タギシュ・レイク隕石 (タギシュ・レイクいんせき、Tagish Lake meteorite)は、2000年 1月18日 16時43分(UTC )にカナダ ・ユーコン準州 からブリティッシュコロンビア州 にまたがるタギシュ湖 (Tagish Lake)付近に落下した隕石 である。
経緯
落下
タギシュ・レイク隕石は、ブリティッシュコロンビア州 北西部のタギシュ湖に落下した。
タギシュ・レイク隕石の破片は、上空50-30kmで放出エネルギー が1.7キロトン とも推定される流星爆発を起こし、地表へ落下した[ 5] 。ユーコン準州南部、ブリティッシュコロンビア州北部で火球 が目撃され、その後500近いの隕石の破片が氷結した湖面から回収された。落下範囲には、更に多くの破片があったと考えられている。この火球の後に残った流星痕 や、アメリカ合衆国国防総省 の人工衛星 のデータから、隕石の軌道 が割り出された[ 2] 。高高度での火球の爆発は、人工衛星の光学/赤外線センサーだけでなく地震計 も作動させた[ 5] 。
落下地点周辺の火球目撃者の中には、火球の発生後、空気に硫黄 の匂いが混じっていた、と証言する者もいた。速報では、ミサイル の誤爆であるとする情報も流れた[ 6] 。
2013年 のチェリャビンスク隕石 でもみられたような、流星痕の塵の雲が2つに分かれた様子が、タギシュ・レイクの火球でも撮影された[ 7] 。これは、キノコ雲 で可視化されるような上昇気流 が、流星の軌道の真ん中へ急速に入り込んだためと考えられる[ 8] 。
標本の回収
最初の隕石片は、落下から1週間後の2000年1月下旬、地元住民のジム・ブルックによって回収された[ 2] 。最善の方法で回収された隕石片は、冷凍された状態のまま研究機関へ持ち込まれた。その汚染の少ない隕石片の初期の分析には、NASA ジョンソン宇宙センター の研究者も加わった。残りの破片は、2000年4月まで積雪に覆われた状態が続き、雪解けを待って、カルガリー大学 、ウェスタンオンタリオ大学 の研究者が捜索に努め、410の破片を回収した。後から回収された隕石片の大部分は、数cmから深いものでは20cm程度氷に埋まっており、融解した水たまりから、あるいは湖面の氷を切り出して回収された[ 5] 。
汚染の少ない「無垢の」タギシュ・レイク隕石片は、全部で重さ850g 以上になり、現在は王立オンタリオ博物館 とアルバータ大学 に保管されている[ 9] 。2000年の4月から5月にかけて回収された、状態がやや劣化した隕石片は、主にカルガリー大学、ウェスタンオンタリオ大学に収蔵されている[ 9] 。回収された最大の破片の重さは、およそ2.3kgであった[ 2] 。
流星物質
タギシュ・レイク隕石は、大気圏 に突入する前、直径4m 、重さ56トン であったと推定される[ 5] 。しかし、上層大気中での気化 と何度かの分裂で重さは1.3トンまで減少、つまり全体の97%は気化し、大部分は成層圏 の塵となって、エドモントン 北西部では落下した日の晩に夜光雲 として目撃された[ 10] 。残った隕石片の総重量1.3トンのうち、10kg 程度(およそ1% )が地表の16km×5kmに広がった領域で発見され、回収された[ 2] 。
特徴
タギシュ・レイク隕石の隕石片は、暗灰色から黒に近い色で、明るい色の小さな含有物を含んでいる。灰色の融解した表層以外は、成形木炭 のような見た目をしている。
分類
代表的な炭素質コンドライト 。左から、アエンデ隕石 (CV3)、タギシュ・レイク隕石、マーチソン隕石 (CM2)。
タギシュ・レイク隕石は、炭素質コンドライト に分類され、岩石学 的タイプは2とされるが、化学 的グループは既存の分類に当てはまらず、未分類(C2)と評価されている[ 1] [ 4] 。
分析によって、タギシュ・レイク隕石は始原的な隕石であり、太陽系 を形成する材料となった星間塵 の粒子の一部は、そのままの状態で含まれていることがわかった。タギシュ・レイク隕石は、いくつかの点で、最も始原的と分類される2種類の炭素質コンドライト、CMコンドライトとCIコンドライトに似ているが、どちらとも決定的に異なる点がある[ 2] 。
岩石学・鉱物学的特徴
タギシュ・レイク隕石の密度 は約1.6g/cm3 で、他のどの種類のコンドライト よりも密度が低い。角礫岩 状の組織がみられ、ケイ酸塩 を主体とする石基 を中心に構成されている。石基には、炭酸塩 鉱物が少ない岩石と炭酸塩鉱物を豊富に含む岩石、2通りの性質が異なる岩石が存在している[ 4] 。また、液体 の水 との反応などで鉱物が変化する水質変成 によって、更に多様な特徴の岩石が含まれることが示唆される[ 11] 。
隕石の年齢は、約45.6億年と推定され、太陽系が形成された 後、他の天体と合体せずに残った物質からできていると考えられる。
地球化学的特徴
タギシュ・レイク隕石の炭素 含有量は、他の炭素質コンドライトと比べても多く、揮発性・難揮発性元素の存在量の傾向は、CIコンドライトともCMコンドライトとも異なる[ 2] [ 5] 。
タギシュ・レイク隕石は、アミノ酸 を始めとする有機物 を、豊富に含んでいる[ 12] 。隕石中の有機物は、アミノ酸に含まれる炭素の同位体 比の測定から、生命活動によってではなく星間物質 や太陽系の原始惑星系円盤 で生成されたと考えられる。また、隕石の破片によってアミノ酸の含有量にばらつきがあることから、隕石の母天体中に存在する液体の水の量によって、アミノ酸の生成量も変化することが示唆される[ 11] 。
タギシュ・レイク隕石中の炭素の一部は、ナノダイヤモンド と呼ばれる、太陽系の形成以前に生成されたと考えられる直径数μm 以下の微小なダイヤモンド の結晶 である。タギシュ・レイク隕石は、他のどの隕石よりも、ナノダイヤモンドを多く含んでいる[ 13] 。
起源
隕石が大気圏に突入した際の火球の目撃情報と、30分は見えていたという流星痕の軌跡の写真から、地球 到達前の隕石の軌道が計算された[ 2] 。火球を直接撮影した写真はなかったが、発生数分後に撮影された2枚の写真を照らし合わせ、火球の進路を再現し、進入角度を求めた。ユーコン準州ホワイトホース 周辺の目撃情報から、地図上の方角が正確に絞り込まれた。タギシュ・レイク隕石は、アポロ群 小惑星 と似たような軌道をとっており、小惑星帯 外縁部からもたらされたものとわかった。隕石の軌道要素 は、軌道長半径 が1.9AU 、近日点距離 が0.884AU、離心率 が0.55と求められている[ 10] 。2箇所以上の異なる方角から火球の写真や動画が撮影され、突入前の軌道が正確に求まっている隕石は、25個しかない(2016年末現在)[ 14] 。
反射スペクトル の分析から、タギシュ・レイク隕石は、D型小惑星 が起源と考えられる[ 15] 。母天体の候補としては、(308) ポリクソ 、(773) イーミントラウト が挙げられている[ 16] [ 17] 。
出典
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関連項目
外部リンク