出版不況
出版不況(しゅっぱんふきょう)とは、1990年代末から言われるようになった日本の出版業界の不況について指す言葉。「活字離れ」も参照。 市場規模の観点から、出版産業は1996年をピークに年々縮小する傾向が見られる[1]。 概要1996年の2兆6563億円[2]をピークとして2017年現在の売上は1兆3701億円と約1兆3000億円減少[3][4]している。1970年代から雑誌が書籍の売上を上回る「雑高書低」が続いていたが2016年、41年ぶりに逆転する[1]。雑誌は19年連続、書籍は10年連続の前年比割れが続いている[4]。電子書籍の市場は好調で前年比16.0%増の2215億円であった。 2018年(1〜12月期累計)の紙と電子を合わせた市場規模(推定販売金額)は、1兆5,400億円(前年比3.2%減)である。そのうち紙市場は1兆2921億円(5.7%減)で、14年連続の前年割れ、電子市場は2,479億円(11.9%増)で、過去最大を更新した。[1][2] 出版科学研究所によれば、2022年の出版市場規模(紙と電子の合計)は1兆6305億円(前年比2.6%減)で、4年ぶりに前年を下回った。紙の推定販売金額は1兆1292億円(前年比6.5%減)、電子出版は5013億円(前年比7.5%増)で、伸び幅は2014年に統計を始めて以来初めて1桁台となった[5]。 出版不況の原因のひとつとして挙げられるのが、「出版社 - 取次」間の問題として、老舗出版社や大手出版社と新規開業した出版社や中小出版社とを比較した場合「歩戻し」や「注文品の支払保留」などの取引条件に関して、後者の方がより厳しい状況に立たされているという点がある。また、これらの取引条件についての合理的な基準が明示されていないといった点も指摘されている[6]。また、電子書籍への対応が追いついていないため、さらなる不振も予測されている。 紙の出版業界が衰退した結果、「編集者のチェックを受けている出版物」(=いわゆる普通の「書籍」)の供給が質・量ともに減少し、「正確な知識の伝播」が損なわれる。また、書籍に替わる新規の知識獲得手段であるインターネットを利用できない情報弱者の知識獲得手段が奪われることとなる。その結果として、国民の知る権利が損なわれるとの懸念もある[7]。 また日本では、紙の出版不況の結果として書店数の急激な減少、特に「町の本屋」である小規模書店の廃業が続いている。詳細は「書店#書店数の減少」を参照。 なお、公共図書館におけるベストセラー書籍の「複本購入問題」として、同一書籍を大量に何冊も購入する事例を「買い占め」の観点から問題視されたことについては、2004年に日本図書館協会が調査報告を公表している。
年表
日本以外の出版不況とその対策イギリスイギリスでは出版不況が1995年の再販制崩壊の引き金を引き「不況は価格が高いせい」と大手出版社や書店が業界で結んでいた定価販売協定を脱退した。1990年代前半には独立系書店は4割近い販売シェアがあったが今は十数%に激減したといわれる。テレビと連動したタレント本など売れ筋が積まれる一方、価値の高い少部数の本は棚から消えるという『質より量』の風潮も出来た。大型チェーンが市場シェアの4 - 5割を握って値引きを迫り、出版社側も売れ筋に傾倒している。ただし、独立系書店の減少や市場における売れ筋への傾倒は、日本など他の国でも見られるため、再販制度がなくなったせいばかりであるとも言えない。 こうしたなかで最近では書店ビジネスの多様化が進められるようになっている。中堅出版社10社が提携した「インディペンデント・アライアンス」は独立系書店専用のベストセラー作家のサイン本を作ったり取引条件を大型書店と同等にしたりするなど「町の書店」の維持に本腰を入れている[112][113]。こうした試みは日本の現行の硬直化した出版流通システムでは難しいと言われている。 ドイツ同じヨーロッパのドイツでは比較的健闘が目立つ[112]。書籍の価格を拘束する再販制度を維持しつつ日本より効率的な流通システムを作り上げたドイツの出版界は少部数でも息長く市場に生き続けているのが特徴である。ただしドイツの書籍再販制度は新刊に限った時限再販であり、委託制ではなく買い取り制である。その点で日本の書籍再販制度とは大きく異なる。 流通の早さも日本とは段違いで、ドイツ中心部にある取り次ぎ大手リブリの巨大流通センターでは全国の書店の注文を受け50万点の在庫から本が選ばれ次々と箱詰めされていく。1日の注文数は25万冊に及ぶが在庫がある限り18時までの注文は必ず翌朝までに届ける。書店は流通ルートを持たない出版社と直接取引するよりも早く入手できる。 日本では取次会社が書店の要望と無関係に本を送ることもあるが、ドイツでは需要に応じて送るので本屋からリブリへの返品率は8%にすぎない(日本は約40%)。110万点に及ぶ書籍のデータベースが効率的な流通を支えている。業界統一の共有財産で出版社は刊行6ヶ月前にタイトルを登録するのがルールである。価格変更や絶版などの情報はその都度更新する。情報はオンラインで見られ書店はそれを元に注文する。 ドイツには、業界団体の書籍業組合が設立し、中世のギルドの伝統を受け継いだ書店人のための学校があり、読者の要望や知識欲をくみ「本を選ぶ能力」が備わった人材を育てている。ここでは、短期研修を含めて年間延べ1000人が学んでいる。返品率の低い理由の一つがここにある。 それでも経済のグローバル化に伴う資本集中の波とは無関係ではいられず「町の書店」は減っている[114]。 環境が激変したのは2006 - 2007年頃である。大手書店同士が経営を次々統合し、DBH(約470店)とターリア(約220店)という巨大チェーンが誕生した。両社を合わせて市場シェアはまだ14%程度だが零細の「町の書店」には充分脅威となる。 新興チェーンの店舗は伝統的書店と異なる。DBHグループの「ウェルトビルトプラス」は売れ行きが落ちた本の出版権を買い取り廉価版として出版したり店員の数を抑えて安値を強調したりするといった手法をとり、廉価本チェーンや大型店を展開し加えてネットやカタログなど、資本力を生かした多様な販売網で急成長を続けている。しかし、インターネットや効率的な流通システムは小さな書店にとっての武器にもなる。18時までに注文すれば翌日には本が届くので小さな書店でも大型店やインターネットに品ぞろえで対抗できるからである。「将来は大型チェーンと特定の分野に特化した専門店だけが生き残る時代になるのではないか」と予想する人もいる[誰?]。 参考文献
脚注
関連項目 |