高電子移動度トランジスタ高電子移動度トランジスタ(こうでんしいどうどトランジスタ、High Electron Mobility Transistor)は、半導体ヘテロ接合に誘起された高移動度の二次元電子ガス(2DEG)をチャネルとした電界効果トランジスタのことで、英語の単語の頭文字を取ってHEMT(ヘムト)と呼ばれる。1979年に富士通研究所の三村高志により発明された。構造上の特徴からヘテロFET (HFET、hetero-FET)、ヘテロ接合FET (HJFET、Hetero-Junction-FET)と呼ばれることもある。一般に化合物半導体で作製され、GaAs系、InP系、GaN系、SiGe系などがある。 2019年、IEEEより、HEMTは世界中の人々を映像で楽しませる手段として大きな役割を果たしていることが高く評価され、IEEEマイルストーンに認定された[1]。 構造と動作原理エピタキシャル層構造ここでは、GaAsとAlGaAsの場合について述べるが、他の材料系(例えば、窒化ガリウム)においても同様の構造、動作原理となる。基本的な構造は、GaAsの半絶縁性基板上に、電子走行層であるアンドープのGaAs層(i-GaAs層)と、薄いスペーサ層であるアンドープAlxGa1-xAs層(i-AlGaAs層)、電子供給層であるn型のAlxGa1-xAs層(n-AlGaAs層)をエピタキシャル成長により積み重ねた構成となる。GaAsの格子定数は5.653Å、AlAsの格子定数は5.661Åであるため、n-AlGaAs層とi-GaAs層は、最大でも格子定数の不整合は0.13%程度で小さい。そのためn-AlGaAsの混晶比xは、広い範囲で格子整合が可能である。一般には、xは0.15〜0.30の値が使用され、バンドギャップは約1.6〜1.8eVとなる。一方、i-GaAsのバンドギャップは1.4eVである。バンドギャップの異なる2種類の半導体が接触すると、その界面では伝導帯と価電子帯、両者のバンドの不連続が生じる。伝導帯の不連続量は両者の電子親和力の差で決まり、この場合電子親和力の大きなi-GaAs側のエネルギーが0.2eV程度低くなる。その結果、n-AlGaAs層のドナーから発生した電子はi-GaAs側に集まるが、特に界面近傍10nm程度厚さの領域に分布する。この電子層を二次元電子ガスと呼び、その濃度は1012(cm-2)の程度である。チャネルであるi-GaAs層とそれに接するスペーサ層(i-AlGaAs)はアンドープであるため不純物散乱が少なく、二次元電子ガスは室温で約6,000cm2/Vs、77Kで約50,000cm2/Vsという高い移動度を示す。このように、ヘテロ接合構造でバンドギャップの大きい半導体のみにドープする方法を変調ドーピングと呼び、電子濃度と移動度を両立できる構造としてR. Dingle等により提案された。 デバイス構造一般の電界効果トランジスタと同様、ソース、ゲート、ドレインの三つの金属電極を持つ。ゲート電極は電子供給層であるn-AlGaAs層の表面に接触し、ショットキー接合を形成する。このときn-AlGaAs電子供給層には二つの空乏層が形成される。ひとつはショットキー接合の空乏層、もうひとつは二次元電子ガスの形成に伴うヘテロ界面側から伸びる空乏層である。ここで、n-AlGaAs電子供給層の厚さを、二つの空乏層が接する程度に選ぶことにする。すると、ゲート電極に電圧を加えることにより二つの空乏層の厚さを変化させ、その結果、電界効果により二次元電子ガスの濃度を制御することが可能である。ソース、ドレイン電極は二次元電子ガスとの間でオーミック接触を得るように形成される。このため、AuGe合金を用い、熱処理によってコンタクトを得る方法がしばしば用いられる。また、コンタクト抵抗を低減させるため、n-AlGaAs電子供給層上に高濃度かつ低抵抗のn-GaAs層を形成し、その上からコンタクトをとる方法も使われる。 HEMTの電気的特性ドレイン電流電圧特性は、あるドレイン電圧で電流が飽和する、いわゆる飽和特性を示す。電子移動度が高いこと、電子の飽和速度が高いこと、および電子供給層のドーピング濃度が高いことから、次のような特長を持つ。
バリエーションHEMTの構造バリエーションとしては以下のものがある。
次に、材料バリエーションとしては以下のものがある。
用途基板への低リーク電流と低い対地容量のため、高周波素子に使用される。近年(2006年時点)では、シリコン素子の高周波領域への進出が著しく、2GHz帯まででは、高周波スイッチ、パワーアンプ、ローノイズアンプ等に限られるが、それ以上の周波数では、化合物半導体のHEMTやHBTが使用されることが多い。 脚注
関連項目 |
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