無期刑無期刑(むきけい)とは、無期刑は刑期を定めない、あるいは刑期の上限を定めないという絶対的不定期刑を意味するわけではなく、刑期の終わりが無い、つまり刑期が一生涯にわたるもの(受刑者が死亡するまでその刑を科するというもの)を意味し[1][2][3]、有期懲役より重い刑罰、死刑に次ぐものとされており、英語では「Life(一生涯の) imprisonment(拘禁)」との語が充てられている[4]。 ただし、仮釈放制度との関係で無期刑と終身刑の関係について区別する整理と同一とする整理が見られる[5]。前者は無期刑と終身刑を区別して仮釈放があるものを無期刑とし仮釈放がないものを終身刑とする整理であり、後者は無期刑と終身刑は概念的には同一でこれらと仮釈放制度との組み合わせが多様に存在するという整理である[5]。国際的文脈では無期刑と終身刑は概念的には同一でこれらと仮釈放制度との組み合わせが多様に存在するという整理のほうが混乱を生じにくいとされている[5]。英語のlife imprisonmentやドイツ語のlebenslange Freiheistsstrafeには仮釈放の制度が伴う場合とそうでない場合の双方が含まれているためである[5]。 日本の無期刑
ただし、現在の刑法28条では無期刑の受刑者にも仮釈放(刑期の途中において一定の条件下で釈放する制度)によって社会に復帰できる可能性を認めており、同条の規定上10年を経過すれば仮釈放の可能性が認められる[7]。この点で、日本の現行法制度に存在する無期刑は、仮釈放による社会復帰の可能性がない無期刑(重無期刑ないし絶対的無期刑ともいう)とは異なる。 法定刑に無期懲役がある主な罪*は法定刑に死刑もある罪。 一般刑法の無期懲役
特別刑法、又はその他の法律の罰則の無期懲役
無期禁錮対象法定刑に無期禁錮刑が規定されている罪は、内乱罪(刑法第77条)および爆発物取締罰則第1条及び第2条違反のみである。 なお、刑法第68条に「死刑を減刑するときは、無期の懲役若しくは禁錮又は十年以上の懲役若しくは禁錮とする」とあり、これによれば禁錮に当たる罪と同質の罪(内乱首魁など)について、死刑を選択後に減刑で無期禁錮を言い渡すことが可能であるが、懲役に当たる罪と同質の罪(殺人・外患誘致など)については、死刑を無期禁錮に減刑することはできないと考えられる。 科刑状況少なくとも昭和22年(1947年)以降に無期禁錮刑を言い渡された者はない[8][9]。内乱罪は戦前に2件の訴追例があるのみであり、今日までこの罪によって処断した裁判例はない。また、爆発物取締罰則の適用そのものは時々あるが、これによって無期禁錮刑を言い渡された者は確認されていない。 少年法と無期刑現行法では、刑事責任を問える14歳から無期刑を科すことができる。 また、同法51条は、罪を犯すとき18歳未満であった者について、本来死刑が相当であるときは無期刑を科す旨規定し(同条1項)、本来無期刑が相当であるときも、10年以上20年以下の範囲で有期の定期刑を科すことができる旨規定している(同条2項)。ただし、51条2項の規定は、「できる」という文面が示すとおり、同条1項のような必要的緩和とは異なる裁量的緩和であり、本来どおり無期刑を科すこともできるし、裁判官の裁量により刑を緩和して有期の定期刑を科すこともできるという意味である[10]。 運用と処遇未決勾留日数の取扱い無期刑の言渡しをする場合でも、未決勾留日数の一部または全部を刑に算入することができるとされており、実際にも、多くの裁判例において未決勾留日数が無期刑に算入されているが、無期刑は満期が存在しない終生の刑であるため、事柄の性質上、仮釈放が可能になる最低年数からは引かれず、未決勾留日数の算入は、恩赦などで有期刑に減刑された場合にしか意味を持たないものと解されている[11][12]。ただし、実務上は未決勾留が長期に及んだ場合、仮釈放の審理の際にある程度の考慮が払われることもある。 昼夜間厳正独居拘禁者受刑者の中には、昼夜間厳正独居拘禁(昼夜を問わず独房から出られない、作業も独房で課されるなど)の処遇を受けている者もおり、2000年の時点で、通算30年以上、昼夜間厳正独居拘禁の処遇を受けている無期懲役受刑者が5名存在することが確認されている[13]。 統計確定数21世紀突入後では、無期刑の確定者数は1990年代までと比較して多くなっている。統計開始以後の各年ごとの無期刑確定者数を見てみると、1990年代までは30-50名程度でほぼ横ばいであったが、2000年に初めて60名に達した後、増加を示し、2003年~2006年の間に100名以上となり、2005年には134名、2006年に136名となった。しかし2007年~2015年は2007年の89名から2015年の25名まで減少し、2015年以降は20名前後で推移しているが、2022年に関しては10名である。なお、2013年から2022年までの過去10年間における無期懲役確定者は210名である[14][15]。 在所受刑者数2022年末現在、無期刑が確定し刑事施設に拘禁されている者の総数は1,688人である[14]。 仮釈放制度仮釈放中の処遇日本では、仮釈放中の者は残りの刑の期間について保護観察に付される残刑期間主義が採られており、無期刑の受刑者は、残りの刑期も無期であるから、仮釈放が認められた場合でも、恩赦などの措置がない限り、一生涯観察処分となり、定められた遵守事項[16]を守らなかったり、罪を犯したりした場合には、仮釈放が取り消されて刑務所に戻されることとなる[17]。ただし、少年のときに無期刑の言渡しを受けた者[18]については、仮釈放を許された後、それが取り消されることなく無事に10年を経過すれば、少年法59条の規定により刑は終了したものとされる考試期間主義が採られている。 運用無期刑仮釈放者[19]における刑事施設在所期間についての年次別内訳は、法務省「令和5年版犯罪白書」「昭和48年版犯罪白書」[20]「昭和45年版犯罪白書」[21]より、以下の表のようになっている。
従前においては、十数年で仮釈放を許可された例が少なからず(特に1980年代までは相当数)存在しており、1967年~1989年の間で在所期間18年以内で仮釈放された無期刑仮釈放者は1,136人おり、約89%を占め、早い者では在所期間12年以内に仮釈放された者が64人いた。更には、昭和48年版犯罪白書によれば、少なくとも1970年~1972年の間に13人が在所期間10年以内に仮釈放されていた。 しかし、1990年代に入ったころから次第に運用状況に変化が見られ、2003~2006年では仮釈放を許可された者の中で刑事施設に在所していた期間が最短の者で20年超え25年以内であった。そして、2008年~2010年は最短の者で25年超え30年以内となり、2011年以降は2014年を除いて、最短の者が30年超え35年以内となっている。それに伴って、仮釈放を許可された者における在所期間の平均も、1980年代までは15年-18年であったものの、1990年代から20年、23年と次第に伸長していき、2004年には25年を超えていった。そして2007年以降は2008年を除いて、現在までのところ一貫して30年を超え、2022年においては40年を超えている[22][15]。 また、本人の諸状況から、仮釈放が認められず、40年を超える期間刑事施設に在所し続けている受刑者や刑務所内で死を迎える受刑者も存在しており、2022年(令和4年)12月31日現在では刑事施設在所期間が40年以上となる者は76人(うち10人は50年以上)、また2013年(平成25年)から2022年(令和4年)までの刑事施設内死亡(いわゆる獄死者)は260人となっている[23]。 そして、仮釈放された者の中に、50年を超えた者が2019年で2人、2020年で1人、2022年で3人いた。1880年(明治13年)2月27日に明治政府より赦免を受けるまで流罪の刑を八丈島で約53年間受刑した近藤富蔵より長く受けた者が2022年の判断時の在所年数が52年2月である者以外全員であった[24]。 許可基準仮釈放が許可されるための条件については、刑法28条が「改悛の状があるとき」と規定しており、この「改悛の状があるとき」とは、単に反省の弁を述べているといった状態のみを指すわけではなく、法務省令である「犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則」28条の基準を満たす状態を指すものとされており、そこでは「仮釈放を許す処分は、悔悟の情及び改善更生の意欲があり、再び犯罪をするおそれがなく、かつ、保護観察に付することが改善更生のために相当であると認めるときにするものとする。ただし、社会の感情がこれを是認すると認められないときは、この限りでない」と規定されている[1][36]。 さらに詳細な規定として「悔悟の情」「改善更生の意欲」「再び犯罪をするおそれ」「保護観察に付することが改善更生のために相当」「社会の感情」について、以下のような事項を考慮して判断すべき旨が通達により定められている[1]。
被害者保護の社会的要請(国民世論)の高まりを受け、2005年の更生保護法の成立を契機に、被害者が希望すれば仮釈放の審理の際に被害者側が口頭や書面で意見を述べることが可能となり[37][38]、2009年度からは被害者側が拒否しない限りにおいて必要的に調査を行なう方針が取られるようになった。 実際の運用では2013年~2022年の間までに、仮釈放の審査で仮釈放が許された無期刑受刑者は、審査された無期受刑者全体の約24.0%である。特に、仮釈放に対する検察官の意見と懲罰回数により仮釈放になるかどうかで左右されている。 判断過程仮釈放は法務省管轄の地方更生保護委員会の審理によってなされ、そこで「許可相当」と判断された場合に初めて実際の受刑者の仮釈放が行なわれるものであって、全ての受刑者に仮釈放の可能性はあっても、将来的な仮釈放が保証されているというわけではない。このため、本人の諸状況から、仮釈放が認められず、30年を超える期間、刑事施設に在所し続けている受刑者や刑務所内で死を迎える受刑者も存在しており、2022年12月31日現在では刑事施設在所期間が30年以上となる者は298人(内、50年以上になる者が10人いる)、また2013年から2022年までの刑事施設内死亡者(いわゆる獄死者)は260人となっている[14]。1985年の時点では刑事施設在所期間が30年以上の者は7人であったため[39]、このことから、当時と比較して仮釈放可否の判断が慎重なものとなっている。 マル特無期「特に犯情悪質等の無期懲役刑確定者に対する刑の執行指揮及びそれらの者の仮出獄に対する検察官の意見をより適正にする方策について(平成10年6月18日付の次長検事依命通達)」(通称「最高検マル特無期通達」)より、検察に死刑を求刑された無期刑受刑者が事実上の対象者となっている。また、死刑の求刑に対し無期懲役が確定した場合などで、指定事件の対象者は少なくとも380人に上る。この通達により、検察はマル特無期刑受刑者の仮釈放に対して、反対意見となり、仮釈放される可能性が低くなる。 但し、検察の意見は絶対ではなく、仮釈放の決定権は、地方更生保護委員会であること、法務大臣の一般的指揮権(検察庁法14条本文)に基づき、法務省限りでその運用を変えられる可能性がある為、マル特に指定されたからといって、仮釈放されないとは限らない[40]。2013年~2022年、検察官意見が仮釈放に反対であったもの(222件)のうち、仮釈放を許されたものは38件(17.1%)であった[14]。しかしながら、検察官意見が反対でないと判断される(70.0%)のと比べて、仮釈放のハードルが約4.1倍高くなっている事実がある。 風説
前述のように、現在の制度上、無期刑に処せられた者も、最短で10年を経過すれば仮釈放を許可することができる規定になっており、この規定と、過去において10数年で仮釈放を許可されたケースが前述にあるように実際に相当数存在していたこと(1967年~1989年の間で在所期間18年以内で仮釈放された無期刑仮釈放者は、全体の約89%を占めていた)、また、仮釈放の運用状況が1990年代から次第に変化したものの最近になるまであまり公にされてこなかったことから、無期刑に処された者でも、10年や10数年、または20年程度の服役ののちに仮釈放されることが通常であるといった風説が光市母子殺害事件の加害者が、7年程度で出られると勘違いする程[41]、1990年代から2000年代において広まりを見せていった[要出典]。更に、2015年6月13日の「教えて!ニュースライブ 正義のミカタ」にて弁護士にて大渕愛子が「無期懲役でも15年くらいで仮釈放になる」と、後述する法務省による情報公開があったにも関わらず放送当時の運用実態と異なる発言をして、批判されている[28][42][43][44]。しかし、このとき既に仮釈放の判断状況や許可者の在所期間などの運用は変化を示しており、法務省は、2008年12月以降、無期刑受刑者の仮釈放の運用状況等について情報を公開するようになった[14]。 また、同時に運用・審理の透明性の観点から、検察官の意見照会を義務化[45]、刑執行開始後30年を経過した時点において必要的に仮釈放審理(刑事施設の長の申出によらない国の権限での仮釈放審理)の実施[46]、および前述の被害者意見聴取の義務化という4つの方針が採られることとなった[47][48]。 しかしその一方で、近年、無期刑受刑者における仮釈放について困難性を強調しすぎる意見も見受けられる。たとえば、「千数百人の無期刑受刑者が存在するにもかかわらず、近年における仮釈放は年間数人であるから、仮釈放率は0%台であり、ほとんどの受刑者にとって仮釈放は絶望的である」「2005年の刑法改正で、有期刑の上限が20年から30年となったため、無期刑受刑者は仮釈放になるとしても30年以上の服役が必定である」といったものがそれである。 たしかに、2022年末時点において、1,688人の無期刑受刑者が刑事施設に在所しており、同年における新たに仮釈放された者は5人であったため、これらの数字を使えば仮釈放率が0%台は真実ではあるが、これらの数字を使うことに問題があるとの指摘もある。法務省の「無期刑受刑者の仮釈放の運用状況等」[14]によれば、無期刑受刑者の内、約12.6%は仮釈放が可能となる10年を経過していない。また、仮釈放の対象になりにくい20年を経過していない者を加えると全体の約59%にあたる。そのため、これらの者を対象に加えるのは計算手法的に問題があるとの指摘である。また、ある受刑者がその年に仮釈放とならなくても、その受刑者が生存する限りにおいて連続的に、仮釈放となる可能性は存し続けるため、単純な計算手法によって算定できる性質のものではないことを留意しなければならない。 また、参考までに2013年~2022年の間までに仮釈放の審査で仮釈放が許された無期刑受刑者は、審査された無期受刑者全体の約24.0%である。前述の「2.6.3 許可基準」より、仮釈放に対する検察官の意見と懲罰回数により仮釈放になるかどうか左右されている。 更に、刑法改正によって有期刑の上限が30年に引き上げられたといえども、前述のように現制度における懲役30年も絶対的な懲役30年ではなく、許可基準に適合すれば、30年の刑期満了以前に釈放することが可能であり、刑法の規定上はその3分の1にあたる10年を経過すれば仮釈放の「可能性がある」ことを留意しなければならない。 仮釈放のない無期刑の導入の議論→詳細は「重無期刑」を参照
恩赦戦後、無期懲役が確定した後、個別恩赦により減刑された者(仮釈放中の者を除く)は86人記録されているが、1960年に実施されたのを最後に記録されていない。また、政令恩赦による減刑も、1952年のサンフランシスコ平和条約の発効に伴って実施されたのを最後に記録されていない[49]。 ヨーロッパの無期刑
無期刑のない国スペイン、ポルトガル、ノルウェーなど無期刑のない国がある[50]
脚注
参考文献
関連項目 |