方べきの定理(方冪の定理、方羃の定理、方巾の定理[1]、ほうべきのていり、英: power of a point theorem[2])は、平面初等幾何学の定理の1つである。
定理の主張
(図1、図2)円 O とその円周上にない点 P について、点 P を通る2本の直線 , m がともに円の割線(円との共有点が2個である直線)になっているとしよう。円と の交点を A, B とし、円と m の交点を C, D とすると、
が成り立つ。
(図3)また、P が円 O の外側にあり、P を通る直線の一方が円 O の接線となる場合にも、円と割線の交点を A, B とし、円と接線の接点を T とすると、
が成り立つ。
証明
P が円 O の内側にある場合
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左の図において、同一の弧に対する円周角は互いに等しいから
- ∠PAC = ∠PDB
- ∠PCA = ∠PBD
二角相等により
- △PAC ∽ △PDB
よって
- PA: PC = PD: PB
すなわち
- PA ・ PB = PC ・ PD
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P が円 O の外側にある場合
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左の図において、円に内接する四角形の外角の大きさは、その内対角の大きさに等しいから、
- ∠PAC = ∠PDB
- ∠PCA = ∠PBD
二角相等により
- △PAC ∽ △PDB
よって
- PA: PC = PD: PB
すなわち
- PA ・ PB = PC ・ PD
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直線の一方が接線になる場合
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左の図において、接弦定理により、
- ∠PTA = ∠PBT
また、共通の角として
- ∠TPA = ∠BPT
二角相等により
- △PAT ∽ △PTB
よって
- PA: PT = PT: PB
すなわち
- PA ・ PB = PT2
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方べきの定理の逆
方べきの定理は、適当な意味においてその逆が成立することが知られている。
平面上に相異なる4点 A, B, C, D があり、直線 AB と 直線 CD がただ一つの交点 P をもつとする。ここで次の条件を考える。
- (1)
- (2-1) P は線分 AB の内部の点であり、線分 CD の内部の点でもある。
- (2-2) P は線分 AB の外部の点であり、線分 CD の外部の点でもある。
(1)かつ(2-1)を満たすならば、4点 A, B, C, D を通る円(共円)が存在し、P はこの円の内側にある。
(1)かつ(2-2)を満たすならば、4点 A, B, C, D を通る円が存在し、P はこの円の外側にある。
また、平面上に相異なる3点 A, B, T があり、直線 AB 上に点 P があるとする。ここで次の条件を考える。
- (3)
- (4) P は線分 AB の外部の点である。
- (5) A, B, T は同一直線上にない。
(3)かつ(4)かつ(5)を満たすならば、3点 A, B, T を通る円(△ABTの外接円)の T における接線は P を通る。
いずれの場合も、もとの定理の証明を逆向きにたどるようにして、三角形の相似を利用して証明することができる。条件(2-1), (2-2), (4), (5)を外すことができないことには注意すべきである。
方べきの値
この節では、円をその中心点の名前を借りて円 O のように呼ぶことはせず、独立した記号を与えることとする。
平面上に点 O, P と、O を中心とする円 ω がある。P を通る直線 が ω と1つまたは2つの共有点をもつとし、それを A, B とする(共有点が1つのときは A=B として扱う)。
さて、P と ω が動かずに、 がさまざまに動くとき、A, B はつられてさまざまに動くが、 の値は変化しないことが方べきの定理からわかる。P≠O のとき、直線 OP を考えることにより、
と表すことができる。P=O のときにも、ω の任意の直径を考えることにより、やはり
が成り立つ。
そこで、P と ω のみによって決まる量
を定義すると便利である。この値を、P の ω に関する方べきの値(ほうべきのあたい)または単に方べき(ほうべき、英: power)という。記号には などが用いられることもある。
方べきの値は、P が ω の外側にあれば正、ω の内側にあれば負、ちょうど ω の上にあればゼロとなる。
学校数学で方べきの値が教えられることは少ない。
平面上の異なる中心をもつ2つの円の根軸は、方べきの値を用いて特徴付けられる[3]。
脚注
参考文献
外部リンク
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