エル・アンド・ジー
株式会社エル・アンド・ジー (L&G Co.,Ltd.) は、東京都新宿区に本社を置いていた健康食品販売会社。高齢者を狙った[1]被害総額1,280億円[2]の詐欺事件「円天事件」を起こし、世間を騒がせた[3]。 その商法は一般的なマルチ商法やねずみ講と変わらないが、普及期を迎えつつあった[4]電子マネーを用いた点や[5]、有名人を広告塔に起用した点に特徴がある[6][7]。全国各地で販売会やコンサートを行い、悪質商法史上最高額となる2千数百億円を集めた[8]。 創業者の波和二は2012年に懲役18年の実刑判決を受けた[9]。 概要商号の由来は「Ladies & Gentlemen」を略したもの。1987年8月18日に、健康寝具・健康用品・栄養補助食品の販売等を目的として資本金2,000万円で設立された[5]。2001年から高金利をうたって投資商品を販売[5]、約5万人の会員から[10]1,280億円を集めた[2]。 信頼獲得のために実態のない会社を次々と設立し、エル・アンド・ジーグループを形成したが[11]、役員は「前科者の一大集団」であり[5]「『マルチの元祖』の会長を頂点に、過去のノウハウを持ち寄った悪質商法のデパート」と称された[12]。 会長の波は「ノザック」社で社長を務めていた1978年に詐欺で逮捕され実刑判決を受けたが、同時に逮捕された社員A、Bが役員として在籍していた[5]。また、同グループ社長のCは健康商品、総務・業務本部長Dはステンレス鍋を販売するマルチ商法の会社の幹部[12]、役員Eは「経済革命倶楽部」社長時代に詐欺容疑で逮捕された前歴をもつ[5]。さらには健康食品会社「リッチランド」の会長に転身、約500億円を集めて2007年1月に詐欺で逮捕された元社長F[5]を筆頭に、別の会社でマルチ商法を手掛けて逮捕される元幹部も多かった[12]。 沿革
投資詐欺商品「1口100万円の協力金を預けて会員になれば3か月ごとに9万円の配当を支払う」「1年後の満期には元本を返金する」とうたい、投資商品を販売した[10]。また3か月ごとの配当とは別に協力金と同額の[19]電子マネー・円天が支給された[10]。「円天を使っても協力金の元本は保証される」「使っても減らないお金」と[19]口コミで人気になり、3年あまりで約5万人の会員を集めた[10]。会員は全国で開催される円天市場やウェブサイトで日用品などを購入することができた[19]。 投資商品の内容は以下の通りである[20]。
洗脳の手法「1口100万円の協力金を預けて会員になれば3か月ごとに9万円の配当を支払う」[10]というのは年利36%を意味し、普通では信用されないが、最初は約束通り支払いがなされること、電子マネーという目新しさ[21]、さらには学者講演やコンサートを頻繁に行うことにより集団の熱狂・陶酔感が生まれ、会員を信用させることに成功した[7]。会長の波自身もその話術とカリスマ性を武器に「マルチ界の教祖」と称され[22]、波が販売会場に現れると「神のように崇められた」とされる[3]。同社が一斉捜索されてもなお妄信を続ける「信者」が多く、被害対策弁護団の弁護士が驚いたほどである[23]。 また、会員は出資額や勧誘人数によるピラミッド構造となっており、会員をランク付けすることで競争心を煽っていた[24][25]。
GAには自身が勧誘した会員からの出資額の4%のほか、毎月100万円の手当を支給、昇格者は会報誌にて顔写真付きで表彰された[24]。 経緯2001年から円天と呼ばれる電子マネー形式の疑似通貨を発行し、協力金と称して多額の出資金を集めた。連日のように全国各地のホテルで説明会を実施[5]、出席者の多くは50代から70代で、女性が多かったとされる[5]。投資商品の売上は1,280億円にのぼったが[2]、このうち約30億円が講演会やコンサートの開催費用に充てられ[26]、約20億円は波が個人的に使用[2]、売上を配当に充てる自転車操業の末にシステムが破綻した[27]。 1円につき1円天が支給された円天も[10]、2006年7月にはシャンプー500ミリリットル2本で6,000円天[28]、ミネラルウォーター2リットル12本で16,000円天[29]とインフレが進んでいった。2007年1月には配当が支払えなくなり[30]、2月より配当を日本円から円天に切り替え[10]、9月には円天での配当も停止し[8]、従業員の大半を解雇した[15]。各地で販売会「円天市場」や「あかりコンサート」(後述)を開催したことで被害は全国に広がり、10月から北海道[31]・東北[32][33]・九州[34][35]で被害対策弁護団の説明会が行われた。弁護団による被害者アンケートでは「イベントに芸能人が出演して勧誘したため入会した」という声が多かった[36]。 2007年10月3日、警視庁および宮城・福島県警察の合同捜査本部は、出資法違反(預かり金の禁止)容疑で同社を一斉捜索し、会社や会長自宅など全国60か所を家宅捜索した。同法の刑罰は3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金と、被害規模に対し軽微であるため、詐欺罪(10年以下の懲役)、組織的詐欺罪(1年以上20年以下の懲役)[37]での立件を視野に警視庁が捜査を進めると報じられた。 2009年2月5日、波と21人の幹部が組織犯罪法違反の容疑で逮捕された[37]。2010年2月8日に東京地裁で波の公判が開かれ、検察側は「他に類を見ない空前の大規模詐欺」「返済の見込みがないのに、(独自通貨の)『円天』制度を大々的に宣伝し、収益があるように信じ込ませた。有名歌手を呼んで無料イベントを行うなどして、返済能力があるように被害者らを信じ込ませた」と指摘して懲役18年を求刑した[38]。3月18日、求刑通り懲役18年の実刑判決が下された[1]。波側はこれを不服として控訴・上告したが、ともに棄却され、2012年1月10日に懲役18年の実刑が確定した[18]。 「円天事件」は1,280億円[2]という被害額で豊田商事事件(2,025億円)、八葉グループ事件(1,549億円)に次ぐ大規模な詐欺事件となったが[39][40]、弁護団が回収できた金額は約4億円に留まっている[2]。 有名人を広告塔に起用会員の募集や会社の信用を高める目的で、以下の演歌歌手・タレントを招き、月10回にわたって無料コンサートを行った。開演前に円天の仕組みなどを紹介[41]、有名歌手が「今後とも円天をよろしくお願いします」と言うことで観客を信用させていた[42]。被害対策弁護団はこれらの出演者に対しても損害賠償を請求する方針を発表した[43]。当初関与が公表された芸能人は以下の23人であった[44]。 細川たかしは1回のギャラ1,200万円で50回以上出演[44]、年2回の全国大会には毎回ゲスト出演し、会社のDVD[45]やカタログにも登場していた[46]。さらには歌手を紹介することで彼らの出演料の一部を紹介料としてピンハネした[47]。 被害対策弁護団は2007年12月12日[48]、同社に加担したタレント、以下30人に[49]出演回数・出演料・その他当時の状況を問う照会書[50]を送付[51]。細川への照会書では「知名度や社会的信用が高い貴殿が多数回コンサートに出演すること自体、L&Gに対する信用を増大し、結果的に詐欺行為を隠ぺい・助長することにつながったことは疑うべくもない」と指摘した[49]。 弁護団は照会書をもとに責任の有無を検討するはずであったが[48]、細川ほか13人はこれを無視、翌2008年4月1日に催告照会書が送付された[51]。未回答のタレントは以下の14人である[52]。
結局、上記のうち再度の照会書請求に応じたのは松崎しげる1人だけであった[53]。弁護団は被害者への違法収益返還の取り組みも行っていたが[51]、返還を希望したのはものまねタレント1人のみである[53]。 細川は以下の謝罪コメントを発表し(年明けに削除[54])、同年の第58回NHK紅白歌合戦の出場を辞退した[43]。これに対し弁護士の紀藤正樹は「まず世間にではなく、直接のL&Gの被害者に謝罪し、そしてL&Gから受けた金銭や便益を被害者に返すべきだろう」「誰に謝っているのかが不明で、“広告塔”として果たした役割を過小評価している」と非難した[43]。
2008年5月、弁護団は「新たな会員の参加や既存会員の出資を促進した」として細川に損害賠償請求訴訟を起こした[13]。本件について細川の事務所は「お答えできることはありません」と回答[13]、2009年2月時点で弁護団への回答書も提出していない[53]。 また、プロレスラーの坂口征二は自身が代表を務める道場のTシャツにエル・アンド・ジーのロゴを入れて配布していた[55]。坂口は同社に後輩の木村健悟を紹介し、木村は関連会社「円天興行」の社長を務めた[55]。森山雅美(慶應義塾大学医学部元准教授)は同社の講演に出席[56]、波の結婚式では金田正一が仲人を務めた[57]。 「あかりコンサート」詳細同社は「無料イベント・コンサートへの招待」を第一の売り文句として会員を募り[58]、高齢者に人気のある演歌歌手の無料コンサート(あかりコンサート)が有力な会員獲得手段となった[59]。 広告には「もちろん円天市場も同時開催」という言葉を明記[60]、歌手の出演前に同社の活動内容を紹介する映像を流し[61]円天の仕組みを説明[41]、寝具を絶賛した細川たかしをはじめとして[62]、出演歌手は同社の活動に言及していたとされる[61]。細川は10年以上にわたってコンサートに出演[13]、コンサートで波を「おやじ[13]」と呼ぶなどして親密さを強調[63]、「たくさん世話になっている」と称賛し[13]「L&Gのおかげでたくさんお金が入っていいですね」などと発言して[64]事業に肯定的な言動をとり続けた[63]。円天市場では着物や[65]法被が販売されていたが[66]、細川はステージでこれを着用して見せた[67]。 メディアでは細川1人が取りざたされたが、同コンサート最多出演は藤あや子で[68][69]、細川が負のイメージを被ることで[43]ほかの歌手に恩を売ったとも言われた[70]。2006年に2回出演した瀬川瑛子は「もっと出ている人がいるのに名前が出るのは心外」と述べた[71]。長山洋子の事務所は「昨年の古い話で、出演の事実はわかりません」と答えたが[71]、実際はその年に出演しており[68]、エル・アンド・ジーの公式サイトにも長山の写真が大きく掲載されていた[72]。2006年7月から11月までの5か月間での出演回数上位は下記の通りである[68]。
円天市場の開催により観客は紙袋を提げて帰ることになるが[73]、演歌のコンサートは歌手が客席に降りて握手してまわったり[74][75]、出待ちのファンに話しかけたりするなど観客との距離が近い[76](氷川きよしクラスであっても出待ち対応を行う[77])。弁護団事務局長の田中博尊は細川に対し「あれだけ多くのイベントに出演していれば、どういう会社なのかということは容易に推測できたはず」と断じた[13]。 キャバクラ嬢の社員登用2003年7月、関連会社「ロイヤリティ・コスモ」を設立。六本木のキャバクラで波が気に入った20歳前後の女性20人から30人[78]をスカウトし、社員にしていた[79]。彼女たちは「コスモガール」と呼ばれ[79]、渋谷区代官山や港区西麻布などにあるマンションを社宅として無料で使用した[22]。コスモガールは一律月給30万円、波から人生を学ぶ「生徒」であるとされ[78]、会員向けイベントの受付、飲み会への同席と業務内容は限られていた。コスモガールにはタレント志望の者や波と結婚した者もおり[78]、毎月1,500万円程度の金が彼女たちに使われていた[80]。 その他の商品投資商品以外に健康用品などを取り扱っていた[25][81][82][83][84][85]。
関連会社18の関連会社[86]があったが、そのうち11社は活動実態がほとんどなかった[11]。
二次被害被害救済を持ち掛けて「円天証書を額面、あるいはその数割の金額で買い取る」と手数料をだまし取る詐欺が横行した[90]。被害者団体の弁護士の名前を使って信用させる手口が多く[91]、同事件で200万円の被害に遭った女性が「被害回復会社」の社員を名乗る男に約1,000万円をだまし取られる事例もあった[92]。
脚注注釈
出典
関連項目外部リンク
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