『仮面のロマネスク』(かめんのロマネスク)は、宝塚歌劇団が上演したミュージカル作品。原作はピエール・ショデルロ・ド・ラクロの小説『危険な関係』。脚本は柴田侑宏。
1997年に初演、2012年の再演以降は全国ツアー公演など本拠地以外の劇場で上演されている。
風紀紊乱の貴族社会に生きる1組の男女が始めた、大人の恋のゲーム。仮面を付けた心の奥底で互いを求める駆け引きは、時に残酷に周囲を翻弄し傷つける。誇り高い2人の意地の張り合いから、最後に仮面を外し真情を吐露するまでを、美しく官能的な描写と共に描く。
物語
概要
本作は、原作のスキャンダラスな要素を盛り込み随所に色濃いラブシーンを挿入しながら、宝塚的な叙情性も湛えた恋愛心理劇である。以下、原作からの主な変更・相違点を中心に記述する。
元の時代背景はフランス革命前夜(1780年代)であるが、脚本と初演の演出を担当した柴田侑宏が衣装や背景的な面白さを考慮し[1]、それより約50年後の、ナポレオン失脚後の王政復古時代の終焉となる1830年の出来事に設定されている[2]。
主人公ヴァルモンは、原作では決闘で致命傷を負い全ての企みを詫びて絶命。それにより元凶であるメルトゥイユの悪のゲームの全貌は世間に知られ、激しく揶揄され終わる。
一方本作は全く異なる結末となり、ヴァルモンは死なず、メルトゥイユが天然痘に罹患し醜い容貌と化す描写もない。2人の悪事は露見せず、その犠牲となった若い恋人たちにも救いのある未来が暗示される。同時に7月革命が勃発、彼らの生きる貴族社会は崩壊へと向かう。
最終場面、ヴァルモンは軍人として勝ち目のない戦いに向かう前にメルトゥイユの元を訪れ、互いへの想いを告白。メルトゥイユの望んだ「2人だけの舞踏会」で幕となる。
初演はヴァルモンを演じた高嶺ふぶきの退団公演作品であり[注 1]、惜別を込めた演出が終幕の見どころでもある。
柴田は結末の改変について「恋愛至上主義的な考え方にして、メルトゥイユと別れたヴァルモンが生に対する執着を無くし、王の前で死ぬであろう、という所で終わらせた」としており[1]、また「人間を縛っているものを全部剥ぎ取った時の赤裸々な欲望、欲求を描いている作品で、宝塚での上演は難しいかと考えていたが、逆にアンモラルな匂いの中にこそある魅力というようなものがあるのではないかと思う」と語っている[1]。
あらすじ
1830年の王政復古下のパリ。煌びやかな貴族社会の影で、抑圧された民衆の不満やブルジョアジーの台頭による不穏な空気が流れはじめていた。
紳士淑女が夜毎集う華やかなサロンの女主人・メルトゥイユ侯爵夫人。貴公子たちの高嶺の花として評判の彼女の前に、知人のヴァルモン子爵が現れる。零落した名家の出で社交界の遊蕩児としても知られる彼は、かつてメルトゥイユと人知れず愛し合った仲だった。
虚実とりまぜた貴族社会で、かたや立身出世の為に女性たちを利用することも憚らず、かたや身持ちの堅い若き未亡人の体面を守りながら、それぞれに自由な恋を謳歌する2人。その一方で、別れた今も戯れめいた、時にはすげない応酬を続けていた。
メルトゥイユはヴァルモンにある計画を持ちかける。それは、秘めた色事の相手の1人・ジェルクール伯爵から裏切られ、さらには彼女の若い従妹セシルと婚約した腹いせに、以前ジェルクールに恋人を奪われたヴァルモンにセシルを誘惑させるという、復讐ゲームであった。
余り乗り気でないヴァルモン。彼はその夜に出会ったトゥールベル法院長夫人に興味を抱いていたのだが、その心を見透かしたメルトゥイユは、トゥールベルを手に入れれば褒美として自分を差し出すと告げる。
ヴァルモンはトゥールベルへ熱烈な求愛を開始したものの、頑なに彼を拒みつつ惑乱する彼女の姿に、いつものように一気に征服へと踏み込めないでいた。
そして彼に近づかないようトゥールベルに警告したのがセシルの母だと知り、ヴァルモンはメルトゥイユの提案したゲームに加担する。彼女の企ては、セシルがダンスニー男爵という奥手な青年と恋に落ちるよう仕向け、2人を焚きつけ仲を取り持つよう装いながら裏切るというものだった。
セシルが簡単にヴァルモンの手に堕ち溜飲を下げたメルトゥイユは、トゥールベルへの最後の攻勢をためらうヴァルモンを、彼の美学に反すると煽り嫉妬心をちらつかせる。その言葉でようやくトゥールベルを陥落させたヴァルモンは、最初の約束を果たすようメルトゥイユに詰め寄るが、彼女はトゥールベルへの未練を非難、自分をハレムの女の1人にするのかとはねのけ、2人は複雑な感情の火花を散らす。
一方、背徳の罪に苦しみながらヴァルモンを忘れられないトゥールベルと、ヴァルモンとセシルを信じて疑わないダンスニーの運命は……。
上演記録
- 1997年 雪組公演(初演)[2]
- 柴田侑宏脚本・演出、高嶺ふぶき・花總まり主演
- 2012年 宙組公演[3]
- 演出は柴田侑宏から植田景子に変更、大空祐飛・野々すみ花主演
- 2016年 花組公演[4]
- 演出は中村暁に変更、明日海りお・花乃まりあ主演
- 2016年9月2日 - 9月22日に全国ツアーで上演。併演は中村一徳 作・演出のショー『Melodia -熱く美しき旋律-』。
- 選抜メンバーでの上演。
- 2017年 花組公演[5]
- 演出は中村暁。明日海りお・仙名彩世主演
- 2024年 雪組公演[6]
- 演出は中村暁。朝美絢・夢白あや主演
- 2024年4月12日 - 5月6日に全国ツアーで上演。併演は藤井大介作・演出のショー『Gato Bonito!!』。
- 選抜メンバーでの上演。
主な配役
スタッフ
[2][3][4][5][6]
メディア展開
注釈
- ^ 再演(2012年)時はトップコンビの大空祐飛・野々すみ花、再々演(2016年)時はトップ娘役の花乃まりあがそれぞれ公演前に退団発表済みで、いずれも主演者の退団に縁のある作品となった。
- ^ a b 2012年宙組公演より、ヴォランジュ→ブランシャールへ苗字表記が変更された。
出典
- ^ a b c 『歌劇』1997年4月号 宝塚歌劇団、1997年、56頁(『仮面のロマネスク』座談会)
- ^ a b c d 『1997年 宝塚 Stage Album』宝塚歌劇団、1998年、10-11頁(宝塚大劇場公演)、31頁(東京公演)、33頁・35頁(新人公演)・61頁(生徒の動き)
- ^ a b 『仮面のロマネスク』『Apasionado!!II』 宝塚歌劇団公式HP
- ^ a b “『仮面のロマネスク』『Melodia -熱く美しき旋律-』”. 宝塚歌劇団公式HP. 2016年8月28日閲覧。
- ^ a b “仮面のロマネスク』『EXCITER!!2017』”. 宝塚歌劇団公式HP. 2016年10月20日閲覧。
- ^ a b “仮面のロマネスク』『Gato Bonito!!』”. 宝塚歌劇団公式HP. 2024年1月14日閲覧。
- ^ “宙組中日劇場公演「主な配役」”. 宝塚歌劇団公式HP. 2016年7月9日閲覧。
- ^ “花組全国ツアー公演「主な配役」”. 宝塚歌劇団公式HP. 2016年7月13日閲覧。
- ^ “花組全国ツアー公演「主な配役」”. 宝塚歌劇団公式HP. https://kageki.hankyu.co.jp/revue/2017/romanesque/cast.html 2017年1月6日閲覧。
- ^ “雪組全国ツアー公演「主な配役」”. 宝塚歌劇団公式HP. https://kageki.hankyu.co.jp/revue/2024/romanesque/cast.html 2024年2月7日閲覧。
外部リンク