一般用漢方製剤承認基準(いっぱんようかんぽうせいざいしょうにんきじゅん)とは、日本国にて漢方製剤に対し一般用医薬品として薬事承認を与える際の審査基準。漢方処方210処方の構成生薬の配合量の規格値や記載可能な効能・効果の範囲等が示されている。
本項は、特記しない限り日本における当該基準について記載する。
概要
一般用漢方処方に関する承認における基準については、1972年(昭和47年)11月から1974年(昭和49年)5月までの間、計4回にわたって厚生省(現厚生労働省)から承認審査の内規が公表され、実質的な承認における基準となっていた。この内規は、専門家の意見を踏まえ、漢方関係の成書に記載されており、長年使用されてきた処方の中から、一般用医薬品として適当な210処方を選び、その成分・分量、用法・用量、効能・効果を示したものであった[1][2]。また、この内規が掲載された書籍『一般用漢方処方の手引き』(厚生省薬務局監修、日本製薬団体連合会漢方専門委員会編、薬業時報社(現じほう社)発行)[3]を通じて210処方の規格等の内容が周知されたため、俗に“一般用漢方処方の210処方”や“いわゆる210処方”などと呼称されてきた[2][4]。
厚生労働省は、内規の制定から30年以上たった状況を受け、見直しの必要性を検討するため「一般用漢方処方の見直しを図るための調査研究班」(班長:合田幸広(国立医薬品食品衛生研究所))を設置し、この調査研究班の調査結果、パブリックコメントに寄せられた意見等を参考に、薬事・食品衛生審議会一般用医薬品部会における討議に基づき、現在では用いられなくなった用語の変更、その後の文献から有用性が認められる効能・効果を追加、加減方を分離(213処方へ)するなどの変更をおこなった一般用漢方製剤承認基準を2008年(平成20年)9月30日(薬食審査発第0930001号)に定め、翌日10月1日より適用している[1][5]。
さらに2010年4月1日、新基準に加減方23処方を追加し236処方へと増加した[6]。
その後2012年8月、新たな通知により294処方へ増加した。
内容
漢方処方の名称、成分・分量、用法・用量、効能・効果からなる[1]。
例:安中散
- 「成分・分量」
- 桂皮3-5、延胡索3-4、牡蛎3-4、茴香1.5-2、縮砂1-2、甘草1-2、良姜0.5-1
- 「用法・用量」
- (1)散・1回1-2g、1日2-3回
- (2)湯
- 「効能・効果」
- 体力中等度以下で、腹部は力がなくて、胃痛又は腹痛があって、ときに胸やけや、げっぷ、胃もたれ、食欲不振、はきけ、嘔吐などを伴うものの次の諸症
- 神経性胃炎、慢性胃炎、胃腸虚弱
変更点
内規(旧基準)からの変更点は以下のとおり[1]。
効能・効果等の追加・変更
- (1)文献に基づき、有用性が認められる効能・効果を追加(122処方)
- 旧基準では、昭和48年までの61文献を参考文献としていたが、それ以降出版された文献を加え94の文献を参考文献とした。その結果、例えば、葛根湯では、昭和53年出版の『漢方治療百話第四集』(矢数道明著)を初め、多くの文献に「鼻炎」に対して効果があるとの記載があり、検討班の臨床漢方医も、その効果について確認したことなどから、効能・効果として追加した。
- (2)内服するすべての処方にしばりを追加(99処方)
- 旧基準では、しばりの記載があるものとないものがあったが、今回の見直しに伴い、全ての内服薬について、その効能・効果をしばりと症状等の組み合わせによって表現することとした。
- (例)体力中等度かやや虚弱で、手足がほてり、唇がかわくものの次の諸症(諸症以下は略)
- (3)一般用医薬品としてわかりにくい効能・効果の変更(27処方)
- 一般用医薬品であることを考慮し、現在、社会一般で用いられなくなった用語を、よりわかりやすいものに変更した。
- (例)胃アトニー→胃腸虚弱、くさ(瘡)→湿疹・皮膚炎
- (例)「血の道症」の「効能・効果に関連する注意」として「血の道症とは、月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のことである。」を付記
用法・用量の見直し
小児用法の追加、散剤の追加等(44処方)
- 従前の「小児不可」とされている処方についての用法・用量は、参考とされた文献をみても、安全性に問題があるからではなく、効能・効果に関して、例えば月経不順等(温清飲)や五十肩等(独活葛根湯)の症状がその年齢では通常ありえないとの観点等からつけられたものと考えられる。しかし、今回新しく加わった効能・効果の皮膚炎等(温清飲)や寝違え等(独活葛根湯)については小児に対しても有効とされている。このため、あらためて「小児不可」とされている全ての処方を検証し、安全性を確保することができると判断されたものについては、小児用法を追加することとした。また、例えば平胃散の場合、『改訂新版漢方処方分量集』(昭和49年)には、散としての用法・用量が記載されており、そう使用する場合があることを検討班でも確認した結果、散剤としての用法・用量を追加した。
記載の整備
「朮」を「白朮」と「蒼朮」に分離等(123処方)
- 処方の構成生薬とその割合は、これまで処方の「成分及び分量」として表記されていたが、成分という表現は通常単一化合物に用いられるため「処方構成」とした。
- また、構成生薬の表記は、日本薬局方の別名として標記した漢字名を用い、これまで混乱のあったものを統一した。
- 例えば、「朮」については出来る限り「白朮」と「蒼朮」のどちらを用いるべきか示した。また、「乾生姜」は日局の「生姜」に該当するため、その記載に統一した。
- (例)乾生姜→生姜、朮→蒼朮(又は白朮)、丁香→丁子
加減方の分離
旧基準では単一の処方名であった加減方を個別の処方名として分離した[5]。
内規制定までの経緯
1970年(昭和45年)7月、厚生労働省薬務局製薬課に「漢方打合せ会」が発足し、大塚敬節、浅野正義、西本和光、菊谷豊彦が委員となり、事前に準備されていた632処方から一般用医薬品として適切であると考えられる346処方に絞り、1971年(昭和46年)10月、その結果を中央薬事審議会に送る。中央薬事審議会一般医薬品特別部会の下に「漢方生薬製剤調査会」が発足し、「漢方打合せ会」が選定した346処方に業界団体(日本製薬団体連合会の漢方専門委員会)の意見を反映し210処方の素案ができる[4][7]。210処方の出典は、『傷寒論』、『金匱要略』、『和剤局方』、『万病回春』、『外台秘要方』、『千金方』、『方輿輗』などの古典から取り上げ、『経験漢方処方分量集』(大塚敬節、矢数道明)、『漢方診療の実際』(大塚敬節、矢数道明、清水藤太郎)、『漢方診療医典』(大塚敬節、矢数道明、清水藤太郎)、『臨床応用漢方処方解説』(矢数道明)、『漢方医学』』(大塚敬節)、『明解漢方処方』(西岡一夫)など現代の漢方関連の成書を参考に、成分・分量、用法・用量、効能・効果などの案が作成された[2]。この素案をもとに中央薬事審議会にて審議・承認され、1972年(昭和47年)11月から1974年(昭和49年)5月までの間、計4回に分けて公表された[7]。
処方名
処方名の後ろに「*」を示した処方は2010年4月の追加処方。
あ
い
う
え
お
か
き
く
け
こ
さ
し
せ
そ
た
ち
つ
て
と
に
は
ひ
ふ
へ
ほ
ま
み
め
よ
り
れ
ろ
脚注