科学研究費助成事業科学研究費助成事業(かがくけんきゅうひじょせいじぎょう)とは、人文・社会科学から自然科学まで全ての分野にわたり、基礎から応用までのあらゆる「学術研究」(研究者の自由な発想に基づく研究)を格段に発展させることを目的とする「競争的研究資金」である[1]。審査と交付は文部科学省の外郭団体である独立行政法人日本学術振興会が行う[1]。研究者が個人またはグループで行なう研究に対し、ピアレビュー審査による競争的資金を提供する[1]。年度毎の計画にしたがって交付される科学研究費補助金と、年度をまたいで交付される学術研究助成基金助成金の二本立てで構成されている[1]。一般に科研費(かけんひ)と略称されており、国際的にも逐語英訳であるGrants-in-Aid for Scientific ResearchのほかにKAKENHIという呼称を定めている。平成8年度から平成15年度にかけて預け金・カラ出張・カラ謝金などの科学研究費補助金の不正使用・不正受給が発覚したため、これらを平成19年度には明確に禁止し、違反した場合の罰則を設けた[2]。 1939年に科研費の制度が創設された。陸軍大将荒木貞夫が文部大臣を務めていたときで、300万円(約43億円)の予算が認められた。当初は自然科学分野だけが助成対象であったが、科学振興調査会の平賀譲らの後押しで1943年度から人文・社会系の諸学問にも拡大された[3]。平成23年度の年間の補助金の総額は2,633億円である[4]。令和4年度の予算額は2,377億円で、日本国最大規模の競争的研究制度となっている[5]。 なお、名称の類似した競争的資金制度として、厚生労働省が交付する厚生労働科学研究費補助金や環境省が交付する廃棄物処理等科学研究費補助金などがあるが、これらは府省がそれぞれ定める目的のための公募型研究であり、本制度とは全く別のものである[5]。単に科学研究費補助金と呼称される場合、文部科学省の制度を指す。 研究の補助は以下の3つの領域に対してなされるが、1.の研究の遂行に対する補助金がその中核をなす。
科学研究費の主な種目平成23年度時点では、科学研究費補助金は以下の種目に分けて申請・採択がなされている。これらは、主として研究期間と研究費の総額(研究の規模)の違いに対応している。研究種目によって、文部科学省が所管するものと日本学術振興会が所管するものとに分けられる。 文部科学省所管のもの
日本学術振興会所管のもの
支給対象の研究分野平成30年度科研費(平成29年9月公募)から、従来の「系・分野・分科・細目表」を廃止し、「小区分、中区分、大区分」で構成される「科学研究費助成事業 審査区分表」で公募・審査を行うこととなった[8]。詳細は日本学術振興会「科学研究費助成事業 審査区分表」を参照。 特別推進研究の場合、審査区分が「人文社会系」「理工系」「生物系」と3区分になっている[9]。 申請から選定審査・成果報告まで科研費の研究種目のうち、最も一般的で多くの研究者が対象となる基盤研究について、申請から成果報告までのスケジュールの概略を以下に示す。2022年度(2021年募集)より、申請時期が前倒しされた[10]。ここでは2022年度の申請時期を記す[11]。
不正への対応・確定一覧平成24年度「競争的資金の適正な執行に関する指針」が改正され、特に悪質な不正使用の事案に対しては厳しく対処するとともに、不正使用の内容に応じて、応募資格を制限することとなった[14]。 詳細は以下の通り[14]。
文部科学省は支給された公的研究費の不正が確定した事案を公表している。最新の不正は令和5年(2023年)6月13日である[15]。 採択件数上位機関一覧
2010年度
費用対効果・選定対象の問題・改正案平成27年度(2015年)[18]から令和3年度(2021年)に不正が確定したモノにおける、「研究機関名、不正が行われた年度 、不正の種別 、不正に支出された、研究費の額、不正に関与した 研究者数 (実人数)、最終報告書提出日 、最終報告書の概要 (調査結果、再発防止策、関係者の処分等」を公表している[19]。 平成23年度(2011年)以降、科研費の一部種目が基金化されたことにより、従来の補助金では単年度ごとに予算執行計画を立てなければならなかったが、基金分の種目については、複数年度にわたり予算執行が可能となった[20]。交付内定を受けた科研費が実際に交付(送金)されるのは6月下旬ころであるが、交付内定日(多くの科研費種目では4月1日)以降は、所属機関へ申請することにより立替払い等により予算執行が可能である。 また「単年度ごとに決算を行い、最後の1円まで使わなければならない」と誤解している大学関係者がいるが、実際には、当初予定した研究を完了した上で生じた残額は、日本学術振興会に返還することができ、それにより研究者や所属機関が不利益をうけることはない[21]。全額使い切るために経理上の不適切な会計的処理がされ問題視されることがあり、年度末に予算消化として不要な消耗品を購入したり、4月から7月頃に利用する消耗品などの購入のためにモノが納品されていないうちに伝票を業者からもらい先にプールしたといった例がある[22]。 2016年11月、河野太郎は申請書類の様式がデータとして役立たない「神エクセル」とよばれるExcel方眼紙となっていることを問題視し、文部科学省に全廃命令を発した[23]。 選定基準や制度への批判他の研究助成にも言えることであるが、採択の審査及び事後評価は、専門分野の知識を要するが故に同業者が担当することが多く、公平性が保たれているかは疑問の余地がある[24][25]。平成25年(2013年)に日本学術振興会は、審査委員に「利害関係登録」を義務づけるなど、審査の公平性を高めるための取組が行われているとしている[26]。審査をする3人一組がつけた総合点で上位とった申請が科研費支給対象に選ばれる仕組みになっている。この選定方法では、自然科学関係と違い、歴史関係は科研費支給対象に思想的な偏りがあることを文部科学省も認めている。産経新聞によると「KAKEN」に公表されているデータを見ると、科研費支給で選定されているのは思想的な偏向・韓国や中国などの反日主張に同調する人物が多数派である[13]。 国公私立大学の特色ある発展という名の下に行われてきた、より魅力的な研究計画を出すところ、より実績があるところに多く資金を配分するようになった研究費の傾斜配分されるようになった。旧帝大など実績のある一部の有力大と地方大には更に多くの研究費が配分されることへの反対意見がある。文科省は各大学の実績に応じて獲得していると述べている[27]。 大垣俊一[28]は、科研費の手続きの煩雑さ・大学などの機関研究者であることを応募資格に義務づける固定観念・上から目線の選考姿勢・専攻課程の不透明さ・科研費の使い勝手の悪さを批判した[29]。しかし、大垣も「数十年前の科研費は今よりずいぶんアバウトというか、ある意味使いやすく、ある意味ずさんであった」「おそらく今より不正使用は、はなはだしかっただろう」と現行よりも不正を招く制度であったことを述懐している[29]。一方で、「この不正使用の問題は、私的に流用するのは言語道断だが、院生の学会旅費や他の研究目的に使うということまで、マスコミが槍玉にあげて非難するのはどうかと思う。そのようなことを続けていると、さらに細目まで補助金の使用が制限され、研究全体の活性が低下するだろう」と学会旅費や他研究への流用は認める制度にすべきだとした[29]。 経済学者の池田信夫[30]は、自身の科研費の経験から、文系の研究者がかかる国際会議と海外出張には所属する大学が経費で支払ってくれるため、自身も文系への科研費支給の「恩恵」を受けた経験を踏まえて「はっきりいって文系に科研費なんか必要ない」と述べている。理由として、文系への科研費がポスドクの雇用対策の人件費となっているため、理系のようにハードウェアに実費がかかる「科学研究」とは異なるとし、「文系への科研費」廃止論を述べている[31]。池田は、4億円の科研費をチームで貰い、期末に科研費の使い道がないのでメンバー全員の自宅のPCを買い換えて、請求書は全て大学宛てだったと述べている[32][33]。別の大学でチームで2年2億円の科研費を貰った際も期末に使い道に困り、メンバー全員が韓国旅行費用としたことを明かしている[34]。なお、当時の池田の科研費の利用方法は、科研費助成事業の目的外利用に該当する[35]。 経済評論家の渡邉哲也は文系への科研費支給を問題視している。特に科学庁が文部省に吸収された2001年以降における、国家の発展に寄さない文系支出を強く批判している。膨大なコストのかかる基礎研究を含む理系研究にならば、価値や効果は大局的目線ですぐに結果を求めなくても問題ない。しかし、文系の場合は公金を請けずに研究するのは自由であるが、科研費という公金を受けるのならば費用対効果・客観的に国家発展寄与する内容であるかの評価措置が必須だと述べている。実際に科研費を受けた文系研究は国内外でも論文引用されることが少なく、引用が0でないケースでも思想信条が似ていることで友好関係のある研究者同士によるケースばかりであることを指摘している。過去の支給された内容や研究者が公開されているデータベースを調査したところ、客観的な価値評価よりも、文系研究者は既存に選定されたことのある人、彼らとコネのある人、彼らから共同研究者に入れてもらった人が選ばれ続けていることを指摘している。渡邉は何度も100万、数百万円支給されているのに身内以外には評価されない、引用価値も見いだせる論文となっていない文系研究への支給を批判している[36]。 脚注
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