「恋をするなら 」(こいをするなら、原題 : If I Needed Someone )は、ビートルズ の楽曲である。イギリスでは1965年に発売された6作目のイギリス盤公式オリジナル・アルバム『ラバー・ソウル 』に収録され、アメリカでは1966年に発売されたキャピトル 編集盤『イエスタデイ・アンド・トゥデイ 』に収録された。作詞作曲はジョージ・ハリスン で、作曲の面ではバーズ の影響を受けていて、音楽評論家からは肯定的な評価を得ている。
本作は翌年にハリスンの妻となったパティ・ボイド に向けて書かれた楽曲で、3声のハーモニー とリッケンバッカー・360/12 で演奏されたギター・パートが特徴となっている。『ラバー・ソウル』発売後に行なわれたイギリスツアーで演奏され、ビートルズのライブで演奏された唯一のハリスンの作品となった。
『ラバー・ソウル』と同日にホリーズ によるカバー・バージョンが発売され、全英シングルチャート で最高位20位を記録したが、ハリスンはホリーズによるカバー・バージョンに対して否定的な評価をしている。後にステンドグラス (英語版 ) やザ・キングスメン (英語版 ) らによってカバーされ、ハリスンも1991年にエリック・クラプトン と行なった日本公演で演奏している。
背景・曲の構成
ハリスンのインドの伝統音楽 への関心の反映に加え、「恋をするなら」はバーズ の影響を受けた楽曲となっている。バースは、1964年に公開されたビートルズ主演の映画『ハード・デイズ・ナイト 』に触発され、自分たちの音楽に対してビートルズの演奏スタイルなどを取り入れた。1965年8月初旬にバーズとビートルズ間での交流が始まり、同月下旬にハリスンはデヴィッド・クロスビー と会話をし、その中でシタール奏者のラヴィ・シャンカル の名が挙がった。以降、ハリスンはインドの伝統音楽や古代のヒンドゥー教の教えへの関心を深めていき、1966年にはインドに渡ってシャンカルに師事してシタールの演奏を習得した。
曲中におけるギター・パートはDのポジションで演奏され、本作についてハリスンは「世の中にごまんとあるDコードスタイルの曲。少し指を動かせばあのフレーズになる」と語っている。フォークロック 調の楽曲で、一部インドの伝統音楽の影響が見られる。なお、ハリスンはバースの「リムニーのベル (英語版 ) 」のリフに触発されて本作を書いており、ドラム・パートは同バンドの「シー・ドント・ケア・アバウト・タイム (英語版 ) 」から一部拝借している。歌詞について、ハリスンは「(翌年に妻となった)パティ・ボイド に向けたラブソングとして書いた」と語っている[ 14] 。
レコーディング
アルバム『ラバー・ソウル』のレコーディング・セッションでは、プロデューサーのジョージ・マーティン が「『ラバー・ソウル』は、成長を続ける新しいビートルズを世界に向けて発表した初のアルバム」と評するように録音技術の革新が行われた。「恋をするなら」においては、『ラバー・ソウル』のためのセッションの最後にレコーディングされたレノン作の「ガール 」と同様に、ギターのネックの中間ほどにカポタスト をつけて演奏することで、楽曲により明るい印象を持たせた。
「恋をするなら」のレコーディングは、1965年10月16日にEMIレコーディング・スタジオ で開始され、同日にリズムトラックが1テイクで録音された。本作のレコーディングでハリスンは、1965年製のリッケンバッカー・360/12 を使用した。ポール・マッカートニー は、「レイン 」をはじめとした1966年にレコーディングされた楽曲でも確認できるオスティナート を多用したベース・パートをリッケンバッカー・4001S で弾いている。
10月18日にボーカル のオーバー・ダビング が行われた。間奏やエンディングで聞けるハーモニー部分では、マッカートニーが高音部、レノンが低音部を歌っている。同日のセッションでリンゴ・スター はタンバリン のパートを加えた。なお、本作のレコーディングに関して、「マーティンがハーモニウム を演奏した」とする文献も存在している。
10月25日にモノラル・ミックスが作成され、翌日にステレオ・ミックスが作成された。
リリース・評価
「恋をするなら」は、1965年12月3日にパーロフォン から発売されたオリジナル・アルバム『ラバー・ソウル 』のB面6曲目に収録された。アメリカで発売された『ラバー・ソウル』では、当時の慣習により収録内容が変更されたことにより未収録となり、翌年6月に発売されたキャピトル 編集盤『イエスタデイ・アンド・トゥデイ 』に収録された。本作は、ハリスンがこれまでに書いた楽曲の中で最高の楽曲とされ[ 31] 、オールミュージック のリッチー・アンターバーガー (英語版 ) は本作と「嘘つき女 」について「実に人々を奮い立たせる曲」と評し[ 1] 、『ニュー・ミュージカル・エクスプレス 』誌のアレン・エヴァンスは「テンポの速いアップビーター」「繰り返し聞きたくなる楽曲」と評している[ 32] [ 33] 。なお、マッカートニーは本作を「ハリスンがバンドのために初めて書いた“画期的”な曲」としている[ 34] 。
1965年12月に行なわれたイギリスツアー以降、カール・パーキンス のカバー曲「みんないい娘 」に代わるハリスンのボーカル曲として演奏され、1966年に日本武道館 で行われた来日コンサートでも演奏された。これにより、本作は1963年から1966年までのコンサート活動中に演奏された唯一のハリスンの作品となった[ 1] [ 注釈 1] 。また、『ラバー・ソウル』に収録された楽曲で、ビートルズ時代のライブで演奏された2曲のうちの1つともなっている[ 注釈 2] 。ビートルズ解散後、ハリスンは1974年にシャンカルと共に行なったアメリカツアーや、1991年にエリック・クラプトン と共に行なった日本ツアーでも演奏している。
1995年11月にジュークボックス 用に制作されたシングル盤『ノルウェーの森 』のB面に収録された。また、本作はハリスンとEMIの契約が終了した1976年に発売されたコンピレーション・アルバム『ザ・ベスト・オブ・ジョージ・ハリスン 』にも収録されている。
クレジット
※出典
カバー・バージョン
ホリーズによるカバー
1965年10月下旬、ジョージ・マーティンから「恋をするなら」のデモ音源を受け取ったロン・リチャーズ (英語版 ) は、そのデモ音源をホリーズに提出した。当時発売されていたホリーズのシングル曲の多くは外部のソングライターによって書かれていたが、ビートルズのメンバーの故郷であるリヴァプールとホリーズのメンバーの故郷であるマンチェスターが古くから対立関係にあったことから、バンド内ではビートルズの楽曲をカバーするか否かで意見が分かれていた。その後、11月17日に3テイクでレコーディングが行われ、ビートルズ・バージョンが収録された『ラバー・ソウル』と同じ日にパーロフォン よりシングル盤として発売された[ 48] 。
ホリーズによるカバー・バージョンは、全英シングルチャート で最高位20位を記録し[ 45] 、ハリスンが作詞作曲した楽曲がチャートインした初の例となった。しかしながら、当時のホリーズのシングル作品では最もチャート成績が芳しくない作品の1つとなった。ハリスンは、ホリーズの作品について「最悪」とし、「即席バンドのように呼吸が合っていない」と語っている。
その他のアーティストによるカバー
脚注
注釈
出典
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外部リンク