D-STAR
D-STAR(ディー・スター、英語: Digital Smart Technologies for Amateur Radio)は、1990年代末に日本アマチュア無線連盟が開発した音声モードとデータモードとをもつデジタル化されたアマチュア無線通信網である。2000年代に入り実用化され、米州、欧州、アジアなどの各国でも使用されている[1]。 概要最小偏移変調とパケット通信を採用した規格により、従来と同様の無線機同士直接の通信又はレピータを介した通信の他に、レピータ間の中継ができるよう設計されているなどの特徴がある。アマチュア無線では他のデジタル通信規格も開発され実用化されているが、D-STARはアマチュア無線専用に開発された最初の規格である。 D-STARはHF、VHF、UHFなどのマイクロ波帯のアマチュア無線周波数帯で使用出来る。無線配信プロトコルに加え、ネットワーク接続性も装備しており、D-STAR無線機がインターネットなどの通信網に接続し、音声やパケットデーターがアマチュア無線を介し送受信出来る様になった。 D-STAR無線機は、アイコム、ケンウッド、フレックスレディオ・システム[2]が生産している。 モード通信モードには、DV(Digital Voice:デジタル音声)モードとDD(Digital Data:デジタルデータ)モードとの2種類がある。 DVモード音声を2.4kbpsに符号化し、GMSKで変調して占有周波数帯幅6kHzで送信するモードである(後述のDDモードの上にイーサネット電話又はIP電話を乗せているものではない)。音声用コーデックには、デジタル簡易無線と同じAMBE(英語版)が用いられている。 電波型式はF7W DVモードは4.8kbpsのデジタルデータ通信機能を持ち、電子工作でよく使われるXBeeやBluetooth SPP等と同じ様にArduinoやRaspberry Piと接続することで、インターネットを使わずに数km~100km以上の長距離データ通信が可能となっている。この機能は安価なハンディ機を含む全てのD-STARトランシーバに搭載されている。D-STARトランシーバに標準で搭載されている位置情報システムDPRSもこのデータ通信機能を利用しており、移動局からの信号を受信するとデータ端子から相手局の情報が出力される。また、ID-5100等の一部の機種ではデータ端子に温度や湿度等の各種センサーを接続する事で単独でDPRS(APRS)ウェザーステーションを運用できるソフトウェアを搭載している。 これらのDVデータ機能は、メーカー製のD-STARトランシーバを用いる場合は技適に含まれているので、時間のかかる保証認定や送信機系統図の提出なく、アマチュア無線局の免許を取得すれば即日利用可能となっている。 対応するバンドプランDVモードを利用する時は、通信内容が音声かデータかに関わらず、バンドプランは「広帯域の電話・電信・画像」を使用する事とされている。 データのみで使用する場合も、無線局運用規則第二百五十八条の二の規定[3]に基づきF7Wは「広帯域データ」の範囲で使用する事ができない。 DPRSのシンプレックス運用438.01MHzにて、DPRSやウェザーステーションの自動送受信が行われている[4]。 D-STARトランシーバの自動送信タイマーを設定する事で、位置情報や気象情報を自動的に送信し多数のアマチュア無線局同士で位置情報や活動状況を共有する事によるコミュニケーションの活発化、移動地のPR、登山時の遭難予防などにも役立てる事ができる。 D-STARトランシーバの位置情報機能であるDPRSは通常レピータを通してAPRS網に配信される仕様となっていたが、トラッカーやウェザーステーション等で自動送信する場合も区別なくレピータが中継動作してしまう問題があり、音声通話を目的にワッチしている局からは迷惑であるとされるも、JARLのD-STAR委員会担当者はブログで使用禁止[5]とアナウンスするばかりで具体的な解決を行う事なく放置していた。しかし、2009年頃[6]から埼玉県の堂平山に有志[7]により438.01MHzでシンプレックスi-gate局が設置されるようになり[8]、それから10年遅れてやっとJARLのD-STAR委員会担当者もシンプレックスi-gate局の開設について案内するようになった。それに伴い、長年放置されていた配信クライアントソフトウェアのバグも修正された[9]。 DVゲートウェイ機能ターミナルモードD-STARトランシーバをPCやスマホを介してインターネットに接続し、直接他のレピータ局へアクセスする事ができる機能。付近にD-STARレピータが無かったり、自宅からアンテナを出す事が困難、付近のレピータが悪質な利用者に占拠され使い物にならない、等の場合等に、インターネット環境さえあれば安心して運用する事ができる。 AMBEコーデックの権利に縛られている都合上、PCやスマホから直接通話する事ができず、必ずD-STARトランシーバ実機を用意する必要がある。 アクセスポイントモードD-STARトランシーバをPCやスマホを介してインターネットに接続し、私設のD-STARレピータとして使える機能。1台のアクセスポイント局を複数局で共有して利用する事ができる。 この機能を運用する場合は、バンドプランはVoIPの範囲内に設定する必要がある。 DDモード1200MHz帯を使用する、占有周波数帯幅150kHzで速度128kbpsのデジタルデータ通信モードである。LANケーブルを接続する事ができ、簡単にイーサネット接続ができる。 電波型式は150KF1D 市販モデルとしてはアイコムのID-1(2014年に生産終了)と、IC-9700,IC-905がDDモードに対応している。高級機の付加価値として搭載されている程度であり、IPネットワークに理解や興味のある若年層が購入できる価格帯の機種はリリースされておらず、2021年現在でも活用例は全く存在しない。 前方誤り訂正が含まれていないため、データエラーには上位層が再送を行うことによって対応する。そのため、マルチパス等によってエラーレートが上がると輻輳が生じて伝送速度が著しく低下するという問題がある。 また、DDレピーターにアクセスすることによってインターネット接続が行えるが、先述の通りシビアな条件と回線速度が低速度なことから、阿部寛のホームページを開くこともままにならない。 対応するバンドプランDDモードは「データ」を使用する。 「ATV、高速データ」は無線局運用規則第二百五十八条の二の規定の注17[10]に基づき占有帯域幅が9MHz未満であるため使用する事ができない。 従来のパケット通信との互換性2000年以前に使われていた、ターミナルノードコントローラを利用する従来のパケット通信 (アマチュア無線) による、AX.25(en:AX.25)にIPを乗せたTCP/IP通信とは全く異なり、互換性はない。D-STARのDDモードはイーサネットであるため、もし相互運用する場合は一旦レイヤ3を通す必要がある。 中継デジタルレピータ局間は、5GHzまたは10GHz帯レピータアシスト局による10Mbpsの非同期転送モード(ATM)回線(アシスト回線という)、もしくはレピータに接続されたゲートウェイと呼ばれるホストPC間のインターネット接続により中継ができる。DDモード上のTCP/IPについては、ゲートウェイから外部のインターネットへも接続できる(D-STAR方式のレピータを、ここではデジタルレピータと書く)。 利用ローカル局同士直接のデジタル音声・デジタルデータ通信も可能であるが、ローカル局の無線機からデジタルレピータを経由して相手先の無線局又は更にアシスト回線、ゲートウエイ局経由のインターネット回線などのデジタル幹線網を経由して別のデジタルレピータを経由して相手先の無線局と通信する、という利用法が広く行われている。 応用として、DVモードのデジタル音声通信と同時にGPSとDVモードの4.8kbpsデジタルデータ通信機能を利用して、位置情報をリアルタイムに交換しあう通信方法が利用されている。 また、D-STARトランシーバとスマートフォンをUSB-シリアル変換ケーブルで接続し、アイコム公式のスマートフォンアプリ「RS-MS1A」を用いる事で、D-STARトランシーバ同士で写真やテキストデータの送受信が可能となった。[11]また、写真はスマートフォンアプリやWindowsのアプリで用意する必要はあるが、一部の無線機でアプリを使用せずに無線機単体で写真の送受信が出来るようになった。 他にも、ダン・スミス(KK7DS)により開発されたソフトウェア「D-RATS」[12]を用いる事で、DVモードでのチャットやファイル共有機能が実現されるなど様々な広がりを見せている。 2006年9月以降に周波数などが再編成され、430MHzでのDVのレピータ局も増設された。D-STARのレピータは、当初、日本国内(G1=第一世代)だけだったが、珍しく日本発の規格が欧米に広がり世界規模のアマチュア無線デジタル網に育った。2015年現在、世界のレピータ数:1000程度、日本国内:160以上と、後発の欧米のレピータは世界のレピータ群串刺しの反射板(レフレクタ、Reflector)と接続できるなど仕様が新しい(G2=第二世代)。 日本でもレフレクタ等の応用技術の開発や利用が一時期盛んに行われ、アンテナの設置が難しい環境や、ハンディ機しか持っていないニューカマーや、高価な無線機が買えない若年者でも気軽に無線交信を楽しむ手段になると話題になったが、JARLが告知なく自作機器からのアクセスの通信ブロック[13]や、問い合わせを無視する等の妨害を行ったため、急速に衰退した。 諸外国ではDVモードに対応したアマチュア衛星が打ち上げられ、レピータや教育用として活用されている。 歴史
搭載機種D-STAR方式を搭載した市販されている機種は次の通りである。 アイコム
ケンウッド
応用ソフトウェアD-STARを活用したソフトウェア
脚注
関連項目外部リンク
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