ヘラジカ (箆鹿、Alces alces )は、哺乳綱 鯨偶蹄目 シカ科 ヘラジカ属に分類される世界最大のシカ。
呼称
雄の成獣はへら のように平たい角 を持つことが和名 の由来であり、日本語では「オオジカ 」と呼ばれる場合もある。
英語 では、ユーラシア大陸 のヘラジカを「エルク (elk )」、北アメリカ のヘラジカを「ムース (moose )」と呼ぶ。エルクはゲルマン語 の単語であり、学名になっているラテン語 alces もおそらくゲルマン語からの借用である[ 注 1] 。ムースの語源は未同定だが、アルゴンキン語派 のいずれかの言語に由来していると考えられており、ナッラガンセット語のモース(moos )あるいはアベナキ語のモズ(moz )などが想定されている[ 5] [ 6] 。
なお、北アメリカではシカ属 のアメリカアカシカ (ワピチ)が「エルク」と呼ばれている[ 注 2] 。
分布
中国東北部 、アメリカ合衆国 北部、エストニア 、カナダ 、スウェーデン 、ノルウェー 、フィンランド 、ラトビア 、リトアニア 、ロシア 。北アメリカではツンドラまで生息する。夏には北極海 の沿岸で過ごす。時にはニューメキシコ州 の様な緯度帯で確認されることもある[ 7] 。
更新世 における分布は現在よりも広範囲に及び、例えば北海道 だけでなく日本列島 の中部[ 注 3] まで南下していたとされるが、後期更新世 にかけて他の多くの大型動物と同様に姿を消した [ 8] [ 9] 。
形態
生え替わった後の角が成長途中で換毛中でもある雄。
ノルウェー の白変個体。
頭胴長2.4-3.1メートル、尾長5 - 12センチメートル[ 10] 。肩高1.4-2.3メートル。体重 オス平均500キログラム、メス平均380キログラム。最大のオスは800キログラムに達する場合もある[ 11] 。体重が1トン 以上の記録も複数存在するともされるが、これらの記録の正確性は不明である[ 12] 。角は大きく、最大で200センチメートルを上回る。吻端は長くて太く、雄の咽頭部の皮膚は垂れ下がっている。これを「肉垂」という。
現生のシカ科では最大種であり、地球史上最大のシカであるヘラジカの仲間「ジャイアントムース(英語 )」や北米大陸史上最大のシカであるヘラジカの仲間である「スタグムース(英語 )」には若干劣るが、ギガンテウスオオツノジカ よりも体重があり、現生では二番目に大きなワピチ よりもはるかに体躯がある[ 13] 。
北方に生息する現生の陸棲動物では、バイソン属 に次ぐ大きさを持つ動物であり、体高では現生のバイソン属を上回る。しかし、人類による狩猟圧によってジャイアントバイソン [ 注 4] やステップバイソン (ギガス種)やムカシバイソン(英語 )等から大きく小型化し、近代の気候変動 によってさらに小型化しつつある可能性がある現生のアメリカバイソン とヨーロッパバイソン [ 14] [ 15] と比較すると、ヘラジカは上記の「ジャイアントムース(英語 )」[ 注 5] などと比較しても小型化の程度は限定的である。
生態
水草 を食べる個体。
針葉樹林 と針葉樹と落葉樹 の混合樹林に生息する。夏は単独もしくは数頭の群れで生活するが、冬になると10頭前後の群れを形成する。
食性は草食性で、木の葉 や樹皮、地面に落ちた種実類 、水草 等を食べる。代表例としてはヤナギ やカバノキ 。水場を好み、夏にはよく水場に来て、水中の水草を食べたり、泳いで体に付いた寄生虫 を落としたりする。塩 を舐める行動も確認されている[ 16] 。
唾液には植物の成長を促す成分が含まれている。
本種は大型であるため、成獣を定期的に捕食する動物はアムールトラ のみである[ 17] [ 18] [ 19] 。
子供や若い個体であればヒグマ 、アムールヒョウ 、ピューマ 、オオヤマネコ 、カナダオオヤマネコ 、コヨーテ 、オオカミ 、アメリカグマ 、クズリ にも捕食される[ 20] [ 21] [ 22] [ 23] [ 24] [ 25] [ 26] 。
ヒグマの成獣がヘラジカの成獣との戦闘で死亡した例が知られている[ 27] [ 28] 。攻撃は強靭な前足や後ろ足を使った強力な蹴りの他に、角を使って突進する行為も行う。本種の攻撃は捕食種に対してだけではなく、同種との縄張り争いやメスを巡る攻防においても多用される。
分類
現生では本種のみでヘラジカ属を構成する[ 2] 。
ロシアのエニセイ川 以東から北アメリカにかけての個体群を、「Alces americanus 」として分割する説もある[ 3] 。
亜種
人間との関係
道路を横断するヘラジカ(アラスカ )
動物園で飼育されている個体(スウェーデン )
ヨーロッパには、石器時代からヘラジカ猟が行われていたことを示す洞窟壁画 が残っており、スウェーデンのエーランド島 南部のアルビー (Alby )付近では、紀元前6000年 代頃の木の小屋の遺構からヘラジカの角が出土している。北ヨーロッパでは、石器時代 から19世紀 まで地面に深い穴を掘ってヘラジカを追い落とす猟法が用いられていた。
道路に飛び出し交通事故により命を落とすことがあり、大型なためにしばしば深刻な人身事故にもつながる。特に夜道では、体色が黒っぽく、頭部(すなわち前照灯 に反射する目 )が高い位置にあるためドライバーが気づくのが遅れることが多く、衝突すると車のバンパー が当たった衝撃で細い脚が折れ、巨大な胴体が上方から運転席を押しつぶす形で倒れてくるため、エアバッグ が展開したとしても大した効果が望めない。このため、スカンディナヴィア とドイツでは、自動車の安全評価に急ハンドルによる回避を想定した「ムーステスト 」を導入している。特にボルボ とサーブ・オートモービル (スウェーデン )、メルセデス・ベンツ (ドイツ)では衝突時の挙動も考慮されている。
ヘラジカが多く生息する地域では、道路標識に本種が描かれて注意が促されている。カナダのニューブランズウィック州 では、新しく敷設される高速道路でヘラジカとの衝突が頻発する部所にフェンスを設けてヘラジカの横断を防いでいる。
ロシアでは旧ソ連 時代(1940年代 )に人に慣れやすい個体を選択して繁殖することでヘラジカを家畜化する研究が始まり、ソ連崩壊後も継続している。商業的に成功しているとは言えないが、ヘラジカの生理学 や行動学 、動物の家畜化 の研究に貢献している。
春から夏にかけては、ヘラジカの子にうっかり近づいて親に襲われる危険性が非常に高まる[ 33] 。
カナダの道路標識
カナダの道路標識
アメリカ合衆国の道路標識
その他
ギャラリー
脚注
ウィキスピーシーズに
ヘラジカ に関する情報があります。
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注釈
出典
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参考文献
関連項目
外部リンク