian (2020). “The Hα Emission Line Variations of HR 6819”. The Astrophysical Journal 898 (2): L44. arXiv:2007.05797. Bibcode: 2020ApJ...898L..44G. doi:10.3847/2041-8213/aba51c. ISSN 2041-8213.
- ^ Bodensteiner, J.; Shenar, T.; Mahy, L. et al. (2020). “Is HR 6819 a triple system containing a black hole?”. Astronomy & Astrophysics 641: A43. arXiv:2006.10770. Bibcode: 2020A&A...641A..43B. doi:10.1051/0004-6361/202038682. ISSN 0004-6361.
関連項目