ViolaWWW は1990年代初期に開発されたWebブラウザであり、Mosaic が登場するまでは最も人気のあるブラウザであった(ただし、当時の World Wide Web 利用者は限られている)。
歴史
Gillies と Cailliau の著書 How the Web was Born[1]では、ViolaWWW の開発の経緯が詳しく描かれている。ViolaWWW を考案したのは、当時カリフォルニア大学バークレー校の学生だった魏培源 である。(以下、ページ数の付記された記述は同書に基づく)
彼は、1989年に HyperCard と出会い、グラフィカルなソフトウェアに興味を持つようになった。しかし、彼は Macintosh を持っておらず、HyperCard は Macintosh でしか動作しなかった(p.213)。アクセスできるものとしてはX端末しかなかったため、そこで動作する Viola の最初バージョンを開発した(1990年)。これは、HyperCard のマニュアルを参考にして、そのコンセプトを X Window System 上に実装したものであった(p.213)。
1991年、Viola 0.8 をリリースし、卒業後も "Berkeley's Experimental Computing Facility" で働きながらさらに Viola の開発を進めた(p.213)。
Pei Wei の次の目標はインターネット上で Viola を動作させることだった。問題は Viola のページをどうやってインターネット上で転送するかだった。そんなとき、彼はティム・バーナーズ=リーの World Wide Web に関する電子メールを読んだ。URL が必要としていたものであることを悟り、バーナーズ=リーに対して X 版のブラウザを開発するつもりであることを知らせた。バーナーズ=リーはこれを歓迎する返事をし、その4日後に Pei Wei はブラウザ ViolaWWW が完成したことを公表した(p.214)
ViolaWWW は World Wide Web の扉を開いたと言えるが、X Window 上でしか動作しないため、NCSA Mosaic には対抗できなかった。World Wide Web の爆発的な普及に貢献したのは Mosaic であった。
先進性
1992年に開発された ViolaWWW は、スクリプト埋め込み、スタイルシート、表のレンダリングといった先進的な機能を備えていた。
- クライアント側での文書挿入。いわゆるフレームや JavaScript によるシンジケーションに相当する。
Viola での文書埋め込み
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object タグを使った手法
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<INSERT SRC="a_quote.html">
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<object type="text/html" data="a_quote.html">
<p>This text will appear
for browsers that don't
support OBJECTs</p>
</object>
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- 単純なスタイルシート機構。フォント種類、色、位置合わせなどの情報を文書に挿入できる。1998年に開発された CSS よりも前に Viola にはその機能が備わっていた。
Viola でのスタイルシート
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CSS スタイルシート
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(BODY,INPUT,P FGColor=black
BGColor=grey70
BDColor=grey70
align=left
(H1 FGColor=white
BGColor=red
BDColor=black
align=center
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body, input, p {
color: black;
background-color: #707070;
text-align: left;
}
h1 {
color: white;
background-color: red;
border: solid 1px black;
text-align: center;
}
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- サイドバーパネルを使って、メタ情報を表示する。洗練された機能とは言い難いが、最近のブラウザにも類似の機能を持つものがある。
- HTML文書からアクセス可能なスクリプト言語。JavaScriptなどの先駆けと言える。
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ViolaWWW の場合
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JavaScript の場合
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スクリプト
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\class {txtDisp}
\name {showTime}
\script { switch (arg[0]) {
case "tick":
set("content"), date());
after(1000, self(), "tick");
return; break;
case "init":
after(1000, self(), "tick");
break;
}
usual();
}
\width {100}
\height {50} \
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function showTimeInDoc() {
var theTime =
document.
getElementById('theTime');
var tDate = new Date();
theTime.innerHTML=
tDate.getHours()
+ ":" + tDate.getMinutes()
+ ":" + tDate.getSeconds();
setTimeout("showTimeInDoc()",
1000);
}
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Webページへのスクリプト埋め込み
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<HTML>
<HEAD>
</HEAD>
<BODY>
<P>And, the time now is:
<LINK REL="viola"
HREF="showTime.v">
</BODY>
</HTML>
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<html>
<head>
<script type="text/javascript"
src="showTime.js">
</script>
</head>
<body onload="showTimeInDoc()">
<p id="theTime"> </p>
</body>
</html>
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マイクロソフト対Eolasの裁判と既知の発明としてのViolaWWW
1999年、Eolas Technologies とカリフォルニア大学は、マイクロソフトが同社の特許を侵害しているとして訴えた。その特許とは、Webブラウザに他のソフトウェアをシームレスに組み込む方法を示したものである。2003年には Eolas 側の訴えが認められ、マイクロソフトに5億2,100万ドルの賠償支払いが命じられた。
マイクロソフトは控訴し、その特許が申請される以前に、ViolaWWW が既に同様の技術を実装していたことを示した。また、マイクロソフトは Eolas 側が特許申請の際に意図的に ViolaWWW に関する知識を秘匿したと示唆している。これによって、2005年2月に下級審への差し戻しが行われ、2007年8月に和解が成立した。和解条件の詳細は明らかにされていない。
脚注
- ^ Gillies, James & Robert Cailliau. How the Web was born: The Story of the World Wide Web. Oxford: Oxford University Press, 2000.
参考文献
- Freedman, Alan. Computer Desktop Encyclopedia, 9th Edition. New York: Osborne, 2001.
外部リンク