糞生菌糞生菌(ふんせいきん)とは、動物の糞上に出現する菌類のことである。非常に多彩な菌群が出現することが知られている。 概説動物の糞がさまざまな菌類の生育の場として注目すべきものであることは、19世紀から知られており、多くの研究がある。それらの菌類を総称して糞生菌(Coprophilous fungi)と言う。糞生菌の観察は、菌類学のカリキュラムとしても必ず取り上げられるほどで、J.ウェブスターは「菌類を真剣に学ぶつもりの学生にとって、窓際のガラス容器で培養した糞の上に出現する菌類の系列を追うことに勝る入門はない」とまで述べている。それらの菌類は糞の分解を行っているものと考えられるが、個々の種について見ると、より特殊な栄養を取っているものもある。 糞生菌には、それ以外の環境にも見られるものも多いが、ほとんど糞にのみ見られるものもある。それらの中には特殊な適応を示すものもある。胞子を射出するもの、胞子の発芽がアルカリ溶液によって刺激されるものなどはその例である。 糞上の糞生菌相には時間的な変遷が見られることは古くから知られており、これを糞生菌の遷移という。 基質としての糞動物の糞は、動物の種によってもその性質は大きく異なる。哺乳類では、大ざっぱに言って肉食動物のそれは粘液っぽくて臭いが強く、草食動物のそれは繊維っぽく臭いは薄い。菌類がよく観察されるのは草食動物のものとされており、ヒツジやウサギの糞がよく観察に用いられる。ネズミ類の糞も興味深いものが見られる場合が多い。しかしそうでない動物でもさまざまなものが発見されている。また、爬虫類や両生類、あるいは昆虫などの糞から発見されたものもある。鳥類の糞は一般には菌類の出現が少ないとされる。 ここでは主に草食動物の糞について説明する。糞と言えば、その動物が食べた餌から栄養を吸収した残りかすと考えがちであるが、必ずしもそうではなく、菌類から見れば元の餌より魅力的である面すらある。以下のような特徴が挙げられる。
また、糞はそれぞれの動物によって特定の形で出されるが、これも単にその形に集められた均質な素材と考えてはならず、それぞれの粒に構造があり、それが菌類に重要な意味を持つらしい。例えばそのままの糞を置いて培養した場合と、粉末にして寒天培地に広げた場合では、後者の方が出現種数が明らかに少なかったとの報告がある。 このほか、糞に生じる生物相に関係を持って出現する菌群もある。たとえばエダカビ科やディマルガリス目のものは糞の上に出現するケカビ類を宿主とする菌寄生菌である。また、糞には線虫なども繁殖するから、線虫捕食菌なども出現することがある。 出現する菌類非常に多くの菌類が出現するが、ごく代表的なものを挙げる。
また、外見では見分けられないが、酵母類も出現する。 独特の適応これらの中には、広くさまざまな有機物上に出現するものもあるが、糞だけに見られるものもある。特にミズタマカビやスイライカビ、ヒトヨタケなどでは、糞生菌としての独特の適応が見られる。 これらの菌は、糞を出す動物の消化管を通して糞に胞子が行き着くことができる。糞上で成長した菌は胞子を射出し、その胞子は周辺の植物の葉に付着する。ミズタマカビでは胞子のうの塊がまとまって打ち出され、その距離は2mにも達する。近縁のピライラでは胞子嚢柄が長く伸びることで、やはり胞子嚢を周辺の草の葉にくっつけるようにする。この手の菌の胞子は草食動物に葉と一緒に食べられ、消化管を通って糞に達し、そこで発芽成長するものと考えられる。このような菌では、消化液による刺激が胞子の発芽を促進する例も知られる。このようなものを特に内生糞生菌ということもある。 これに対して、よく糞に出現するが、このような特徴を持たないものは胞子が他の方法で糞から糞へと移動するものと考えられ、外生糞生菌とも言う。 遷移糞の上に生じる菌類相には、時間的な一定の変化があることが知られており、これを糞生菌の遷移と呼んでいる。 一般的な形としては、以下のようなものである。
これらの出現の時間的な差は、以下のような原因によると考えられている。
参考文献
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