Q&AサイトQ&Aサイト(キューアンドエーサイト)とは、利用者が質問を公開し、回答を募って疑問を解消する仕組みを提供するウェブサイトのことである[1]。質問サイト[2]、Q&Aコミュニティ[3]、ナレッジコミュニティとも呼ばれる[4]。 種類Q&Aサイトには専門家が回答するものと、不特定多数の会員同士が知識や経験を共有するコミュニティ(共同体)[5]を形成して、お互いの質問に自由に答え合うものがある。コミュニティ型のうち、幅広いジャンルの話題を扱うものとしてはYahoo!知恵袋、人力検索はてな、OKWaveなどがあり、日本以外ではAsk.fm、Yahoo! Answersや「知識 in」、百度知道などがある。特定のジャンルに特化したQ&Aサイトとしては発言小町(女性)や技術の森(製造業・技術)、シス蔵(情報システム)、NazoLab(数学・科学)、 Stack Overflow(プログラミング)などがある。一方、専門家型のQ&AサイトとしてはLawPivot(法律)[6]や保団連の「健康相談サイト」、有料のExperts Exchange(IT)などがある。 Q&Aサイトの中には、他のQ&Aサイトと連携しているものがある。例えば「教えて!goo」はOKWaveのシステムを利用しており[7]、「教えて!goo」に投稿された質問を別のQ&Aサイトで閲覧・回答することができる[8]。またOKWaveは他のQ&Aサイトにシステムを外販しており、技術の森[9]などで使われている。Q&AサイトのシステムはCRMやFAQなどの企業の業務に利用される場合もある。例えばOKWaveは金融・保険、製造、小売など様々な業界にシステムを販売しており[10]、258サイトに導入されている(2012年)という[11]。 質問と回答の手順コミュニティ型のQ&Aサイトの場合、質問者が質問ボタンを押して、質問文を入力し、カテゴリを選んで投稿すると、質問ごとに専用のページが作成される[12]。同時にQ&Aサイトのトップページやカテゴリ別のページにも告知され、質問のタイトルや本文の一部が一覧リストに表示される。Q&Aサイトによっては、ランキング機能を持つものがあり、閲覧数や評価の高い質問が一覧表示されている場合[13]がある。 閲覧者は一覧の中から興味を引いた質問を選んで、質問のページを表示し、質問の全文を確認して、回答できる場合は回答ボタンを押す。回答を入力して投稿すると、回答は質問文の下に追加され、質問者や他の閲覧者に公開される。次の閲覧者は質問と既存の回答を確認して、回答できる場合は自分の回答を投稿する。 Q&Aサイトによっては、質問者が閲覧数や回答の様子を見て補足質問を投稿したり、回答に対するコメントを投稿できる場合もある。回答の受付は質問者が満足するまで続き、最後に質問者が最も良いと思う回答を1つ選んで終了する。もしくはYahoo!知恵袋[14]や「人力検索はてな」[15]のように、未解決のまま1週間で自動的に終了する場合もある。 投稿された質問と回答は回答の受付が終わった後も、過去ログとしてQ&AサイトやGoogleなどの検索エンジンから検索されたり、Q&Aサイトやポータルサイトの類似質問表示機能によって、再利用される。コミュニティ型のQ&Aサイトにおいて、投稿された回答はあくまでも個人的見解であり、その内容が正しいという保証は一切ない。 機能インターネットを使って質問文を不特定多数に公開し、閲覧者から回答を得て疑問を解消する行為は、Q&Aサイトの独占物ではない。例えば2ちゃんねるのような電子掲示板にも「専門板」があり、質問と回答が行われている。しかしQ&Aサイトは質問と回答に特化したウェブサイトであり、汎用サイトと比べて様々な工夫がなされている。 例えば汎用サイトでは質問と回答の作法[16]が暗黙的に決まっており、それを知らない初心者は教育的な指導を受け、時には苛められることもあったという[17][18]。Q&Aサイトでは質問の手順や場所が明確になっており、初心者でも安心して質問できるようになっている。 Q&Aサイトは、2ちゃんねるのような匿名掲示板と異なり、会員登録を必須としていることが多い。発言者はIDによって第三者に識別され、Q&Aサイトによっては発言履歴も第三者に公開される。質問のページでは、発言者ごとに回答や補足が1箇所にまとまるので、電子掲示板のように複雑な発言構造を読み解かなくても、内容を把握することができる。また発言はIDと関連付けられて何時までも残るので、問題発言はコミュニティ内での評価に関わり、荒らし対策にも有効[19]だという。 Q&AサイトはQ&Aマッチングともいわれ[20]、質問者と回答者を出会わせてマッチングするナレッジマーケットの一種[注釈 1]である。例えばYahoo!知恵袋には「回答ひろば」という機能があり[21]、登録キーワードや過去の回答傾向から、回答者が興味を持って回答できそうな質問を一覧表示する。またQ&Aサイトの回答者は無償で回答するボランティアが多いが[22]、中には対価が欲しい回答者・専門家もいる。そのような回答者に「はてなポイント」[23]のような決済機能を提供したり、All Aboutのような会社と交渉して専門家を回答者として招聘するのも[24]、Q&Aサイトのサービスの1つである。 Q&Aサイトは、回答の品質や回答意欲を高めるための仕組みを設けている場合も多い。例えばYahoo!知恵袋では、質問者が回答の中から最も良い回答を選び、ベストアンサーとして表彰し、知恵コイン[25]と呼ばれるポイントを与える。OKWaveも同様に、所定の「ありがとうポイント」[26]を付与する。ポイントは貨幣価値が無いことが多く、質問者の感謝の気持ちを数値的に表すだけの場合が多いようだが、「人力検索はてな」のポイントは質問者が有料で購入したコミュニティ通貨・仮想通貨であり、回答者はポイントを集めてAmazonギフト券などと交換することができる[23]。またベストアンサーが多い利用者にカテゴリーマスターの称号を与えたり、年間マスターランキング[27]で表彰したりするQ&Aサイトもある。 Q&Aサイトによっては、アンケート機能[28]やブックマーク機能[29]を提供している場合がある。またYahoo!知恵袋の知恵ノート[30]のように、ハウツーサイト的なサービスを提供している場合もある。 質問Q&Aサイトでは、数多くの質問と回答が行われている。例えば「教えて!goo」には約207万件/月の質問があり[注釈 2]、平均3.5件の回答が付くという(2012年4月から6月)[31]。またYahoo!知恵袋の現在までの質問総数は1億件を超え[32]、回答数は約2億3671万件に及ぶ(2013年1月)。 Q&Aサイトの質問は、カテゴリ別に分けられていることが多い。これは日本だけでなく、例えば中国の百度知道でも同じであり、电脑/网络(IT)、生活(ファッションなど)、医疗健康、体育/运动(サッカーなど)、电子数码(電話やカメラなどの電子デジタル)、商业/理财(ビジネス・財務管理)、教育/科学、社会民生(社会・政治)、文化/艺术(文化・芸術)、游戏(ゲーム)、娱乐休闲(音楽などの娯楽レクリエーション)、烦恼(恋愛などのトラブル)、资源共享(動画や音楽共有)、地区カテゴリに分かれている[注釈 3]。 カテゴリの中には人気のカテゴリがあり、例えば「教えて!goo」の場合は恋愛相談や人生相談、ライフ、英語、法律に関するカテゴリが人気だという[31]。OKWaveの閲覧数ランキングでは「ロングブレスダイエットで本当に痩せますか?」「妊娠中の妻が家事を怠ります。 」「子供がAKB48のCDを大量に買ってしまいました」が年間TOP3(2012年)だった[33]。またYahoo!知恵袋では嵐やプロ野球、AKB48、Facebook、東方神起をキーワード検索した人が多かった[34]。人気カテゴリの傾向は、国ごとに違うという研究もある[35]。 利用者Q&Aサイトには数多くの利用者がいる。例えば「教えて!goo」の利用者は3,374万人/月で、閲覧数は1億2,851万PV/月(自社調べ)に達する。利用者の中心は30代と40代で、専業主婦やその他、事務・営業・保安職など様々な職業がいるという[31]。またYahoo!知恵袋には、1210万人が利用者登録をしている[注釈 4]。 研究Q&Aサイトはデータの形式が一定であるため、研究資料に使いやすいといわれている[36]。例えばYahoo!知恵袋のデータは2007年から国立情報学研究所に提供されており[37]、そのデータを使って国立国語研究所が自然言語処理研究用の大規模なコーパスを構築したという[38]。また情報社会学会が2008年から「知識共有コミュティワークショップ」を開催している[39]。 歴史2000年代前半現存するQ&Aサイトが誕生したのは、2000年頃とされる[注釈 5]。それ以前にもパソコン通信の電子掲示板やニュースグループ、メーリングリストのようなものはあったが、Simple Mail Transfer ProtocolやNetwork News Transfer Protocolを使った情報交換サービスは、電子メールクライアントの設定が必要であり、難解だと思われていた[40]。一方でHypertext Transfer Protocolを使った情報交換サービスは、ウェブブラウザでホームページを見ることができれば利用できた。そのため2000年前後はHTTP技術の採用が進み、2ちゃんねるのような大規模な匿名電子掲示板が誕生し、ウェブ型のQ&Aサイトが始まり、ページランクに基づくGoogleの検索技術が普及し始めた。 2000年頃はパソコンやインターネットが普及した時期でもあった。日本では1998年に32.6%だったパソコンの世帯普及率が2002年までに71.7%に倍増し、インターネットの世帯普及率は13.4%から54.5%に上昇した[41]。1591万世帯[注釈 6]・約5248万人[注釈 7]の初心者が誕生し、大量の質問需要が発生した。パソコンメーカーやインターネットサービスプロバイダのサポートセンターの電話はつながり難くなり、混雑状況の案内があったほどだった[42]。電話がつながったとしても、押し寄せる多数の電話の「受電率」を上げるために、サポートセンターが解決方法を提案するだけで電話を切ってしまう「提案切り」の問題もあったという[43]。電話で問題を解決できなかったユーザーはインターネットに向かったが、検索は当時の最新技術であり、使用方法が分からない人も多かった。初心者はネット上の他のユーザーに助けを求めたが、熟練者の数は限られており、いじめられていると感じること[18]もあった。そこで登場したのがOKWaveのようなQ&Aサイトだった。またメーカーやプロバイダも独自のQ&Aサイトを立ち上げたり[44]、Q&Aサイトのシステムを導入して[45][10]、ユーザー同士の助け合いを促した。ユーザーの中には有料でもいいから優しく教えてもらいたい、専門家に教えてもらいたい、代わりに検索してもらいたいという人もおり「人力検索はてな」やGoogle Answersのような有料のQ&Aサイトが誕生した。またQ&Aサイトを知識を取引するナレッジマーケットとみなして[46]、オークション型のQ&Aサービスを展開する会社もあった[47]。パソコンの相談以外にもインターネット人口の増加によって、口コミや評価が楽しい時代になり[48]、電子商取引も始まっていた。eコマースサイトにQ&Aサイトを組み込んで売り上げを伸ばしたり[46]、リストラで傷んだ企業内のコミュニティを再生し、暗黙知を掘り起こしてナレッジマネジメントを行いたいという要望もあり[46]、Q&Aサイトの利用が広がっていった。 2000年代後半次の波は2000年代中盤に訪れた。2004年頃から日本のYahoo!やライブドア、アメリカのYahoo!、韓国のNAVERや中国の百度などのポータルサイトが次々とQ&Aサイトを開設した[注釈 8]。ちょうどこの頃、Web 2.0が始まり、Consumer Generated Mediaが本格化していた。Q&Aサイトはブログと共に、CGMコンテンツと看做され、利用を薦められることもあった[49]。2005年頃から、Q&Aサイトと既存メディアのメディアミックスが試みられ、「今週、妻が浮気します」が出版・ドラマ化された。iモードへの対応も徐々に進み[50]、2007年から2008年にかけてQ&Aサイトの利用が急増した[51]。特にYahoo!知恵袋の躍進は目覚しく、利用者は約1262万人/月に達したという[52]。一方で、思ったほど広告収入に結びつかないなど[53]様々な事情があり、サービスを終了するQ&Aサイトもあった[注釈 9]。 2010年代前半大規模化したQ&Aサイトは、犯罪や不正も呼び寄せてしまう。例えばYahoo!知恵袋では2010年頃から、中学生が宿題の相談をして、回答を丸写しにして提出するという事例が問題視されていた[54]。その後、2011年には大学入試問題ネット投稿事件、2012年にはステルスマーケティング目的のやらせ投稿[55]が発覚した。また逗子ストーカー殺人事件の犯人は、被害者の住所や凶器の入手方法などの情報をYahoo!知恵袋で集めていた[56](逗子ストーカー殺人事件#経緯も参照)。 コミュニケーションやレクリエーション目的の「ネタ質問」の存在も指摘されており[57]、質問や回答の品質の確保は頭の痛い問題である。2012年現在、フィーチャーフォンからスマートフォンへの移行が進んでおり[58]、以前よりインターネットを利用しやすくなっているという。Q&Aサイトの質問は人も時も場所も端末も選ばなくなっており、従来のQ&Aサイトが採用しているIDや投稿の事前確認・検閲[59]を越えるような、新しい工夫が模索されている。例えばアメリカでは2000年代後半からソーシャル・ネットワーキング・サービスと連携した実名制に近いQ&Aサイト[60]やWiki型のQ&Aサイト[61]など様々な試みがなされており、ベンチャー企業がアイデアを競っているという[62]。 沿革
脚注注釈出典
参考文献
関連項目 |