ポコマム語 (ポコマムご、Poqomam)はグアテマラ 東部のいくつかの町で話される言語[ 1] 。マヤ語族 の大キチェ語群に属する。ポコムチ語 と特に近い関係にあり、この2言語をポコム語群 と称する。
ほかのマヤ諸語から地理的に離れたスペイン語 地域の中に話者が点在しているため、言語をはじめ、民族文化を失いつつある[ 4] 。UNESCO の危機に瀕する言語 の分類では「危険」(definitely endangered)とされる[ 5] 。
概要
ポコマム語の話者は歴史的にはラビナル 盆地に住んでいたが、1250年ごろに東方に進出してきたキチェ族 によって追い払われ、グアテマラ東部の、もとシンカ が住んでいた土地に移動したと考えられている[ 6] 。
スペイン植民地時代にポコマム語は今のグアテマラ県 、エスクィントラ県 、ハラパ県 、フティアパ県 、および隣接するエルサルバドル のクスカトラン県 で話されていた[ 1] 。
現在ポコマム語が話される地域はエスクィントラ県 のパリン (Palín, Escuintla ) 、ハラパ県 のサン・ルイス・ヒロテペケ (San Luis Jilotepeque ) とサン・カルロス・アルサタテ (San Carlos Alzatate ) の3箇所が中心になっている。かつてグアテマラ県 のチナウトラ にもポコマム語の小さな中心地があった[ 1] 。
2005年のエスノローグ 第15版ではポコマム語を3つの言語に分けていたが[ 7] 、2009年にこの区別は廃止された[ 8] [ 9] 。
音声
ポコム語群はpʼを音素 として持ち、両唇破裂音 が p, pʼ, bʼ の3項対立になっている。同じ現象はユカテコ語群のすべて、チョル・ツェルタル語群のほとんどに見られ、地域特徴 と考えられる[ 10] [ 11] 。
歴史的なtz /ts/ が摩擦音のsに変化している。喉頭化音のtzʼの方は変化していない[ 12] 。
母音では歴史的な長母音 ee oo が二重母音に変化している[ 12] 。
文法
ポコマム語はほかのマヤ語と同様に能格言語 だが、大キチェ語群のうちでポコム語群のみは分裂能格 現象があり、ポテンシャル・継続相 において自動詞の主語がA型(能格 )の人称接辞で標示される[ 13] 。
マヤ祖語 以来の接中辞<h>を位置語根に加えた形の数分類詞が使われる[ 14] 。
脚注
^ a b c d Richards (2003) p.70
^ Pocomam Oriental , MultiTree, http://multitree.org/codes/poc
^ Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). “ポコマム語” . Glottolog 2.7 . Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History. http://glottolog.org/resource/languoid/id/poqo1253
^ 八杉(1999) pp.115-117
^ “Poqomam” , UNESCO Atlas of the World's Languages in Danger , http://www.unesco.org/culture/languages-atlas/en/atlasmap/language-id-1824.html
^ Campbell (2017) pp.54-55
^ Lyle Campbell (2008). “Reviewed Work: Ethnologue: Languages of the World by Raymond G. Gordon Jr.”. Language 84 (3): 636-641. JSTOR 40071078 .
^ Southern Pokomam (deprecated) , ISO 639-3, https://iso639-3.sil.org/code/pou
^ Eastern Pokomam (deprecated) , ISO 639-3, https://iso639-3.sil.org/code/poa
^ Bennett (2016) p.481
^ England and Baird (2017) p.175
^ a b England and Baird (2017) p.176
^ Zavala Maldonado (2017) p.234
^ Polian (2017) pp.202,219
参考文献
Bennett, Ryan (2016). “Mayan Phonology” . Language and Linguistic Compass (10): 469-514. https://people.ucsc.edu/~rbennett/resources/papers/pdfs/Bennett%20(2016)%20-%20Mayan%20phonology.pdf .
Campbell, Lyle (2017). “Mayan History and Comparison”. In Judith Aissen, Nora C. England, Roberto Zavala Maldonado. The Mayan Languages . Routledge. pp. 43-61. ISBN 9780415738026
England, Nora C.; Baird, Brandon O. (2017). “Phonology and Phonetics”. In Judith Aissen, Nora C. England, Roberto Zavala Maldonado. The Mayan Languages . Routledge. pp. 175-200. ISBN 9780415738026
Polian, Gilles (2017). “Morphology”. In Judith Aissen, Nora C. England, Roberto Zavala Maldonado. The Mayan Languages . Routledge. pp. 201-225. ISBN 9780415738026
Richards, Michael (2003). Atlas Lingüístico de Guatemala . Guatemala. https://www.url.edu.gt/publicacionesurl/FileCS.ashx?Id=40413
Zavala Maldonado, Roberto (2017). “Alignment Patterns”. In Judith Aissen, Nora C. England, Roberto Zavala Maldonado. The Mayan Languages . Routledge. pp. 226-258. ISBN 9780415738026
八杉佳穂 「文明の衝突と言語の力:中米諸語の存亡 」『月刊言語』第28巻第3号、1999年、114-121頁。
外部リンク