Request for CommentsRequest for Comments(リクエスト フォー コメンツ、略称:RFC)はIETF(インターネット技術特別調査委員会、英: Internet Engineering Task Force)による技術仕様の保存、公開形式である。内容には特に制限はないが、通信プロトコルやファイルフォーマットが主に扱われる。 RFCとは「コメント募集」を意味する英語の略語であり、もともとは技術仕様を公開し、それについての意見を広く募集してより良いものにしていく観点から始められたようである。今日では、IETFやIAB (インターネットアーキテクチャ委員会、英: Internet Architecture Board)、およびコンピュータネットワーク研究者の世界的なコミュニティの公式発表の場となっている。 RFCは基本的に英語で書かれており、公式の翻訳版は存在しない。 なお、IETF以外の組織・コミュニティにおいても、同様の目的の文書群をRFCと呼称する事例が存在する。 歴史RFCというコンセプトは、1969年にARPANETプロジェクトにおいて生まれた[1]。 初期のRFCはタイプライターで執筆され、高等研究計画局(略称ARPA、後にDARPAへ改名)の研究者にそれをコピーした紙が配布された。現在のRFCとは異なり、初期のRFCの多くは文字通り実際にコメントを求めるものであり、宣言のような響きを避け、議論を促すために"Request for comments"という名前が付けられた[2][3]。初期のRFCは、あまり形式ばらないスタイルで書かれていた。 RFC 1 は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のスティーブ・クロッカーが執筆し、1969年4月7日に発行された「ホスト・ソフトウェア」である[4]。このRFCは、執筆したのはクロッカーであるが、クロッカーとスティーブ・カー、ジェフ・ルリフソンによる初期のワーキンググループでの議論により生まれたものである。 クロッカーが執筆した RFC 3 で「RFCとは何であるか」を初めて定義し、RFCはARPAのネットワーク・ワーキンググループに帰属するものとされた。ただし、これは正式な委員会ではなく、ARPANETプロジェクトに関心のある研究者のゆるやかな集まりであり、誰でも参加できた。 ARPANETが1969年12月に稼働し始めると、RFCの配布はARPANET上で行われるようになった。最初にネットワークで配布されたRFCはRFC 114であった[5]。UCLAにはARPANETの最初のIMP(Interface Message Processor)の一つが置かれていたため、1970年代のRFCの多くもUCLAから発信された。ダグラス・エンゲルバートが所長を務めたスタンフォード研究所のオーグメンテイション研究センター(ARC)は、ARPANETの最初の4つのノードのうちの1つであり、初期のRFCもここから発信された。ARCには最初のNIC(のちのInterNIC)が置かれ、エリザベス・J・フェインラーが管理し、他のネットワーク情報とともにRFCを配布した[6]。 1974年に発行されたRFC 675 でinter-networkingの略語としてはじめて「Internet」の語がつかわれた。 1977年頃、ARPANETプロジェクトとは別にInternetプロジェクトが発足した際に、ARPANETプロジェクトのRFCというコンセプトを模倣して、インターネット実験ノート(英: Internet Experiment Note、IEN)という類似の文書シリーズを発行することにした。またRFCのコンセプトを模倣した文書シリーズは IEN だけではなく、INWG Note[注釈 1]や、PRNET Notes、ARPA Satellite System Notes など多くプロジェクトでRFCを模倣した類似の文書シリーズが存在した[7]。 これらのシリーズは完全に独立したものではなく、複数のプロジェクトに関係する文書は複数のシリーズでナンバリングをされているものも存在する。例えば前述のRFC 675は INWG 72 でもあり、またRFC 761は IEN 129 でもある。 1983年にARPANETはそれまでのNetwork Control Program(NCP)プロトコルを、Internetプロジェクトの成果物であるTCP/IPに移行した。それを機に、あるいはそれと前後して、これらの類似の文書シリーズはRFCに統合されていった[7]。 1988年、IABにインターネットドラフト(英: Internet Draft)シリーズの作成が承認された[5]。これにより最初期の「コメント募集」という位置づけと形式ばらないスタイルが、RFCとして承認される前段階であるインターネットドラフトに引き継がれた。 RFCの歴史については以下のRFCにまとめられている。
RFC編集者の役割1969年から1998年までは、ジョン・ポステルがRFC編集者(英: RFC editor)を務めた。1998年にポステルが亡くなると、彼の訃報が RFC 2468 として発表された。 アメリカ連邦政府とのARPANETの契約が切れた後、IETFを代表してインターネットソサエティが南カリフォルニア大学(USC)情報科学研究所(ISI)のネットワーク部門と契約し、IABの指示の下でRFCの編集および発行を行うことになった[8]。 2007年7月にRFC発行の流れ(英: RFC stream)が定義され、編集作業を分担できるようになった[9]。 2010年1月、RFC編集者の役割は Association Management Solutions に移管され、Glenn Kowack が暫定のシリーズ編集者を務めた[10]。2011年後半、Heather Flanagan が常任のRFCシリーズ編集者(英: RFC Series Editor、RSE)として採用された。また、その時にRFCシリーズ監視委員会(英: RFC Series Oversight Committee、RSOC)が設立された[11]。 2020年、IABは RFC Editor Future Development プログラム開催し、RFC編集者のモデル変更の可能性について議論した。プログラムの結果は、2022年6月に公開されたRFC 9280で定義されているRFC編集者モデル(バージョン3)に含まれている。一般的に、新しいモデルは、RFCシリーズとRFC編集者の役割に関連するポリシーの定義と実装の責任とプロセスを明確にすることを目的としている。新しいモデルの変更には、RFCコンサルティング編集者(英: RFC Consulting Editor)、RFCシリーズワーキンググループ(英: RFC Series Working Group、RSWG)、およびRFCシリーズ承認委員会(英: RFC Series Approval Board、RSAB)の役職の確立が含まれる。また、RFCシリーズの新しい編集の流れを確立し、RSOCを終了した。RSEの役割はRFCシリーズコンサルティング編集者(英: RFC Series Consulting Editor、RSCE)に変更され、2022年9月 Alexis Rossiがその役職に任命された[12]。 作成RFCの作成プロセスは、RFC 2026 "The Internet Standards Process, Revision 3" で定義されている(一部が RFC 6410により更新されている)。 これは、国際標準化機構(ISO)などの正式な標準化組織の標準化プロセスとは大きく異なる。インターネット技術の専門家は、外部機関のサポートなしにインターネットドラフトを提出することができる。標準化過程のRFCはIETFの承認を得て公開され、通常はIETFワーキンググループに参加している専門家によって作成され、最初にインターネットドラフトが公開される。このアプローチにより、文書がRFCとなる前に、最初のピアレビューラウンドが容易になる[13]。 RFCのスタイルガイドは RFC 7322 で定義されている。また、RFC編集者のサイトでスタイルガイド関連資料が紹介されている[14]。ほとんどのRFCでは一貫性を保ち理解しやすいように「MUST」や「NOT RECOMMENDED」などの共通の用語セット(RFC 2119およびRFC 8174を参照)、メタ言語としての拡張バッカスナウア記法(ABNF、RFC 5234を参照)、および単純なテキストベースのフォーマットを使用している[注釈 2]。 初期のRFCは固定幅の整形済みテキスト形式で作成されていたが、2019年8月にRFC文書をさまざまな表示サイズのデバイスで最適に表示できるように、リフロー可能な形式に変更された[15]。 バージョン管理RFC編集者はRFCを公開する際に一連の番号を割り当てる[注釈 3]。一度番号が割り当てられ公開されたRFCは、取り消されたり変更されたりすることはない[注釈 4][16]。誤字などの誤りがあった場合には、別途正誤表(英: errata)が公開されることがある。 公開済のRFCに大きな修正が必要な場合は、新しいRFCとして改訂版を発行する。そのため、一部のRFCは他のRFCを置き換えることがある。他のRFCを置き換えたRFCは「置き換え先のRFCを廃止した(英: obsolete)」と言い、置き換えられたRFCは「置き換え元のRFCによって廃止された(英: obsoleted by)」と言う。例えばRFC 5000はRFC 7100によって破棄されたため、RFCインデックスなどにはRFC 5000には Obsoleted-By RFC7100 と記載があり、RFC 7100には、Obsoletes RFC5000 という記載がある。 またRFC文書の全体を廃止するのではなく、一部を上書きするケースもある。この場合には他のRFCを上書きしたRFCは「上書き先のRFCを更新した(英: update)」と言い、上書きされたRFCは「上書き元のRFCによって更新された(英: updated by)」と言う。 ステータスすべての RFC がインターネット標準というわけではない[17][18]。各RFCには標準化プロセスにおけるステータス(英: status)が定められている。ステータスは「標準化過程 (英: Standards Track)」、「情報 (英: Informational)」、「実験的 (英: Experimental)」、「現状で最良の慣行 (英: Best Current Practice)」、「歴史的 (英: Historic)」のいずれかである。
→詳細は「インターネット標準」を参照
サブシリーズRFCシリーズには、2つのサブシリーズ(BCP、STD)が含まれており、また廃止された1つのサブシリーズ(FYI)がある。
RFCが各サブシリーズに割り当てられると、サブシリーズの番号が割り当てられる(例えば、STD 1 など)。サブシリーズの番号が割り当てられてもRFC番号は保持される。 サブシリーズを構成するRFCが置き換えられた場合でも、サブシリーズの番号は変わらずに新しいRFCを参照するようになる(参照先のRFCは1つの場合もあれば、複数のこともある)。例えば、2007年時点ではRFC 3700がインターネット標準 STD 1 であったが、その後RFC 5000に置き換えられたため、2008年5月時点の STD 1 はRFC 5000となった。さら2013年12月にRFC 7100で置き換えられ、STD 1 [注釈 5]は使用されなくなった。 発行の流れRFC発行の流れには、IETF、IRTF、IAB、独立提出(英: independent submission)、および声明(英: Editorial)の5パターンがある[19]。
IETFと声明以外の文書は、IETFの作業と競合するかどうかについてIESGによってレビューされる。IRTFおよび独立提出RFCには通常、IETFの作業と競合しない、インターネット全体に関連する情報または実験的内容が含まれている。 著作権一般的なルールとしては、明示的に権利を譲渡しない限り、RFCの著者(または雇用条件にその旨が定められている場合は雇用主)が著作権を保持する[20]。 独立機関であるIETFトラストが一部のRFCの著作権を保有しており、その他すべてのRFCについては著者からRFCの複製を許可するライセンスを付与されている[21]。インターネットソサエティはRFC 4714以前の多くのRFCで著作権所有者として言及されているが、その権利をIETFトラストに譲渡した[22]。 取得方法全てのRFCはインターネット上で公開されており、誰でも閲覧、取得することができる。 インターネット上では以下の2つのURIからRFCを取得できる(以下はRFC 1149の例)。
IETFは、RFCの公式提供URIは www.rfc-editor.org ドメインのもので、datatracker.ietf.org ドメインのものはその作業用リポジトリであるとしている[23][24][25]。ただし、関連するインターネットドラフト等は datatracker.ietf.org にしかないため注意が必要である(Wikipediaでは、datatracker.ietf.orgドメインのURIを使用している)。 RFCシリーズのISSN(国際標準逐次刊行物番号)は 2070-1721 である(RFC 5741参照)。 RFCシリーズのDOI(デジタルオブジェクト識別子)のディレクトリ識別子は 10.17487 である(RFC 7669参照)。例えばRFC 1149のDOIは
一風変わったRFC毎年、エイプリルフールにはユーモラスな内容のRFC、通称ジョークRFCが公開されることがある[注釈 6]。 →詳細は「ジョークRFC」を参照
また、インターネットに多大な貢献があった人への追悼のRFCが公開されたこともある。 RFCの一覧最新のRFC一覧はRFC編集者のページに公開されているRFCインデックスで確認ができる[参考 2]。以下の一覧は一部の抜粋である。
脚注注釈出典
参考リンク
関連項目
外部リンク
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