わいせつ教員
わいせつ教員(わいせつきょういん、猥褻教員)とは、児童・生徒等に対してわいせつ行為に及んだ教員を示す。 概要文部科学省の定義では「わいせつ行為等」とは、「わいせつ行為」および「セクシャル・ハラスメント」をいう。「不同意性交等、不同意わいせつ、公然わいせつ、わいせつ物頒布等、買春、痴漢、のぞき、陰部等の露出、青少年保護育成条例等違反、不適切な裸体・下着姿等の撮影(隠し撮り等を含む。)、わいせつ目的をもって体に触ること等の「わいせつ行為および犯罪には該当しないが他の同僚教職員や児童・生徒を不快にさせる性的言動の「セクシャル・ハラスメント」としている[1]。 教員のわいせつ行為に対しては、2001年に起こったツーショットダイヤルを通じて12歳の女子中学生と知り合った中学生教師が被害者を手錠監禁し、車で移動中に女子中学生が飛び降り逃亡を図り通行したトラックに轢かれ死亡した中国自動車道女子中学生手錠放置事件をきっかけに、原則懲戒免職とすることが示されている[2]。 しかし、現行法では教員がわいせつ行為で懲戒免職となり、教員免許が自動的に失効しても、3年経てば、本人からの申請に基づき、都道府県教育委員会が教員免許を再交付することとなっていた。文部科学省は職業選択の自由を侵害することへの恐れからわいせつ教員の復職を制限する法令を策定することを断念したが、世論ではこれに対する批判から「子どもへのわいせつ行為の前歴がある人へ、教員免許再交付しないで下さい」というインターネット署名5万4000筆分が文部科学省に提出された[3]。 後述の沖縄県でのわいせつ行為を受けた女子生徒自殺事件では、教員免許法では、懲戒免職などで教員免許が失効した教員について、教委が官報に氏名や免許状の種類などを公告する義務付けがあるにもかかわらず、沖縄県教育委員会が該当者の失効情報を官報に掲載していなかった[4]。 また、被害に遭うのは大多数が女子児童・生徒であるが、男子児童・生徒が被害者となるケースもある。 2021年、議員立法として「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」が衆参両院の全会一致により成立し、2021年6月に公布された。これにより児童生徒にわいせつ行為をして懲戒免職となった教員に対し、失効した免許を再交付しない権限が都道府県教育委員会に与えられた。 文部科学省は懲戒免職理由が明らかではない従来システムを改め、2018年、免許を失効した元教員の名前や生年月日、本籍地を調べられる検索システムを導入し、2021年には検索期間を過去5年分から40年分に拡大した[5]。さらに、都道府県教育委員会に氏名や処分理由の入力を義務付け、子どもにわいせつ行為をした教員の処分歴閲覧用データベースの作成を2022年度に着手する[6]。 NPO法人性犯罪加害者の処遇制度を考える会・性障害専門医療センターSOMEC代表で精神科医の、福井裕輝は人口の5%程度は先天的な小児性愛者であり、小児性加害依存には治癒はなく、あるのは加害行為をしない回復の状況の維持だけだとしている[7][8]。 東京都教育委員会は2022年4月、「児童・生徒を教職員等による性暴力から守るための第三者相談窓口」を開設した[9]。2024年、岡山県教委は教員によるスカート内盗撮や生徒へのキスなど不祥事が相次ぎ「岡山県の教育界はもう後がない」として緊急校長会議を行った。児童・生徒、保護者向けに相談窓口に関するリーフレットを配布し、教職員自身が点検できるチェックシートも導入した[10]。 2024年6月、子どもに接する仕事に就く者が性犯罪歴がないか確認する制度「日本版DBS」を導入するための法律が成立した。[11]。 イギリスに拠点を置く歌手で俳優のリナ・サワヤマは、当時は交際だと思っていたが振り返ると17歳の時に学校の教師からグルーミング被害に遭っていたと語っている[12]。 統計2019年度までの5年間に猥褻・セクハラ行為で懲戒処分を受けた公立小中高校などの教員が千人を超え、このうち約半数が自校の教え子に加害行為をしていた[13]。わいせつ行為やセクハラで懲戒処分を受けた公立小中高校などの教員は2019年度に273人で、2018年に次ぐ過去2番目の多さになっていた。また処分内容が体に触るが84名、性交が49名となっている[14]。 2024年12月文科省が公表した人事行政状況調査で、2023年度に児童生徒ら子どもへの性暴力による処分は157人であった。発覚経緯が「窓口への相談」が9人となっていた[15]。 背景教育現場から性犯罪を根絶するには教員の業務の見直しを図るべきであり、日本の教員は家庭訪問や子どもの悩み相談などで内面的な介入が求められ精神的にも距離が近くなり好意が発生する可能性が高い。仕事内容を見直さないと、ストレスフルな環境が続き、状況も変わらないとの京都教育大の榊原禎宏教授の指摘がある[16]。 性犯罪者の治療に携わる、筑波大学の原田隆之教授(犯罪心理学)とNPO法人「性犯罪加害者の処遇制度を考える会」の代表理事で精神科医の福井裕輝医師は、そもそも小児性愛(ペドフィリア)は再犯リスクが高く、教室という閉鎖空間に加害者を戻すことについて警鐘を鳴らしている[17]。 文科省の『妊娠の経過は取り扱わない』とするいわゆる歯止め規定があるため、授業では通常性交については教えていないが、児童を対象とした性犯罪や父親や兄、おじ、継父など親族らによる児童性的虐待が問題となっており、これらに被害児童の性に対する無知につけこんだケースが多い事から、思春期前のより早期からの性教育によって、子供に自身が性的搾取から保護されるべき権利主体である事を認識させようとする動きが見られる。子供への性虐待の研究では、加害者の中には多くの子ども達の中から拒否できない子を瞬時に見出す能力を持つ人間がいるため、アメリカでの小学校2年生女子へのレイプ事件をきっかけに生まれた子どもに対する暴力防止CAPプログラム(Child Assault Prevention)の受講や被害拡大することを防ぐために知識を得る性教育が有効としている[18]。2020年度より、幼稚園、小・中学校、高等学校、大学で「生命の安全教育」という新しい教育を始める方針があるが、引き続き性行為や避妊は取り扱わない予定とされている[19]。 事件性加害性加害の結果、自殺及び自殺未遂に至った事件
女児・女子生徒への加害
男児・男子生徒への加害
過去の性加害の告発
性加害に関する裁判2025年、横浜市教育委員会では、教員による児童生徒へのわいせつ事件の公判に多数の職員を動員して傍聴させていたことが発覚して一般人の傍聴権利を侵害したことを謝罪した。延べ371人の職員が動員されていた。被害者からの教育委員会の職員に入って貰う希望に応じたと言う[54]。 性的同意年齢→詳細は「性的同意年齢」を参照
日本では明治時代に制定された性犯罪に関する制度の継続により、13歳の中学1年生から性行為に同意する能力があるとしている。2020年5月には、性的同意年齢を13歳からとしていた韓国では通信アプリのチャットルームで、脅迫などにより行わせた女性のわいせつな動画や画像を提供して暴利を得た「N番部屋事件」に中学生とみられる被害者が含まれていたことをきっかけとして年齢を16歳に引き上げた。またフランスも性犯罪事件によって15歳に引きあげた。日本は海外に比べて低い13歳となっている[55][56]が、教員のわいせつ行為の懲戒免職の対象は、刑事罰の対象とならない行為も含み、児童生徒等の同意や暴行・脅迫等の有無を問わないとしている[57]。 また教師や塾講師など信頼する身近な大人から猥褻行為や性暴力を受ける事件もあり、被害者が幼かった場合、被害者は自傷行為に陥ったり成長してからその意味を理解して深く傷つく場合がある[58]。 2023年7月の刑法改正により「性交同意年齢」を条件付きで13歳から16歳に引き上げられた。また公訴時効も現在より5年延長し、施行5年後に性犯罪規定の見直しを検討する付則も設けられた[59]。 学校関係者による性加害教職員のみならず、定期健康診断で訪れる学校医による女子生徒などの盗撮が起こっている。2022年7月、京都府警では岡山市の医師の男(47)を岡山県迷惑防止条例違反容疑でペン型カメラで女子生徒の下着姿などを撮影した罪で逮捕した[60]。また、大阪や兵庫の学校で、40人余りの女子生徒などを携帯電話やペン型のカメラで盗撮した医師の男(35)は児童ポルノ禁止法違反で保護観察の付いた執行猶予の判決を受けた。男は駅での盗撮や痴漢行為にも及んでいた[61]。 なお、文部科学省は、2024年度から学校の健康診断について正確な診察に支障のない範囲で原則、上半身裸ではなく体操服などで体を覆うなど、子どものプライバシーや心情に配慮するよう全国に通知を行っている。[62][63] 日本国外におけるケースイギリスイギリスでは、内務省が所管するDBS(前歴開示および前歴者就業制限機構)が子供と一緒に働くことを禁じられた犯罪者等リストを整備し、子供と日常的に接触のある職につく場合に無犯罪証明書を発行している[64]。また、イギリスでは性犯罪について公訴時効がない[65]。 脚注
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