夜がどれほど暗くても
『夜がどれほど暗くても』(よるがどれほどくらくても)は、中山七里による日本の小説[1]。『月刊ランティエ』で2018年11月号から2019年6月号まで連載され、加筆訂正されたうえで[2]2020年3月14日に角川春樹事務所から刊行された[1]。大学生の息子が犯罪を犯して自殺したのをきっかけに追われる立場となった大手出版社の副編集長が世間からバッシングを受け、家族にも見放される中で事件の真相に迫っていく過程を描く[3]。 2020年11月22日からWOWOW「連続ドラマW」で上川隆也主演によりテレビドラマ化された[3]。単行本が同年3月に発売されたばかりであるため、著者の原作の映像化としては最短記録である[4]。 執筆経緯本作のテーマは“和解”[5]。角川春樹事務所社長の角川春樹から「ほっこりするものを書いてくれ」と言われ、「最後の最後に収まるべきものが収まるところに収まるのが一番ほっこりだ」という考えから[6]、殺人事件をきっかけに生まれた加害者遺族と被害者遺族について書くことが決まった[5]。また、本作は2018年10月から執筆が開始されたが、ちょうどそのころは問題記事を掲載した雑誌が休刊になったり、不倫をした芸能人についてよく報道されたりしていた時期だったため[6]、主人公の志賀は不倫スキャンダルなどを追う、社会的にはあまり善人には見えない週刊誌記者に設定され、そんな人間が局面の変遷に従って変わっていく姿を描いた[5]。また、事件に関わってしまった場合、加害者遺族も被害者遺族も実は似たようなものではないかという思いから、この作品ではどちらにも肩入れしないと決めたため、被害者家族である星野奈々美についても、必ずしも世間から同情されるばかりではない存在として描かれている[5]。 タイトルには、人を叩くような人間も全てを失うような“夜”があり、それでも「夜がどれほど暗くても」最終的にはちゃんと朝が来る、という意味がこめられており[6]、息子を亡くした志賀と両親を失った奈々美が少しずつ打ち解けていくことで、本作のもう一つのテーマである“擬似家族”となっていく、希望がもてる結末となっている[5]。シリーズの垣根を越えて登場している葛城公彦も、著者の中山が描く刑事の中では一番刑事らしくない刑事であり、善意の象徴とされているキャラクターである[5]。 あらすじ大手出版社・春潮社発行のスキャンダル記事を売り物とする『週刊春潮』の副編集長である志賀倫成は、ある朝突然訪ねてきた警視庁捜査一課の刑事・宮藤賢次から、息子の健輔が、通っている大学講師の星野希久子に対し、ストーカー行為の末に相手夫婦を惨殺、そして自ら命を絶った疑いがあると告げられる。とても信じられず、取り乱す妻の鞠子をなだめながら、息子にかけられた嫌疑を晴らすときっぱり主張した志賀だったが、事件はすぐにマスコミに知れ渡り、追う側から追われる側へと立場は逆転、編集長の鳥飼からは休みをとるように命じられてしまう。テレビやネットでは健輔の人となりが好き勝手に報じられていたが、志賀には健輔が犯人ではないという物的証拠を示して反論することもできず、これこそが今まで自分がやってきたことなのだと思い知る。葬儀を終えて間もなく、鳥飼から「容疑者の父親からコメントをとらないわけにはいかない」と言われ、“ストーカー殺人犯 実父の告白”と見出しを打った『週刊春潮』を発売するが、謝罪の一言も無いその内容に反響と同時に抗議電話が殺到する。そして街を鞠子と歩いていた志賀は、「あんたたちの子供にパパとママを殺された」と星野希久子の娘・奈々美にカッターナイフで襲われ、被害者遺族について何ら考えがおよんでいなかった自分に気づく。 いまや悪辣なヘイト雑誌との認識が成されている『春潮48』へ異動させられてしまった志賀は、アイドルの不倫現場を追えば逆に取材対象にカメラを向けられ、街頭インタビューに立てば市民から罵倒され、社内でデスクワークをすれば他の社員からポンコツ扱いされ、精神は少しずつ疲弊していく。そして同じく周囲からの嫌がらせや奈々美からの敵意に疲れ果てていた鞠子と口論した挙句に手をあげてしまい、鞠子は家を出ていってしまう。義母の久恵からも冷却期間を置くように言われた志賀は、以前ネットニュースで見かけたNPO法人〈葵の会〉を訪ねてみることにする。〈葵の会〉は犯罪被害者だけでなく、加害者家族の精神的ケアをサポートする全国でも珍しいNPO法人で、代表の椎名は志賀が「息子が人を殺めた」と話すと歓迎してくれた。しかしそこはすでに奈々美も出入りしている場であり、鉢合わせした奈々美は激昂する。椎名からはすまなそうに入会を断られ、自分だけがなぜこんなにも何もかも失わなくてはならないのかと怒りの矛先を奈々美に向けた志賀は、ひとこと言ってやろうと奈々美の家をつきとめるが、奈々美は両親がいない家で近所からの誹謗中傷に耐えながら一人で暮らしており、その身体には大きな痣もみてとれた。奈々美に見つかり再び激昂されるが、毒気を抜かれた志賀は立ち去る。するとその様子を見ていた宮藤の部下・葛城に呼び止められ、葛城も奈々美のことを心配していること、葛城と宮藤は事件が終結したとは思っていないことなどを聞かされる。 志賀は奈々美の学校の裏サイトを検索したり、実際に学校を張り込み、暴力をふるわれている現場で身を挺して奈々美をかばったり、学校にも乗り込んで奈々美に危害を加えるクラスメートの身元を調べて直接忠告したりと奈々美を守るようになる。そんな様子に理解不能という顔をしながらも、会話を交わしたり、怪我をした志賀を介抱したりと次第に奈々美の態度は軟化していく。怪我の状態が激しいにもかかわらず、暴行されたことを否定し続けたため、病院から通報されたことで志賀は再び葛城と顔を合わせることになるが、そこで葛城から、なぜ犯行現場が星野宅で、犯人はスペアキーを持っていたのかという疑問点と、人間の情報はその生活圏に集中しているものだというヒントを与えられる。そして志賀はさらに奈々美との会話の中で、本当は事件前日から星野夫婦はシンガポールを旅行する予定だったが、濃霧で飛行機が飛ばず一度家に戻ったために殺されたのだと知る。真相まであと少しと感じたのもつかの間、志賀は「家が燃えている」という奈々美からのSOSを受け、またしても身を挺して炎の中から奈々美を助け出す。そして現場にきた宮藤から、放火をした被疑者がイコール星野夫婦および健輔殺害の被疑者であり、すでに逮捕したと聞かされる。 火災保険と両親の生命保険で金には困らないものの、14歳の子にホテル住まいをさせるわけにはいかないと、志賀は奈々美を自宅へ連れ帰る。すると玄関には戻ってきた鞠子の姿があった。 登場人物春潮社
志賀家
星野家
警察関係者
東朋大学関係者
都立桜中学校
NPO法人〈葵の会〉犯罪被害者だけでなく、加害者家族の精神的ケアをサポートする全国でも珍しいNPO法人。実質的な職員は5人程。東上野にあり、会合は毎週日曜に行われ、入会条件も特に設けていない。
その他
書誌情報
テレビドラマ
2020年11月22日から12月13日まで、WOWOW「連続ドラマW」で毎週日曜 22時00分 - 23時00分に放送[3]。全4回[3]。主演は上川隆也[3]。 キャスト
スタッフ
放送日程
脚注
外部リンク |
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