くじら座ミュー星

くじら座μ星 μ Ceti
星座	くじら座
見かけの等級 (mv)	4.27[1] (4.30 + 7.80)[2]
変光星型	GDOR?[2]
位置 元期:J2000.0
赤経 (RA, α)	02^h 44^m 56.5373458591^s[3]
赤緯 (Dec, δ)	+10° 06′ 50.921738061″[3]
視線速度 (Rv)	29.53 ± 0.28 km/s[3]
固有運動 (μ)	赤経: 278.641 ミリ秒/年[3] 赤緯: -41.222 ミリ秒/年[3]
年周視差 (π)	37.5924 ± 0.2440ミリ秒[3] （誤差0.6%）
距離	86.8 ± 0.6 光年[注 1] （26.6 ± 0.2 パーセク[注 1]）
絶対等級 (MV)	2.17[4]
くじら座μ星の位置（赤丸）
物理的性質
半径	2.07 ± 0.11 / 0.80 ± 0.15 R☉[2]
質量	1.66 ± 0.04 / 0.8 ± 0.1 M☉[2]
表面重力 (log g)	3.8 cgs[2]
自転速度	45.1 ± 2.3 km/s[4]
自転周期	2.5 日[4]
スペクトル分類	F0 IV[5] + K0.5 V[2]
光度	10.6 L☉[6]
有効温度 (Teff)	7,210 ± 230 / 5,250 K[2]
色指数 (B-V)	0.311[1]
色指数 (V-I)	0.37[1]
金属量[Fe/H]	-0.05± 0.16[2]
年齢	1.20+0.18 −0.16×10^9 年[2]
軌道要素と性質
軌道長半径 (a)	525.9 ± 2.6 ミリ秒[2]
離心率 (e)	0.9219 ± 0.0006[2]
軌道周期	33.62 ± 0.03 年[2]
軌道傾斜角 (i)	95.5 ± 0. 度[2]
前回近点通過	2019.3300 ± 0.0006 年[2]
他のカタログでの名称
くじら座87番星, BD+09 359, HD 17094, HIP 12828, HR 813, NSV 909, SAO 110723[3]
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くじら座μ星（くじらざミューせい、μ Ceti、μ Cet）は、くじら座にある連星である[7]。見かけの合成等級は4.27と、肉眼でみることができる明るさである[1]。年周視差に基づいて太陽からの距離を計算すると、約87光年である[3][注 1]。

干渉計で検出できる伴星と、軌道周期約33.6年の連星を構成する[2]。黄道からそう遠くない位置にあり、しばしば月による掩蔽が発生する[8][7]。掩蔽の観測から、四重星ではないかともいわれるが、詳細はわかっていない[9][7]。

星系

くじら座μ星は視線速度の値にばらつきがみられることから、単線分光連星ではないかとされ、予備的に軌道要素も求められて、軌道周期は1202.2日とされた[10][2]。ただし、視線速度曲線と測定値とのずれは小さくなく、正しくないかもしれないとの注釈がつき、その後視線速度の変化に寄与するデータは1観測所のものだけで、視線速度は一定ではないかとの報告もあった[10][11]。

分光観測とは別に、スペックル干渉法による観測で、0.1秒も離れていない位置に伴星が検出された[12]。当初は疑わしいとされていたが、以後伴星は繰り返し観測され、やがて軌道も描けるようになり、これは真の伴星と考えられている[13][9][8][2]。

一方、くじら座μ星は黄道からあまり離れていないため、しばしば月による掩蔽が発生し、それによっても伴星は観測されている[7][8]。2000年1月15日に、ゴルナーグラートにあったイタリア国立望遠鏡（英語版）で観測された掩蔽から、くじら座μ星に2つの新しい伴星が報告され、四重星ではないかとされた[9][13]。しかし、この2つの伴星はその後検出されていない[8]。実在するが観測できなかったと仮定した場合、検出限界からこの2星は非常に低温の赤色矮星と考えられる一方、検出された際の主星との等級差は、2星が既知の伴星とそう変わらない性質であることを示唆しており、矛盾が生じている[8][9][7]。

スペックル干渉法による観測の蓄積から、確定している連星の軌道要素が視覚的にも求められ、その結果は分光軌道要素とはまったく異なるものだった[2]。くじら座μ星の軌道周期は33.6年で、離心率は0.92と極めて細長い楕円軌道をとっている[2]。

特徴

くじら座μ星の主星は、F型準巨星と考えられ、スペクトル型はF0 IVと分類され、MK分類ではこの種の恒星の標準星とされている[5][7]。スペクトル型をA9 IIIpとする研究もあるが、推定される光度や半径からすると巨星ではなく主系列星ないし準巨星、また化学特異性も特にはないとみられる[14][7][2]。表面の有効温度はおよそ7200 K、半径は太陽の2倍強で、質量は太陽の1.7倍ほど、自転周期は2.5日と推定される[2][4]。

伴星は、主星との等級差およそ3.5等から、K型主系列星と考えられ、スペクトル型はK0.5 Vが示されている[2]。有効温度は概ね5250 K、半径と質量はいずれも太陽の8割程度と見積もられている[2]。

変光

TESSの観測結果に基づくくじら座μ星の光度曲線[15]。

くじら座μ星は、ジュネーブ天文台による測光観測から、色等級図上で不安定帯に位置し、たて座δ型変光星であることが疑われた[16][17]。しかし、実際に光度変化が観測されていたわけではなく、変光星総合カタログでもあくまで変光星候補に止まっていた[17][18][注 2]。しかし、TESSによる測光観測結果が明らかになると、光度曲線が実際に振動していることが示され、やはり変光星であると考えられる[2]。光度曲線の分析から、変光周期0.485日、変光振幅1.5ミリ等級の振動が顕著で、分類するならばかじき座γ型変光星であると考えられる[2]。

名称

中国では、くじら座μ星は、帝の穀物倉を司るもの、あるいは全ての穀物倉を表すという天囷（拼音: Tiān Qūn）という星官を、くじら座α星、くじら座97番星（英語版）、くじら座λ星（英語版）、くじら座ξ^1星（英語版）、くじら座ξ^2星（英語版）、くじら座ν星（英語版）、くじら座γ星、くじら座δ星（英語版）、くじら座75番星、くじら座70番星（イタリア語版）、くじら座63番星（英語版）、くじら座66番星（イタリア語版）とともに形成する[19][20][21]。くじら座μ星自身は、天囷四（拼音: Tiān Qūn sì）すなわち天囷の4番星といわれる[21]。

脚注

注釈

1. ^ パーセクは1 ÷ 年周視差（秒）より計算、光年は1÷年周視差（秒）×3.2615638より計算
2. 変光星総合カタログでは、変光星であるとすればりょうけん座RS型ではないかとしている[18]。

出典

1. ^ ESA (1997), The HIPPARCOS and TYCHO catalogues. Astrometric and photometric star catalogues derived from the ESA HIPPARCOS Space Astrometry Mission, ESA SP Series, 1200, Noordwijk, Netherlands: ESA Publications Division, Bibcode: 1997ESASP1200.....E, ISBN 9290923997 
2. ^ Dyachenko, V. V.; et al. (September 2024), "Study of the μ Cet Binary with Speckle Interferometric, Photometric, and Spectroscopic Techniques", Astrophysical Bulletin, 79: 445–463, arXiv:2409.15063, Bibcode:2024AstBu..79..445D, doi:10.1134/S1990341324600698。
3. ^ “mu. Cet -- Spectroscopic Binary”. SIMBAD. CDS. 2025年6月12日閲覧。
4. ^ Reiners, A. (2006-01), “Rotation- and temperature-dependence of stellar latitudinal differential rotation”, Astronomy & Astrophysics 446 (1): 267-277, Bibcode: 2006A&A...446..267R, doi:10.1051/0004-6361:20053911 
5. ^ Danks, Anthony C.; Dennefeld, Michel (1994-04), “An Atlas of Southern MK Standards from 5800 to 10,200Å”, Publications of the Astronomical Society of the Pacific 106: 382-396, Bibcode: 1994PASP..106..382D, doi:10.1086/133390 
6. Chen, Christine H.; et al. (April 2014), "The Spitzer Infrared Spectrograph Debris Disk Catalog. I. Continuum Analysis of Unresolved Targets", Astrophysical Journal Supplement Series, 211 (2): 25, Bibcode:2014ApJS..211...25C, doi:10.1088/0067-0049/211/2/25。
7. ^ Kaler, James B. (2007年12月21日). “MU CET (Mu Ceti)”. Stars. University of Illinois. 2025年6月12日閲覧。
8. ^ Dyachenko, V.; et al. (August 2018), "Lunar occultation observations at the SAO RAS 6-m telescope", Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, 478 (4): 5683–5688, Bibcode:2018MNRAS.478.5683D, doi:10.1093/mnras/sty1427。
9. ^ Richichi, A.; et al. (September 2000), "New binary stars discovered by lunar occultations. V", Astronomy & Astrophysics, 361: 594–600, Bibcode:2000A&A...361..594R。
10. ^ Abt, Helmut A. (1965-06), “The Frequency of Binaries among Normal A-Type Stars”, Astrophysical Journal Supplement Series 11: 429-460, Bibcode: 1965ApJS...11..429A, doi:10.1086/190120 
11. Abt, Helmut A.; Levy, Saul G. (1974-03), “Reinvestigation of certain long-period A-type binaries”, Astrophysical Journal 188: 291-294, Bibcode: 1974ApJ...188..291A, doi:10.1086/152716 
12. Tokovinin, A. A. (1985-09), “Interferometric observations of double stars in 1983 and 1984”, Astronomy & Astrophysics Supplement Series 61: 483-486, Bibcode: 1985A&AS...61..483T 
13. ^ Mason, Brian D.; et al. (2025-05), “The Washington Visual Double Star Catalog”, VizieR On-line Data Catalog: B/wds, Bibcode: 2025yCat....102026M 
14. Gray, R. O.; et al. (October 2003), "Contributions to the Nearby Stars (NStars) Project: Spectroscopy of Stars Earlier than M0 within 40 Parsecs: The Northern Sample. I", Astronomical Journal, 126 (4): 2048–2059, Bibcode:2003AJ....126.2048G, doi:10.1086/378365。
15. “MAST: mu Ceti”. Mikulski Archive for Space Telescopes (MAST) Portal. STScI. 2025年6月12日閲覧。
16. Hauck, B. (1971-03), “Short period variable stars. V. Delta Scuti-type stars in the Geneva system”, Astronomy & Astrophysics 11: 79-82, Bibcode: 1971A&A....11...79H 
17. ^ Breger, Michel (1969-12), “Short-Period Variability of B, A, and F Stars. III. A Survey of Delta Scuti Variable Stars”, Astrophysical Journal Supplement Series 19: 79-97, Bibcode: 1969ApJS...19...79B, doi:10.1086/190199 
18. ^ Samus, N. N.; et al. (2009-01), “General Catalogue of Variable Stars”, VizieR On-line Data Catalog: B/gcvs, Bibcode: 2009yCat....102025S 
19. 盧, 央 (2008-12) (中国語), 中国古代星占学, 中国天文学史大系, 北京: 中国科学技術出版社, p. 196, https://archive.org/details/Ancient-Chinese-Astronomy/%E3%80%8A%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E5%8F%A4%E4%BB%A3%E6%98%9F%E5%8D%A0%E5%AD%A6%E3%80%8B_12792410 
20. 伊, 世同, ed. (1981) (中国語), 中西对照恒星图表 1950.0 （星图分册）, 科学出版社, p. 8, https://archive.org/details/Ancient-Chinese-Astronomy/%E4%B8%AD%E8%A5%BF%E5%AF%B9%E7%85%A7%20%20%E6%81%92%E6%98%9F%E5%9B%BE%E8%A1%A8%20%201950%E5%B9%B4%20%20%E6%98%9F%E5%9B%BE%E5%88%86%E5%86%8C_11481621 
21. ^ 伊, 世同, ed. (1981) (中国語), 中西对照恒星图表 1950.0 （星表分册）, 科学出版社, p. 88, https://archive.org/details/Ancient-Chinese-Astronomy/%E6%81%92%E6%98%9F%E5%9B%BE%E8%A1%A8%20%E6%98%9F%E8%A1%A8%E5%88%86%E5%86%8C%20%E4%B8%AD%E8%A5%BF%E5%AF%B9%E7%85%A71950.0%2010498618 

関連項目

• くじら座の恒星の一覧

外部リンク

• “VSX: Detail for NSV 909”. The International Variable Star Index. AAVSO (2010年1月18日). 2025年6月12日閲覧。
• 大阪教育大学宇宙科学研究室. “μ Cet　HR813　F0IV”. ☆スペクトル物語☆～デジタルアトラス～. 岡山天体物理観測所. 2025年6月12日閲覧。
• “Light Curve of mu Cet (mu Ceti) from VSNET reports”. VSNET. 2025年6月12日閲覧。

座標: 02^h 44^m 56.5373458591^s, +10° 06′ 50.921738061″