極小モデルの概念は20世紀初頭のイタリア代数幾何学派(英語版)による代数曲面の研究に起源を持つ[3]。その学派の一人であるカステルヌオヴォ(英語版)の収縮定理(英語版)によれば、複素数体上の滑らかな射影的代数曲面の上に (−1) 曲線と呼ばれる曲線があればその曲線を一点に潰すことができる[4][5][6]。潰したあとの代数曲面もやはり滑らかな射影的代数曲面になっているので、そこにまた (−1) 曲線があれば再びカステルヌオヴォの収縮定理を適用してその曲線を潰すことができる。こうして (−1) 曲線があるかぎり潰すという操作を繰り返すことができる。ただし潰すことによりピカール数という非負の値しか取り得ない数が減少するので無限回繰り返すことはできない。よって有限回の繰り返しの後に (−1) 曲線のない代数曲面に到達する。最後に到達した代数曲面は、特別な例外を除き標準因子がネフという性質を持つ代数曲面になっている。この代数曲面は、2つの代数曲面 X と Y の間に射影的双有理射 X → Y が存在しうるとき「X は Y より大きい」とする順序関係[7]で極小になっている。素性のよくわかっている双有理変換を繰り返すことにより大域的性質が少し簡単[8]になったものを見つけることができたのである。
正規かつ射影的な代数多様体
X
は Q 分解的で標準因子がネフかつ末端特異点のみを持つとき極小モデル(minimal model)であるという[1]。
収縮定理
X
を
Q 分解的な末端特異点のみを持つ射影的正規代数多様体とする。標準因子
KX
がネフでなければ基本収縮写像と呼ばれる別の代数多様体
Y
への射
φ : X→Y
が少なくとも1つ存在する。φ
は次の3種類のうちいずれかになっている[25]。
(1) dim X > dim Y。このとき φ : X→Y を森ファイバー空間あるいはファノ・ファイバー空間[26]という。φ のファイバーは大変特殊な多様体になっていて、このような φ が存在する場合には X を理解するという問題をその特殊な多様体と低次元の多様体 Y を理解するという問題に帰着できる[27]。
(2) φ は双有理(特に dim X = dim Y)かつその例外集合は素因子。このときの φ を因子収縮写像という。Y のピカール数は X のピカール数よりも小さくなっているので Y はより簡単な多様体であるとみなせる[27]。Y は再び Q 分解的かつ末端特異点のみを持つ射影的正規代数多様体になっているので、KY がネフでなければ再び基本収縮写像をとることができる。
Fujino, Osamu (2009), “New developments in the theory of minimal models”, Sugaku (Mathematical Society of Japan) 61 (2): 162–186, ISSN0039-470X, MR2560253
Birkar, Caucher; Cascini, Paolo; Hacon, Christopher; McKenan, James (2010), “Esistence of minimal models for varieties of log general type”, Journal of the American Mathematical Society (American Mathematical Society) 23 (2): 405–468, ISSN0894-0347