『狂った果実』(くるったかじつ)は、石原慎太郎の短編小説。1956年(昭和31年)、文芸雑誌『オール讀物』7月号に掲載。単行本は同年7月10日に新潮社より刊行された。同名のタイトルの映画作品も同年7月12日に公開された。
作品成立
夏久・春次兄弟のキャラクター設定はフョードル・ドストエフスキーの小説『白痴』に登場する、レフ・ニコラエヴィチ・ムイシュキン公爵とパルフョン・セミョーノヴィチ・ロゴージンのそれから取った。本作に登場するシーンも『あちこちの作品から拝借』していた(そのため、映画の撮影時に石原裕次郎が「ここはあの作品の○○のシーンだな」などと撮影現場で度々口にしていたという)。
執筆は葉山町にある旅館の離れで行い、原稿用紙100枚の小説を「たったの8時間」ほどで仕上げた即席短編小説である。兄がスポーツマンで女性にもてて、弟が内向的で女性にもてない文学青年という設定は、実際の石原兄弟を逆転させたものである。
あらすじ
夏の逗子海岸で、大学生と高校生の兄弟二人が、ヨットやボートで遊んでいる。兄の夏久は、太陽族と呼ばれ、享楽的で不良っぽい。反して弟の春次は、かたくて純真なタイプで、女性にもうぶである。あるとき、二人は恵梨という美女と海で知り合う。春次は彼女に惹かれ、真剣な思いで次第につきあうようになる。ところが別の日に横浜のクラブで恵梨を見かけた兄の夏久は、彼女に夫がいたことを知る。春次との浮気を正当化する恵梨だが、夏久は弟に言わない代わりに自分と浮気するように迫り、強引に抱きしめ関係を持ってしまう。恵梨は春次に心はあるものの、夏久の魅力、肉体にも惹かれていく。あるとき夏久は、弟を出し抜いて恵梨をヨットで海に連れ出し、弟も夫も捨てて俺についてくるようにと迫る。平沢から恵梨と夏久に関する総ての出来事をぶちまけられた春次は、憑かれたようにモーターボートで二人の後を追った。早朝の海の上、春次は夏久と恵梨の乗ったヨットの周囲を乗り廻しながら、無表情に二人を眺めていた。夏久は耐えられなくなり思わず「止めろ、恵梨はお前の物だ」と叫ぶなり彼女を弟めがけて突きとばした。その瞬間、舳先を向け直した春次のモーターボートは恵梨の背中を引き裂き、夏久を海中に叩き落してヨットを飛び越えた。白いセールに二人の血しぶきを残したヨットを残して、モーターボートは夏の太陽の下、海の彼方へと疾走して行った。
映画
1956年、日活により映画化・公開(太陽族映画)された。石原慎太郎が同名の原作小説を書き始める段階で日活から「映画化したい」という話があり、慎太郎が弟・裕次郎の主演を条件に承諾したという。慎太郎自身が脚本も手がけている。
当初、日活側は裕次郎を弟の春次役に起用し、兄の夏久には三國連太郎を起用しようとしたが、「役回りが年齢的に自分に合わない[注釈 1]」という理由で三國が辞退したため、慎太郎はある結婚式でたまたま見かけた1人の少年のことを思い出した。それが津川雅彦であり、最後には「彼でなければ駄目だ」という慎太郎の強力な推薦により春次役での出演が決定、裕次郎は夏久役に回った。ちなみに、津川の芸名もこの作品に出演した時に慎太郎が自らの小説『太陽の季節』のメインキャラクター「津川竜哉」から命名した(いずれのエピソードも慎太郎の小説『弟』に詳細が書かれている)。
石原裕次郎の実質的なデビュー作品である。後に結婚に至る北原三枝(=石原まき子)との初共演もこの作品であった。
現代音楽作曲家、武満徹が初めて映画音楽を担当した映画である。
公開後エピソード
評論家、四方田犬彦はこの映画が、日本の事情を知らないフランソワ・トリュフォーから評価されたことを指摘している[1][注釈 2]。
石原慎太郎がパチンコ業界に対して「パチンコやめちまえ」と暴言を吐いた際、パチンコ業界は「狂った果実」と石原を批判した。本作出演時の裕次郎のギャランティの金額がクイズ番組の問題で出されたことがあり、「2万円」であったという[注釈 3]。なお、『海浜の情熱』というタイトルで海外でも上映されている。
石原裕次郎は、翌年公開された『嵐を呼ぶ男』で銀幕のスターの地位を確立した。これによって日活映画は生真面目な文芸映画や純愛ものの作品からアクションに路線が変わっていく。また、松竹などの優男や女性のメロドラマなどが急速に人気を失い、映画界の様相が変化したと言われている[2]。
キャスト
スタッフ
テレビドラマ
2002年9月9日、TBSの単発スペシャルドラマにて『狂った果実2002』として放送された。舞台設定を現代に変更している。
キャスト
スタッフ
脚注
注釈
- ^ 本作の撮影時点で三國は33歳、裕次郎は21歳であった。
- ^ 四方田犬彦は、「パリでたまたまこの作品を観たフランソワ・トリュフォーは、まだ『大人は判ってくれない』(1959年)を監督する前であったが、長文の批評を書き評価した。私見するに『狂った果実』はクロード・シャブロルの『いとこ同志』(1959年)になんらかの示唆を与えている『はずである』」と解説[1]。
- ^ 1989年10月12日放送『大橋巨泉のクイズまるごと20世紀』。ちなみに同番組では『嵐を呼ぶ男』出演時の裕次郎のギャラについても150万円と紹介している。
出典
参考文献
栗原裕一郎・豊崎由美『石原慎太郎を読んでみた』(原書房、2013年):石原をからかっている書籍である。
外部リンク
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1950年代の著書 |
灰色の教室 - 太陽の季節 - 処刑の部屋 - 日蝕の夏 - 理由なき復讐(改題前:喪失)- 黒い水 – 北壁 – 透きとおった時間 – 婚約指輪 - 狂った果実 - 青春にあるものとして - 若い獣 - 完全な遊戯 - 海の地図 - 価値紊乱者の光栄 - 月蝕 - 亀裂 - 夜を探がせ – 乾いた花(改題前:渇いた花) - 男の掟 – 鱶女 - ファンキー・ジャンプ - 殺人教室
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1960年代の著書 |
青年の樹 - これが恋愛だ - 南米横断一万キロ - 挑戦 - 見知らぬ顔 - 青い糧 - 汚れた夜 - 死んでいく男の肖像 - 雲に向かって起つ - 禁断 - 断崖 - 狼生きろ豚は死ね・幻影の城 - 日本零年 - 密航 - てっぺん野郎青雲編 - 死の博物誌 - 石原慎太郎文庫 - 行為と死 - てっぺん野郎昇竜編 - 銀色の牙 - 傷のある羽根 - 終幕 - 青春とはなんだ - 命の森 - 星と舵 - おゝい、雲! - 砂の花 - 人魚と野郎 - 大いなる海へ - 還らぬ海 - 飛べ、狼 - 孤独なる戴冠 - 青い殺人者 - 野性の庭 - 黒い環 - 青春との対話 - 巷の神々 – 待伏せ - 怒りの像 - 祖国のための白書 - 野蛮人のネクタイ - プレイボーイ哲学 - 鎖のついた椅子 - スパルタ教育
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1970年代の著書 |
慎太郎の政治調書 – 化石の森 - 慎太郎の第二政治調書 - 男の世界 - 野蛮人の大学 - 真実の性教育 - 信長記 - 酒盃と真剣 - 石原慎太郎短編全集 - 新和漢朗詠集 - 男の海 - 対極の河へ - 息子をサラリーマンにしない法 - 風の神との黙約 - 真の革新とはなにか - 伯爵夫人物語 - 大いなる手との黙約 - 情熱のための航海 - 光より速きわれら - 刃鋼 - 暗闇の声 - 嫌悪の狙撃者 - 型破りで勝つ! - 戦士の羽飾り - 一点鐘
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1980年代の著書 |
亡国 - 大いなる海へ - 秘祭 - バカでスウェルな男たち - 暗殺の壁画 - 流砂の世紀に - 現代史の分水嶺 - 拝啓息子たちへ - 生還
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1990年代の著書 |
不思議な不思議な航海 - わが人生の時の時 - 時の潮騒 - 光速の時代に - 十代のエスキース - 来世紀の余韻 - 三島由紀夫の日蝕 - 禁断の島へ - 遭難者 - かくあれ祖国 - 風についての記憶 - わが人生の時の会話 - 亡国の徒に問う - 肉体の天使 – 弟 - “父”なくして国立たず - 法華経を生きる - 国家なる幻影 - 聖餐
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2000年代の著書 |
この日本をどうする - いま魂の教育 - 生きるという航海 - 僕は結婚しない - 東京の窓から日本を - わが人生の時の人々 - 老いてこそ人生 - 日本よ - 惰眠を貪る国へ - 息子たちと私 - 日本よ、再び - 石原愼太郎の文学 - 東京の窓から世界を - オンリー・イエスタディ - 私の好きな日本人 - 火の島 - 生死刻々
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2010年代の著書 |
声に出して詠もう和漢朗詠集 - 真の指導者とは - 再生 - 新・堕落論 我欲と天罰 - 平和の毒、日本よ - 石原愼太郎の思想と行為
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共著 |
新旧の対決か調和か - 人間の原点 - いかに国を守るか - エベレスト - 闘論 - 「NO」と言える日本 - それでも「NO」と言える日本 - 断固「NO」と言える日本 - 「No」と言えるアジア - 宣戦布告「NO」と言える日本経済 - 「アメリカ信仰」を捨てよ - 勝つ日本 - 永遠なれ、日本 - 人生への恋文 - 日本の力 - 生きる自信
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映画 | |
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深夜のメス - 幽霊と宝石と恋 - 見知らぬ顔 - この情報を買ってくれ - 分身 - 降霊 - 怒りの果実 - これが恋愛だ - 密航 - 殺人キッド - 青年の樹 - 死んでゆく男の物語 - 喪われた街 - 夜を探せ - 闇から来る - アラスカ物語 - 青い糧 - 断崖 - 雲に向って起つ - 夜の道 - 喪われた街 - 小さき斗い - 有馬稲子アワー 喪われた街 - てっぺん野郎 - 青春とはなんだ - おゝい雲! - 人魚と野郎 - おおい雲 - 恐怖の人喰い鱶 鱶女 - 太陽の季節 - 狂った果実2002 - 弟
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