著作物
著作権法 2条1項1号
著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
思想又は感情
- 「人の精神的活動」のこと。
- よって、「客観的な事実や事象」それ自体は非著作物。(参考判例: 市場調査データの出版事件、発光ダイオード論文事件、京都大学博士論文事件)
- なお、著作権法上の「事実」は、「絶対的真理」という意味ではなく、「創作者により事実として提示されている」もの。創作者により事実として提示された事象に関し「一般的な考え方とは異なるもので被上告人に特有の認識ないしアイデアであるとしても,その認識自体は著作権法上保護されるべき表現とはいえず」とした判例がある。(参考判例: 江差追分事件)
- 「事実を素材にした文章など」は著作物たり得る点に要注意(参考判例: 壁の世紀事件)。
創作的に表現
- 「独創性の発揮」までは不要だが、「作成者の何らかの個性の表現」は必要。(参考判例: ライブドア裁判傍聴記事件)
- ごく短いものなどの「他の表現が想定できない場合」や「表現が平凡、かつありふれたもの」は非創作的で非著作物。(参考判例: 古文単語語呂合わせ事件)
具体的事例
- データ - 非著作物。データの組み合わせも非著作物。(参考判例: 市場調査データの出版事件)
- グラフ - 創作性のない単純なものは非著作物、表示方法に創意工夫を凝らし作成者の創作性が認められるものは著作物。
- 法則の図式 - 創作性のない単純なものは非著作物、創意工夫を凝らし作成者の創作性が認められるものは著作物。
- 法律 - 著作権法上の権利の目的にならない著作物(著作権法 13条1号)。なお、六法全書は編集著作物。
- 契約書 - 典型契約の場合でごく一般的な条項のみで創作性がないものは非著作物、非典型契約などで特殊な条件・条文に創意工夫・創作性が認められるものは著作物。契約書式・就業規則は、一般的には非著作物、特殊な条件・条文に創意工夫・創作性が認められるものは著作物。
- ルール - ゲームなどのルールは「アイディア・着想」それ自体で、それを「表現したもの」ではないので非著作物、ルールブックは創作性・著作物性が認められる余地あり要注意。(参考判例: ゲートボール競技規則事件。同解説[29])
- 地図 - 一般的に著作物だが、住宅地図などの特定の目的をもった地図は表示手法の取捨選択の幅により創作性・著作物性が否定される場合がある。(参考判例: 富山住宅地図事件)
- タイトル - 本などのタイトルは、一般的に非著作物。
- 見出し - 新聞などの見出しは、多くの場合、非著作物。(参考判例: ニュース記事見出し事件)
- 目次 - 本や雑誌の目次は、頁順に並べてあるものは非著作物、雑誌の目次などで配列手法に創造性が認められる場合は編集著作物。
- 標語・スローガン・キャッチコピー - 「思想・感情」をそのまま直接的に短く表現するため創作性・著作物性が認められないケースが多いが、創意工夫の度合いに応じて創作性・著作物性が認められる場合もある。(参考判例: 交通標語事件、スピードラーニング事件)
- 数学の命題の解明課程と方程式 - 解明過程自体は、その著作物の思想(アイデア)そのもので、非著作物。(参考判例:数学論文野川グループ事件 )
- 雑報・時事の報道 - 著作権法10条2項で「事実の伝達」に過ぎず非著作物であると規定され、事実のみを報道する簡単な「訃報」「人事異動」がこれに当たる。一方、新聞記事一般は、記載内容の選択・分析・評価や文章上の工夫など認められ、著作物とされる場合がほとんど。
- 写真 - 一般的に著作物だが、固定式監視カメラや自動証明写真機によるもの、被写体の忠実な写真複製など、撮影者の個性・創作性が介在しないものは著作物性が認められない。
- プログラム - ある目的を達成するためのプログラム記述に「選択の幅」が有るのか無いのか(広いか狭いか)、が著作物性判定の一つのポイントとなる。
編集著作物
著作権法 12条1項
編集物(データベースに該当するものを除く。以下同じ。)でその素材の選択又は配列によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。
- 保護の対象は「編集方針」ではなく「編集の具体的表現」。
- 編集の対象(素材)が事実・データなどの非著作物でも、編集方針(素材選択・配列など)に創作性が認められれば、成果物(具体的表現)が編集著作物となる。
- 素材が非著作物の場合の編集著作物性は、「ありふれた表現か否か」すなわち「同様な編集が従前より行われているか」が判定のポイントとなる。
二次的著作物
著作権法 27条
著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。
同 28条
二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。
- 判例によると、原著作物の改変により「別個の思想、感情を表現するに至つているもの」だとしても、原著作物の「表現形式上の本質的な特徴」を「直接感得」しうる状態にある場合は、二次著作物に該当する。
- 翻案 - 判例では、「既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為」で、「既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらない」とされる。
権利の目的とならない著作物
- 憲法・その他法令 - 学説によると、条例、法律、政令、省令、条例、裁判所規則に加え、外国の法令、未批准の条約なども含まれる。
- 告示・訓令・通達等 - 国、地方公共団体の機関、独立行政法人、地方独立行政法人がその意思を伝達するために発するもの。意思の伝達を目的としない内部文書、白書、報告書、国土地理院地図は著作物。
- 裁判裁判所の判決・決定・命令・審判等 - 司法手続き、準司法手続きに基づくもの。他者著作物が判決に含まれている場合、その判決の文脈の中で当該他者著作物を含めて利用することは可能だが、当該他者著作物を抽出して利用することは不可。
複製
- 「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」(著作権法 2条1項15号)で、判例では「著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足るものを再製することをいう」とされている。(参考判例:ワン・レイニーナイト・イン・トーキョー事件 )
- 基本的に同一物の作成が複製となるが、表現形式が異なったり部分的な再製に留まっていても、実質的に同一でありそこに創作的付加を行っていないものは複製となる。
- 変更部分があり、そこに創作的付加があれば、翻案となる。
引用
著作権法 32条1項
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
引用要件
近時の判例では、以下の「総合考慮説」「条文文言に沿って判断した判例」がともにみられる。「2要件説」は近時は見られないが「総合考慮説」などと断絶している考えとは見るべきではないとされる。
- 「引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ」ること。
- 「両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる」もの。
- 総合考慮説 - 2010年10月13日知財高裁判決(美術品鑑定証書引用事件)ほか。
- 「引用して利用する方法や態様が公正な慣行に合致したものであ」ること。
- 「引用の目的との関係で正当な範囲内、すなわち、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであること」。
- 「他人の著作物を利用する側の利用の目的のほか、その方法や態様、利用される著作物の種類や性質、当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などが総合考慮されなければならない」。
- 要件を特に示さず著作権法第32条第1項の文言に沿って判断した判例 - 2016年6月22日知財高裁判決(オークションカタログ事件B)ほか。
- 「その方法や態様が,報道,批評,研究等の引用目的との関係で、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであり、かつ、引用して利用することが公正な慣行に合致することが必要である」。
主従関係
- 「報道、批評、研究その他の引用の目的」すなわち他者の著作物を利用する側を「主」とし、「引用」すなわち利用される他者の著作物が、「主」の目的の範囲内に収まっているという意味合いで「従」、との関係にあること。
- 「主」と「従」の量的関係においては、単なる量的多寡で判断せず、「報道、批評、研究その他の引用の目的」を達成するために必要な限度内(必要最小限)にあるかどうかがポイント。
同一性保持
著作権法 20条1項
著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
同条2項
前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
同項1-3号(省略) 同項4号 前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変
- 改変 - 引用の際に「改変」を行うことは著作権者の有する同一性保持権を侵害することになる。誤植の訂正も同一性保持違反の可能性があり、原則行わない。判例では、送り仮名変更、読点除去、「・(中黒)」→「、(読点)」への変更、が同一性保持違反とされたものがある。(参考判例: 法政大学懸賞論文事件)
- 改変の例外 - 「やむを得ない」改変は同一性保持違反とならないが、何をもって「やむを得ない」かは個別検討が必要で極めて限定的にとらえるべきとされる。(参考判例: 小林よしのり「ゴーマニズム宣言」引用事件)
- 引用部分の途中省略 - 夫々の箇所を「鉤括弧」で括る(「A」「B」)、夫々の引用部分が近接し一つの引用として纏めたとしても原著作の内容を歪めない場合には「(中略)」などを用い一つの引用として処理する(「A(中略)B」)ことも可能。
出所明示
著作権法 48条1項
次の各号に掲げる場合には、当該各号に規定する著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない。
同項1号 第32条(中略)の規定により著作物を複製する場合 同項2号 (省略) 同項3号 第32条の規定により著作物を複製以外の方法により利用する場合(中略)において、その出所を明示する慣行があるとき。
同条2項
前項の出所の明示に当たつては、これに伴い著作者名が明らかになる場合及び当該著作物が無名のものである場合を除き、当該著作物につき表示されている著作者名を示さなければならない。
- 明示の場所 - 原則として、引用部分の直後。孫引き引用の場合は、原著作物の情報とともに一時引用した著作物の情報の明示もするべき。
- 明示の内容 - 出所のタイトル、著作者名は少なくとも必須で、ほか公表年、雑誌名、出所ページ数、出版社名など、合理的と思われる方法・程度の明示が必要。講演の場合は講演日時・場所、写真・絵画の場合はサイズ・種類・画材などの作品特定の為の情報や改変状況(一部引用、カラー作品を白黒で引用など)の明示も必要。
転載
著作権法 32条2項
国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。
- 「禁止」表示がないことが前提。
- 一般への周知を目的としない内部資料などは該当しない。
- 条文では「刊行物に転載」としており「ネットへの転載」に触れられていないが、「類推適用が妥当」とする学説がある。
要約と著作権
- 原著作物の創作性を生かした形の要約 - 原著作権者が権利を占有する翻案(著作権法27条)に該当。
- 要約引用 - 著作権法43条2号(平成30年改正後47条の6 3号[83])により適法とする判例(「血液型と性格」要約引用事件)もあるが、批判が多く、用いるべきではない。
- 指示的抄録 - 著作物の主題や設定のみを纏めたようなものであれば、原著作物の創作性を利用していないと判断される場合がほとんどと思われる。
- あらすじ - 著作物の内容を含めての要約で、詳細程度によって、原著作物の創作性を利用しているか否かを判断することになる。
脚注
参考文献
判例
著作物性
複製
引用要件
同一性保持
要約と著作権
外部リンク
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