Have I Been Pwned? (HIBP 、ロゴの表記は「';--have i been pwned? 」)(→私はPwn[ 注 1] されている?) とは、セキュリティ専門家のトロイ・ハント (英語版 ) が2013年12月4日に開設した、インターネット 利用者が自らの個人情報 が漏洩 していないかを照会できるウェブサイト 。漏洩した数十億件のアカウント 情報を含む、数百のデータベースダンプ (英語版 ) やPastebin を収集、分析して得られた情報から、電子メール アドレス、または、電話番号 で検索することができる。また、メールアドレスの登録を行うことにより、今後ダンプされたデータにそのアドレスが含まれた場合、通知を受け取ることも可能となる。HIBPは、インターネット利用者のセキュリティやプライバシーの保護のための貴重なリソースとして広く知られている[ 4] [ 5] 。
2019年6月現在、HIBPは80億件の漏洩情報を有し、ユニークユーザー数 は1日平均で15万人、通知サービスへのメールアドレス登録数は300万件にのぼる[ 1] 。
特徴
HIBPは開設以来、主な機能として、一般の人が自らの個人情報の漏洩や侵害が発生したことを確認することができるページを公開している。電子メールアドレスを入力することにより、そのアドレスに関連付けられたレコード を含む、全ての漏洩データのリストを確認することができる。また同時に、その漏洩の発生した背景や、漏洩に含まれる具体的なデータ項目などの詳細情報も提供される。また、"Notify me"サービスを提供しており、今後の漏洩に関連する通知を受け取ることができる。このメール通知サービスに登録を行うだけで、自らの個人情報が含まれる新たな情報漏洩が発覚した際には、即座にその情報を得ることが可能となる。
2014年9月、ハントは、pastebinに掲載された漏洩情報についてTwitter でつぶやくボット"Dump Monitor"を利用し、リアルタイムで、新たな漏洩の可能性のあるデータをHIBPへ反映する機能を追加した。データ漏洩は広く報道される前に、pastebinに示されることも多く、これを監視することにより、情報が漏洩していることについて、いち早く知ることができる[ 6] 。
2018年3月、HIBPはパスワードマネージャー の1Password (英語版 ) と提携したことを発表、漏洩データであると判明した場合の表示が、従来のパスワードの変更を促すものから、1Passwordの利用を推奨するものへと変更された。このことについて、ハントは自らのウェブサイトで理由を説明し、経済的利益を得るためではないことを主張している[ 7] 。
Mozilla はHIBPと提携し、HIBPのデータベースとAPIを利用して日本語でもパスワード漏洩や個人情報流出をチェックすることができるFirefox Monitor を提供している[ 8] 。
Pwned Passwords
2017年8月、ハントは一括ダウンロードが可能なパスワードのデータ3億600万件を公開し、そのデータベース内をウェブ上で検索可能なサービス"Pwned Passwords"をHIBPに追加した[ 9] 。
2018年2月、イギリスのコンピュータ科学者Junade Ali (英語版 ) により、パスワード文字列で生成したハッシュ値の一部だけを送信するだけで照合可能な、k-匿名性 と暗号学的ハッシュ関数 を用いた通信プロトコルが作成された。ハントはこのプロトコルを取り入れたPwned Passwordsの新たなバージョンを公開した[ 10] [ 11] 。2021年5月28日には検索対象のデータにFBI が捜査の過程で入手した流出パスワードデータを追加したことが発表された[ 12] [ 13] 。
歴史
公開
トロイ・ハント
情報漏洩における傾向とパターンの分析を行っていた、ウェブセキュリティの専門家トロイ・ハントは、漏洩が発生した時に、自らの情報が漏洩したことに気づいていない人にも大きな影響が及ぶ可能性があることに気づき、HIBPの開発に着手した。ハントは、2013年の10月に発生した1億5,300万件のアカウントに影響したアドビシステムズ のセキュリティ侵害を引き合いに出し「おそらく、最も触発されたのはアドビだった」と語っている[ 14] 。
ハントは、2013年12月4日にHIBPを公開し、自らのブログでアナウンスした。公開当初にHIBPのデータベースにインデックスされていたのは、アドビ、ストラトフォー 、ゴーカー (英語版 ) 、Yahoo! Voices (英語版 ) 、ソニー・ピクチャーズ のわずか5件の漏洩事例によるデータのみであった[ 15] 。ハントは当時、HIBPについて以下のように語っていた。
土台となるプラットフォームを作ったからには、将来の漏洩を素早く統合し、影響を受けた可能性のある人が直ぐに検索できるようにします。情報漏洩を悪意を持って利用する攻撃者などは、非常に迅速にそのデータを入手し分析できますが、一般消費者が
Torrent からギガバイト単位の
gzip 圧縮データを落として、自らが危険にさらされているかどうかを調べることは非現実的であり、今はちょっと不公平なゲームです。
—
Troy Hunt、troyhunt.com[ 16]
情報の追加
サイト公開以降、HIBPの開発の主眼は、新たな情報漏洩が一般に公表された後、可能な限り迅速にデータを更新することである。
2015年7月、オンラインで既婚者 向けの出会い系 サービスを展開するアシュレイ・マディソン で情報漏洩が発生し、3,000万人以上の利用者の身元が一般に流出した。この情報漏洩は、おそらくは、規模の大きさや、不倫という恥ずかしい情報であったことが影響し、メディアで大きく報道され、その注目度により、HIBPのトラフィックは570倍に増大した[ 17] 。この事態を受けHIBPは「センシティブ」な情報が含まれる場合には、通常の検索は行えず、メール通知システムの登録者にのみ開示されるように改修が行われた。この機能はアシュレイ・マディソンだけではなく、Adult FriendFinder (英語版 ) のようにスキャンダルとなる情報が含まれる可能性のあるサイトからの情報でも利用された[ 5] 。
2015年10月、ハントは匿名の情報源から、無料のホスティングサービス を運営する000webhostより漏洩したとされる1,350万件のメールアドレスと平文 パスワードのダンプの提供を受けた。フォーブス のトーマス・ブリュースターと共同で、そのダンプ内のメールアドレスの試験を行い、複数の000webhost利用者に機密情報を確認するなどの調査を進め、000webhostから漏洩したダンプである可能性が最も高いことを検証した。ハントとブリュースターは、漏洩の真偽を確かめるため、何度も000webhostにコンタクトを試みたものの、回答は得られなかった。2015年10月29日、全てのパスワードのリセットが行われ、ブリュースターによる漏洩に関する記事が公開された後、000webhostはフェイスブックを通じて、情報漏洩について公表した[ 18] [ 19] 。
2015年11月初頭、ギャンブルの決済ブロバイダであるNetellerとSkrillによる情報漏洩について、親会社であるPaysafe (英語版 ) グループが事実であることを認めた。Joomla! の脆弱性が悪用されNetellerから漏洩した360万件、2010年当時、MoneybookersであったSkrillがVirtual Private Network の侵害により漏洩した420万件、合計780万件のレコードがHIBPのデータベースに登録された[ 20] 。
2015年11月下旬、電子知育玩具で知られるVTech (英語版 ) がハッキングされ、HIBPへ匿名の情報源から約500万人の保護者の記録を含むデータが提供された。ハントは、この事例は消費者の個人情報 (英語版 ) 漏洩としては、これまでで4番目に当たる規模であると述べている[ 21] 。
2016年5月には、数年前に発生していた大規模な情報漏洩が次々と発覚。2009年頃のMyspace の3億6000万件、2012年のLinkedIn の1億6,400万件、2013年上旬のTumblr の6,500万件、出会い系サイトFling.comの4,000万件と、漏洩したそれぞれのアカウント情報が"peace_of_mind"という名前のハッカーによりダークウェブ 上で販売されていた。これらの情報はハントへ提供され、速やかにHIBPへ登録された[ 22] 。さらに翌6月にはロシアのソーシャルネットワークサービス、フコンタクテ の1億7,100万件の漏洩したアカウント情報がHIBPに追加された[ 23] 。
2017年8月、スパムボット が収集していたメールアドレスのリストの発見に関し、同種の事例としては最大規模の7億1,100万件がリストアップされていたことをBBCニュース が報じ、HIBPに言及した[ 24] 。
売却の失敗
2019年6月中旬、ハントはブログで、売却先はまだ決まっていないものの、HIBPの売却計画を進行していることを発表。ハントが1人で運営していることがHIBPの成長のボトルネックとなっており、KPMG と協力して適任な企業を探していると述べた[ 1] 。
2020年3月、売却計画は白紙となり、引き続き独立したウェブサイトとして運営されることが発表された[ 25] 。
オープンソース化
2020年8月7日、ハントはブログでHIBPのコードベース をオープンソース化 する意向を表明し[ 26] 、2021年5月28日に一部のコードの公開を開始したことを発表した
[ 27] 。
脚注
注釈
^ 「pwn」(en:Pwn ) は「own」のスペルミスから派生し「支配している状態であること」を意味する英語のネットスラング 。主にFPS などで「勝利」の意味で用いられ、圧勝したことを相手に挑発的に伝える場合に使われる。元々、ハッカーがウェブサイトやコンピュータをハッキングし、自らの制御下に置くことを意味して使っていた[ 2] 。公式サイトのFAQsでは、Pwnedは一般的に、ある人が支配されている、もしくは、危険に晒されているという意味で使われる。 と説明している[ 3] 。
出典
^ a b c “Project Svalbard: The Future of Have I Been Pwned ” (英語). Troy Hunt (2019年6月11日). 2022年6月15日 閲覧。
^ Danny Paez (2020年3月17日). “HOW “PWNED” WENT FROM HACKER SLANG TO THE INTERNET’S FAVORITE TAUNT ” (英語). Inverse . 2022年6月14日 閲覧。
^ “FAQs ” (英語). Have I Been Pwned? . 2022年6月14日 閲覧。
^ Seltzer, Larry (5 December 2013). “How to find out if your password has been stolen ” (英語). ZDNet . 2022年6月15日 閲覧。
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外部リンク