阿知女作法

阿知女作法あちめのわざあちめわざあちめさほうあじめのさほう、等々)とは、宮中 及び神社等で歌われる神楽歌の一つ。本来は、神の降臨を喜び、神聖な雰囲気を作るためと思われる一種の呪文。 あ~ち~め―(一度)、お~お~お―(三度)、お~けー(一度)のフレーズを阿知女作法と呼び、これが2組(本方・末方)に分かれて唱和される。

神楽歌は、庭燎(にわび:夜の準備)、採物(とりもの:神迎え)、前張(さいばり:神祭り)、明星(あかぼし:神送り)の段階に大きく分けられるが、阿知女作法で有名なものは庭燎の後に、また、採物、前張 等でもフレーズを変えて繰り返される。鎮魂祭の歌(下記)にも使用される。

平安中期には儀礼として完成していた。延喜末年頃に譜の統一が行われている。


十一月中寅日 鎮魂祭歌

あ~ち~め―(一度)、お~お~お―(三度)

①あめつちに きゆらかすは さゆらかす かみわかも かみこそは きねきこう きゆらならは

あ~ち~め―(一度)、お~お~お―(三度)

②いそのかみ ふるやしろのたちもかと ねかふそのこに そのたてまつる

あ~ち~め―(一度)、お~お~お―(三度)

③さつおらが もたきのまゆみ おくやまにみかりすらしも ゆみのはすみゆ

あ~ち~め―(一度)、お~お~お―(三度)

④のほります とよひるめかみたまほす もとはかなほこ すゑはきほこ

あ~ち~め―(一度)、お~お~お―(三度)

⑤みわやまに ありたてるちかさを いまさかへては いつかさかえむ

あ~ち~め―(一度)、お~お~お―(三度)

⑥わきもこが あなしのやまのやまのもと ひともみるかに みやまかつらせよ

あ~ち~め―(一度)、お~お~お―(三度)

⑦たまはこに ゆうとりしてて たまちとらせよ みたまかり たまかりまししかみは いまそきませる

あ~ち~め―(一度)、お~お~お―(三度)

⑧みたまみに いまししかみは いまそきませる たまはこもちてさりくるみたま たまかへしすなや

⑨ひと ふた み よ いつ むゆ なな や ここの たりや


意味が判明していないところが多く、漢字を当てたとしても、その漢字が意味と合っているかも判っていない。歌なので、音はそれほど変遷していないとの仮定で、ひらがな表記とした。


「あちめ」とは安曇磯良を指し「お~お~お―」とは返答の声とする説[1]がある。しかし、安曇磯良は男神であり、「阿知女」と「女」の漢字がつくのは後世に当て字と考えうるも詳細は不明である。また、「うずめ」の転訛とする説[2]もある。

①「ゆらかす(振らかす)」の言葉が使われており、鎮魂祭にあたり、天皇の衣を動揺させることを歌った可能性がある。「きね」とは巫女である可能性もあるとされる。[3]

②「いそのかみ ふるやしろ」とは石上神宮を指していると考えられる。[3]

③「さつお」とは猟夫と漢字で当て、猟師のこととされる。[3]

④「とよひるめ」とは天照大神であるとされる。「ほこ」はであるとされるが、意味不明。[3]

⑤「みわやま」は三輪山である。「ちかさ」は茅草の転訛とする説もある。[3]

⑥「みやまかづら」とは、山蔓などで作った鬘という説がある。[3]

⑦「たまはこ」とは、魂の鎮まる函。実際には葛函という。[3]

⑧「たまかへしすなや」は、「ゆっくりお留め申すがよい」と訳す説もある。[3]

⑨数を1から10まで数えており、十種神宝の呪法として有名な「ひふみの祓詞」と関係があると考えられる。[3]

出典

  1. ^ 折口信夫全集 3 古代研究(民俗学編 2)折口信夫 昭和50年 中公文庫 所収「偶人信仰の民俗化並びに伝説化せる道」pp.318-355 (原著論文:『民俗藝術』第二巻第四号 昭和4年4月)
  2. ^ 梁塵愚案抄 巻2
  3. ^ a b c d e f g h i 日本古典文学大系 3 古代歌謡集 土橋寛・小西甚一校注 昭和32年7月5日岩波書店発行 P296~297、P488~491、その他