ハルキウ市電 (ウクライナ語 : Харківський трамвай 、ロシア語 : Харьковский трамвай )は、ウクライナ の都市・ハルキウ に存在する路面電車 。1906年 に開通し、線路総延長236.6 km、車両総数300両以上という大規模な路線網を有する[ 3] [ 2] [ 5] [ 6] 。
概要
歴史
ハルキウ市内で最初の軌道交通は1882年 に開業した馬車鉄道 で、ベルギー の民間企業が運営していた。一方、当時のロシア帝国 各地ではより輸送力が高く先進的な交通機関である路面電車 の開通が進められており、ハルキウ市内にも1906年 7月3日 に最初の路面電車路線が開通した。この路線はハルキウ市が運営する公営路線であり、馬車鉄道を運営していたベルギー企業と長年に渡り対立したが、最終的に馬車鉄道は路面電車網に完全に置き換えられた[ 2] 。
開業当初の軌間 は1,000 mm(狭軌) であったが、ソビエト連邦 成立後は国内各都市の路面電車の軌間を1,524 mm(広軌) へ改める動きが高まり、ハルキウ市電でも1930年代に改軌が実施され、それに対応したソ連製の電車も多数導入された。第二次世界大戦 (大祖国戦争 )ではハルキウ市内もドイツ軍 と赤軍 の激戦に巻き込まれ、一時はドイツ軍に占領されたことから、路面電車も甚大な被害を受けた[ 2] 。
戦後は復興が進んだ後、1950年代から路線網の拡大が始まり、特に1970年代は大規模な建設工事が行われた。特に同年代に開通した2号線(Проспекту Перемоги - 602 м/р)は往復47.3 km、所要時間 約3時間10分というソ連最長の路面電車系統の1つとなった。車両も戦後初期からソ連各地のメーカーで製造された車両(KTM-1・KTP-1 、KTM-2・KTP-2 、RVZ-6 等)が導入された一方、1967年 以降はチェコスロバキア (現:チェコ )製のタトラT3 の大量導入が始まり、2020年 現在もハルキウ市電の主力車両として活躍を続けている[ 8] [ 2] 。
ハルキウ市電の路線網縮小はハルキウ地下鉄 開通により並行路線が廃止された事に始まり、ソビエト連邦の崩壊 以降は経済の混乱、モータリーゼーション 、そして財政難により更に多くの路線や車庫が廃止された。また、2000年代中盤まで車両の新造もままならない状況となったが、それ以降は新造車の導入やチェコ 、スロバキア 、ラトビア など各地で廃車となった路面電車車両の譲受が積極的に行われている。線路も整備が行われず脱線事故が頻発していたが、こちらも後述の組織再編以降は大規模な修繕工事が進められている[ 2] [ 9] [ 10] 。
運営組織について
ハルキウ市電は開業時からハルキウ市によって運営され、ソ連崩壊後はミスクエレクトロトランス(ХКП «Міськелектротранс»)が管理を行っていたが、運営の効率化や財政再建、老朽施設の大規模更新を目的に2011年 以降以下の市営企業(КП)に分社化されている[ 3] [ 11] [ 12] 。
「サルトフスキー車庫」 (КП «Салтовское трамвайное депо») - 車庫(サルトフスキー車庫)・車両の管理[ 11]
「10月車庫」 (КП «Жовтневе трамвайне депо») - 車庫(10月車庫)・車両の管理[ 11]
「ミスクエレクトロトランサービス」 (КП «Міськелектротранссервіс») - 路面電車・トロリーバス網の整備[ 12]
「ハルキウパス」 (КП «Харківпасс») - 施設の維持・管理、会計処理など[ 13] [ 14]
運行
2020年 現在、ハルキウ市電では以下の系統が設定されている。多くの系統は最終列車 が車庫付近の電停止まりの区間運転となる他、ラッシュ時とそれ以外の時間帯で運行区間が異なる系統も存在する。また、同年現在一部系統が線路の改修工事や新型コロナウイルス 関連の検疫制限の影響で運休しており、その旨も記す[ 1] [ 9] [ 10] 。
運賃については2010年代以降人件費や電気代などの高騰による値上げが続いており、2019年 以降トロリーバス と共に6フリヴニャ となっている[ 15] [ 16] 。
系統番号
起点
終点
運行間隔 (平日)
備考
ラッシュ時
日中
夜間
1
Південний вокзал
Іванівка
10分
15分
-
[ 17]
3
Новожанове
Залютине
7分
7-8分
9分
[ 18]
5
Південний вокзал
вул.Одеська
11-14分
11-14分
14-16分
[ 19]
6
Південний вокзал
602м/р
6-8分
6-8分
8-12分
[ 20]
7
Новоселівка
Південний вокзал
16分
16分
24分
[ 21]
8
602м/р
вул.Одеська
8-12分
8-12分
-
[ 22]
12
Південний вокзал
Лісопарк
21分
21分
-
[ 23]
16
Салтівське
Салтівське
21-25分
21-25分
-
ラケット式環状系統 (反時計回り) 線路工事および新型コロナウイルス の影響により2020年 3月18日 以降運休中[ 10] [ 24]
16A
Салтівське
Салтівське
21-25分
21-25分
-
ラケット式環状系統 (時計回り) 線路工事および新型コロナウイルス の影響により2020年 3月18日 以降運休中[ 10] [ 24]
20
Південний вокзал
просп.Перемоги
6-7分
6-7分
10-14分
[ 25]
23
Салтівське
Південно - Східне
12-14分
12-14分
13-16分
新型コロナウイルス の影響により2020年 3月19日 以降運休中[ 26]
26
Лісопарк
Південно - Східне
10-13分
12-14分
14-16分
日中・夜間・週末[ 27]
Парк ім.Горького
Південно - Східне
ラッシュ時
27
Салтівське
Новожанове
5-6分
6-8分
8-14分
[ 28]
車両
2020年 現在、ハルキウ市電で使用されている主な車両は以下の通り。各車両はサルトフスキー車庫(Салтовское трамвайное депо)と10月車庫(Октябрьское трамвайное депо)の2箇所の車庫に配置されている[ 5] [ 6] 。
タトラT3
タトラT3SU(2扉車)
タトラT3SU(3扉車)
概要
かつてチェコスロバキア (現:チェコ )に存在したタトラ国営会社スミーホフ工場(→ČKDタトラ) が開発した、高加減速・低騒音・低振動の高性能路面電車車両(タトラカー )。東側諸国 における標準型車両として各国に導入され、ハルキウ市電にも1967年 から導入が実施された。2010年代以降も他国で使用されていた車両の譲渡や残存車両の更新工事が積極的に行われており、ハルキウ市電の主力車両として活躍を続けている[ 8] [ 29] [ 30] 。
車種
ハルキウ市電に在籍するタトラT3には以下の種類が存在する[ 2] [ 8] [ 29] [ 30] 。
新造車
タトラT3SU - 耐寒設備を始めソ連 向けの仕様変更を施した形式。製造年代によって扉の数が異なり、1977年 までは2箇所(前・後)、それ以降は3箇所(前・中・後)に設置されていた。ハルキウ市電には1967年 から1987年 にかけて735両の大量導入が行われたが、老朽化や路線縮小などから2020年 現在は更新工事を受けた車両を除いてサルトフスキー車庫に75両、10月車庫に16両が残存するのみとなった[ 30] [ 30] 。
譲渡車
改造・機器流用車
タトラVPSt(T3-ВПСт) - ブラチスラヴァ市電から譲渡されたタトラT3SUCSのうち、2017年 に導入された車両の一部はハルキウ車両修理工場 (ウクライナ語版 ) で機器の更新が実施された[ 29] [ 35] 。
T3VPA(T3ВПА) - 老朽化が進んだT3SUの一部車両を対象に更新工事を行った形式。台枠や一部機器を除いた部品が新造され、車体の前面は流線形状の新規デザインが採用された他、構体 の強化も行われた。電気機器についても経済性を考慮し、制御装置 にIGBT 素子を用いた電機子チョッパ制御 、補助電源装置に静止型インバータ が採用された。車内は種車となったタトラT3SUのレイアウトを基にしたが、最後部の座席を撤去し立席や荷物収納スペースとしており、定員は130人(着席30人)となった。2009年 以降ハルキウ車両修理工場 (ウクライナ語版 ) で改造が実施されたが、財政面の理由から導入両数は4両のみに留まった[ 8] [ 36] 。
T3-VPNP(Т3-ВПНП) - 2018年 から営業運転を開始した、車体中央を低床構造とした部分超低床電車 。製造に際してはタトラT3SUに加え、他都市で廃車となったタトラT6A5 の主電動機 も流用された。車体はエレクトロ・トランスポートテクノロジーズ(ООО «Технологии электротранспорта»)で作られ、最終組み立てはサルトフスキー路面電車車庫(КП «Салтовское трамвайное депо»)で実施された。計画当初は5両が導入される予定だったが、その後3両に計画が縮小されている[ 37] 。
タトラT6B5(T3M)
タトラT6B5(T3M)
タトラT3SUの後継車両として開発されたタトラカー で、車体構造や電気機器が大幅に刷新された。旧ソ連各国では「T3M」という形式名でも呼ばれる。ハルキウ市電には1988年 以降30両が導入された[ 8] [ 38] 。
KTM-19(71-619KT)
KTM-19(71-619KT)
ロシア連邦 のウスチ=カタフスキー車両製造工場 で製造された路面電車車両。従来のタトラカーから車体寸法が大型化し、機器の構造も異なっているため、運行開始に先立ち習熟運転 が実施された。2007年 に10両が導入され、その際にはPLリース社("ПЛ "Лізинг")からのリースという形を採ったが、リース料などの面で問題があったことから、同様の方式で導入されたトロリーバス と共に2015年 にリヴィウ商業高等裁判所(Львівський апеляційний господарський суд)から民間投資企業への譲渡が言い渡されている[ 8] [ 39] 。
タトラT6A5
タトラT6A5
元はチェコスロバキア (→チェコ 、スロバキア )向けに製造されたタトラカー 。そのうちプラハ市電 向けに製造された車両は超低床電車 の大量導入により2021年 までに営業運転から撤退したが、一方で他都市への譲渡が積極的に行われており、ハルキウ市電にも2017年 に5両が譲渡されている[ 29] [ 40] [ 41] [ 42] 。
動態保存車両
Kh
Kh (2008年 撮影)
ロシア革命 下の内戦で荒廃し、車両の新造も滞った各地の路面電車向けとして、ソビエト連邦 成立後に開発された標準型電車(2軸車 )。電動車 と付随車 (M)が製造され、そのうち1927年 から量産が開始された電動車には最初の主要納入先であったハルキウ(Х арків)にちなみ「Kh(Х) 」と言う形式名が付けられた[ 注釈 1] 。ハルキウ市電ではKh・M共に長期に渡って在籍し、第二次世界大戦後に大型ボギー車の導入が本格化して1969年 2月25日 にさよなら運転 が行われるまで40年以上に渡って営業運転に用いられ、更に1980年代まで事業用車両 に改造されたKhが複数両残存した[ 43] 。
この車両を動態復元する計画は1990年代に立ち上がったが、経済の混乱などから計画は遅れ、最終的にハルキウ市電開通100周年の記念事業として2005年 にKhのうち1両が動態保存運転を開始した。以降は臨時列車・団体列車で運用されている他、1920年代 - 1960年代を舞台にした映画 の撮影にも多用されている[ 43] 。
MTV-82
MTV-82 (2010年 撮影)
ソ連 国内で第二次世界大戦 後に初めて開発された路面電車車両。そのうちハルキウ市電で動態保存されていたのは1952年 製の「055」で、2006年 のハルキウ市電100周年に合わせて復元された。以降は臨時列車や団体列車に使用され、戦後の発展期に当たる1950年代に建設された様々な建物を巡るツアー列車「50 to 50(«50 на 50»)」がその代表例であった。だが、2022年 に勃発したロシアによるウクライナ侵攻 における爆撃による車庫の崩壊に巻き込まれ、同様の被害を受けた多数の車両とともに大破した事が確認されている[ 44] [ 45] [ 46] [ 47] 。
事業用車両
脚注
注釈
^ 付随車の形式名である「M(М) 」の由来は、最初の主要納入先であったモスクワ (М осква)であった。
出典
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参考資料
ウィキメディア・コモンズには、
ハルキウ市電 に関連するカテゴリがあります。