ビガーズの小説で初めて登場したチャンは、後に多くのメディアに進出した。チャンが登場する映画は1926年を皮切りに40本以上作られてきた。初期の映画ではチャンは脇役に過ぎず、東アジア系の俳優によって演じられており、ほとんどヒットしなかった。1931年、フォックス・フィルムはチャンを主人公に据えた最初の映画 Charlie Chan Carries On(『怪探偵張氏(英語版)』)でスウェーデン人俳優ワーナー・オーランド(英語版)を主役に起用した。この作品は人気を博し、フォックスはオーランド主演の続編を15本製作した。オーランドの死後はアメリカ人シドニー・トーラー(英語版)が後を継ぎ、初めはフォックスで、続いてモノグラム・スタジオで計22本のチャン映画を主演した。トーラーの死後もローランド・ウィンターズ(英語版)が主演する映画が6本作られた。そのほかラジオやテレビ、コミック・ストリップでもチャンは活躍した。
オーランドは1938年に亡くなった。製作中だったチャン映画 Charlie Chan at the Ringside は追加の撮影を経て改作され、東アジア人を主人公とする当時の別シリーズ「ミスター・モト (架空の探偵)(英語版)」の1作 Mr. Moto's Gamble に生まれ変わった。ケイ・ルーク演じるリー・チャンは、新しく撮影された映像でピーター・ローレのモトと共演した。フォックスはチャーリー・チャン役として白人俳優シドニー・トーラー(英語版)と新たに契約し、1942年までにチャン映画を11本製作した[22]。トーラーの演技はオーランドほど物腰柔らかではなく、チャンの新しい性格は「原作小説の迫力の一部を映画に取り入れることになった」と評された[17]。トーラーの主演作の多くでは、セン・ユン(英語版)演じる「二番目の息子」ジミー・チャンがチャンの悩みの種になった[23]。
1930年代と1950年代にスペイン語のチャーリー・チャン映画が3本製作された。第1作 Eran Trece(1931年、「13人いた」)は Charlie Chan Carries On(1931年)の多言語版(英語版)である。これら2作は同一のスケジュールで並行して制作されたもので、それぞれのシーンの撮影は同日に英語とスペイン語で1回ずつ行われた[29]。スペイン語版の脚本は基本的に英語版と同じだが、短い歌や寸劇のようなちょっとした追加要素や、役名の変更が加えられた[30]。キューバで制作された La Serpiente Roja(1937年、「赤い蛇」)がそれに続いた[31]。1955年、メキシコ版チャーリー・チャン映画 El Monstruo en la Sombra (「影の中の怪物」)が Producciones Cub-Mex によって制作され、オーランド・ロドリゲスが「チャン・リー・ポー」(最初の脚本ではチャーリー・チャン)を主演した[31]。同作はキューバの La Serpiente Roja やワーナー・オーランドが主演する米国作品に触発されていた[31]。
1980年、チャーリー・チャンが登場するコメディ映画の制作がジェリー・シャーロックによって開始された。同作で中国人ではないピーター・ユスティノフとアンジー・ディキンソンが主役と敵役にキャストされると、これに抗議してCAN(Coalition of Asians to Nix、「拒絶するアジア人連盟」)と名乗る団体が結成された。同作の脚本に多くのステレオタイプが含まれていると抗議した者もいたが、シャーロックはドキュメンタリーを作っているわけではないと応じた[32]。翌年に公開された Charlie Chan and the Curse of the Dragon Queen(『オリエンタル探偵殺人事件(英語版)』)は「完全な失敗作」だった[33][34]。
ラジオでも1932年から1948年にかけてチャーリー・チャンの活躍が3つのネットワーク(NBCブルー(英語版)、ミューチュアル、ABC)で数シリーズにわたって放送された[37]。まず、エッソ・オイルの番組 Five Star Theater の中で1932年から翌年にかけてビガーズの原作シリーズがドラマ化され、ウォルター・コノリー(英語版)がチャンを演じた[38]。NBCの The Adventures of Charlie Chan(1944〜45年)ではエド・ベグリーがチャンを演じ、次にサントス・オルテガ(英語版)(1947〜48年)が後を引き継いだ。レオン・ジャニーとロドニー・ジェイコブスが「一番目の息子」リー・チャンの声を当て、ドリアン・セントジョージがアナウンサー役を務めた[39]。Radio Life 誌はベグリーのチャンを「観客に愛されたシドニー・トーラーの映画版チャンに匹敵するラジオ版」と評した[40]。
1970年代にハンナ・バーベラによってアニメシリーズ The Amazing Chan and the Chan Clan が制作された。1930年代から40年代にかけて多くの映画でチャンの息子を演じたケイ・ルークがチャーリー・チャンの声を当て、かつてよりはるかに豊かな語彙を披露した。ルークはこれにより、チャンを主演した最初のアジア系俳優となった。その演技はワーナー・オーランド版と似ていた。またこのシリーズではチャンの10人の息子・娘にも焦点が当てられていた。最初それらのキャラクターは東アジア系アメリカ人の子役によって演じられていたが、年少の視聴者が彼らの訛りを理解できないという懸念から配役が替えられた。チャンの娘アンの声優はレスリー・クマモタからジョディ・フォスターに替わった[43]。
ロス・マーティンがチャンを演じたテレビ映画 The Return of Charlie Chan は1971年に制作されたが、1979年になってようやく放映された。
アジア系アメリカ人を中心とする現代の批評家はチャーリー・チャンに対して複雑な感情を持ち続けている。チャーリー・チャンの擁護者であるフレッチャー・チャンは、チャンはビガーズの小説で白人キャラクターの下風に立っていないと主張し、『シナの鸚鵡』を例に挙げている。同作で人種差別的な発言を聞いたチャンは目に怒りを燃やし、結末で犯人を暴いた後に「ことによると、チャイナマンに耳を傾けても不面目にはならないかもしれませんね」と言い放つ[60]。映画でも Charlie Chan in London(1934年)と Charlie Chan in Paris(1935年)にはいずれも「チャンが冷静にウィットを利かせて人種差別的な発言を受け流すシーンがある」[18]。ホアン・ユンテはチャンが「この国の文化が併せ持つ、人種差別の伝統と創造の才の縮図」だと述べ、アンビバレントな評価を下している[61]。ホアンはまた、チャーリー・チャンの批判者自身がチャンを「戯画的に誇張する」ことがあると示唆している[62]。
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フィルモグラフィー
特に断りがなければ、チャールズ・P・ミッチェルの A Guide to Charlie Chan Films(1999)もしくは映画.comに拠っている。
^This point is debated. Hawley says Apana directly inspired Biggers (135); Herbert says Apana may have done so (20). However, Biggers himself, in a 1931 interview, cited both Apana and Fook as inspirations for the character of Charlie Chan ("Creating Charlie Chan" [1931]). When Biggers actually met Apana a few years later, he found that his character and Apana had little in common.
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