一酸化窒素合成酵素 (いっさんかちっそごうせいこうそ、英 :Nitric Oxide Synthase(NOS)、EC 1.14.13.39)とは、窒素酸化物 である一酸化窒素 (英:Nitric Oxide、NO)の合成に関与する酵素 である。NOは単純な化学的構造を持つ分子であるが、常温 において気体 の状態で存在し、生体膜 を自由に通り抜けて細胞情報伝達 因子として機能する。NOはアポトーシス 、血圧 変動などの過程に関与する。NOSは常時細胞 内に一定量存在する構成型NOS(cNOS)と炎症 やストレス により誘導される誘導型NOS (iNOS、NOS2)に分類され、さらにcNOSには神経 型のnNOS (NOS1)と血管内皮 型のeNOS (NOS3)が存在する。近年ではミトコンドリア にもNOSの存在が示された(mtNOS)[ 1] 。
機能
NOSによるNO合成反応。図中でオレンジ色で示されているのは酵素のヘム 部位。
NOSはアミノ酸 であるL-アルギニン (L-Arg)からL-シトルリン (L-Cit)とNOを合成する代謝反応に関与する酵素である。NOSの補酵素 としてカルモジュリンや還元 型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸 (NADPH)が働いている。以下は、NOSにより生成されたNOの生理作用として代表的なものを挙げる。
血管拡張作用
NOは細胞内可溶性グアニル酸シクラーゼ (sGC)を活性化させる作用を持ち、グアノシン三リン酸 (GTP)の高エネルギーリン酸結合 部位の切断により生成した環状グアノシン一リン酸 (サイクリックGMP、cGMP)はプロテインキナーゼ Gを活性化する。これにより平滑筋 の収縮に関与するカルシウム イオン の細胞内流入は抑制されるため、結果として血管 平滑筋 は弛緩し拡張する。末梢血管の拡張により血圧 は低下する。また、NOの産生経路は亜酸化窒素 の分解による経路も存在する。狭心症 治療薬であるニトログリセリン (硝酸薬)は細胞内亜酸化窒素量を増加させることによりその作用を発現する。
血小板凝集抑制作用
血管内皮細胞により産生されたNOは血小板内のcGMPレベルを上昇させることにより血小板凝集を抑制すると考えられている[ 2] 。この作用はアラキドン酸 代謝物であるトロンボキサン A2 の血小板 凝集促進作用と拮抗する。
その他にもNOは細胞障害作用や殺菌 作用など種々の作用を示す。詳細は一酸化窒素 を参照のこと。
NO合成反応
L-ArgからNO及びL-Citを生成する反応はNG -ヒドロキシ-L-アルギニン(NOHLA)を中間代謝物 とした酸化 反応である。1モル のNOを生成するために2モルの酸素 分子 (O2 )と1.5モルのNADPHを必要とする。NOSにより触媒されるNOの生合成反応は以下の式により示される。
L-アルギニン + NADPH + H+ + O2 → NOHLA + NADP+ + H2 O
NOHLA + 1/2 NADPH + 1/2 H+ + O2 → L-シトルリン + 1/2 NADP+ + NO + H2 O
構造
3種類のNOS(nNOS、iNOS、eNOS)はカルシウム (Ca2+ )結合タンパク質 であるカルモジュリン 結合部位を有し、nNOS及びeNOSはCa2+ 依存的に結合するカルモジュリンによって活性化される。iNOSはもともとCa2+ 非依存的にカルモジュリンが結合しており、炎症性刺激として知られるリポポリサッカライド (LPS)などによって誘導される。さらにC末端側にはシトクロムP450 と相同性を有するドメイン を有する。
各NOSの特徴
名称
遺伝子
発現
機能
神経型NOS (nNOS)
NOS1
誘導型NOS (iNOS)
NOS2A、NOS2B、NOS2C
内皮型NOS (eNOS)
NOS3
NOS阻害薬
D-アルギニン
NG -モノメチル-L-アルギニン(L-NMMA)
NG -ニトロ-L-アルギニン(L-NNA)
出典
外部リンク
参考文献
^ La Padula P, Bustamante J, Czerniczyniec A and Costa LE.(2008)"Time course of regression of the protection conferred by simulated high altitude to rat myocardium: correlation with mtNOS."J.Appl.Physiol. 105 ,951-7. PMID 18566187
^ Benjamin N,Dutton JA and Ritter JM.(1991)"Human vascular smooth muscle cells inhibit platelet aggregation when incubated with glyceryl trinitrate: evidence for generation of nitric oxide."Br.J.Pharmacol. 102 ,847-50. PMID 1906768