干物「干物」は「乾製品」(dried product)と同義ともされる[2]が、魚介類以外の食品については、干し肉、干し野菜、ドライフルーツといった呼称もある。本項では主に魚介類の干物について解説する。 概要干物(乾製品)は魚介類の水分を乾燥によって減らすことで貯蔵可能なように加工した食品である[2]。 世界各国で作られている。
干して乾燥することで、独特の食感とそれに伴う食味が生まれ、蛋白質が分解されて旨味が形成される[3]。旨味が増すのは、水分が減って味が濃密になるほか、魚の死後に増えるイノシン酸が寄与している。 日本国内有数の干物産地である静岡県では、アジなどを塩汁(しょしる)という塩水に10分~数十分漬けてから干すことが多い。こうすると塩汁が魚肉の筋繊維に入り込んで隙間が殆ど無くなるとともに、蛋白質が変化して、干物を焼いた時に瑞々しさやもっちり感が味わえる[4]。
干物は鮮魚より、微生物の作用による腐敗が遅く、棒鱈のように保存食となる干物もある。干物は天日や風で水分を蒸発させて微生物が使える自由水の割合(水分活性)を減らすとともに[5]、表面に膜を作ることにより保存性が高まる[要出典]。
干物の乾燥方法は天日乾燥と人工乾燥に大別される[2]。天日乾燥は「天日干し」とも呼ばれている。 干物は素材を乾燥させる風が重要であり、適度な湿度や温度など(海風など)が必要とされる。また、夏場は直射日光に当てると乾燥する前に腐敗してしまうことがあるため、日陰干しをする場合もある。天日干しは、1時間程度干した後は日陰で干すことが多い。本稿の写真では天日で干しているが、その時間も短時間で、干したあと1時間程度で直ぐに販売される。 ほとんどの干物では天日乾燥が基本であり、最近では虫や鳥獣の寄り付きを防ぎつつ早く乾燥させるため、吊り下げた魚を回転させる干し台や網目があるネットが使われる。干物ネット(ドライバスケット)は青色などのネットでできており、中が数段に仕切られ、主に家庭での干物作りに利用される。 工場など大量生産などを行う所では人工乾燥機が使われており、生干しでは水分を保つため低温の乾燥機を使うこともある。
元は保存食として広まり、天日による干物作りは、漁港周辺でよく見られる風物詩的な光景となっている。干物は海が近い地域の土産売り場だけでなく、全国のスーパーマーケットなどで広く販売されたり、旅館・飲食店で料理として出されたりしている。釣ったり、買ったりした鮮魚を干物にする家庭もある。 冷蔵庫が普及した現代でも、生魚から作る刺身や焼き魚、煮魚とは違った、干物独特の味・食感を好む消費者は多い。調理法は焼きが中心だが、蒸したり、各種料理の具材に使ったりもできる[6]。
歴史日本での歴史日本では縄文土器から貝の干物が見つかっており、およそ四千年ほど前には干物が作られていたことになる[7]。また愛知県豊川市で見つかった貝塚の痕跡(平井稲荷山貝塚、縄文時代後期)などからも縄文時代に干物作りが行われていたことが分かる[7]。 奈良時代の正倉院文書には「きたひ」「すわやり」「あへつくり」といった干物が記載されている[7]。 干物は奈良時代には朝廷への献上品とされた。 ヨーロッパなどでの歴史カトリック社会において、断食日は肉食が禁じられたが魚は許されていたので、一年のおよそ半分の期間は魚の需要が高まっていた[9]。そのため魚の獲得と保存は重要な意味をもっていた。 530年頃にヌルシアの聖ベネディクトゥスによってベネディクト修道会が創始された[10]。ベネディクトゥスは断食を好み、節度ある食事を修道士に求めて基本的に肉を食べない食事を採用した。ベネディクト修道会の規範が多くのキリスト教会派の基礎として広まった結果、14世紀のヨーロッパの国々では魚を食べることが一般的になり、漁業が大産業となった[10]。当時は淡水魚が贅沢品で、日常的に食べられる海の魚のニシンとタラがヨーロッパ人の蛋白源となっていた。ニシンは脂が多く腐りやすいのであまり保存食にはされなかったが[10]、タイセイヨウダラは脂が少なく淡泊な味の白身魚なので干物に向いており、しっかり塩漬けにし干物に加工されたタラは5年以上保存ができた[10]。 北欧ノルウェー北部沖のロフォーテン諸島では毎年、何万匹もの塩漬け干物を作り、本土のベルゲンほか北欧各地に向けて出荷していた[10]。 中世ヨーロッパでは各地で頭を落としたタラの干物が日常の食べ物になっており、ストックフィッシュ(保存魚)と呼ばれていた[10]。15世紀にニシンとタラの干物の貿易がハンザ同盟に独占されてしまったため、イングランドの漁師は新たなタラの漁場を求めて、それまで漁を行なっていた海域から遠く離れたアイスランド南部沖にまで出かけてタラをとるようになり、北の冬の荒れた海でしばしば遭難した[10]。 なお、タラの干物は腐ることなく赤道を越える航海に耐えられる数少ない蛋白源であったので、大航海時代を支える食べ物でもあった[11]。 干物の分類干物の種類干物(乾製品)は、素干し、塩干し、煮干し、焼干し、凍乾品、燻乾品、節類などに分類される[2][12]。
丸干し・開き干し・切干し干物は魚の下処理の状態によって、丸干し(魚を丸のまま干物にしたもの)、開き干し(魚を開いた状態で干物にしたもの)、切干し(魚を切り身にした状態で干物にしたもの)に分けられる[2]。
全乾品と半乾品干物は除去する水分の程度によって本干しなどの全乾品と生干しなどの半乾品に分類される[2]。生干し(若干し)や一夜干しは軽く水分を抜くだけにとどめたもので、保存が効かないため、冷蔵庫での貯蔵が必要となっている。乾燥度を上げたものは上乾○○などと呼ばれる。 干し方による分類干物は干し方によって、吊り干し、張り干し、糸貫干し、串干しなどの種類に分けられる[2]。 魚種別の加工法
干物の具体例アジア、アフリカ、ヨーロッパなどの漁業の盛んな地域では、様々なタイプの干物が製造されている。
栄養価干物は栄養価に優れカルシウムに富み干すことでイノシン酸も増している[23]。干物の塩分は魚種や加工法により幅がある。シシャモの干物(国産)が1%程度、アジの干物が2%程度、ウルメイワシの丸干しが4.9%程度であるとされる[23]。 食中毒干物に含まれるヒスタミンにより食中毒が発生することがある。ヒスタミンを生成する菌は、海水中や陸上に常在するものであり、干物を製造する過程で温度など条件が揃うと、菌が増殖して干物に含まれるヒスタミンの量も増加する。調理による加熱で菌は死滅するが、熱に安定なヒスタミンは残るため、摂取者は顔面の紅潮、頭痛、蕁麻疹、発熱などを症状とする食中毒を起こす。菌は、鰓や内臓で増殖しやすいので、丸干しは比較的食中毒が発生しやすいとされる[24]。 天日干しの干物は魚の脂肪酸が紫外線によって酸化されている[25]ため、体内で活性酸素が発生する可能性が高く、健康的な食材とは言えない可能性がある[26]。 その他
脚注
参考文献
関連項目 |