数学、とくに加群論において、環R と R-加群 M とその部分加群 N が与えられたとき、次の条件を満たすならば M は N の本質拡大(英: essential extension)(あるいは N は M の本質部分加群(英: essential submodule または 英: large submodule))と呼ばれる。M のすべての部分加群 H に対して
H ∩ N = 0 ならば H = 0.
特別な場合として、R の本質左イデアル(英: essential left ideal)は左加群 RR の部分加群として本質的な左イデアルである。そのような左イデアルは R の任意の 0 でない左イデアルと 0 でない共通部分をもつ。同様に、本質右イデアルは右 R 加群 RR の本質部分加群のことである。
ツォルンの補題を使って次の有益な事実を証明できる。
M の任意の部分加群 N に対してある部分加群 C が存在し
N ⊕ C ⊆eM.
さらに、真の本質拡大のない加群(つまり、加群が別の加群において本質的ならば後者は前者に等しい)は移入加群である。すべての加群 M は極大な本質拡大 E(M) をもつことが証明でき、M の移入包絡と呼ばれる。移入包絡は移入加群であり、同型を除いて一意的である。移入包絡は M を含む他のどんな移入加群も E(M) のコピーを含むという意味で極小でもある。
余剰部分加群
多くの基本的な性質は余剰部分加群にも双対化されるが、すべてではない。
明らかに 0 は M の余剰部分加群であり、0 でない加群 M の部分加群 M は決して余剰的ではない。
すべての加群は像が移入加群(移入包絡)において本質的であるような単射準同型によって写されるので、その双対命題が正しいか問うだろう。すなわち、すべての加群 M に対して射影加群P と核が余剰的であるような P から M への全射準同型が存在するだろうか?(そのような P は射影被覆と呼ばれる。)答えは一般には「いいえ」であり、右加群が射影被覆をもつような環のクラスは右完全環のクラスである。
一般化
この定義は任意のアーベル圏C に一般化できる。本質拡大とは単射u : M → E であってすべての 0 でない部分対象s : N → E に対してファイバー積N ×E M ≠ 0 であるようなものである。