次世代トランジットサーベイ (英語 : Next-Generation Transit Survey , NGTS )とは、地上でロボット による太陽系外惑星 を発見するためのプロジェクトである[ 1] 。この施設は、チリ 北部のアタカマ砂漠 のパラナル天文台 にあり、ESO の超大型望遠鏡から2㎞、VISTA望遠鏡 から0.5km離れている。事業は2015年 に開始した[ 2] 。掃天観測 はチリ、ドイツ 、スイス 、イギリス の7つの大学や他の学術機関のコンソーシアム によって行われている[ 3] 。プロトタイプ は2009年 と2010年 にラパルマ で、2012年 から2014年 までジュネーブ天文台 でテストされた[ 3] 。
NGTSの目的は、視等級 が13までの比較的明るく、近い距離に位置する恒星 の周囲を公転 しているスーパー・アース と海王星型惑星 を発見することである。惑星が恒星の前を通過するとき恒星が減光する現象をとらえるトランジット法 が使用される。NGTSは、配列された市販の0.2m望遠鏡で構成されており、それぞれ600〜900nm の可視および近赤外線 で動作するCCDカメラ が装備されている。96平方度 (1つの望遠鏡当たり8度程度)の視野で、全天の約0.23%をカバーする[ 4] 。NGTSはスーパーWASP で得られた経験に基づいて構築されており、非常に小さな視野でありながら、より精度の高い検出器、より洗練されたソフトウェア 、より大きな光学系 を使用している[ 5] 。当初のケプラー宇宙望遠鏡 の領域である115平方度と比較すると、4年間で毎年4つの異なる領域を観測する予定のため、NGTSでカバーされる空の面積は16倍となる。これは、ケプラーのK2ミッションに匹敵する[ 4] 。
NGTSは、TESS 、ガイア計画 、PLATO 等の宇宙で観測を行う望遠鏡で検出された太陽系外惑星候補の地上から行う測光フォローアップ観測に適している[ 1] 。次に、HARPS 、ESPRESSO 、VLT-SPHERE 等のより大きな機器がNGTSの発見を詳細に特徴付けて追跡し、ドップラー分光法 を使用して質量 や密度 を測定し、惑星の分類が決定する。この詳細な観測により、地球 サイズの惑星と巨大ガス惑星 の間の間隔を埋めることが可能である。他の地上からの観測プロジェクトでは唯一木星 サイズの系外惑星を検出することが可能で、ケプラーが発見した地球サイズの惑星が遠すぎることが多いが、NGTSは広い視野により明るい恒星の周囲に存在するより巨大な惑星を多数検出することが可能である[ 6] [ 7] 。
ミッション
次世代トランジットサーベイ(NGTS)は、恒星の周囲を公転している太陽系外惑星を探索する。惑星が恒星の前を通過する際、検出できる恒星の光がわずかに暗くなる。この連続した低速度撮影は、月の下でのテスト中に取得された。
スーパーWASPやHATネット 等の太陽系外惑星の地上観測では主に土星 や木星サイズの巨大ガス惑星が多く発見された。COROT やケプラー等の宇宙観測 ではスーパー・アース及び海王星サイズの太陽系外惑星を含むより小さな惑星も発見された[ 4] 。宇宙での観測は地上での観測よりも高精度の恒星の明るさの測定が可能であるが、空の探索領域は比較的狭い。残念ながら、殆どの小さな惑星候補はドップラー分光法で確認することができない。従って、それらの小さな惑星候補の質量は未知であるか、制約が不十分なため、組成を推定することが不可能である[ 4] 。
NGTSは、宇宙観測でカバーされる領域よりもかなり広い領域でスペクトル分類 がKとMの小さく温度が低い明るい恒星の周囲を公転 するスーパー・アースから海王星サイズの惑星に焦点を当てることにより、超大型望遠鏡VLT 、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (JWST)、欧州超大型望遠鏡 (E-ELT)等の望遠鏡による詳細な調査のための主要なプロジェクトになることを目的としている。大きな恒星の周囲を公転する小さな惑星よりも、大気組成、惑星の構造、進化の点で、より簡単に特徴づけることができる[ 3] 。
大型望遠鏡による追加観測では、NGTSによって発見された太陽系外惑星の大気組成を調査する強力な手段が利用できるようになる。例えば、2番目の日食 の際、恒星が惑星を覆い隠すとき、トランジット中とトランジット外の流動を比較することによって惑星の熱放射 を示す差分スペクトルを計算することができる[ 8] 。惑星の大気の透過スペクトルの計算は、惑星のトランジット中に発生する恒星のスペクトルの小さなスペクトル変化を測定によって得ることが可能である。この手法は非常に高いSN比 を必要とし、これまでのところHD 189733 b やGJ 1214 b 等の比較的近くの明るい恒星の周囲を公転する少数の惑星にのみ適用されている。NGTSは、このような手法を使用して分析可能な領域の惑星の数を大幅に増やすことを目的としている[ 8] 。予想されるNGTSのシミュレーション により、VLTによる詳細な分光分析 に適した約231の海王星サイズの惑星と39のスーパー・アースサイズの惑星を発見できる可能性が明らかになった[ 4] 。
設備
開発
NGTSの科学的目標には、13等級で1mmagの精度で惑星の通過を検出することが必要となる。地上では、このレベルの精度では狭視野観測で可能であったが、広視野調査では前例がなかった[ 4] 。この目標を達成するために、NGTS機器の設計者は、WASPプロジェクトからの広範なハードウェアとソフトウェアを利用し、プロトタイプを2009年と2010年にラパルマで、2012年から2014年までジュネーブ天文台で多くの改良を経て開発された[ 6] 。
望遠鏡の配列
NGTSは独立した赤道マウントに12基の20cmのf/2.8望遠鏡を採用し、オレンジ色から近赤外 の波長(600–900nm)で動作する。チリのヨーロッパ南天天文台 のパラナル天文台にあり、水蒸気量が少なく、測光条件が優れていることで知られている。
連携されている調査
NGTSプロジェクトは、ESOの超大型望遠鏡と密接に連携している。フォローアップ観測に利用できるESOには、ラシーラ天文台 にある高精度のHARPSが存在する。ESPRESSOは、VLTでの視線速度 測定用である。SPHEREは、太陽系外惑星を直接撮影するVLTのコロナグラフ 及び補償光学 システムの施設である[ 9] 。VLTと計画されているE-ELTで大気の特性評価 を行う[ 4] 。
パートナーシップ
NGTSはパラナル天文台にあるが、実際にはESOによって運営されているわけではなく、チリ、ドイツ、スイス、イギリスの7つの学術機関のコンソーシアムによって運営されている[ 3] 。
経過
2017年 10月31日 に、公転周期 が2.65日のNGTS-1 の周囲を公転する木星サイズの太陽系外惑星であるNGTS-1b が発見された。主星は太陽 の質量 と半径 の約半分であるM型矮星である[ 10] [ 11] [ 12] 。ウォリック大学 のDaniel Bayliss及びNGTS-1bの発見を説明した研究者は「NGTS-1bの発見は私たちにとって驚きでした。そのような巨大な惑星はそのような小さな星の周りに存在するとは考えられていませんでした。これらのタイプの惑星が銀河系 でどれほど一般的であるかを知るために、そして新しい次世代トランジット調査施設で、私たちはまさにそれを行うのに十分な場所にいます。」と述べた[ 12] 。
2018年 9月3日 、公転周期が1.34日の13等級のK型矮星の周囲を公転する、海王星サイズよりも小さい惑星NGTS-4b が発見された。NGTS-4bは、質量が20.6±3.0M⊕ 、半径が3.18±0.26R⊕ で、ネプチュニアン砂漠 に位置しており、惑星の平均密度 は3.45±0.95g/cm3 )である[ 13] 。
発見した惑星の一覧
2025年2月27日現在、NGTSによって30個の惑星が発見されている。
褐色矮星 またはその可能性が高いもの(木星質量 の13倍を目安とする)は記載していない(発見した褐色惑星の一覧に記載)。
次の一覧は、太陽系外惑星エンサイクロペディア のデータ[ 14] 、NASA Exoplanet Archive に基づく。それ以外の情報を使用する場合はその情報源を出典欄に示す。
「# 」がついた恒星(NGTS-22)は以前から惑星が発見されていた恒星で、NGTSの観測によってパラメーターが更新され、NGTS-XX(惑星はNGTS-XXb)の名称が与えられている恒星である。NGTSによる名称が与えられる前から発見されていた惑星のため、冒頭のグラフや説明文の数値にはカウントしていない。
惑星発見数の推移
左は各年の新規発見数、右は累計発見数の推移である。
一覧
凡例
惑星の種類
周連星惑星
連星系の中の恒星を公転している惑星
発見した褐色惑星の一覧
NGTSによる観測で褐色矮星が3個発見されている(2024年11月22日時点)。
脚注
注釈
出典
^ a b Wheatley, Peter J; West, Richard G; Goad, Michael R; Jenkins, James S; Pollacco, Don L; Queloz, Didier; Rauer, Heike; Udry, Stéphane et al. (2017). “The Next Generation Transit Survey (NGTS)”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 475 (4): 4476–4493. doi :10.1093/mnras/stx2836 .
^ “New Exoplanet-hunting Telescopes on Paranal ”. European Southern Observatory (2015年1月14日). 2015年9月4日閲覧。
^ a b c d “About NGTS ”. Next Generation Transit Survey. 2015年5月31日時点のオリジナル よりアーカイブ。2015年5月22日閲覧。
^ a b c d e f g Wheatley, P. J.; Pollacco, D. L.; Queloz, D.; Rauer, H.; Watson, C. A.; West, R. G.; Chazelas, B.; Louden, T. M. et al. (2013). “The Next Generation Transit Survey (NGTS)” . EPJ Web of Conferences 47 : 13002. arXiv :1302.6592 . Bibcode : 2013EPJWC..4713002W . doi :10.1051/epjconf/20134713002 . http://www.epj-conferences.org/articles/epjconf/pdf/2013/08/epjconf_hpcs2012_13002.pdf .
^ “Searching for Super-Earths ”. Queen's University (2014年). 2015年9月2日閲覧。
^ a b “The Next Generation Transit Survey Prototyping Phase ”. 2015年5月22日閲覧。
^ Daniel Clery (2015年1月14日). “New exoplanet hunter opens its eyes to search for super-Earths ”. Science. 2015年9月18日閲覧。
^ a b “NGTS Science Programme ”. Next Generation Transit Survey. 2017年12月16日時点のオリジナル よりアーカイブ。2015年5月22日閲覧。
^ “SPHERE - Spectro-Polarimetric High-contrast Exoplanet REsearch ”. European Southern Observatory. 2015年5月23日閲覧。
^ Bayliss, Daniel; Gillen, Edward; Eigmüller, Philipp; McCormac, James; Alexander, Richard D; Armstrong, David J et al. (2017). “NGTS-1b: A hot Jupiter transiting an M-dwarf”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 475 (4): 4467. arXiv :1710.11099 . Bibcode : 2018MNRAS.475.4467B . doi :10.1093/mnras/stx2778 .
^ Lewin, Sarah (2017年10月31日). “Monster Planet, Tiny Star: Record-Breaking Duo Puzzles Astronomers ”. Space.com . 2017年11月1日閲覧。
^ a b Staff (2017年10月31日). “'Monster' planet discovery challenges formation theory ”. Phys.org . 2017年11月1日閲覧。
^ https://arxiv.org/abs/1809.00678 NGTS-4b: A sub-Neptune Transiting in the Desert
^ Martin, Pierre-Yves (1995年). “Catalogue of Exoplanets ” (英語). exoplanet.eu . 2024年11月22日閲覧。
^ “NGTS-1b: A hot Jupiter transiting an M-dwarf ”. arXiv (2017年10月30日). 2024年5月14日閲覧。
^ “NGTS-2b: An inflated hot-Jupiter transiting a bright F-dwarf ”. arXiv (2018年5月26日). 2024年5月14日閲覧。
^ “Unmasking the hidden NGTS-3Ab: a hot Jupiter in an unresolved binary system ”. arXiv (2018年5月3日). 2024年5月14日閲覧。
^ “NGTS-4b: A sub-Neptune Transiting in the Desert ”. arXiv (2018年9月3日). 2024年5月14日閲覧。
^ “NGTS-5b: a highly inflated planet offering insights into the sub-Jovian desert ”. arXiv (2019年5月7日). 2024年5月14日閲覧。
^ “NGTS-6b: An Ultra Short Period Hot-Jupiter Orbiting an Old K Dwarf ”. arXiv (2019年4月16日). 2024年5月14日閲覧。
^ a b “NGTS-8b and NGTS-9b: two non-inflated hot-Jupiters ”. arXiv (2019年11月7日). 2024年5月14日閲覧。
^ “NGTS-10b: The shortest period hot Jupiter yet discovered ”. arXiv (2019年9月26日). 2024年5月14日閲覧。
^ “NGTS-11 b / TOI-1847 b: A transiting warm Saturn recovered from a TESS single-transit event ”. arXiv (2020年4月30日). 2024年5月14日閲覧。
^ “TESS Transit Timing of Hundreds of Hot Jupiters ”. arXiv (2022年2月7日). 2022年2月9日閲覧。
^ “NGTS-12b: A sub-Saturn mass transiting exoplanet in a 7.53 day orbit ”. arXiv (2020年9月22日). 2024年5月14日閲覧。
^ “NGTS-13b: A hot 4.8 Jupiter-mass planet transiting a subgiant star ”. arXiv (2021年1月12日). 2024年5月14日閲覧。
^ “NGTS-14Ab: a Neptune-sized transiting planet in the desert ”. arXiv (2021年1月5日). 2021年1月9日閲覧。
^ a b c d “NGTS 15b, 16b, 17b and 18b: four hot Jupiters from the Next Generation Transit Survey ”. arXiv (2021年3月18日). 2021年3月19日閲覧。
^ “Two long-period transiting exoplanets on eccentric orbits: NGTS-20 b (TOI-5152 b) and TOI-5153 b ”. arXiv (2022年7月8日). 2022年7月11日閲覧。
^ “NGTS-21b: An Inflated Super-Jupiter Orbiting a Metal-poor K dwarf ”. arXiv (2022年10月3日). 2022年10月4日閲覧。
^ a b c d “The discovery of three hot Jupiters, NGTS-23b, 24b and 25b, and updated parameters for HATS-54b from the Next Generation Transit Survey ”. arXiv (2022年11月2日). 2024年5月14日閲覧。
^ “HATS-54b-HATS-58Ab: five new transiting hot Jupiters including one with a possible temperate companion ”. arXiv (2018年12月18日). 2024年5月14日閲覧。
^ a b “NGTS discovery of a highly inflated Saturn-mass planet and a highly irradiated hot Jupiter ”. アストロノミー・アンド・アストロフィジックス (2024年4月24日). 2024年10月3日閲覧。
^ “TOI-2447 b / NGTS-29 b: a 69-day Saturn around a Solar analogue ”. arXiv (2024年5月12日). 2024年5月14日閲覧。
^ “NGTS-30 b/TOI-4862 b: An 1 Gyr old 98-day transiting warm Jupiter ”. arXiv (2024年4月3日). 2024年4月5日閲覧。
^ a b Vines, Jose I; Jenkins, James S; Anderson, David R; Alves, Douglas R; Moyano, Maximiliano; Acton, Jack S; Apergis, Ioannis; Barkaoui, Khalid et al. (2024-11-28). “NGTS-31b and NGTS-32b: Two Inflated hot Jupiters Orbiting Subgiant Stars”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 536 (3): 2011–2024. doi :10.1093/mnras/stae2616 . ISSN 0035-8711 .
^ “NGTS-33b: A Young Super-Jupiter Hosted by a Fast Rotating Massive Hot Star ”. arXiv (2024年11月13日). 2024年11月16日閲覧。
^ “NGTS-7Ab: An ultra-short period brown dwarf transiting a tidally-locked and active M dwarf ”. arXiv (2019年6月19日). 2024年2月18日閲覧。
^ “NGTS-19b : A high mass transiting brown dwarf in a 17-day eccentric orbit ”. arXiv (2021年5月18日). 2024年2月18日閲覧。
^ “NGTS-28Ab: A short period transiting brown dwarf ”. arXiv (2024年2月15日). 2024年2月18日閲覧。
外部リンク