クロシロエリマキキツネザル
保全状況評価 (2019年時点)[ 1]
CRITICALLY ENDANGERED (IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
学名
Varecia variegata (Kerr , 1792 )[ 3]
シノニム [ 3] [ 4]
Lemur macaco variegatus Kerr, 1792
Maki vari Muirhead, 1819
Prosimia subcincta A. Smith, 1833
Lemur varius I. Geoffroy, 1851
Varecia varia Gray, 1863
Lemur melanoleucus Gray, 1870
Lemur variegatus editorum Hill, 1953
和名
クロシロエリマキキツネザル [ 5]
英名
Black-and-white ruffed lemur [ 3]
亜種
V. v. variegata (Kerr, 1792)
V. v. editorum (Osman Hill, 1953 )
V. v. subcincta (A. Smith, 1833 )
クロシロエリマキキツネザル (学名 :Varecia variegata )は、マダガスカル島 の固有種 であり、アカエリマキキツネザル とともにエリマキキツネザル属 を形成するサル (霊長類 )。3種類 の亜種が存在する。2019年 時点における絶滅寸前種 。
学名
属名 のVarecia はマダガスカル語 でキツネザルを意味するvarika あるいはラテン語で多様を表す語(vari- )が語源と考えられており、種小名 のvariegata はラテン語 で「いろいろな色をした」を意味する[ 6] 。
分布
マダガスカル島 北東部のアンタイナンバラナ川 (英語版 ) から南東部の南ミドンギ国立公園 (英語版 ) 付近にある比較的低地 にある原生 熱帯雨林 を中心として非常にまばらに分布し、大きな樹冠 を持つ高い木々によって形成される高木層を行動範囲として広く保とうとする[ 1] 。
身体的特徴
体長 が約40 〜 60 センチメートル であるのに対し[ 7] 、尾長 は58 〜 66 センチメートル と[ 8] [ 9] 、やや尻尾 のほうが長く、高木層を移動するときのバランス感覚を支える[ 8] 。
体重 は3.5 〜 4.5 キログラム [ 10] 。
その名の通り、黒と白で作られる模様が特徴的であり、小さな耳を隠すように少し長く伸びた白い毛によって作られる襞襟 がある。頭部 、腹部 、尻尾 、手 、足 は基本的に黒く、背中 や腕 、脚 の一部に白い部分がある[ 9] 。
生態
行動
ほとんどの時間を林冠 の上半分から上三分の一で過ごす樹上性であり[ 8] 、匂いづけ行動によって高木層でのコミュニケーションを図る[ 11] 。その突き出た鼻で花蜜 を吸うとき、花粉が鼻や体毛に付着し花粉媒介者 としての役割を担うことがある[ 9] 。エリマキキツネザルは、年間平均として時間の28 % を 摂食、53% を 休息、19% を 移動に費やしていて、メスはオスに比べて休息が少なく、摂食が多くなっているというデータもある[ 12] 。群れの結束力を高める社会的グルーミング も行うが、エリマキキツネザルは指 ではなく歯 で毛づくろいをする[ 9] 。甲高くて大きいその声は最大800 メ -トル先まで届き、威嚇や縄張りの主張など各々に約12 種 類の鳴き声を使い分けてコミュニケーションを取る[ 9] 。
食物
あらゆる種類の果物 を食べる果実食動物 (英語版 ) である。花 (花蜜、花粉 、つぼみ )、木の葉 、種子 、菌類 、土 なども食料事情に応じて少量摂取する[ 11] 。数にして80 〜 132 種 類の植物を食べる[ 12] 。
社会体制
メスはオスよりも支配的であり、群れは一般にαメス ( アルファメス ) とよばれるメスのリーダーが率いる[ 9] 。
群れの数は食物の豊富さに左右されるため、食物が多い雨季 は群れの数も大きくなるが、食物が少ない乾季 は群れの数も少なくなる[ 11] 。群れの縄張り に別の群れが侵入すると、群れ同士の争いが勃発する場合がある[ 9] 。
繁殖
繁殖期は5 月 〜 7 月 であり、メスはあらかじめ地上10 〜 20 メートル の高さに小枝や木の葉、つる植物 でできた巣 を作り、そこでの出産と育児に備える[ 10] 。そして、メスは102日 間の妊娠期間を経て9 月 〜 10 月 に通常2 〜 3 匹 (最大6 匹 )の子を産む[ 8] 。産まれたばかりの子ザルは巣の中に残されるが、移動させる必要がある場合には、母ザルが一度に1 匹 だけ口の中に含んで運ぶ[ 1] 。母ザルは子ザルを1 〜 2 週 間で巣離れをさせ、子ザルは3〜 4 週 間までには母ザルの後ろを追いかけようとするようになる[ 8] 。しかし、子ザルの死亡率は非常に高いため偶発的な転倒や怪我により、その65 % は 生後3 か 月を迎えることができない[ 10] 。
捕食者
天敵は、同じマダガスカルの固有種フォッサ である[ 9] 。
寿命
野生下 では15 〜 20 年 生きるが[ 10] 、飼育下 では36 年 まで生きることがある[ 12] 。
分類
かつては旧キツネザル属Lemur にエリマキキツネザルとして分類されていたが[ 6] 、1962年に別属とされるようになった[ 3] 。2001年にアカエリマキキツネザル が独立種として分割されている[ 3] [ 5] 。
亜種
Varecia variegata subcincta (A. Smith, 1833 ), white-belted ruffed lemur
アンタナンバラナ川を北限として南のアノーブ川までに生息していると推定される[ 13] 。また、1930年代 にはアントンギル湾 に浮かぶノシ・マンガベ島 (英語版 ) に導入されたことがあり、ここには比較的高密度で生息している[ 13] 。なおアンタナンバラナ川の北東ではアカエリマキキツネザル と本亜種による雑種 がいくつか確認されているが、詳細な研究はまだ行われていない[ 13] 。下腹部回りが黒く、胸周りに白い輪があるのが見た目の特徴。しばしば黒ではなくダークブラウンに見える部分がある。
Varecia variegata variegata (Kerr , 1792 ), black and white ruffed lemur
基亜種。北側はアンバトバキ保護区の南からベタンポナ自然保護区とザハメナ国立公園付近までに分布していると推定されるが、北側の範囲は明確に定義されておらず、本亜種が発見されたアンバトバキ保護区については保護区全体での分布が不明である[ 14] 。また、南限も明確ではないがアンダジブ=マンタディア国立公園やトロトロフォツィ(ラムサール条約登録湿地 )の北であることが確認されている[ 14] 。背中の中央に白く太いタテ帯が首筋に向かって伸びているのが見た目の特徴。
Varecia variegata editorum (Osman Hill, 1953 ), southern ruffed lemur
島の東南に生息する亜種であり、アンダジブ=マンタディア国立公園以南からマノンボ特別保護区までによく見られる[ 15] 。アナラマザオトラ保護区では1970年代初頭に絶滅したが、2006年 に再導入/ 移 殖プログラムが開始された。しかし2017年 時点では順調に個体数が増加していたというが、狩猟 によって減少したという[ 15] 。胸を境として背中の上部が黒く、下部が白いのが見た目の特徴。
V. v. subcincta
V. v. variegata
V. v. editorum
保全状況
2019年時点のIUCN の 報告によると、マダガスカル島を離れた飼育下 においては、世界の6 つ の地域で800 匹 以上飼育されている[ 1] 。
IUCNが 2020年 に公開したレッドリスト によれば、野生種 の個体数が21 年 間(3世 代)で80 % 以 上減少したとされる絶滅寸前種 である[ 1] 。IUCNが 定義する占有面積(AOO)、発生範囲(EOO)のいずれにおいても減少傾向である[ 1] 。マダガスカルでは2010年 から2014年 にかけての年間森林破壊率が1.1 % / 年 であり、1973年 から計算すると2014年までに森林面積の37 % が 失われたことになり、本種もこの全国的な森林減少による影響を受けていると言わざるを得ない[ 1] 。また、比較的体が大きく、昼行性 であるため、マダガスカル全土において年間100 世帯 当たり1 〜 7 匹 という高い割合で狩猟 されており、これはキツネザル科 の中でも最も頻繁に標的になっていることを意味する[ 1] 。さらに、マダガスカルでは違法ペットとして飼われることも一般的である[ 1] 。
マダガスカル野生動植物グループ (英語版 ) (MFG)による積極的な保全活動もあるが、フォッサによる捕食だけでなく人間の狩猟によっても命を狙われており、そもそもエリマキキツネザルは事故により死亡するケースが多い、といった多くの問題を抱えており[ 16] 、デューク・レムール・センター (英語版 ) (DLC)は、マダガスカルから遠く離れたアメリカ の保護下で生まれたクロシロエリマキキツネザルをマダガスカルの野生に還す試み(「再導入」ではなく遺伝的多様性 を兼ね備えた「強化(補充)」とよぶ)を続けているが、ほかの地域で育った個体を大量に還すことは現実的ではなく、そもそも生息地が損なわれる原因となった伐採 、採掘 、焼き畑 、狩猟などの問題を解決することがこのプロジェクトが成功する基準の一つであるとしている[ 8] 。
参考文献
^ a b c d e f g h i j k Louis, E.E.; Sefczek, T.M.; Raharivololona, B.; King, T.; Morelli, T.L.; Baden, A. (2020). “Varecia variegata ”. The IUCN Red List of Threatened Species 2020 : e.T22918A115574178. doi :10.2305/IUCN.UK.2020-2.RLTS.T22918A115574178.en .
^ “Checklist of CITES Species ”. CITES . UNEP-WCMC . 2024年3月23日 閲覧。
^ a b c d e Groves, C. P. (2005). Wilson, D. E.; Reeder, D. M. eds. Mammal Species of the World (3rd ed.). Baltimore: Johns Hopkins University Press. pp. 117. ISBN 0-801-88221-4 . OCLC 62265494 . http://www.departments.bucknell.edu/biology/resources/msw3/browse.asp?id=12100061
^ John Buettner-Janusch & Ian Tattersall, “An annotated catalogue of Malagasy primates (families Lemuridae, Indriidae, Daubentoniidae, Megaladapidae, Cheirogaleidae) in the collections of the American Museum of Natural History,” American Museum Novitates , No. 2834, American Museum of Natural History, 1985, Pages 1–45.
^ a b 相見滿・小山直樹「キツネザル類はどのように分類されてきたか 」『霊長類研究』第22巻 2号、日本霊長類学会、2006年、97-116頁。
^ a b 岩本光雄「サルの分類名 (その8:原猿) 」『霊長類研究』第5巻 2号、日本霊長類学会、1989年、129-141頁。
^ “The fruit gourmets: Black-and-white Ruffed Lemurs ”. MADAMAGAZINE. 2024年4月6日 閲覧。
^ a b c d e f “BLACK AND WHITE RUFFED LEMUR ”. Duke Lemur Center. 2024年4月6日 閲覧。
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^ a b c d “Animal Info – Ruffed Lemur ”. Animalinfo.org . 2023年4月6日 閲覧。
^ a b c “Black-and-white ruffed lemur ”. WORLDRAINFORESTS. 2024年4月6日 閲覧。
^ a b c Gron, KJ (2007年8月7日). “Primate Factsheets: Ruffed lemur (Varecia) Taxonomy, Morphology, & Ecology ”. Wisconsin Primate Research Center (WPRC). 2024年4月6日 閲覧。
^ a b c Louis, E.E.; Sefczek, T.M.; Raharivololona, B.; King, T.; Morelli, T.L.; Baden, A. (2020). “Varecia variegata ssp. subcincta ”. The IUCN Red List of Threatened Species 2020 : e.T136934A115587032. doi :10.2305/IUCN.UK.2020-2.RLTS.T136934A115587032.en .
^ a b Louis, E.E.; Sefczek, T.M.; Raharivololona, B.; King, T.; Morelli, T.L.; Baden, A. (2020). “Varecia variegata ssp ”. The IUCN Red List of Threatened Species 2020 : e.T22919A115574404. doi :10.2305/IUCN.UK.2020-2.RLTS.T22919A115574404.en .
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^ “Back to the Wild ”. MFG. 2024年4月7日 閲覧。
関連項目