2006年第3戦サンパウロ
フォーミュラ・トラック (Fórmula Truck )とは、ブラジル で開催されている自動車レースで、牽引自動車 のトラクタを用いた選手権である。
ブラジルでは、国内自動車レース選手権として人気が高く、同国内ではストックカー と人気の双璧をなす。
概要
選手権チャンピオンの称号は、ドライバー(1台につきドライバー1人が乗り込む)と、参加する自動車メーカーにそれぞれ与えられ、年間全10戦で争う。
24名のドライバーが参加する。車体を供給する車体製造メーカーは、スカニア 、ボルボ 、フォルクスワーゲン 、メルセデス・ベンツ 、フォード 、イヴェコ の6社である。
開催手順
土曜日に行われる予選で、日曜日に開催される決勝のスターティンググリッドを決める。予選は各車1台ずつのアタックで、ピットイン、ピットアウトに要する2周を除き、タイムアタックのため3周の走行が認められる。自分の順番で走行が不可能な場合、全車の計測ラップが終わった後に、1周のみのタイムアタックが認められる。
2006年のフォルクスワーゲン製ペーストラック。ペーストラックで使用される車両は年毎に各社の持ち回りとなる。
決勝は開催コースの距離に応じて、基本的に30周から35周のレースで争われる。他のカテゴリと異なる点として、レース中の事故処理などの間、ペーストラック (他のレースのセーフティカー に相当)が先導して走った周回については、レース周回数としてカウントしない。
12周終了時点の順位に応じて、上位7台にポイントが与えられるが(後述)、この際、コース清掃などのため、ペーストラックがコースに入り3周から5周にわたりレース車両を先導し、隊列を整えるとともに、競技車両各車についた差を縮小させる。
レース終了時のポイントは上位10位までに与えられ、表彰台には上位の5人が立つ。
例外
2006年に追加された開催コース、フォルタレーザのヴィルジーリオ・ターヴォラ・サーキット(Autódromo Internacional Virgílio Távora, 全長3,000m)では、コースの長さを同サーキットとしては最短の1,780mに設定し行われるため、レースは60周の周回で争われる。そのため、レース中にポイントが与えられる周回数は、このレースについては18周目終了時点に変更されている。
ポイント制度
各レースのポイントは、決勝最終結果に従って1位から10位までに、1位・20ポイント、2位・15ポイント、3位・12ポイント、4位・10ポイント、5位・8ポイント、6位・6ポイント、7位・4ポイント、8位・3ポイント、9位・2ポイント、10位・1ポイント、と、与えられるほか、独特の趣向として、12周目終了時点の順位で1位から7位までのドライバーに、それぞれ7ポイント~1ポイントが与えられる。ポールポジション を得た者(予選で最速タイムを出した者)とファステストラップ を記録した者にも、それぞれ1ポイントが与えられる。
カテゴリの位置づけ
トラックという特殊な車体を用いるため、レースカテゴリの位置づけも必然的に特殊なものとなり、ストックカーなどを引退したドライバーがドライバーを務めることが多く、平均年齢は比較的高くなる。若いドライバーは20代後半からで、30代中盤から50代前後のドライバーが参加者の中核を成している。
2006年4月にフォルタレーザで開催された同年の第2戦では、65歳8ヶ月のペドロ・ムッファト(Pedro Muffato)が優勝している。
車体
2006年型スカニア
製造ライン上で生産されている通常の市販用トラクタをベースにすることが義務付けられており、レース向けの特別モデルとして少量生産された車体を用いた参加は認められていない。レース展開は拮抗したものとするため、レギュレーションにおいては各メーカーの車種の違いなどを反映し最低重量などが車種毎に細かく規定されている。
エンジンについては主に減量中心の改造がほどこされているほか、出力も3倍ほどに向上しており、各メーカー1,000馬力前後を出力する。2001年からドライブ・バイ・ワイヤ などの電子制御が一部チームで用いられるようになり、2007年には参加全車両が同様の装備を持つに至った。
車体については、減量と車高・重心の低下が中心の改造となり、加えて、本来の用途である牽引車としての役割が求められないことからサスペンションに大きな変更が加えられ、高速走行に適した状態にされる。
タイヤはワンメイク で、全ての参加車両がブリヂストン 製のタイヤ(R227)を使用する。
車体重量はおよそ5,000kgで、軽いもので4,700kg弱である。
速度制限
各車は時速200km以上で走行可能な性能を有しているが、安全面を考慮し、最高時速は時速160kmに制限されており、この違反については、予選、決勝を通じ、サーキット各所に設置された速度計により監視されている。
主なベース車両
フォルクスワーゲン : 19,300 Titan, 18,310 Titan
メルセデス・ベンツ : Mercedes Benz 1938 S, Axor 2044
ボルボ : Volvo FM12
フォード : Ford Cargo
歴史
サントス 出身のトラック運転手アウレリオ・バチスタ・フェリックス(Aurélio Batista Félix )とポルトガル 人ジャーナリストのフランシスコ・サントス(Francisco Santos)によって、1987年9月6日にパラナ州 のカスカヴェウ・サーキットで“"I Copa Brasil de Caminhões”(第1回ブラジル・トラック杯)として初開催された。このレースには35名のドライバーが出場したが、レース中に死者1名を出す死亡事故が起きたことから、その後の開催が不可能となった。
事故から3年後にフランシスコ・サントスが計画から去り、残されたアウレリオ・バチスタ・フェリックスは、レースを再度開催させるべく、レース用トラックを自主製作しインテルラゴス・サーキット で内覧のための試走を行うなど、地道な活動を数年にわたって続けた。
その後、バチスタはトラック・オーナー/ドライバー協会(ANPPC, Associação Nacional dos Proprietários e Pilotos de Caminhão)を設立するなど、下準備を重ね、1995年4月23日に、かつて初開催を行ったカスカヴェウ・サーキットにて、トラックレースの再開催にこぎつけ、このレースは7台のトラックで争われた。この開催に向け最も重要視されたことは、絶対的な安全性だった。
この再開以降、「フォーミュラ・トラック」の名称が用いられるようになり、この年は同じくパラナ州のロンドリーナ 、リオグランデ・ド・スル州 のタルマ 、ゴイアス州 のゴイアニア においてもレースを開催し、参加台数は最終的に13台にまで増え、観客動員も2万人を記録(主催者発表)するなど、成功裏にこの年を終えた。
これらレースの成功により、ブラジル国内のレース管理団体で、当初トラックレースを非公認としていたブラジル自動車連盟(CBA, Confederação Brasileira de Automobilismo)からも選手権として公認され、翌1996年からフォーミュラ・トラックは公式の国内選手権として開催されるようになった。
選手権タイトル
1996年の第1回選手権、2006年の第11回のチャンピオン、ヘナート・マルティンス(カーナンバー9。2006年)
1996年の創設当時には、選手権はドライバーズタイトルズのみが争われ、チームやメーカーに対してのタイトルは存在しなかった。2004年にマニュファクチャラーズタイトルが制定された。
マニュファクチャラーズタイトル
シリーズ創設当時から参戦していた車体製造メーカーは、スカニア 、ボルボ 、フォルクスワーゲン (MAN )[ 注 1] 、メルセデス・ベンツ の4メーカーである。これにフォードとイヴェコ が加わり、2016年現在、6メーカーが車体を供給している。
ドライバーズタイトルは、選手権開始当初から参戦していたフォルクスワーゲン(ヘナート・マルティンス車)が2006年にタイトルを獲得し、続いて2013年にイヴェコ(ベト・モンテイロ車)がタイトルを獲得したことで、参加全6メーカー全てがタイトル獲得経験を持つこととなった。2004年に制定されたブラジル選手権のマニュファクチャラーズタイトルは、2016年シーズンが終了した時点で、ボルボとイヴェコ[ 注 2] を除く4メーカーがタイトルを獲得している。
歴代チャンピオン
ブラジル選手権
年
ドライバーズチャンピオン
チーム
メーカー
マニュファクチャラーズチャンピオン
1996年
ヘナート・マルティンス(pt )
Marfran
スカニア
なし
1997年
オズワルド・ヅルゴヴィチ(pt )
Drugovich Auto Peças
スカニア
1998年
オズワルド・ヅルゴヴィチ(pt )
Drugovich Auto Peças
スカニア
1999年
ジョージ・フレック(pt )
ABF Volvo
ボルボ
2000年
ジョージ・フレック(pt )
Thermoid-Melitta-Volvo
ボルボ
2001年
ウェリントン・シリッノ(pt )
ABF
メルセデス・ベンツ
2002年
ロベルヴァウ・アンドラデ(pt )
Muffatão
スカニア
2003年
ウェリントン・シリッノ(pt )
ABF
メルセデス・ベンツ
2004年
ベト・モンテイロ(pt )
DF Motorsport
フォード
フォード
2005年
ウェリントン・シリッノ(pt )
ABF
メルセデス・ベンツ
スカニア
2006年
ヘナート・マルティンス(pt )
RM Competições
フォルクスワーゲン
メルセデス・ベンツ
2007年
フェリペ・ジアフォーネ
RM Competições
フォルクスワーゲン
フォルクスワーゲン
2008年
ウェリントン・シリッノ(pt )
ABF
メルセデス・ベンツ
メルセデス・ベンツ
2009年
フェリペ・ジアフォーネ
RM Competições
フォルクスワーゲン
MAN(フォルクスワーゲン)
2010年
フェリペ・ジアフォーネ
RVR Scania Motorsport
スカニア
MAN(フォルクスワーゲン)
2011年
フェリペ・ジアフォーネ
RM Competições
フォルクスワーゲン
MAN(フォルクスワーゲン)
2012年
レアンドロ・トッティ(pt )
ABF
メルセデス・ベンツ
メルセデス・ベンツ
2013年
ベト・モンテイロ(pt )
Scuderia Iveco
イヴェコ
メルセデス・ベンツ
2014年
レアンドロ・トッティ(pt )
RM Competições
フォルクスワーゲン
MAN(フォルクスワーゲン)
2015年
レアンドロ・トッティ(pt )
RM Competições
フォルクスワーゲン
MAN(フォルクスワーゲン)
2016年
フェリペ・ジアフォーネ
RM Competições
フォルクスワーゲン
MAN(フォルクスワーゲン)
南米選手権
2011年から2014年の4シーズンは、従来の年間10戦からブラジル国外開催のレースを含む3~4戦を「南米選手権」、残りの6~7戦を「ブラジル選手権」として別々にタイトルを授与した。
年
ドライバーズチャンピオン
チーム
メーカー
マニュファクチャラーズチャンピオン
2011年
フェリペ・ジアフォーネ
RM Competições
フォルクスワーゲン
MAN(フォルクスワーゲン)
2012年
レアンドロ・トッティ(pt )
ABF
メルセデス・ベンツ
MAN(フォルクスワーゲン)
2013年
ベト・モンテイロ(pt )
Scuderia Iveco
イヴェコ
イヴェコ
2014年
レアンドロ・トッティ(pt )
RM Competições
フォルクスワーゲン
MAN(フォルクスワーゲン)
豆知識
2003年から参戦しているドライバー、ジェラルド・ピケ(Geraldo Piquet)はかつてのF1 チャンピオンであるネルソン・ピケ の長男であり、フォーミュラカードライバーのネルシーニョ・ピケ の8歳年長の異母兄にあたる。2003年当初より、チャンピオンのウェリントン・シリッノと同じくABFチームに所属している。
参考
インテルラゴスサーキットの予選ポールポジションタイム、他カテゴリーとの比較。いずれもコース全長を走った時のタイムを記録したものである。
カテゴリー
ポールタイム
ドライバー
チーム
記録日
フォーミュラ1(F1)
1分13秒807
ルーベンス・バリチェロ
スクーデリア・フェラーリ
2003年4月5日
南米フォーミュラ3
1分30秒170
アンドレ・ソウサ (Andrè Sousa)
Full Time
2005年12月9日
フォーミュラ・ルノー
1分37秒109
ディエゴ・フレイタス (Diego Freitas)
UniOil Sports
2003年12月6日
ストックカー V8
1分39秒585
ラウル・ボーセル
Bassani Racing
2004年4月17日
マセラティ トロフィー
1分47秒655
グト・ネグラオン (Guto Negrão)
Medley
2006年3月25日
フォーミュラ・トラック
2分04秒616
ウェリントン・シリッノ
ABF/メルセデス・ベンツ
2003年10月5日
注釈
外部リンク