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この項目では、仏教の概念について説明しています。松本清張の作品については「鬼畜 (松本清張)」をご覧ください。 |
鬼畜(きちく)は、人を人とも思わないような残酷な行為、また性的行為を含む非道な行為をする人間を指して言う。
概要
もとは仏教の概念である六道のうち、餓鬼と畜生の二道をあわせた「餓鬼畜生」の略語である。
この二道には、俗神や自然神、そして鬼神(きじん)なども配せられたが、鬼神は悪鬼としての意味も含まれるようになった。そうしたところから、鬼・畜生(おに・ちくしょう)の略語として考えられるようになった。
またこれが転用されて、今日使われる一般的な用語として、残虐非道な行為をする人に対して「鬼畜」と呼ばれるようになった。この残虐非道な行為としての鬼畜という概念を一般に定着させた代表的な存在としてマルキ・ド・サドの一連の作品の翻訳、特に『ソドム120日』が挙げられる。殺人・強姦・屍姦・カニバリズムなどの反社会的・反倫理的行為がこれに相当する。
性格類型の一つとして、嫌がらせなどといった精神的にも悪影響を及ぼす陰惨な行為や、徹底的な屈辱を与える行為(奴隷として利用など)を平気でする人を「鬼畜」と呼ぶことがある。前述の用語では精神的な意味合いが多いが、こちらは肉体的な苦痛、つまり拷問などを行う場合も使われる。「極悪人」(「極悪非道」)の象徴として用いられることもある。
サブカルチャーに於ける鬼畜
成人向け漫画やアダルトアニメなどのサブカルチャーにおいては、SM・レイプ・スカトロジーなどの行為が「鬼畜系」(または「陵辱系」)と称されている。これは度が過ぎるサディストを指した用語でもある。
小説(ピカレスク小説)・映画・漫画・アニメ・ゲーム等のサブカルチャーにおいて、敵役・悪役・悪党の特徴として「鬼畜」と表すことが多い。その割には支持され、高い人気があるほどの反響を持ち、人間の本質をうかがわせる人材として扱われる事もある。
サブカルチャーに於いて「鬼畜」「鬼畜系」という言葉が普及した背景には、1990年代の悪趣味ブームにおいて「日本の文化を下品のどん底に叩き堕とす」ために「鬼畜系」を標榜して『危ない1号』『危ない28号』『GON!』『imago』などで執筆活動を行っていた鬼畜系・電波系ライターの村崎百郎の存在がある。
蔑称
かつて大日本帝国は日中戦争の時点で中華民国軍に対し「鬼畜の如き支那軍」という表現を使用していた[1]。
太平洋戦争(大東亜戦争)では、アメリカとイギリスを敵視し「鬼畜米英」、「鬼畜米帝」と呼び蔑視していた。
1942年(昭和17年)4月18日のドーリットル空襲時、B-25型爆撃機の空襲で民間人に被害が出た。朝日新聞社は「鬼畜の敵、校庭を掃射」等を報じた[2]。
また病院船に対する誤爆に対し写真週報は「米機鬼畜の所業」[3]、病院船「ぶゑのすあいれす丸」関連で讀賣報知新聞は「鬼畜米機又もやわが病院船襲ふ」、朝日新聞は「病院船に鬼畜の暴虐」と報じた[4]。
1944年(昭和19年)5月22日、ライフマガジン誌は、女性が「海軍将校からプレゼントされた日本兵頭蓋骨のトロフィー」を横目に手紙を書く画像を配信した。同年6月、日本兵の腕の骨からつくったペーパーナイフを連邦議会下院議員がフランクリン・D・ルーズベルト大統領に贈呈した(米軍兵による日本軍戦死者の遺体の切断)。この件が諸外国を通じて日本で報道され、大きな反響を呼んだ[6]。毎日新聞、讀賣報知新聞、朝日新聞など各メディアは一斉に「米鬼」「鬼畜の仕業」と報道した[7]。
他、同時代において国際法違反であるにも関わらず、民間人を標的とした対日焦土化作戦(日本本土空襲)を推し進めたアメリカ陸軍航空軍第21爆撃集団司令官カーチス・ルメイは「鬼畜ルメイ」と蔑称で呼ばれた。
同名の作品
脚注
- ^ #武士の涙pp.1-2〔 家を焼かれ財を失ひ戰火の上海に僅かに声明の安全のみを求めて右往左往する支那避難民の、その最後に守るもの「生命」すらが鬼畜の如き支那軍の機關銃口におのゝくのだ、それを温かい心を以て庇つてやり自身の危険など二の次にして安全地帶へ導いてやるのが、實に日本軍なのだ、暴虐南京政府とその軍隊をこそ敵とすれ、支那民衆は一視同仁、東亞の盟主の力強い羽交ひの下に抱きしめてやるべきむしろ氣の毒な存在であるとの心構へは皇軍将兵の末の末に至るまでが持合せてゐるもの、百の宣傳 千のデマも事實の前には何と無力であること―(以下略) 〕
- ^ 安田&石橋 1994、87頁
- ^ 「写真週報、昭和18年5月19日(1943/05/19) p.9」 アジア歴史資料センター Ref.A06031086700 〔 病院船うらる丸がうけた米機鬼畜の所業の跡 〕
- ^ 「大東亜戦争関係一件/病院船関係/帝国病院船ニ対スル不法攻撃事件 第一巻(A-7-0-0-9_25_1_001)(外務省外交史料館)10.「ブエノスアイレス」丸爆撃事件 pp.1-2」 アジア歴史資料センター Ref.B02032925700
- ^ 史記と日本人 平凡社
- ^ #人骨ナイフ事件(新聞)p.9(朝日新聞、昭和19年8月11日)〔 奇怪なるこの寫眞、これこそ肉を食ひ骨をしやぶる米鬼の正体をむき出した問題の寫眞である、米誌「ライフ」の五月号に臆面もなく掲載され、説明にかう書いてある これは日本兵の髑髏を米國兵が記念品として、この少女に送つてきたもので、彼女はいまこの髑髏の寄贈品にお禮の手紙を書かうとしてゐるとあゝこれぞ南溟の孤島に玉砕したわが勇士の聖骨だ、日本人たるわれら到底正視するに忍びざるものがある、思はずはつと眼をつぶつてたゞ祈る英靈の冥福、そして次の瞬間、憤怒の血潮が胸底に沸沸と逆流するのを感ずる、だがわれ〱は怒りの眼をかつと見開いて野獣の正体を正視しよう、可憐なるべき娘の表情にまでのぞかれる野獣性、この野獣性こそ東亞の敵なのだ、敢へてこゝに掲げる英靈の前にわれ〱は襟を正して"米鬼撃滅"を誓はう【寫眞はベルリン電送】〕〔狼狽した米大統領「聖骨」を返送 "紙切埋葬を勸告"と圖々しい發表【リスボン九日發表】米國民主党下院議員ウォルターはさきに大統領ルーズベルトに対して日本兵戰死者の骨から作製した紙切り小刀を寄贈したが、この紙切り小刀事件をはじめ日本軍兵士の戰死体冒瀆事件は全世界に米國人の野蠻性の正体を曝露し國際的に轟々たる非難の嵐をまき起した、ワシントン来電によれば事態の意外なる発展に流石のルーズヴェルトも氣がとがめ且つ狼狽したと見えて紙切り小刀をそのまゝウォルターに返還した模様でホワイト・ハウスは九日次の通り発表した/大統領は日本兵の骨かた作つたといはれる紙切り小刀を寄贈者に送り返した、同時に大統領はかうした物を手許におきたくないことを明らかにし、かつこの骨は埋葬した方がいゝだらうと勸告した 〕
参考文献
- イアン・トール著、村上和久訳『太平洋の試練 ガダルカナルからサイパン陥落まで 〈上〉』株式会社文藝春秋、2016年3月。ISBN 978-4-16-390423-8。
- 安田将三、石橋孝太郎『読んでびっくり 朝日新聞の太平洋戦争記事 いま問われる新聞のあり方』リヨン社 二見書房(発売)、1994年8月。ISBN 4-576-94111-9。
- アジア歴史資料センター(公式)
- 『内閣/情報局 週報第407号(昭和19年8月9日)』。Ref.A06031056400。
- 『第四次帝国軍病院船名通告ノ件』。Ref.B02032923400。
- 『敵国ノ帝国病院船ニ対スル不法攻撃事件一般』。Ref.B02032924500。
- 『「アラビヤ」丸外五隻ニ対スル不法攻撃事件』。Ref.B02032924800。
- 『「ブエノスアイレス」丸撃沈事件』。Ref.B02032926400。
- 『「ブエノスアイレス」丸撃沈ニ関スル対米再抗議ニ関スル件』、1-51頁。Ref.B02032926500。
- 『帝国病院船「ブエノスアイレス」丸撃沈ニ関スル第三次対米抗議ノ件』、52-57頁。Ref.B02032926500。
- 『ブエノスアイレス丸撃沈事件新聞切抜並参考資料』。Ref.B02032926600。
- 『1.昭和19年8月4日 「人骨製ペイパア・ナイフ事件」抗議一件』。Ref.B02032496400。
- 『2.(1)につき日本基督教連合会の上書』。Ref.B02032496500。
- 『3.(1)に関する新聞記事』。Ref.B02032496600。
- 『社会記事資料 昭和12(防衛省防衛研究所)(其の74)支那避難民に灑ぐ武士の涙』。Ref.C11081083000。
関連項目