甘露 (昆虫学)

アリに甘露を与えるアブラムシは、相利共生の例である。
葉に落ちた甘露
木の下に溜まった甘露

甘露(Honeydew)は、植物樹液を食べるアブラムシカイガラムシが分泌する、の多いねばねばした液体である。口器が師部を貫くと、糖が多く高圧の液体がアブラムシの尻部から出てくる。甘露は、特にカメムシ目の分泌物では一般的なもので、しばしば栄養共生の基礎になる[1]シジミチョウ科幼虫やある種のも甘露を生産する[2]。甘露は、庭の制作者にとって悩みの種である煤病菌の原因になりうる。また、木の下に駐車した自動車に落下し、ガラスや車体を汚すことがある。また、特に麦角菌等の菌類も分泌する[3]

ある種の鳥、ハチハリナシミツバチ[4]ミツバチ等は甘露を集め、暗い色の蜂蜜(甘露蜂蜜[5]甘露蜜)を作る。ヨーロッパアジアの一部では、その薬効が珍重されている。日本小笠原諸島独特の「島蜂蜜」も甘露蜂蜜である[5]

真社会性のハチであるParachartergus fraternus,は、甘露を集めて幼虫に与える[6]アメリカ合衆国カリフォルニア州では、40を超える種で甘露の利用が記録されている[7]

アリは、アブラムシ等から直接、甘露を集めることができる。これは、テントウムシ寄生バチ等の捕食者を追い払うのに役立っている。アリと成熟した共生関係を持つ動物や植物をアリ媒と呼ぶ。

マダガスカルでは、ヒルヤモリ属マルメヤモリ属ヤモリが、木の幹にとまったアオバハゴロモ科ウンカに下から近づき、点頭行動により、甘露の分泌を誘発する。ウンカは腹部を上げ、ヤモリの鼻口部のすぐ近くに甘露の滴を分泌する[8]

神話

北欧神話では、ユグドラシルから地球にが落ちるとされ、スノッリのエッダの話の一つである『ギュルヴィたぶらかし』では、「これが人々が甘露と呼ぶものであり、ハチが栄養を取るものである」と書かれている[9]

ギリシャ神話では、マンナノキから滴る「蜂蜜」によって、クレータ島メリアスが幼いゼウスを育てたとされる[10]

サミュエル・テイラー・コールリッジの『クーブラ・カーン』では、最後の行で甘露が言及されている。

And all who heard should see them there,
And all should cry, Beware! Beware!
His flashing eyes, his floating hair!
Weave a circle round him thrice,
And close your eyes with holy dread,
For he on honey-dew hath fed,
And drunk the milk of Paradise.

ヘブライ語聖書では、エクソダスの後にイスラエルが砂漠をさまよっている間、奇跡的にマナという物質を与えられたが、これが甘露であるとされることがある。『出エジプト記』16:31では、「コリアンダーの種に似て白く、味は蜂蜜で作ったウェハースのようだった」と書かれている。

出典

  1. ^ Delabie, JHC (2001) Trophobiosis Between Formicidae and Hemiptera (Sternorrhyncha and Auchenorrhyncha): an Overview. Neotropical Entomology 30(4):501-516 PDF
  2. ^ “Ants feeding on anal exudate from tortricid larvae: a new type of trophobiosis”. Journal of Natural History 20 (5): 1041-1050. (1986). doi:10.1080/00222938600770751. 
  3. ^ Ergot of Rye, APSnet.org, The American Phytopathological Society
  4. ^ Koch, H.; Corcoran, C.; Jonker, M. (2011). “Honeydew Collecting in Malagasy Stingless Bees (Hymenoptera: Apidae: Meliponini) and Observations on Competition with Invasive Ants”. African Entomology 19 (1): 36-41. doi:10.4001/003.019.0111. オリジナルの2012-03-19時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20120319183744/http://www.tb1.ethz.ch/PublicationsEO/PDFpapers/Koch_AFRICAN_ENTOMOLOGY_2011_19_36-41.pdf. 
  5. ^ a b 「小笠原で"幻の蜂蜜" 国内初 地域振興へ期待」『日本農業新聞』2021年9月3日11面
  6. ^ Mateus, Sidnei, Fernando Barbosa Noll, and Ronaldo Zucchi. "Caste Flexibility and Variation According to the Colony Cycle in the Swarm-founding Wasp, Parachartergus Fraternus (Gribodo) (Hymenoptera: Vespidae: Epiponini)". Journal of the Kansas Entomological Society 77.4 (2004): 470-83. Web. 11 Oct. 2014.
  7. ^ Meiners, Joan M.; Griswold, Terry L.; Harris, David J.; Ernest, S. K. Morgan (2017-05-22). “Bees without Flowers: Before Peak Bloom, Diverse Native Bees Find Insect-Produced Honeydew Sugars”. The American Naturalist 190 (2): 281-291. doi:10.1086/692437. ISSN 0003-0147. http://www.journals.uchicago.edu/doi/abs/10.1086/692437. 
  8. ^ Foelling, M; C Knogge; W Bohme. “Geckos are milking honeydew-producing planthoppers in Madagascar”. J. Nat. Hist. 2001: 279-284. 
  9. ^ Faulkes, Anthony (Trans.) (1995). Edda. Everyman. ISBN 0-460-87616-3 pp18-19
  10. ^ Clauss, James Joseph (1993). The Best of the Argonauts: The Redefinition of the Epic Hero in Book 1 of Apollonius's Argonautica. Hellenistic culture and society. 10. University of California Press. p. 170. ISBN 978-0-520-07925-0. https://books.google.com/books?id=VquiQf5WkaMC&lpg=PA170