複素力学系におけるジュリア集合(ジュリアしゅうごう、英: Julia set)は、ある複素関数の反復で無限遠に行かない出発点から成る集合の境界として定義される複素平面上の集合である。より技術的・標準的には、ジュリア集合は反復の族が正規ではない点の集合として定義される。たいていのジュリア集合はフラクタルと呼ばれる図形になる。名称は、20世紀初頭に複素関数の反復を研究したガストン・ジュリアに因む。
定義
f をリーマン球面 ˆC からそれ自身への正則関数 f : ˆC → ˆC とする。f の n 回反復合成を f n(z) と表すとする。点 z ∈ ˆC のある近傍 U(z) ⊂ ˆC 上で、族 {f n|U}∞
n=1 が正規族となるとき、このような点全体の集合をファトゥ集合と呼ぶ。f のファトゥ集合を Ff と表すとする。ジュリア集合はファトゥ集合の補集合として定義される。すなわち、f のジュリア集合を Jf と表せば
である。
上記のジュリア集合の定義は、有理関数や有理型関数などの一般の複素関数論の中で使われ、応用範囲も広い。他方、反復する複素関数を多項式として次のようにジュリア集合を定義することもある。P を2次以上の複素多項式 P(z) = anzn + an−1zn−1 + … + a0 とする。係数 an, an−1 … a0 も複素数である。まず、複素平面 C からそれ自身への多項式関数 P : C → C の充填ジュリア集合 KP を
と定義する。ジュリア集合は充填ジュリア集合の境界として定義される。すなわち、P のジュリア集合を JP と表せば
である。
基本的性質
定義よりファトゥ集合は開集合なので、ジュリア集合は閉集合である。以下、関数 f を超越整関数または2次以上の有理関数とする。ジュリア集合 Jf は空集合ではない。また、Jf は完全集合である。すなわち、Jf は孤立点を持たない。さらに、ジュリア集合は完全不変である。すなわち、f (J) ⊂ J かつ f −1(J) ⊂ J が成り立つ。
ジュリア集合 Jf は、Jf が C または ˆC と一致しなければ、内点を持たない。f が多項式関数のときは、Jf は常に内点を持たない。
ある点 z がジュリア集合に含まれるかを判別することは一般的に困難だが、周期点の場合は次のようなことが分かる。f を有理型関数とし、z0 を n 周期点とする。このとき、
で定義される λ が
- |λ| > 1 であるとき、z0 を反発周期点と呼ぶ。
- |λ| = 1 であり、かつ λm = 1を充たす自然数 m が存在するとき、z0 を有理的中立周期点と呼ぶ。
z が反発周期点または有理的中立周期点であれば、z はジュリア集合に含まれる。反発周期点についてはさらに強いことが言える。f を超越整関数または2次以上の有理関数とする。このとき、f の反発周期点全体から成る集合は Jf において稠密である。非標準ながら、f が多項式関数のときに f の反発周期点全体の閉包をジュリア集合と定義する例もある。
ジュリア集合 Jf は充填ジュリア集合 Kf の境界だが、Kf が内点を持たなければ、その場合はジュリア集合と充填ジュリア集合が一致する。このような Jf = Kf の場合の代表例は、ジュリア集合がカントール集合になる場合と樹形突起になる場合である。ここで Jf がカントール集合であるとは、Jf がコンパクト、全不連結、孤立点を持たない場合をいう。また、Jf が樹形突起であるとは、 Jf がコンパクト、連結かつ局所連結で内点を持たず、さらに C ∖ Jf が連結である場合をいう。全不連結なジュリア集合はファトゥ塵などとも呼ばれる。
出典
参照文献
外部リンク
ウィキメディア・コモンズには、
ジュリア集合に関連するカテゴリがあります。