避雷器避雷器(ひらいき、英: lightning arrester)は、発電、変電、送電、配電系統の電力機器や電力の供給を受ける需要家の需要機器、有線通信回線、空中線系、通信機器などを、雷などにより生じる過渡的な異常高電圧から保護する、いわゆるサージ防護機器のひとつである。日本では、サージ防護機器全てを避雷器と呼ぶこともあるが、ここでは国際電気標準会議 (IEC) および日本産業規格 (JIS) に定める「サージ防護デバイス」 (SPD: Surge Protective Device) について述べる。 概要屋外に設置される送配電線(電力線)や電話線、空中線などは雷の影響を受けやすい。しかし電位差を無くす、あるいは小さくして回路にサージ電圧がかからないようにすれば、サージ電流は流れず、回路の損傷はなくなる。そこで回路中に意図的に絶縁の弱い部分を作り、ここをサージ電圧によって破壊、サージ電流をバイパスさせることにより、サージ電圧を抑制、重要な回路部分を保護する手段をとる。しかし、ただ破壊するだけでは破壊した部分を修復するまで機器が使用できないなどの問題が生じることから、サージ終息後、直ちに元の絶縁を回復する機能を持たせたものが避雷器である。 最も強力な雷由来のサージも処理することから、避雷器の名があるが、実際のサージは雷由来のサージよりも、スイッチやモーター、各種電源装置、各種通信装置などに由来するもののほうが多く、避雷器はこれらからのサージも適正に処理する必要がある。このことからその正式名称はIECにより、サージ防護デバイス (SPD : Surge Protective Device) に統一され、広範なEMI(電磁気妨害)対策用部品としての位置付けがされた。他にも従来の英語から「アレスタ」[1]など、さまざまな呼称がある。 避雷器の歴史は古く、例えば送配電用としては、1900年代初頭に酸化アルミニウム避雷器が実用化されており、1930年代には炭化ケイ素 (SiC) を用いた弁抵抗避雷器が登場、1980年代からより特性の優れた酸化亜鉛 (ZnO) 避雷器に代ってきている[2]。 日本では、高圧送配電系統についてはIECによる規格統一以前より避雷器の設置が義務付けられており、電気規格調査会 JEC 203、JEC 217 さらに JIS C4608 などの規格があったが、これ以外の低圧回路などに用いる避雷器については特に規定されていなかった。しかしIECによる規格統一に日本のJISも追従、IECの統一規格に従い、低圧電源用避雷器などについてもJISに規定された[3]。 落雷について、避雷器はそれ単体で全てのサージを処理させるものではなく、避雷設備の中で一部のサージを処理する部品であり、万一の場合には自身が焼損・破壊して他の部分を保護する目的の部品であることから、特に防火性能が求められる。このため特に数多く広範に用いられる低圧電源用避雷器などについて、アメリカ保険業者安全試験所(UL)で5つのタイプに分類、それぞれ性能に係る詳細が定められ「避雷システム」における使用の詳細(適用)も定められた[1]。 サージ抑制用素子と避雷器避雷器とは概ね、サージ抑制用素子(Surge Suppression Device)を回路等に使用できるようにしたものを言う。なお、Surge Suppression Devices とした場合には、避雷器そのものを示すことがある。 サージ抑制用素子2018年現在、4種類程度ある。
避雷器上述のサージ抑制素子単体もしくは組みあわせたものである。
右の写真は日本で発明された「紙避雷器」(低圧電源用紙コンデンサ型避雷器)である。初期(発明当初)のものは紙コンデンサのみの避雷器であったが、後にGDTが追加されて直列ギャップ付避雷器(紙コンデンサ部分を特性要素とするもの)になった。サージにより導通すると紙コンデンサの箔電極に穴が開いて続流遮断するとともに、この穴の数とそれぞれの穴の大きさを目視計測することにより、需要家の電源回路にどの程度のサージの影響があったのかを知ることができる簡易な「サージ計測器」としての機能を兼ね備えたものであった[5]。 以下、汎用避雷器(低圧系統用)のJIS番号を示す。より詳しくはそれぞれの規格を参照されたい。
避雷器の安全規制避雷器には、いざというときには大電流をバイパス、自身は故障して他の部分や機器を保護する責務がある。このため「安全に故障する」ことは、避雷器の重要な性能のひとつである。従来、避雷器についてはその純電気的な部分、すなわち定格範囲においていかに電圧を抑制するかが重視され、定格を超えるサージ処理を行った際に生じる避雷器の発煙・発火等については、これを収める容器などによって、使用者側で適宜対応、防護することとされてきたが、雷サージの大きさが解明され、避雷システムの中で、避雷器に処理させるサージの大きさが定まった現在、例えば2018年現在のUL規格では、避雷器そのものに具体的な防護機能を求める数値化された安全規定となっている。避雷器の別により詳細な数値規定があるが、基本的にはいずれも防火と感電防止、また火傷防止に関する規定であり、避雷器に切り離し装置を内蔵した場合でも外置きとした場合でも、その遮断器あるいはヒューズ等のSCCRを、想定される最悪電流値を超えるものとして、発煙・発火させないこと、各電極を最悪時でも確実に保護し、感電事故に至らせないこと、また避雷器の温度上昇を規定以内として火傷防止すること等が求められ、これらは公的にも規制されている[6]。 日本の場合、JISにおいてこれらの詳細な安全規定はなく、公的な規制もないが、危険であることに違いはないから、避雷器を確実に避雷システムの中で使用し、最悪の場合でも最悪の事故に至らぬようにするため、日本雷保護システム工業会(JLPA)は、広報と併せ、不足している専門技術者の育成を図り、雷保護製品等の品質、性能等について社会的信頼性の向上を図るといった活動をおこなっている[7]。また、あくまでも民間検定で法的効力はないが、特定非営利活動法人による「雷保護システム技能者」の養成なども行われるようになり、合わせて世界標準の、設計からアフターケアまで一貫した「人的システム」構築の模索が始まっている[8]。 避雷器の選択すなわち各国が別途、各国の消防法等に規定・要求している規格に従って選択しなければならない。代表的な規格は以下の通りである。日本では高圧送電、高圧配電等についてJISとは別に法規定されていることから、これは別途、所定の試験に合格したものを選択しなければならないが、それ以外の一般低圧回路用等の避雷器については2018年現在、付随する法規制等(消防法等での要求)はないため、上述JISの各技術基準を参考として、それぞれのシステムで最適となるものを選択する。
脚注
参考文献等
特許公開公報
関連項目 |
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