幾何学におけるデカルトの円定理 (デカルトのえんていり、Descartes' theorem )とは、互いに接する4つの円の半径はある二次方程式 を満たす、という主張である。1642年にこれを発表したルネ・デカルト に因む。
歴史
互いに接する円の問題に対する関心は古く、紀元前三世紀のギリシャ 人であるペルガのアポロニウス が多くの論述を残している。
1643年、ルネ・デカルト はプファルツ 公女エリーザベト への手紙の中でこの問題を詳細に研究し、後述する式(1) と本質的に同じ結果を得た。
フレデリック・ソディ が1936年に式(1) を再発見し Nature に発表した[ 1] ため、この問題で扱われる4つの円はソディの円 (英 : Soddy circles )と呼ばれる。フレデリック・ソディはこの問題を球へと拡張し、さらにソロルド・ゴセ は任意の次元へと拡張した。
主張
互いに接する3つの円(黒 )の全てに接する円は2つ存在する(赤 )
半径 r の円の曲率 k を
k
=
±
1
r
{\displaystyle k=\pm {\frac {1}{r}}}
で定義する。大きな円ほど曲率の絶対値は小さい。
k が正のとき、その円は他の円と外接 するものとする(図中の黒い円)。同じく負であるとき、その円は他の円と内接(内包)するものとする(図中の大きな赤い円)。k が 0 のときは、半径が無限に大きな円とみなし、直線を表すものとする。
互いに接する4つの円(もしくは3つの円と1つの直線)の曲率を k 1 , k 2 , k 3 , k 4 とする。デカルトの定理は、このとき以下の式が成り立つことを主張する。
(
k
1
+
k
2
+
k
3
+
k
4
)
2
=
2
(
k
1
2
+
k
2
2
+
k
3
2
+
k
4
2
)
{\displaystyle (k_{1}+k_{2}+k_{3}+k_{4})^{2}=2({k_{1}}^{2}+{k_{2}}^{2}+{k_{3}}^{2}+{k_{4}}^{2})}
(1 )
先に3つの円(もしくは2つの円と1つの直線)が与えられたとき、4つ目の円の曲率は上式を整理した以下の式で与えられる。
k
4
=
k
1
+
k
2
+
k
3
±
2
k
1
k
2
+
k
2
k
3
+
k
3
k
1
{\displaystyle k_{4}=k_{1}+k_{2}+k_{3}\pm 2{\sqrt {k_{1}k_{2}+k_{2}k_{3}+k_{3}k_{1}}}}
(2 )
複号により解は2つ与えられる。直線への退化 を無視すれば、一方の解は常に正で他方は正もしくは負である。負の解は先述したように3つの円を内包する円を表す。
特別な場合
3つの円が同じ点で接している場合
一点で接する3つの円
3つの円が同じ点で接している場合、デカルトの定理は適用できない 。
直線が存在する場合
直線が存在してもデカルトの定理は適用可能である
円の1つが直線の場合
直線では k = 0 だから、式(2) より
k
4
=
k
1
+
k
2
±
2
k
1
k
2
{\displaystyle k_{4}=k_{1}+k_{2}\pm 2{\sqrt {k_{1}k_{2}}}}
を得る。
円の2つが直線の場合
同様に式(2) より自明な式
k
4
=
k
1
{\displaystyle k_{4}=k_{1}}
を得る。
曲率が平方数の場合
曲率が全て平方数 だった場合を考える。このとき式(2) は
(
v
2
+
x
2
+
y
2
+
z
2
)
2
=
2
(
v
4
+
x
4
+
y
4
+
z
4
)
{\displaystyle (v^{2}+x^{2}+y^{2}+z^{2})^{2}=2(v^{4}+x^{4}+y^{4}+z^{4})}
(3 )
と表せる。オイラー は v , x , y , z の組み合わせがピタゴラスの三つ組 になっていることを示した。
(
2
v
x
)
2
+
(
2
y
z
)
2
=
(
v
2
+
x
2
−
y
2
−
z
2
)
2
{\displaystyle (2vx)^{2}+(2yz)^{2}=(v^{2}+x^{2}-y^{2}-z^{2})^{2}}
(
2
v
y
)
2
+
(
2
x
z
)
2
=
(
v
2
−
x
2
+
y
2
−
z
2
)
2
{\displaystyle (2vy)^{2}+(2xz)^{2}=(v^{2}-x^{2}+y^{2}-z^{2})^{2}}
(
2
v
z
)
2
+
(
2
x
y
)
2
=
(
v
2
−
x
2
−
y
2
+
z
2
)
2
{\displaystyle (2vz)^{2}+(2xy)^{2}=(v^{2}-x^{2}-y^{2}+z^{2})^{2}}
今 k 1 が負であったとすると
(
−
v
2
+
x
2
+
y
2
+
z
2
)
2
=
2
(
v
4
+
x
4
+
y
4
+
z
4
)
{\displaystyle (-v^{2}+x^{2}+y^{2}+z^{2})^{2}=2(v^{4}+x^{4}+y^{4}+z^{4})}
の解は媒介変数表示できて
[
v
,
x
,
y
,
z
]
=
[
2
(
a
b
−
c
d
)
(
a
b
+
c
d
)
,
(
a
2
+
b
2
+
c
2
+
d
2
)
(
a
2
−
b
2
+
c
2
−
d
2
)
,
2
(
a
c
−
b
d
)
(
a
2
+
c
2
)
,
2
(
a
c
−
b
d
)
(
b
2
+
d
2
)
]
{\displaystyle [v,x,y,z]=[2(ab-cd)(ab+cd),(a^{2}+b^{2}+c^{2}+d^{2})(a^{2}-b^{2}+c^{2}-d^{2}),2(ac-bd)(a^{2}+c^{2}),2(ac-bd)(b^{2}+d^{2})]}
となる。ここで a , b , c , d は以下の恒等式 を満たすものである。
a
4
+
b
4
=
c
4
+
d
4
{\displaystyle a^{4}+b^{4}=c^{4}+d^{4}}
特に
v
+
x
=
y
∧
z
≠
0
{\displaystyle v+x=y\land z\neq 0}
のとき式(3) は
4
(
x
2
+
v
x
+
v
2
)
=
z
2
{\displaystyle 4(x^{2}+vx+v^{2})=z^{2}}
と二元二次不定方程式の形になり、やはり解の形を書き下せる。
複素数定理
以下、円は複素平面 上で定義されているものとする。i 番目の円の中心を z i で表すと、式(1) と似た形の式(4) で中心座標が表せる。これを complex Descartes' theorem と呼ぶ。
(
w
1
+
w
2
+
w
3
+
w
4
)
2
=
2
(
w
1
2
+
w
2
2
+
w
3
2
+
w
4
2
)
{\displaystyle (w_{1}+w_{2}+w_{3}+w_{4})^{2}=2(w_{1}^{2}+w_{2}^{2}+w_{3}^{2}+w_{4}^{2})}
(4 )
z
4
=
(
w
1
+
w
2
+
w
3
±
2
w
1
w
2
+
w
2
w
3
+
w
3
w
1
)
k
4
{\displaystyle z_{4}={\frac {(w_{1}+w_{2}+w_{3}\pm 2{\sqrt {w_{1}w_{2}+w_{2}w_{3}+w_{3}w_{1}}})}{k_{4}}}}
(5 )
w
h
e
r
e
w
i
=
k
i
z
i
{\displaystyle where\ w_{i}=k_{i}z_{i}}
複号および複素数の平方根の多価性により1つの k 4 に対し2つの解が得られ、そのうちの一方が正しい中心を与える。
一般化
n 次元への一般化はソディ–ゴセの定理 と呼ばれる。n 次元ユークリッド空間 において全てが互いに接する超球の最大数は n + 2 個であり、その曲率について
(
∑
i
=
1
n
+
2
k
i
)
2
=
n
∑
i
=
1
n
+
2
k
i
2
{\displaystyle \left(\textstyle \sum \limits _{i=1}^{n+2}k_{i}\right)^{2}=n\textstyle \sum \limits _{i=1}^{n+2}{k_{i}}^{2}}
が成り立つ。超球の中心については行列 による表示が知られている[ 2] [ 3] 。
関連項目
脚注