女性専用空間女性専用空間(じょせいせんようくうかん、英語: women-only space)とは生物学的な身体をベースに、女性として生まれた女性のみが性別分離し利用する空間である。女性専用スペースともいう。具体的には、女子トイレ、女性用更衣室、女湯、女性被害者用レイプシェルター[1]、避難所の女性区域、母子寮、女子刑務所、病棟の女性区域、女性専用車両、女子スポーツなどがある[2][3][4]。 女性の人権、生存権と尊厳を守り、女性特有の『身体』を性的嫌がらせや暴力におびやかされることなく保護される「安全な空間」を確保するために、性別を分離して設けられているのが女性専用空間である。女性専用空間の確保の大きな理由として、男女の性犯罪の非対称性があると主張されることもある。 未手術トランス女性の女性専用空間への立ち入りに関する論争男性として生まれたが女性としての自我をもつ人をトランス女性という。性別適合手術を行っていない場合は未手術の身体に男性器が保持しており外見上や性的機能も男性である。身体ベースで運用される施設で身体が男性である未手術のトランス女性が女性専用空間への立ち入りを望むことは公序良俗および防犯や安全維持、母性保護の目的と対立することがある。女性専用空間に男の身体を収容する利点が無く、性自認というものは外見で判断がつかない為、日本の女性専用空間の多くは男性器を持つ者の立ち入りを禁じている。 一方で、そうした運用が「生物学的に女性特有の身体を持たない」トランス女性への排除、トランスフォビアにつながるというLGBT団体からの抗議や論争もある。日本においては2022年11月に有志によりこのような議論や圧力から女性専用空間を守る為に女性スペースを守る会が立ち上げられている。 ジャーナリストの藤倉善郎はこの女性スペースを守る会の活動に旧統一協会の複数の関係者らが賛同、関与していることを指摘している[5]。 海外のトランスジェンダー政策をとる自治体について民主党政権下のアメリカでリベラル層が多い州(民主党支持者の多い青い州)やカナダなど性別適合手術なしでも法的な性別変更を許可している国など、トランスジェンダーへの配慮が強い国や州では、自認した性の空間利用が合法である[6][4][7][8][9][10][11]。更には男女別トイレを、男女共用トイレにすることで女子トイレを廃止するところがある。この目的として、ジェンダーフリー思想や トランスジェンダーの権利運動があるのではないかと主張する者もいる。しかし男女共同トイレ化の問題として、治安の悪化や子供や高齢者、身体障碍者などを含む弱者への暴行、性犯罪への懸念も指摘されている。欧米では「小児性犯罪者を幼児に近づけない」という取り組みがあり、トランスジェンダーへの配慮で間接的に犯罪者が容易に犯行に及ぶ状況を呼び込むのではないかという議論もある[12][9][13][14]。 尚、性別適合手術以前の段階で性ホルモンの摂取期間によっては(ホルモン補充療法; HRT)で性的衝動や性的能力が衰えた当事者も存在するなどとあるが、外見では判別は不可能でありその個人差はあまりにも大きい(性別適合手術#概要も参照)。 セルフID制度導入国家・地域における事件→「ジェンダー・セルフID」も参照
女性専用空間の核心は女性身体の保護と男性がいない環境の確保にあるため、倫理的および法的な観点で、性別適合手術を受けていないトランス女性が立ち入ることは許されるべきかどうかをめぐり、一部で議論が起きている[15][16][17]。 また、 女性の身体保護のために未手術トランス女性自認者は入れない特定の空間を取っておくことの有用性と正当性への反発の声が、海外の親トランス派の一部で上がっている[18]。 アメリカのカリフォルニア州ではWi Spa controversy(Wi Spa 公然猥褻事件論争)などが起きているが、カリフォルニア州のようにセルフID制度施行国・地域では女性の性自認を持っていれば、性別適合手術をしていないトランス女性でも、女子トイレや女子風呂などの女性専用空間に入ること自体は非合法ではないとされる。セルフID制定国・地域ではその存廃・セルフID未制定国では制定への是非が論争となっている[19][20]。 カナダでは2017年にセルフid制度を認めるBill C-16が可決されたことで自身を女性だと自認する者は未手術でも女性刑務所のような女性専用空間を利用出来るようになった。そのため、カナダのオンタリオ州で1995年に女性を殺害後に死姦した罪で男性刑務所にいた68歳の女性自認者が男性刑務所から女性刑務所へ移送されることが認可された[21]。2022年10月にオンタリオ州で、性犯罪の前科があるトランス女性自認のホームレスが女性用ホームレスシェルターに入所したが、他の身体女性入居者を強姦たことで逮捕された[10]。 2022年8月にアメリカのニュージャージー州の女性刑務所で、27歳のトランス女性自認囚人が2人の女性囚人を妊娠させる事件を起こしている[11]。 未手術トランスジェンダーによる女子トイレ利用・女性スポーツ競技参加への日本主要政党の賛否日本の現行法では、性別変更が許可されているのは、性別適合手術を受けた者のみに限っているが、 女子トイレは未手術トランス女性の利用を直接規制する法律はない。下記の未手術トランスジェンダーによる女性専用空間利用否定派は、未手術トランス女性は女子トイレ利用を自粛するべき・性同一性障害特例法の手術要件は維持すべきなどと主張している。一方、LGBT団体など肯定派は、IOCなど開催者が定めた条件を満たす場合、女性スポーツ競技へのトランス女性の参加を問題としない。 未手術トランス女性の女子トイレ利用も自粛する必要はないと主張している。[22]。 肯定的立憲民主党は「トランスジェンダー女性を犯罪性と結びつけるな」との自民党本部前で抗議集会を紹介し[23]、「ジェンダー平等推進本部」を設置し[24]、「差別は許されない」の一文をLGBT法案(仮)で追加させている[25]が、この追記は自民党保守派の、民主党政権などで検討された、人権侵害の定義が曖昧で、恣意的な運用や「表現の自由」の規制などへの懸念が噴出して廃案となった人権擁護法案の苦い記憶を招いたため、LGBT法案(仮)の廃案に繋がった[25]。 日本共産党はトランス女性の女子トイレ利用に関する問いはトランスジェンダー差別(トランス差別)だとして[26]、党綱領[27]でもジェンダー平等を目指すとして推進している[26][28]。2022年の公約では、現行の性同一性障害特例法の、性別適合手術者のみに性別変更を許可するという要件の撤廃を主張している。また、「今後、法的にも、男性器を備えたままの性自認女性という存在が認められるということも想定している」としている[22]。ただし、性同一性障害特例法で定められている、精神科医2名による性同一性障害の診断を必要とするという要件を見直し・廃止するかどうかは具体的に書かれていない。 否定的日本の保守派は「性自認に基づいた女性専用空間利用」・「性自認に基づいた女性競技への参加」に否定的である。自民党も「公共の福祉に反し、女性の安心・安全な生活を脅かすような犯罪行為は決して許されません。」とし[29]、「性的指向や性自認が定まっていない、心の性と体の性が一致しない人、トランスジェンダーの人が女子トイレに入ってきたらどうするのか[26]」「体は男だけど自分は女だから女子トイレに入れろとか、アメリカなんかでは女子陸上競技に参加してしまってダーッとメダルを取るとか、ばかげたことはいろいろ起きている[30]」として女性専用空間や女性競技参加を否定している[26][30]。後述のLGBT法案で、法案の目的と基本理念の項目で「性自認を理由とする差別は許されない」とされている点をトイレや更衣室など女性専用空間利用で訴訟が乱発される危険性があるとして問題視している[30][25]。 国民民主党の党首の玉木雄一郎は、2023年5月18日の会見でLGBT法案に関して、トイレや風呂における問題を挙げて「普通の女性が恐怖を感じることが現に起きている。マジョリティーの理解が得られないとマイノリティーに敵意が向き、結果として性の多様性が確保されなくなる」と述べた[31]。同党幹事長の榛葉賀津也は2023年5月19日の記者会見でLGBT法案に関して「トイレや浴場などで、特に女性の権利が尊重されていないとなると、これは問題だ」と指摘した[32]。 日本維新の会の馬場伸幸代表は、2023年5月18日の会見でLGBT法案に関して、超党派議連での合意以降にトランスジェンダー女性のトイレ使用などの問題が顕在化したことを指摘した[31]。のちに国民民主党と共同でLGBT法案に関する独自の対案をつくり、トイレ問題など女性の権利侵害を防ぐために「全ての国民が安心して生活できるよう留意」との条文を新たに作った[33]。 脚注
関連項目
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