サイハテの救世主
『サイハテの救世主』(サイハテのきゅうせいしゅ)は、岩井恭平による日本のライトノベル。角川スニーカー文庫から発行。 イラストはBou。 ストーリー沖縄のボロい一軒家に1人で引っ越してきた少年・沙藤葉は自分のことを天才と名乗る。しかし、近所の人々は葉の言うことなどお構いなしに、葉の生活に踏み込んでくる。見知らぬ地で戸惑いながら賑やかで穏やかな日々を過ごす葉は、自分のことを馬鹿にした者たちを見返すために未完成の論文を完成させようとするが、論文が完成していたという記憶、自分が考える沖縄に来た経緯など、自分の認識と現実との間にズレを感じ始める。 登場人物
”災厄論文”という人類にとっての破滅を警鐘する論文を作成したが葉の天才としての才能が狂いだす始まりとなった。
用語災厄論文かつて天才時代の沙藤葉が手掛けた論文。世界が破滅する可能性を論文としてまとめ上げたもの。葉が天才としてのキャリアを失った事件をきっかけに何者かに盗まれ、それを取り戻すことが葉自身の目標であり、本作品のテーマである。作中で登場した災厄論文は”破壊者”、”黄金火山”、”あまりにもわがままなアンジー”、”単巡機関”、”グリゴリ”。内容は自然の脅威や、葉の作り出した脅威、分析による戦争の戦術書と様々だが、その多くが危険であり、一歩間違えれば世界を滅ぼしかねないため葉自身としてはアンタッチャブルなものばかりだが、適度に扱えば技術の進歩に大きく貢献するものも中にはあるため[1]、世界中がこの論文を欲している。論文の閲覧者が葉のファンならば、ある種の恍惚状態となって論文を扱ってしまうが、悪意を持っても持たなくてもその論文の通りに行動したり、その論文の技術を作り出すだけで世界を滅ぼすものとなってしまう。 “破壊者(デモリッシャー)”PAPER I:破壊者にて初登場。人類が内包する社会的分類の拡大と終息に関する本能及び必要性の完成予想アルゴリズムが導き出す、飽和状態の周期および最終工程の考察についての論文。 破壊者とは世界を滅ぼす、あるいは滅ぼしうる才能を持った人物を意味するものである。葉曰く、歴史上に存在した世界を滅ぼしうる才能の持ち主の能力・行動を分析した結果、時間、武器、情報の三つの要素が足りなかったため世界を滅ぼすには至らなかった。時間については、世界を滅ぼすためには兵士を育成・掌握して目的地に移動するという膨大な時間のこと。武器については、文明を滅ぼしうるほどの強力な兵器。情報については、世界中の人間を疑心暗鬼にさせて殺し合わせるような正確で迅速な情報伝達手段を意味する。 現代においては、航空機器といった移動手段にて時間が、細菌兵器や核爆弾といった兵器で武器が、インターネットや衛星通信といった機器で情報が、それぞれ満たせるようになってきている。各種テロリスト組織の勢力図なども描かれており、それらを用いて反撃を行わせることができないほどの世界同時多発テロを起こすといった内容である。皮肉にも葉は警鐘のつもりで書いたが、結果的に世界を破壊する手段を提示することとなってしまう。 ”黄金火山(ゴールド・ヴォルケイノ)”PAPER II:黄金火山と幸福の少女にて初登場。 イギリス国土の十分の一ほどの大きさもある北海で発見された海底火山。海底からあふれだしたマグマと、それが急激に冷やされたことで発生した水蒸気やガスがマグマの明りに反射した結果黄金に見えることがその名の由来。 地殻下の溶岩帯が北海の全域に広がっており、ひとたび噴火すれば周囲の大陸、島が変形し火山灰が世界中を覆ってしまうと言われる。また、定期的に活動が活発化しており、対処するには垂直潜行型多段式潜行ミサイルであるボトムズ・アンカーと呼ばれるミサイルを特定の海底に突き刺し、いわばガス抜きを行わせることが必要となっている。作中ではいまだに予断を許さない状況が続いている。 ボトムズ・アンカーを特定の場所にさす必要があるものの地中に無数に広がる溶岩脈のどの部分にさせばよいのかは、黄金火山の活動が活発な時に発する特殊な電磁波を感知するアンジェリンの協力が不可欠であり、いわば彼女が世界の命運を握っていると言い換えることができる。アンジェリンなくしては黄金火山に対処できないため、彼女の機嫌を損ねることこそが結果的に世界の破滅へとつながりかねない状況であり、彼女の要求に逆らうことができず、全世界の首脳陣に対してアンジェリンを専制君主な立場へと押し上げてしまっている。 火山を程よく噴火させることによって北海内の海底の特定の場所を隆起させることも理論上は可能ではあるがその成功率は10%以下であり、失敗すれば上記のように世界が壊滅することとなる。 ”あまりにも我儘なアンジー”PAPER II:黄金火山と幸福の少女にて初登場。 一度黄金火山の噴火が起こりそうな際、アンジェリンの協力により事なきを得たものの初邂逅時のアンジェリンは病に襲われていた。天才とされる葉にさえ対処できない病であり、余命は一カ月も無いとされていた。彼女の能力が必要だと判断した葉により開発された技術は彼女を改造し、治療法を確立するための時間稼ぎを行うためのものであった。 いわば、人体改造の設計図である。 内容は、体の部位を分解しても動いたり常人以上の運動能力を得ることができるようになるというもの。腕を切り落とされても元の場所にくっつければ元通りに動き、首を切り落とされてもしばらくの間は首から下を動かせるようにできる。血液も葉が開発した通常のものよりも高い酸素濃度や糖分を備えた人工血液を活用し、高い運動性能を実現できるようになっている。改造内容によっては銃弾にもある程度の抵抗を持つこともできる。オリジナルであるアンジーは特殊な電磁波を受け取るという能力を応用し、他者からの悪意や敵意に反応し、銃弾などを自動的に回避するほどの能力を持つ。 葉はこの状態の人間をほかの人と比べてアンジーと読んでいる。目の虹彩の中が通常の人間とは違うらしく葉はそこで見分けることができる。 もとは葉が黄金火山という自然の脅威に対処するために生み出された人工の脅威である。革新的な医療技術ではあるがもし量産化されれば無敵とも呼べる軍隊を製造できてしまうことが災厄足りうる要因である。 ”単巡機関(たんじゅんきかん)”PAPER III:文明喰らいにて初登場。 密閉空間の中で特殊なボールを回転させるだけで一方から取り込んだ空気がもう一方の空間に圧縮されるような構造の空気圧縮装置。 圧縮した空気を開放することによりエネルギーを生み出し、推進力で銃弾を撃てたり、人が空を飛ぶことも可能とする。エネルギーバランスが崩壊するほど燃料を必要としない便利すぎるエネルギー源である。 葉が危惧するのは技術の流出により世界中にその技術が出回るようになり、簡単に兵器を生み出すことができるようになりどんな人間でも戦争ができるようになってしまうこと。 ”グリゴリ”PAPER III:文明喰らいにて初登場。 もとはアマゾン川流域にて発見された微小なミミズのような虫。体表は極小のかぎ状になっており、先端には目や触覚はなく、小さな口器には鋭い牙が生え揃っている。食性は鉱物であり、ワームの発見された洞窟は風化や地殻変動ではなくワームによって食い破られたものによるものであった。卵も金属で覆われるため天敵となる生物もなく容易に繁殖する。 もしワームが発見するのが遅れていた場合、重火器なども鉱物であるため木の棒くらいしか対処するすべはないこととなる。そうならないため発見後速やかに焼却処分したものの、一部は研究のために保管されることとなった。 ワームは各々特定の鉱物を求め、うまく活用すれば地中のレアメタルや貴金属を回収することすら可能となる。葉は鉱物採取の効率化のためワームの細胞分裂の抑制遺伝子を無効化することにより、ワームの巨大化を図ったもの、それこそがグリゴリと呼称されることとなる。 しかし巨大化により鯨ほどの制御不可能までの巨躯に至ることを知ったため、根絶するに至った。つまり葉が遺伝子操作を行ったことにより生み出された生物である。 ゴールド・ピッド北海の海底深くに建設された”黄金火山”の監視を目的とした基地。設計者は葉で、外部は六角形のパネルを合わせたさながら亀の甲羅のようとのこと[2]。研究員の居住スペース、娯楽施設、研究スペースと別れており、中心にアンジェリンの住むスペースがある。北海周辺の国々や国連などが出資して作られた基地であり、中立地帯として存在する。どの国の領地でもないため、どの国の法律も適用されない。 既刊一覧
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