より精確に、位相空間 X に対し、X のアレクサンドロフ拡大とは、適当なコンパクト空間 X* と開埋め込みc: X → X* の組で、埋め込まれた X の X* における補集合が一点(それをふつう ∞ と書く)となるようなものを言う。埋め込み写像 c がハウスドルフ埋め込みとなるための必要十分条件は、X がコンパクトでない局所コンパクトハウスドルフ空間であることである。そのような空間に対するアレクサンドロフ拡大は一点コンパクト化(いってんコンパクトか、英: one-point compactification)あるいはアレクサンドロフコンパクト化 (Alexandroff compactification) と呼ぶ。アレクサンドロフコンパクト化を考えることの優位な点は、それが単純な操作であること、大抵幾何学的に意味のある構造となること、および任意のコンパクト化の中で極小であるという事実にある。不利な点は、それがハウスドルフコンパクト化を与えるのがコンパクトでない局所コンパクトハウスドルフ空間のクラスに限られることであり、この点は任意の位相空間というより広範なクラスにおいて存在するストーン–チェックコンパクト化(英語版)とは異なる特徴ということになる。
動機付け
例 (逆立体射影)
一点コンパクト化の幾何学的によく実感できる例は、立体射影の逆を考えることで与えられる。立体射影 S は北極点 (0, 0, 1) を除く単位球面からユークリッド平面への同相写像を陽に与えるものであったことを思い出そう。その逆写像(逆立体射影)S−1: R2 ↪ S2 は開写像かつ、追加の点 ∞ ≔ (0, 0, 1) を添加して得られるコンパクトハウスドルフ空間への稠密な埋め込みとなる。立体射影により緯線円 z = c は平面円 r = √(1 + c)/(1 − c) へ写されるから、北極点 (0, 0, 1) の基本近傍系を取り除いて得られる穴あき球冠 c ≤ z < 1 は平面閉円板 r ≥ √(1 + c)/(1 − c) の補集合に対応する。より定性的に述べれば、∞ における基本近傍系は、K が R2 のコンパクト部分集合を亙るときの S−1(R2 ∖ K) ∪ {∞} によって与えられる。
この例はすでに一般の場合の鍵となる考え方を含んでいる。
位相空間 X からコンパクトハウスドルフ空間 Y への埋め込み c: X ↪ Y で稠密な像を持ち、埋め込み像の補集合 (remainder) が一点: {∞} = Y ∖ c(X) となるならば、c(X) はコンパクトハウスドルフ空間において開、したがって局所コンパクトハウスドルフであるから、それに同相な原像 X も局所コンパクトである。さらに言えば、X がコンパクトならば c(X) は Y において閉であり、したがって稠密でない。よって、一点コンパクト化ができる空間は、コンパクトでなく、局所コンパクトかつハウスルドルフであることが必要十分である。さらに言えば、そのような一点コンパクト化において各 x ∈ X の基本近傍系の像は c(x) ∈ c(X) の基本近傍系を与え、また(コンパクトハウスドルフ空間の部分集合がコンパクトとなるための必要十分条件はそれが閉であることだから)∞ の開近傍はちょうど X の補コンパクト部分集合の c による像に ∞ を添加して得られる集合でなければならない。
定義
定義 [アレクサンドロフ拡大]
集合として X* ≔ X ∪ {∞} とし、X の任意の開集合 U および X の任意のコンパクト閉集合 C に対する V ≔ (X ∖ C) ∪ {∞} の全体を開集合系とする位相を与えて X* を位相空間にする。ただし、X ∖ C は差集合である。V が {∞} の開近傍であり、したがって {∞} の任意の開被覆が X* のコンパクト部分集合 C を除く全ての点を含むことから、X* がコンパクトであることが導かれる[1]。包含写像 c: X ↪ X* を X のアレクサンドロフ拡大と呼ぶ[2]。
既にみたように、以下のような性質が満たされる:
写像 c は連続開写像であり、X は X* の開集合として埋め込まれる;
空間 X* はコンパクトである;
像 c(X) は X が非コンパクトのとき X* において稠密;
空間 X* がハウスドルフとなるための必要十分条件は X が局所コンパクトハウスドルフとなることである。
定義 [一点コンパクト化]
特にアレクサンドルフ拡大 c: X → X* が X のコンパクト化となるための必要十分条件は X がコンパクトでない局所コンパクトハウスドルフ空間となることであり、この場合を特に一点コンパクト化あるいはアレクサンドルフコンパクト化と呼ぶ。